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彼女の想いが重すぎる……  作者:


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第11話

今日で恋歌からの告白の手紙を受け取ってから一か月になる。


そろそろちゃんと返事をしないとと思い、夜に大事な話があると伝えておいた。


ちょっと怖いけど、外堀はすでに埋められてるし、これだけ尽くしてくれている恋歌と付き合おうとは思っている。


ただ、結婚を前提というのは高校生の俺たちには早い気がする。


気軽に高校生らしく普通に付き合うという方向で行こうと思ったのだが、それを恋歌は許してくれなかった……。


晩御飯を食べ終えた後、例の話だけどと切り出すと恋歌は姿勢を正してリビングのソファーに腰掛けた。


「手紙の返事を真面目にしようと思う」


「は、はい、緊張しますね」


「とりあえず結婚を前提とか重い部分は無しにして──普通に」


「結婚を前提です!」


「いや、結婚は」


「結婚は前提です!!」


「まだ高校生だし、結──」


「前提です!!!」


被せ気味どころではない。俺の言葉の語尾を物理的に叩き斬るような、鋭利な言葉。潤んだ彼女の瞳には、妥協という二文字は微塵も存在していなかったのだ。


「…………」


「壮真さん?」


彼女の瞳に宿る、逃がさないという彼女の確固たる光に、俺の背筋に冷たいものが走った。


「……わかった。結婚を前提に付き合ってください」


「う、嬉しいです」


恋歌は、真珠のような涙を零しながら、これまでで一番幸せそうな笑みを浮かべて俺に飛びついてきた。その勢いで重ねられた唇は、驚くほど柔らかい。


そろそろ寝ようと思い、いつものように二人でベッドに入ると、恋歌の雰囲気が違うことに俺は気付いた。


「……壮真さん、私たちは恋人同士ですよね?うふふ」


恋歌の手によって、ブランケットが床に追いやられた。


その下から現れた恋歌の表情は、いつもの純粋な彼女のそれではなく、獲物を狙う肉食獣……いや、毒を含んだ花のような妖艶さを纏っていた。


「ま、待て恋歌!俺たちにはまだ早い!」


「私、魅力ないですか……?ずっと一緒に寝てても壮真さんは一回も手を出して来なかったですもんね」


上目遣い。潤んだ瞳。少しだけ震える声。


恋歌は少しうつむくと、涙を浮かべて俺を見つめてくる。


(ず、ずるいぞ、その顔されたら男なんて一発で詰みだ)


「……恋歌は魅力的だよ。ずっと、我慢してただけだよ」


「もう、我慢しなくていいんですよ?」


恋歌はパジャマを脱ぎ捨てると、俺の胸に股がってきた。


月明かりに照らされた恋歌の裸体はとても綺麗だった。


そして、恋歌が俺の手を取り、自分の胸へと導く。


手のひらから伝わる熱と、絹ごし豆腐……いや、それ以上に柔らかく弾む感触。


「や、やめ……っ!」


「ほら、ここも触ってください……壮真さん」


指先に触れた。一点の硬い熱。その瞬間、俺の理性は脆くも音を立てて崩壊した。十代の剥き出しの野生が、理性という脆弱なダムを一滴の容赦もなく決壊させたのだ。


「……あ、壮真さん、そこは……っ」


甘い声を上げる彼女を、俺はもう、突き放すことなんてできなかった。──次に意識がはっきりした時、視界に映ったのは、事の激しさを物語る乱れたシーツ。


透き通るような白い肌を剥き出しにした恋歌が、俺の腕の中ですやすやと可愛い寝息を立てている。


二人とも初めてだったので最初はぎこちなかったが……何とか最後までことをなした。


(……姉ちゃん、俺は本能に負けました。ごめんなさい)


◇◇◇


次の日の朝。恋歌のぬくもりで目が覚めた。


俺は腕の中の恋歌の頭をそっと撫でた。


「……ん……ん……壮真さん、おはようございます」


恋歌が目を覚ました。まだ目がとろんとしていて眠そうだ。


「ごめん、起こしちゃった?」


「いえ、大丈夫です。朝食とお弁当の支度があるので、そろそろ起きないといけませんし」


俺はブランケットを捲ると、生まれたままの姿の恋歌が現れた。


「きゃっ」


恋歌が真っ赤な顔をして目を逸らした。


(あっ、俺も全裸だったの忘れてた)


全裸までは別に良かったのだが、男子高校生特有の朝の生理現象のため、俺の体の一部がおもいっきり元気になっていた。


「あ、何かごめん」


「いえ、あ、あの……昨日の……まだ少し、痛むの……ですが、壮真さんが望むなら我慢しますので……っ」


顔を真っ赤にして俯いて、シーツをぎゅっと握りしめる恋歌。


「これは男の生理現象……みたいなものだから。まだ痛いなら……無理はダメだ。あと、顔真っ赤だぞ」


俺の説明に納得した恋歌は朝食の支度に向かった。


学校に行く準備を終え、ダイニングテーブルに向かうと、恋歌が作った美味しそうな料理が並べてあった。


「いただきます」


俺は両手を合わせた後、味噌汁を一口啜った。


(やっぱり、恋歌の料理は最高だな)


「あの、壮真さん、今度のお休みの日。家に食事に来て頂けませんか?」


「食事?」


「はい、母が壮真さんに会いたいとうるさいので」


「別にいいよ」


「良かったです。私たちの婚約の話もありますので。うふふ」


(……えっ、婚約決定なの?)


◇◇◇


学校の教室に入った途端、秀樹がニヤニヤしながら近づいてきて、強引に俺の肩を組んできた。


「おはよう。壮真。お前、やっと小鳥遊さんと付き合いだしたらしいな」


「……何で知ってるんだよ?」


「今朝、小鳥遊さんがメッセージで教えてくれたぞ」


勝ち誇ったように突きつけられたスマホの画面。画面には恋歌からのメッセージが表示されている。


(……俺の個人情報は、筒抜けかよ)


「えっ、山口くん……彼女できたの?」


背後から消え入りそうな声がした。振り返ると高畑さんが手元にあった本を少し強く握りしめ、戸惑ったような顔をして立ち尽くしていた。


「うん、まあ……そうなんだよ」


「……へえ、そうなんだ……おめでとう」


高畑さんは無理に作ったような笑みを浮かべ、すぐに視線を落とした。


その指先が、開かれたページの端を小さく震わせていた。


──だが、次に顔を上げた時には、いつもの向日葵のような笑顔に戻っていた。


「……ありがとう。高畑さん」


「山口くんならきっと素敵な彼氏になれるよ。応援してるね!」


「で、もう、キスとかしたのか?」


何かを察した秀樹は、わざとらしくヘラヘラと、唐突に無茶振りをしてきた。


(……キスは付き合う前から、されてるわ。まあ、一方的に、だけど)


「ノーコメントだ。お前には関係ないだろ」


「いいなぁ、俺も彼女欲しいなぁ」


「お前、どんな人がタイプなんだ?」


「士門先輩とかタイプなんだよね。アプローチしてるんだけどなぁ」


(お前のやってるアプローチは全てOBだぞ)


そんな秀樹の馬鹿を適当に受け流していると、先生が入って来てSHR(ショートホームルーム)が始まった。


◇◇◇


放課後。野球部の練習も終わり、道具を片付けやグラウンド整備をしていると、士門先輩が話しかけてきた。


「壮真くん、あの、例の『おチビちゃん』と付き合ってるんだって?」


いつの間にか、士門先輩の中での恋歌の呼び名は『おチビちゃん』に定着してしまったらしい。


「……何で知ってるんですか?」


「新井くんが部員のみんなに言いふらしていたわよ」


士門先輩は楽しそうに目を細めて、俺の反応をうかがう。


「士門先輩。お疲れ様です!」


噂の主である秀樹が、整備を終えたトンボを手に、屈託のない笑顔で近づいてきた。


「お疲れ様。新井くん」


「おい、秀樹。俺と恋歌が付き合ってるって噂を広めてるらしいな。今すぐ止めろ」


「えっ、無理だよ。小鳥遊さんから『学校中に噂を広めてください』って頼まれてるから」


(犯人は恋歌か……)


◇◇◇


帰宅すると、リビングでピンクのマイエプロンを着けた恋歌が天使のような笑顔で俺を出迎えてくれた。


「おかえりなさい。壮真さん」


「ただいま。恋歌」


恋歌は俺にぎゅっと抱きつくと、期待に満ちた瞳でそっと瞼を閉じ、例のサインを送ってくる。


俺はそれに応えるように、恋歌の柔らかい唇に、愛おしさを込めて自分の唇を重ねた。


──シャワーを済ませ、恋歌の作ってくれた美味しい晩御飯を堪能する。


その後、恋歌のぬくもりとシャンプーの甘い香りに包まれながら俺たちは吸い込まれるようにベッドに横たわる。


俺は優しく、恋歌をそっと抱きしめた。


そんな時に、ふと、枕元にある恋歌から貰ったお守りを手に取る。


(そういえば……この『お守り』最近全然鳴らなくなったな)

読んでくださりありがとうございました

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