第18話
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放課後の校門。野球部の練習を終え、秀樹と並んで歩いていると、突然、鋭いクラクションが響いた。
振り向くと、そこには『猫柳工務店』のロゴが入った見慣れた軽トラが路肩に止まっていた。運転席の窓から泰隆義兄さんがぶんぶんと派手に手を振っている。
「あれ?壮真の姉ちゃんの旦那さんの猫柳さんじゃない」
予想外の来訪者に秀樹はきょとんと目を丸くしている。
「なんで?ここに……?」
首を傾げる秀樹をよそに、俺たちは渋々といった足取りで軽トラへと向かっていった。
「おーい!壮真。迎えに来たぞ」
「あれ?義兄ちゃん。家に来るんじゃなかったの?」
「いや、現場が近かったからついでにお前を拾ってやろうと思ってさ」
「……へえー」
(絶対に嘘だ。姉ちゃんに一人で会うのが怖いだけだろ)
俺は内心で毒づきながら、情けない泰隆義兄ちゃんをジト目で睨んだ。
「お久しぶりです。猫柳さん!」
「おっ、秀樹か、お前も送って行ってやるから乗れ!」
「え?、軽トラって二人乗りじゃ……」
「荷台に乗ればいいだろう。ブルーシートでも被せておけばわからねえよ。ガハハハ」
「……それはアウトですよ。猫柳さん」
さすがの秀樹も、引きつった笑顔を浮かべていた。
結局、俺は助手席に押し込まれ、秀樹は苦笑しながら電車で帰ることになった。
家に向かう途中の車内。義兄ちゃんは緊張してるのか、タバコを何本も吸っていた。
「義兄ちゃん、ちゃんと謝りなよ」
「バカヤロー。何で、俺が謝らないといけないんだ!夫の威厳ってやつをビシッと言い聞かせてやるから見てろよ!壮真!」
(声が裏返ってる。フラグにしか聞こえないよ。義兄ちゃん)
「義兄ちゃんと姉ちゃんって高校の時に付き合ったんだよね」
「ああ、初めて会った時は相性最悪でな。俺はちょっとヤンチャしてたんだけど、聖は真面目な生徒会長やってたんだよ」
「まあ、姉ちゃんは昔から曲がったことが嫌いで、真面目な性格だったからな」
「俺が、ちょっと他校の生徒と喧嘩しちゃってさ。停学くらって、学校に戻った日に、聖が俺のクラスにやって来て、喧嘩はダメですよって注意しに来てさ、うるせえよって言ったら、おもいっきりボディーブローくらったのは今でも覚えてるよ。ガハハハ」
(前言撤回。真面目な人は暴力で訴えたりしない……)
「それで、よく姉ちゃんのことを、好きになったね」
「あいつのそういう強くて優しいところに惚れちゃったのかもな。へへ」
「ふーん、そんなもんかね」
「お前は彼女とはどういう出会いだったんだ?恋歌ちゃんだっけ?聖が凄い可愛い子だって言ってたぞ」
「電車で痴漢されてたところを助けたんだ」
「へぇー、凄いじゃないか。まさに王子さまが現れたって感じだな」
「そんなんじゃないよ」
(その後、ストーキングされてたなんて言えないな)
目的地のコインパーキングに車を止め、家に向かおうとしたのだが、義兄ちゃんの足は生まれたての子馬のようにガタガタ震えていた。
リビングのドアを開けた瞬間。さっきまでの威勢はどこへやら、姉ちゃんの足元で芸術的なまでに完璧な土下座をキメている義兄ちゃんの姿があった。
ズサーッ!という効果音が聞こえてきそうな、見事なジャンピング土下座だった。
額を床に擦り付け、微動だにしない。その迷いのないフォームは、ある種の清々しささえ感じさせる。
「すまなかったぁぁぁ!聖!取引先の相手に誘われて断れなかったんだ!」
「泰隆。とりあえず座りなよ」
姉ちゃんの低い声が響く。皆がソファに腰を下ろす中、俺はとりあえず隣に座った義兄ちゃんの肩をポンッと叩いた。
向かいには、恋歌が姉ちゃんを守る番犬のような鋭い目付きで、姉ちゃんの隣に座っている。
……聖愛が姉ちゃんの腕の中で、無邪気に寝ているのが俺の唯一の救いだった。
「お、俺が悪かった。本当に反省している。許してくれ。聖!」
「ふーん、本当に?また同じことするんじゃない?」
「絶対にしない!当たり前だ!戻ってきてくれ、聖!」
「でも、若い女の子と話せて楽しかったでしょ?」
「まあ、それは……」
「……ふーん、楽しかったんだ」
姉ちゃんの凍てつくような視線が泰隆義兄ちゃんを射貫く。
「これは実刑確定ですね。お義姉様」
隣では恋歌が、泰隆義兄ちゃんをまるで汚物でも見るような目で睨みつけている。
「ち、違うんだ聖!おい、なんで壮真の彼女にまであんな目で見られなきゃいけなんだよ!」
泰隆義兄ちゃんが俺に助けを求めてくるが、あいにく俺にはあの二人に逆らえる力なんて微塵もない。
「……なんか、ごめん」
「そこ、何をごちゃごちゃ話してるのかしら?私と話す気。ないの?」
氷のような冷たい声が耳を貫いた。
「す、すまん。そういうわけではないんだ」
「ご、ごめんなさい」
なぜか俺も一緒になって謝っていた。
(俺、何もしてないよね?)
「うーん、じゃあ、ここでキスして……今すぐに」
「えっ、ここでか?壮真や壮真の彼女もいるし」
「あ、できないんだ?口だけなんだね、ふーん……」
「できないんですか?」
恋歌は早くキスしろよって感じで、殺気のこめた目で泰隆義兄ちゃんを睨んでいる
(待て、なにが、始まった?姉のキスシーンなんか見たくないんだが……)
「わ、わかった!す、すればいいんだろ」
義兄ちゃんが姉ちゃんに切実(というより必死)なキスを重ねる。
「よし、帰ろうか。……聖愛。おうちに帰ろうね」
「か、帰ってきてくれるのか……っ!うう、聖ぃ
ー」
涙をただ流して喜んでいる義兄ちゃん。
「お義姉様、本当にこれでよろしいのですか?」
「うん、今回はこれでいいの。恋歌ちゃんにも迷惑かけちゃってごめんね」
「いえ、私、迷惑なんて滅相もありません!」
「本当に恋歌ちゃんは良い子だね。あはは。あ、壮真、お世話になりました!」
姉さんの満足そうな笑い声がリビングに響いた。
◇◇◇
嵐のような姉ちゃんたちが去って行った後、俺は晩御飯を食べ終え、ソファで寛いでいた。
シーリングライトの常夜灯だけが部屋を照らしていた。
俺の膝の上にピンクのパジャマ姿の恋歌がちょこんと跨がり、抱きついている。
一日しかいなかったが、小さな聖愛が腕の中にいないと、どうにも淋しく感じてしまう。
「どうしたんですか?壮真さん」
恋歌は天使のような笑みを浮かべ、俺の顔を覗き込んでくる。
「聖愛がいないとなんか淋しいなぁっと思って」
「可愛かったですもんね。聖愛ちゃん」
「うん、姪があんなに可愛いとは思わなかったよ」
「でも、大丈夫ですよ。壮真さんには私がいるじゃないですか。うふふ」
恋歌は俺の首に手を回し、さらに体を密着させてきた。
「……そうだね」
と呟きながら、俺は恋歌の細い腰をそっと抱きしめる。シャツ越しに伝わる柔らかで温かな感触と、甘い香りが心地よい。
「……壮真さん」
恋歌はそっと顔を離すと瞳を閉じる。いつものキスのサインだ。
恋歌の柔らかな唇を重ねると、舌を滑り込ませた。
呼吸をすることすら忘れるくらい、必死に舌を絡め、甘い吐息を分け合った。
糸を引いた口元と、恋歌の荒い呼吸、そして部屋を満たす甘い香りが、俺の理性をさらにかき乱した。
気付いた時には、俺はパジャマのボタンを外していた。
常夜灯の光の下で、豊かなふくらみが姿を現す。
優しく、柔らかな果実を揉みほぐしながら、その小さな先端に舌を這わせた。
「……あ……壮真さん……っ」
されるがまま、恋歌の肩がピクリと跳ねる。
潤んだ瞳で俺を見つめる彼女の熱い吐息が、耳元をくすぐった。
俺はそっとショーツへと手を滑り込ませ、その中心を弄ぶ。
「あっ……ん……っ。だめ、そこっ……!」
恋歌の甘い吐息が、より一層の熱を帯びていく。
「……ん……あ……そ、壮真さん……っ」
やがて恋歌は体を小刻みに震わせると、甘い熱に浮かされたように俺の肩にもたれかかってきた。
「……はぁ……はぁ……っ」
「……恋歌」
息を荒くしている彼女を俺は優しく抱きしめた。
「……壮真さん、続きはベッドで」
「……そうだね」
俺は恋歌をお姫様抱っこをして寝室に向かうと、そのままベッドに雪崩れ込んだ。
その後、俺たちは何度も何度も体を重ね合い、夜が更けるまで、お互いの体温を確かめ合った。
(……聖愛も可愛いけど、やっぱり俺の中では恋歌が一番可愛いな)




