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救出作戦(2)

 バンデルクへ着いたら諜報員が使う宿屋へ向かうようにキーシャから指示をされていた。

 打ち合わせもそこで行われるとのことだった。

 ドアを開けるとデルホーンとルビー、ルーシャ、マーシャル、チャドがそこにいた。

 ドアの外に立つリアナをみた一同は、驚いて動きが止まってしまっている。


「あ……みんな……」

 リアナは胸が熱くなりそこに立ち尽くした。


「リ、リアナ、今までどこにいたんだ!」

 デルホーンの顔は紅潮し、本気で怒っている。


「なんでここにいんだよ……」

 そう言いながらマーシャルはリアナに近づいて抱きしめた。

「元気そうじゃねぇか……心配させやがって」

「ほんとだよ、みんな心配したんだぜ!ちゃんと謝れ!」

 チャドが怒鳴った。

「心配かけて本当にごめんなさい」

 リアナの目から涙がこぼれた。


「あーあ、チャドが泣かしたんだぞ。 おかえり、リアナ!」

 ルーシャがリアナの頭をなででほほえんだ。

「また会えてよかったよ。 大事な任務に間に合ったね」

 ルビーがそう言って肩をたたいた。


(何も手に入れられていないと思っていた私に、こんなステキな仲間たちがいた。

 みんなありがとう……変わらない優しさと笑顔で迎えてくれて)


「さあ、リアナも来たことだし、言いたいことはたくさんあるが説教はあとにして、救出作戦の内容を話そう」

(私は後でお説教されるのね。でもそれも……ちょっとうれしいかも。

 デルホーン先生に怒られるのはいつぶりかしら)


「まずは、朗報だ。

 クラウス王が、我々にチャンスをくれるそうだ。

 シンシアの救出に関して、1度だけ目をつむると約束をしてくれた。

 要は成功すれば見逃してくれるというわけだ。

 失敗すればすぐにシンシアは処刑されるだろう。

 何も知らない兵士たちは、当然全力で向かってくる。

 救出が成功しても、シンシアの逃亡者としての手配はとかれない。

 決行は明後日の夜。

 その日は夜宴が催され、大臣はじめ主要な国の組織の幹部が出席する。

 夜宴の警備に兵が割かれるため、王宮内の他の警備は手薄になる。

 有事のときに指揮を執るはずの幹部が、酒でいい気分になっているすきに、囚人を連れ出されれば、あとでどこかの幹部を責めるわけにもいかないだろう。

 それを見越しての夜宴というわけだ」


「ちょっといいですか」

 ルビーが手をあげ、デルホーンがうなずいた。

「それでも警備がまったくいないわけじゃないので、まずはその対策を練る必要があるかと」

「その件なんだが。 ルビー、あとでボールダース司令官のところに行ってほしい。

 向こうは全て承知している」

「おお、なるほど! はい、了解しました!

 さすがデルホーン先生、用意周到ですね」


「それと、リアナを除く我々ガタルンド国から来ている兵士は全員、夜宴に出席する。

 連れ出したことにはかかわりがなかったことを証明するためだ。

 我々は先の戦いで貢献した招待客ということになる」


「ってことは、シンシアを連れ出すのはリアナひとりってことですか?それは無茶な話じゃ……」

 マーシャルがリアナを見ながらそう言った。

「それを大丈夫にするんだ。そのために君たちの力が必要なんだ」

「そういうことでしたら……。よっしゃ、なんでも言いつけてください!」

 マーシャルの鼻息の荒さにみんなが笑った。


「リアナ、作戦完了の報告はシンシアの身の安全が確保されてから……。

 ど、どうしたリアナ」

 デルホーンはそう言いかけて戸惑いの表情を見せた。


 仲間がシンシアのために真剣に打ち合わせをしてくれていることに、感謝と申し訳ない気持ちが入り交り、心の制御ができなくなった。

 ぼろぼろと流れ落ちる涙は、拭っても拭ってもとまらず、言葉を出すこともできなかった。


「泣くのは成功してからにしようか」

 ルビーが片手でリアナの頭を抱いた。

「そうだよリアナ、今からなんだから。泣いてる場合じゃない」

 ルーシャもリアナの背中をさすった。

 なぜかチャドがもらい泣きし、マーシャルがチャドの肩をたたいていた。


「リアナ、これは君の最後の任務になるかもしれない。しっかりと完了させなさい」

 デルホーンがそう言った。

「はい。 みなさん、ありがとう……ありがとうございます。必ず成功させます」


 そのあとルビーはボールダース司令官を訪ね、指定した場所の警備兵を一時的に外してもらうよう、マーベラス隊長とアドル将軍へ働きかけを行ってもらうことを頼んだ。

 ルーシャは夜宴の会場に客がすべて入り終える時間や、警備の兵が元の場所にもどされる時間から、計画を開始する時刻や作業にかけて良い時間を割り出してリアナに伝えた。

 マーシャルとチャドは兵のいない場所の動線を調べて、その経路をリアナに教えた。


 監獄は王宮から少し離れた場所にあり、怪我や病気の収監者は地下に収容されている。

 当日の警備は、監獄の周辺とそこから王宮の壁を越えるまでの一路線だけ、一時的に全ての兵がいなくなる。

 リアナは解錠されている部屋のなかからシンシアを連れ出しアエロで脱出する。

 監獄から警備がはずされている南東へ飛び、王宮の壁を越えてエンリッツ国を目指すことになる。


 救出作戦決行日。

 夜宴が始まると、リアナは警備のいない監獄の地下におりて無施錠のシンシアの部屋に入った。

 シンシアはベッドに座った状態で高い小窓のある壁の方を向いて座っていた。


「姉さま」

 一瞬ビクッとしたシンシアはゆっくりと振り返った。

「リ……アナ……?」

 リアナはシンシアを強く抱きしめた。


「迎えに来ました」

「迎えに……って、どういう……。

 ああ……ダメよ!帰りなさい!

 私はいいの、放っておいて」

 そう言ってリアナの腕を振り払おうとした。


「姉さま、もう大丈夫なの。 全て大丈夫。 一緒に帰りましょう」

「ワアァァァ……」

 リアナは見たことのないシンシアの狼狽ぶりに、悲しくて泣き出してしまいそうだった。

 だが時間はない。早くことを終わらさなければ仲間の努力が無駄になってしまう。

 唇を強くかむと、シンシアの背中に念導をぶつけて気を失わせた。

「ごめんね、姉さま」


 シンシアを背負うと、自分の髪の毛を1本取ってそれを綱にしてシンシアの体を自分に結びつけた。

 部屋の外へ出て、近くの踊り場でアエロにのると、そのまま壁やドアをぶち破って外にでた。

 飛び出した先の夜空には無数の星がきらめき、潮の香りがする夜風が心地よかった。

 そしてリアナはエンリッツを目指す。

 飛び立ってすぐ右の方角に、今まさに夜宴をしているきらびやかな城の中が見えた。


 リアナの任務を見届けるため、デルホーンたちは明かりが灯されていないテラスに出ていた。


 月の光をあびて、アエロのシルエットが空を飛んでいく。

 そこにいる仲間たちの誰もが思った。

 リアナはもう自分たちの元には戻らない。

 もうスパイには戻らないと。

 そしてみんなでリアナの姿に向かってグラスを上げた。

「元気で」

 ルーシャがつぶやいた。


 リアナはその仲間たちの姿を見ながら別れのときだと悟った。

(いつかまた必ず会いに来ます!)


 そして……テラスの端にラミがいた。

「ラミ……」

 ラミはずっとリアナを目で追っている。


(すぐそこに、手の届く場所にラミがいる。でも……でも私は)

 遠ざかるラミの姿から目が離せなかった。


(いつもラミを思っていた。

 ずっとラミに会いたかった。

 薄汚れて変わってしまった自分の姿をさらしてでも、ラミに会いに行きたかった。

 今それがかなった……もうこれで十分だ。 先にすすめる……)


 リアナは速度を上げた。

 そして振り返らず、夜空を飛んだ。




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