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彼女の想いが重すぎる……  作者:


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第10話

打撲も完治し、やっと野球部の通常練習に戻れた。


練習を終え、家に帰ると、見たことがある車が家の前の駐車場に止まっているので、嫌な予感がした。


嫌な予感は的中し、リビングのドアを開けた瞬間、俺は固まった。まさかの姉ちゃんが満面の笑みでソファーに座っていたからだ。


小さな傷が無数にある使い古された木のテーブルに、不釣り合いな高級そうな和菓子の箱が置かれていた。


「あっ、壮真、おかえり~、練習お疲れ様!」


「ね、姉ちゃん!なんでここにいるんだよ?」


「なんでって?ここ私の実家なんだけど」


いて当たり前みたいな顔をしている姉ちゃんに、俺は呆れてため息をつく。


「お義姉様、ルイボスティーです」


「あっ、恋歌ちゃん、ありがとう。本当に気が利いて可愛い子ね」


(何だ……この空気は、恋歌が完全に嫁の顔をしている)


恋歌はポットからコップにルイボスティーを丁寧に注いでいた。


「姉ちゃん、何しに来たの?」


「私、妊娠したの。二ヶ月目~♪はははっ。ビックリした?」


姉ちゃんが悪戯っぽい笑顔をしている。


「マジかよ……」


「これで壮真も叔父さんになるね」


「そっか……おめでとう」


「壮真もおめでとう!こんな可愛くて、しっかりした彼女がいるなんて聞いてないわよ~」


「お綺麗な義姉様にそんなふうに言われると、照れちゃいます。うふふ」


「本当に可愛いわねぇ!恋歌ちゃんは。あははっ」


(くっ、恋歌のペースに完全に巻き込まれてるぞ……姉ちゃん)


その後、久しぶりに姉ちゃんと晩御飯を食べることになった。


テーブルには、恋歌特製のふわとろオムライス、澄んだコンソメスープ、瑞々しいサラダが並んでいた。


「わあ、美味しそう。恋歌ちゃんは料理上手なのね」


姉ちゃんは無邪気に喜んでいる。


「お義姉様のお口に合うよう、精一杯作りました」


「うーん、凄く美味しい!」


「お口に合って良かったです。えへへ」


恋歌はふわりと微笑むと、急に俺の方を向き、


「壮真さん、あーん」


恋歌が自分のオムライスを掬って、俺の口に運んでくる。


ふと、視線を感じて顔を上げると、あからさまにニヤニヤしながら、姉ちゃんがこっちを見ていた。


「……っ、あ、あーん」


──恋歌の甘い声に言われるがままに口に運ばれる。至近距離でこちらを見つめる恋歌の瞳に気圧されつつも、恋歌の表情が春の陽だまりのように緩んだ。


「壮真、顔赤いよ?あははっ、本当に見てて飽きないカップルね」


「お義姉様、でも……壮真さんは最近、他の女の子に浮わついてるみたいなんです」


恋歌の声のトーンが、わずかに、けれど確実に下がった。


「なんですって! 浮気なんてお姉ちゃん許さないからね!」


(どうやら俺の味方はいないらしい……)


◇◇◇


晩御飯を終え、恋歌が風呂へ向かったことで、リビングで姉ちゃんと二人きりになった。


「今日は泊まってくのか?」


「うん、そのつもり。久しぶりに一緒に寝る?」


「ね、寝るわけないだろ!」


「昔、「お姉ちゃんと一緒じゃないと嫌だ』って駄々をこねてたくせに~」


「いつの話だよ……っ!」


クスクスと楽しそうに笑う姉ちゃん。10歳も離れた姉ちゃんは、当時の俺にとっては母親代わりも同然の存在だった。そんな弱みを握られているから、どうしても頭が上がらない。


「冗談よ。邪魔したりしないから。……いつも恋歌ちゃんと一緒に寝てるんでしょ?」


「な、何でそれを……」


「恋歌ちゃんから聞いたのよ~」


(あいつ、どこまで話しているんだ……?)


「もう少しで、付き合って1ヶ月になるって、嬉しそうに話してたわよ」


(いや、まだ付き合ってないんだけど……。今さら否定しても姉ちゃんのことだニヤニヤしながら問い詰められるのがオチか……)


「ま、まあね……」


思わず生返事で濁してしまう。


(そういえば告白の手紙を貰ってから、もう少しで1ヶ月になる──流石にちゃんと返事しないとな)


◇◇◇


恋歌が風呂から出たので、次は俺が入ることになったのだが──なぜか、全裸の姉ちゃんが風呂に入ってきた。


「ね、姉ちゃん。な、なに入ってきてんだよ」


「久しぶりに一緒に入ろうかと思って。背中流してあげるから。ほら、背中向けて」


(まあ、姉弟なんで変な意識はしないのだが……)


「よ、よろしく」


俺は姉ちゃんに背中を流してもらうことになった。


ボディーソープの香りが心地よい。


「壮真、本当に大きくなったわね。背中見てるとよくわかるわ」


「まあ、もうすぐ16になるしね」


「あ、こっちの方も随分と……生長したわね」


姉ちゃんはニヤニヤとした笑みを浮かべたまま、俺の股間に露骨な視線を落としてきた。


姉ちゃんの視線は明らかに、成長でなく『生長』の方に向けられていた。


「お、弟のナニをガン見すんのは止めろ!後、その意味深な『生長』って言い方も止めろ!」


「昔は小さくて可愛かったのになぁ」


「ほら、俺も背中流してやるからあっち向いてろ!」


「ふふ、ありがとう」


「あれ?姉ちゃん、ちょっと太ったんじゃ……うおっ」


姉ちゃんの肘鉄が俺の脇腹に炸裂した。


「何か言った?」


「何でもないです……」


体も洗い終わり姉ちゃんと二人で湯船に浸かるが、狭いので体が密着して暑い。


「二人で入るとちょっと狭いわね」


「……ま、二人で入る用には作られてねーしな」


「お父さんとお母さんやおじいちゃんおばあちゃんにも赤ちゃんができたこと報告しようと思ってるの」


「墓参り行くのか?」


「うん、あっ、明日一緒に行かない?学校休みでしょ」


「まぁ、部活も休みだから大丈夫だけど」


うちの野球部は土日はほとんど練習は休みになっている。


「恋歌ちゃんも誘って三人で行きましょう」


「恋歌も?……いいけど」


俺は2歳だったから、両親のことは全く覚えてないけど、姉ちゃんは12歳だったから、記憶にあるんだろうな。


「父さんと母さんってどんな人だったの?」


「母さんは優しい人だったわよ。父さんは壮真に似てるかもね」


「俺に?」


「うん、父さんも野球が好きだったのよ。壮真をプロ野球選手にするんだって、いつも言ってたわ」


「……また無茶なこと言うな」


「あら?目指さないのプロ」


「あんなの極々一部の人が入れる世界だよ」


「壮真がプロ野球選手になったら天国で父さんが喜ぶと思うよ」


「姉ちゃんに子供ができた時点でもう喜んでるよ」


「そうかもね。あはは、あっ、壮真と恋歌ちゃんには赤ちゃんはまだ早いから、ちゃんと避妊はするのよ」


「キスしかしてないのに赤ちゃんできるわけないだろ!」


「ふーん、キスはしたんだ」


姉ちゃんがニヤニヤ笑っている。


まだ付き合ってすらないんだが、周りの認識は完全にその先まで進んでしまっている。


(まだ付き合ってないのだが、それなのにこの外堀の埋まり具合。これ、詰んでないか?)


◇◇◇


次の朝、朝食を済ませると、姉ちゃんの運転で海沿いの墓へと向かった。そこには父さんと母さんとじいちゃんとばあちゃんが眠っている。


よく晴れた空の下、高台から見下ろす穏やかな海はどこまでも澄んでいて綺麗だった


「…………」


姉ちゃんが線香を供えると、普段見ない真剣な表情で手を合わせて座っている。


「ハジメマシテ、オトウサマ、オカアサマ、オジイサマ、オバアサマ……ソウマサンノ、ミライノヨメノ、レンカデス……ブツブツ」


──と思ったら、隣で恋歌が必死な形相で謎の呪文を唱え始めた。


俺はあえて見なかったことにして、静かに目を瞑る。


(……ひとまず元気にやってるんで、安心してください)


「よしっ、帰ろっか!」


墓前での報告を終え目を開けると、姉ちゃんがホッと胸を撫で下ろしながら立ち上がった。


「もう、いいのか?」


「うん、もう、報告はすんだから。壮真の嫁の恋歌ちゃんも紹介できたしね」


「そんな、お義姉様ったら……。うふふ、恥ずかしいです」


恋歌は両手を頬に当てて、ポッと顔を赤くしている。


(……嫁は確定なのか?)

読んでくださりありがとうございました

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