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彼女の想いが重すぎる……  作者:


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第2話

俺は心地よい春の朝日を浴びながら、学校に行くために駅へと歩いている。


途中でショートカットするために公園を横切ろうとしたら……


前方から小鳥遊さんがパタパタと小走りで駆け寄って来る。


恐ろしいほどの熱い視線が、一直線に俺に向けられていた。


「山口さん、おはようございます」


「お、おはよう、何でここに?」


「山口さんに早く会いたくて来ちゃいました。うふふ」


小鳥遊さんは満面の笑みを浮かべている。朝の光を受けて、まるで妖精のように可愛い。


「そ、そうなんだ」


「あの、これは、この前のお礼です」


小鳥遊さんは紙袋を差し出してきた。


「なにこれ?」


「私が作った手作りのお守りです」


(お守り?)


何だかわからないがとりあえず俺は受け取った。


「……開けていい?」


「どうそ、どうぞ」


紙袋を開けるとお守りとしては少し大きめなピンクのお守りが出てきた。


「か、可愛いお守りだね、ありがとう」


「このお守りは山口さんの事を守ってくれますので──肌身離さず持っていてくださいね!!」


さっきまでの笑顔はどこへやら、小鳥遊さんが獲物を狙うような眼光で詰め寄ってくる。


「ち、近いよ」


「お休みの日も肌身離さず持っていてください!!!」


キスされそうな距離。いや、実際されるかもしれない。正直、少し怖い。


「……わ、わかりました」


「約束ですよ。うふふ」


一瞬で屈託のない笑顔に戻った小鳥遊さんは、とても嬉しそうに笑っていた。


(見た目は反則レベルで可愛いんだけどなぁ……)


「じゃあ、行きましょうっ」


小鳥遊さんは当然のような顔で、俺の腕に自身の大きな胸を押し付けるように抱きついてきた。


(心臓に悪い……距離感、近すぎじゃない…)


「…う、うん」


俺たちは密着したまま駅に着いた。電車に揺られる間も、小鳥遊さんは一向に離れる気配を見せなかった。


◇◇◇


教室のドアを開けるとまた嫌な予感がした。またあいつか。またもや秀樹がニヤニヤしながら歩み寄ってきた。


「なぁ、お前、彼女と腕組んで仲良く歩いてたって本当か?噂になってるぞ」


「だから、彼女じゃないし、赤の他人だって…」


(腕組んでたのは事実だけど…)


◇◇◇


放課後、帰ろうとしたら校門のところに意外な人物が佇んでいた…


小鳥遊さんだ…


『めちゃくちゃ可愛いな』


『誰か待ってるのかな?』


『彼氏待ってるんじゃない?』


他校の制服を着た美少女が校門の前にいるから注目の的になってしまっている。


俺は巻き込まれたくないので、人混みに紛れて隠れるようにコソコソと歩いていたのだが……


小鳥遊さんは見逃してくれなかった……


「あっ、山口さ~んっ」


(声でかいって)


小鳥遊さんが俺のところに駆け寄ってきたせいで、周囲の視線が痛いほど一斉に俺へと突き刺さった。


(ヤバい)


迷ってる暇なんてない。俺は小鳥遊さんの細い腕を掴んで脱兎のごとくその場を後にした。


「は、早く行こう」


「えっ、は、はい」


学校から逃げた俺達は駅のホームで電車を待っていた。


「小鳥遊さんはうちの高校には来ない方がいいかな……」


「なぜですか?」


小鳥遊さんが小首を傾げる。その仕草一つで、ホームにいる数人の男子生徒が足を止める。


「……見ての通り、目立ちすぎるからだよ」


「私は気にしないですけど」


「俺が気にするんだけど……」


「えっ、山口さんは私と一緒にいるところを見られるのが嫌なんですか……まさか、他の女性に見られると困るとか……ブツブツ……ブツブツ」


突如、小鳥遊さんの瞳からハイライトが消えた。


焦点の合わない、底なしの沼のような瞳。彼女はうつむき、呪詛のようにぶつぶつと呟き始める。


「い、嫌じゃないし、そういう女性もいないから落ち着いて、小鳥遊さん」


「本当ですか…?」


「本当だよ、嫌じゃないよ」


小鳥遊さんはぱぁっと明るい笑顔になった。


「良かったです、えへへ」


(この人、情緒不安定なのかな…)


家に帰って寝ていたら、小鳥遊さんから貰ったお守りから『ピー』というビープ音が微かに鳴ったような気がして目が覚めた。


(気のせいかな……)


◇◇◇


休日、クラスメイトの何人かとボウリングの親睦会終を終えた後、俺と秀樹は懐かしの中学グラウンドへと向かった。


俺と秀樹は中学の時にバッテリーを組んでいた。


168cmと小柄だが機敏で強肩、所謂、最近流行りの動けるキャッチャーってやつだ。


グラウンドでは後輩たちが練習に励んでいた。俺達は邪魔にならないよう、グラウンドの端のスペースでキャッチボールを始める。


「壮真のボール受けるの、いつぶりだ?」


秀樹は中時代、俺とバッテリーを組んでいた。


「……そういえば、卒業してから初めてか」


「ま、肩慣らしはこんなもんだろう。おしっ、全力で来い!」


秀樹は腰を落とすと、グラブをバンッと叩いてターゲットを示した。


「真っ直ぐいくぞ!」


俺はグラブを大きく振りかぶり、渾身の力を込めて左腕を振った。


──パンッ


秀樹のミットのパンッという乾いた音がグラウンドに響き渡った。


「相変わらす速いな」


「まだまだ、上がるぞ」


投げるたびにギアが上がっていき。


──パァンッ


乾いたミットの音もどんどん大きくなる。


「いてぇよ!」


秀樹が何やら文句を言っていたが俺はお構い無しに投げ続けた。


「おい、高校ではちゃんと変化球も覚えろよ。お前カーブしか投げられないだろ」


「ふふふっ、俺の秘密平気を見せてやろう」


俺はボールの握りを変え、グラブ大きく振りかぶる。思いっきり左腕を振る瞬間に手首を立てて強く引っ掛けた。


パンッ


ボールは縦に落ちながら秀樹のグラブへと入っていった。


「お、おい、縦スラかよ」


「卒業してから一人で練習してたんだけど、どうだ?」


「これがあったら準決勝で勝ってたかもな」


「いや、ツーアウト二三塁のチャンスでお前がタイムリーじゃなくてホームラン打ってたら勝ってただろう」



「俺はパワーヒッターじゃなくて、アベレージヒッターなんだよ!」


何十球か投げた後、喉が乾いたので公園の近くの自販機に行ったところで、自販機の前で、偶然、小鳥遊さんと遭遇した。


「山口さん、こんにちは。偶然ですね。うふふ」


「……小鳥遊さん?、こ、こんにちは」


「あっ、俺はこの辺で。じゃあな」


何かを察したのか、秀樹はニヤニヤしながら帰っていった。


「小鳥遊さんも何か飲む?」


「あっ、自分で買いますから」


小鳥遊さんは迷わずカ◯ピスウ◯ーターのボタンを押し、俺はスポーツドリンクを買い求めた。


「公園のベンチで座って飲もうか」


「はい」


小鳥遊さんはまたしても大きな胸を押し付けるように俺の腕へと抱きついてきた。


(だ、だから、距離感近いって)


「あの、山口さん、そろそろ私の事を下の名前で呼んでくれませんか?」


隣に座る小鳥遊さんが、何かに取り憑かれたような真剣な眼差しで俺を見ている。


「えっ、なんで?」


「私達のような関係だとその方がいいと思うんです」


何故か頬を赤くする小鳥遊さん。


「えっ、俺達ってどんな関係なの?まだ出会って4日くらいだよね」


「それに上の名前だと他人行儀ですし」


「……いや、赤の他人だよね俺ら?」


「これからは恋歌って呼んでください。うふふ」


「……俺の話聞いてる?……。その、女性の名前呼び捨てにしたことないから恥ずかしいんだけど……」


「すぐ慣れますよ。ほら、恋歌って」


「嫌だなぁ、恥ずかしいし…」


「照れてないで早く呼んでくださいよ。ねぇ」


「やっぱ、無理だよ……」


「そっ、そんなに恋歌って呼ぶのが嫌なのですか……こっ、こんなに頼んでるのに……ブツブツ」


(ヤバい、小鳥遊さんの瞳から急速に光が失われ、虚空を見つめながらブツブツと呪文のように呟き始めた……!)


「れ、恋歌」


俺が蚊の鳴くような声で名前を呼ぶと、小鳥遊さんはぱぁっと花が咲くような明るい笑顔に戻った。


「私も壮真さんって呼んでもいいですか?」


(もう、笑ってくれるなら何でもいいよ……)


「うん、いいよ……」


その後、家に帰って寝ていたらまたお守りからピーっというビープ音が微かに聞こえてきた気がして目が覚めた。


(本当に気のせいなのかな……)

読んでくださりありがとうございました

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