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姉の居場所


 野宿をしながら2日後の朝エンリッツの自宅についた。


 デイビッドがシンシアを抱きしめると、シンシアは具合が悪そうだったが、その手を払うことはしなかった。

「デイビッド、姉さまはお加減が悪いの、休ませてあげて」

「ご、ごめんなさい」

「いいのよ、うれしいわデイビッド」

 眼帯をつけて横たわるシンシアに、美しく優雅で凛とした昔の姿はなかった。


 シンシアのそばにいたいというデイビッドを部屋に残し、リアナはクーバスと話をした。

「なんと……スバルクス国からクッカラド国へはいると。

 一応ベハシャ大陸へ渡ることを想定して、明日の乗船券はとってある。

 アエロではあそこまでは無理だと思ってね」

「ありがとうございます。 ここに着いてから取る予定でしたので助かりました」


「だが、その……どうやって侵入するつもりなんだ?」

 リアナはスパルクス国への入国許可証2枚と、クッカラド国の王の縁者としての入国許可証を見せた。


「これはすごいな、君はいったいいつこんなものを……」

 許可証を見ながらクーバスは少しため息をつくと、リアナを見てほほえんだ。

「がんばったんだねリアナ。 君は私などが想像できないほどに……」

 クーバスは潤んだ目を手でこすると、両膝をパンとたたいて立ち上がった。


「これから先の計画ができているのなら、進むだけだ。

 もう少し私の出番があってもよさそうだったけどね。ハハハ」

 リアナは立ち上がって胸に手を置くと深く頭を下げた。


「クーバス様、ありがとうございました。感謝してもしきれません」

「なんの、デイビッドと暮らせて幸せだし、君たち姉弟の成長を見るのは本当に楽しいよ。

 寂しいからお礼なんてよしてくれ。家族じゃないか」

「はい!」


 その夜そんなに大きくないベッドにシンシアを真ん中にして姉弟3人で眠った。

 壁にとめられているシンシアが書いた家族の絵を眺めながら眠りに落ちた。

 もう二度と一緒に眠ることはないだろう。


 翌朝。

「クーバス様、デイビッドをお願いします。

 デイビッド、またきっと会えるからそんなに悲しそうな顔をしないで」

 そう言ってシンシアがデイビッドの手を握った。


「信じてる……きっと帰って来てくれるって。

 姉さまたち、気をつけて。僕はいつでもここにいるから!」

 涙をこらえながらデイビッドが言った。


「またね、デイビッド。 クーバス様、お元気で」

 リアナは笑顔だった。

 この旅立ちがシンシアの新しい居場所へむけての出発だと思うとリアナは本当にうれしかった。

「ああ、道中気をつけてね。 2人の幸せを祈っているよ」


 姉妹は船に乗り遠ざかる港を見ていた。

「どこに連れて行くか聞かないの?姉さま」

「もうどこでもいいわ。自分でも驚くほど、何もかもがどうでもよくなっている」

 海の彼方を見ながらそう言うシンシアは、どこかふっきれたように見えた。


 スバルクス国からクッカラド国へはいり、そして……。

 天空の村へ。

 リアナは、天空の村ならシンシアが誰にも見つからず、幸せになれると思った。

 アエロの登り路を通って村につくと、姉の顔が心なしか晴れやかになった気がする。

 メリッサの家のドアをたたくと、出迎えてくれたのはチャガスだった。


「これはこれは、リアナよりも数倍美しい令嬢がお越しとは」

「ち、ちょっとチャガス、私の姉さまです」

「ハハハ、冗談だよ。 見たらわかるさ、君たちよく似ているよ」

 リアナとシンシアは顔を見合わせて笑った。

(やっぱりここなら大丈夫な気がする!)


「リアナ!」

「メリッサ様!」

 そこにメリッサが現れ、外の木陰でお茶をしながら話をした。


「シンシアさん、遠慮なくここにいらして。

 リアナはね私たち夫婦とクッカラド国王夫妻の恩人なの」

「そ、それは大げさです……メリッサ様」

「リアナが人助けが得意だったとは知らなかったわ」

「もう、お姉さまったら!」


 リアナは、たわいもない会話で笑い合えるこの状況が不思議だった。

 今まで起きたさまざまなことがすごく昔のことのように感じられる。

(姉さまが笑っている……良かった)


 シンシアから前にもらった宝石を、メリッサに渡そうとしたが、ここにはここのやり方があるとリアナは断られてしまった。

 そんなものがなくても十分暮らしていけるらしい。

(メリッサの家族なら安心して姉さまをお願いできる)


「メリッサ様、姉をよろしくお願いします」

「ええ、大丈夫。でも時々様子を見に来るのよ。約束!」

「はい!」


 リアナはシンシアの手をとった。

「姉さま、今度会いに来るときはデイビッドを連れてきます。 元気で……」

「ええ、楽しみにしているわ。あなたも元気で。無理はしないでね」

「はい!」


 リアナは姉やメリッサたちに別れを告げ下山した。

 山をおりてすぐに、デルホーンに宛てて手紙を書いた。

 そしてその2日後、再びエンリッツへ向かう船に乗った。


 12歳のときに家が襲撃されてから6年近くたっていた。

(あの襲撃がなかったら……。

 もしも両親と一緒に暮らせていたら、姉さまがあんな姿になることはなかった。

 デイビッドが寂しくて涙で枕を濡らすことも……。

 何も起きなかったら……今頃姉さまは立派な家に嫁いで子供がいたかもしれない。

 デイビッドは父さまについて領主になるための勉強をしていたかしら。

 私は……どうなっていたんだろう)


 もしも……という仮定の話をとりとめもなく考えるのは無駄なことだと、そのとき思った。

 そして、そう思えるようになった自分が、少し大人になれたことに気づいた。

(もう考えなくていい。過去の自分への未練でしかないから)


 数日後、デルホーンのもとへリアナからの任務完了の報告が届いた。


『先生、姉は天空の村というところへ送り届けました。

 アエロを持っていなければそこへは行けません。

 ようやく姉の居場所がみつかりました。

 これから私は、自分の居場所を探しに旅に出ます。

 先生がいたから生きてこられたと思っています。

 本当に感謝しています。

 ありがとうございました。お元気で。

           任務完了 リアナ』


 デルホーンは静かに手紙を閉じた。

「あの子たちはもう大丈夫だ」

 たち上がって窓から空を眺めるデルホーンの瞳には涙がたまっていた。


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