作戦名『青い鐘を鳴らせ』(6)サヘルの最後
ボールダースの働きかけで近衛隊長マーべラスと内陸軍将軍のアドルが味方についたため、城攻めは容易に行える体制になった。
更にマーべラスとアドルから、王の救出に参加したいとの申し出があり、本部のセイゲルはそのことを了承し、王の救出班ベルモントへ伝えた。
本部にも艦隊目視の連絡が入り、じきに海上合戦がはじまる。
連絡を受けたマーベラスとアドルは、城内と周辺の兵に静観するよう指示をだし、近衛隊については姿を隠すよう指示を出した。
セイゲルは突入班に作戦開始を告げるライリを送った。
突入班は計画通り窓や扉を壊して逃げ道の確保をした後、救出班に突入成功を連絡し、その後城外でルルクスの逃亡を阻止するため待機した。
突入成功の連絡を受けた救出班は、王と王子の救出作戦を開始する。
城の中はメイドばかりで警備兵の数も少なく、兵士たちは敬礼をしてただ立っているだけだった。
この調子なら部屋まではすぐにたどりつけるとベルモントは思った。
渡り通路を通り北西の塔の入り口にくるとそこにマーべラスとアドルが立っていて、ベルモントは無言で敬礼をした。
王の私室前まできたが、そこに警備兵はいない。
ベルモントがノックをすると王妃が答えた。
「こんな時間に誰だ。医長か?」
「医長の使いのものでございます」
ベルモントが答えた。
「開けなさい」
「はい、王妃様」
歩いてくるメイドの足音が聞こえ、立ち止まると、解錠する音が聞こえた。
少しあいた扉の隙間にベルモントが足先を入れた。
「ヒィィ……」
驚いて後ろに転がったメイドの前に、扉を開けて数名の男たちが押し入った。
そしてその後からマーべラスとアドルも部屋に入った。
「お、おまえたち、ここをどこだと!」
動揺した王妃が声を震わせながら叫んだ。
見まわすとその部屋にベッドはなく、怯えたもう1人のメイドが隅のほうに座り込んでいた。
「オルハン王はどこだ! 重病のはずの王がなぜここにいない!」
アドラが怒鳴ると王妃は口をパクパクしたまま動けずにいた。
ベルモントがメイドのほうをにらむと、メイドがおそるおそる奥の方を指でさした。
見ると部屋のなかにまた小部屋のようなものが作られていて、そこには大きなカギがかかっていた。
「鍵を壊せ!」
ベルモントの指示で魔法士が炎の魔法である程度焼き切ると、残った部分をベルモントが剣の柄の先でたたき落とした。
中に踏み込んだ一同は絶句した。 そしてマーベラスが叫んだ。
「王妃を捕縛せよ!」
その部屋には粗末なベッドに王冠をかぶったままの王のミイラが横たわっていた。
マーベラスは涙を流しながら床に膝をつき、そこに座り込んだ。
「王よ……申し訳ありません。申し訳ありません」
そう言って、腕で目を覆いながら声を殺して泣き出した。
「おのれールルクス! 許すまじ!」
アドラはそう叫ぶと部屋を出て行こうとした。
「お待ちください。 ルルクス王子を探すなら手分けをしたほうが。
我ら4名ずつお供いたしますので、二手にわかれましょう」
「あいわかった。 マーベラス、王の無念をはらすぞ! 泣くのは後だ!」
「ああ、かならず見つけ出してやる!」
◇
火矢を打つ獣人族めがけ、敵の魔法士が火炎や氷の魔法で攻撃をしてくるが、杖で飛んでいるのと、体にはえている羽で飛んでいるのでは当然獣人の方にに分がある。
ただ今回の攻撃は指揮官以外は撃ち落とす程度で止め、火の海にして良い船も主力艦だけと決められていた。
獣人たちは魔法士の攻撃をうまくかわしながら火矢を撃ち続け、反射魔法が効いていない部位を探し火矢とともに燃料玉を打ち込んでいった。
敵の船に衝角でつっこんだ海賊団の船には魔剣士と魔法士が乗っていた。
当たった敵の船首部分には穴があき、両方の船は大きく横に揺れたあと互いに停止した。
「乗り込め!」
どちらの船員がかけた声かわからないが両方の船の魔剣士たちがお互いの船に乗り込み戦い始めた。
敵のその船にはほとんど魔法士が乗っておらず魔剣士ばかりで、カマラ海賊団の方は魔剣士と魔法士が約半々だった。
ラミは海上戦は獣人族と魔法士の数で勝敗が決まると考えていた。
他の国では差別をうけ存外に扱われる獣人族だが、マルテ国では一緒に育った同じ国民だ。
その強力な仲間と、今回はマルテと同盟を結んでいる魔法士の国から大勢の魔法士を借り受けている。
敵の魔剣士は強いが、魔法士が回復魔法をかけ続けながら戦う海賊団の魔剣士は不死身に近い。
敵の魔剣士たちは、だんだん体力や魔力が枯渇し疲弊してきた。
その状態をみた敵船から声が飛んだ。
「一旦引け!」
一斉に兵士が船に戻ると船は高速後退し、すぐに船首を回転させながら船腹をこちらに向け砲撃した。
その砲撃で海賊団の6門帆船の船腹は割れ衝撃で船が大きくゆれた。
「全速後退! 次が来るぞ!」
帆船長がそう叫んで船は後退したが、なぜか敵の次の砲撃はなく、そればかりか回頭して沖に逃げて行く。
「船匠! 被害状況確認!」
「もうやっとるわい! この穴の位置なら航行は問題ない。すぐにわしのスキルで直しちゃる!」
「了解! じゃあもう一回衝角いっちゃいますか!」
「あほか! 船じゃなくて手で戦え!」
船上のみんなが大笑いした。
「にしても変だな……こっちの船腹が割れたのに逃げていったぞ。なぜ続けて撃たない」
帆船長が首をかしげた。
「そうですね、ちょっとアーミル艦長に報告に行ってきます!」
魔法士の1人が主力艦に報告に行った。
敵の主力艦の周りをぐるぐる回りながら攻撃を続けている海賊団の主力艦になんとか着地した魔法士は、アーミル艦長に敵船の反応を話した。
「そうか、それは妙だな。 戦う意思がないのか……。
回頭停止、進路維持。 距離を取って停止!」
アーミルが叫んで指示を出した。
相手の主力船はかなり削れ、メインマストも折れて火もついたままだった。
もうまともに逃げることはできない。
こちらが止まったところを見計らい高速船が近づいてきた。
だがその船は乗り込むためにこちらの船に近づいたのではなく、壊れた自国の船に横付けされた。
「ど、どういうことだ」
その高速船は自国の船のケガ人を救助しようとしていた。
みると船尾に白い旗がかかげられている。
敵の主力船の甲板から怒鳴り声がする。
「おまえら何やってる! 早く敵の船にのりこめ! 殺されたいのか!」
そういって敵船の上でひときわ大きな体の男が、高速船に乗ろうとする兵士を足蹴にしている。
上空でその様子を見ていたラミが手でアーミルに合図を出した。
「艦隊攻撃やめ!」
ラミの合図を確認したアーミルが叫ぶと、その号令が次々と周りの船にも駆け巡った。
ラミはサヘルの船に舞い降りた。
「なんだきさま!」
サヘルは剣をラミにむけ顔を紅潮させるとどなった。
「サヘル将軍か。私はカマラ海賊団のラミだ」
「それがどうした。 勝手に人の船に乗ってくるな!
バンデルクを相手に戦争しようってことか? 笑わせるな!」
「私は、おまえが侵略した島の人たちの代理で来た。
目当てはサヘル、おまえだけだ」
周りにいた敵の兵士たちは驚いてはいたが、ラミに攻撃はしてこなかった。
「目当てが俺だぁ? おもしろい。
じゃあ俺が勝ったらそっちの船とおまえの首をもらう!」
「いいだろう。私が勝ったら魚のえさになってもらう」
そのとき高速船に乗っている兵士が叫んだ。
「我々は戦いを望んではいない。どうかケガをした兵士を運び出させてくれ」
「きさま! なにをほざいている! 国の一大事だぞ!」
「フッ、一大事なのはおまえだけだよサヘル。
私に勝てる自信があるなら、待ってもいいんじゃないか。
私は一向にかまわない」
「うるさい!」
激高するサヘルを尻目にラミは敵の兵士に言った。
「早く助けてあげなさい」
「感謝する。みんな早くケガ人を運び出せ!」
そこに先ほど後退した4門帆船も戻り、ケガ人の運び出しを手伝い始めた。
4門帆船が来たので、高速船の兵士も全員そちらに移り、高速船を置いたままその場から離れて行った。
「さてと、じゃあ……」
そう言ってラミは腰のサーベルを引き抜いた。
「ふん、サーベルだと? 海賊ふぜいが」
そういうと大型のソードを一振りして青白い炎をまとわせた。
「魔剣士だったんだね、サヘル。たのしみだ」
「ほざくな!」
サヘルがソードを振り下ろすと、それと同時にいくつもの氷の刃がラミを目掛けて飛び出した。
だがラミがサーベルを軽く振り上げただけで氷の刃は壁に当たったように床に落ちた。
サヘルがソードを上に突き上げると魔法陣が展開し、その陣の中にいかずちが走りラミに降り注いだ。
間髪おかずラミに突進し、サヘルのソードがラミの肩に突き刺さった。
「ラミ様!」
それを見ていたアーミルが口を手で押さえ動揺している。
ラミは落ち着いた様子で、刺されていないほうの腕を上げ手のひらをサヘルに向けた。
空気を押し出すような仕草をすると、サヘルは甲板の端から真ん中あたりまで吹っ飛んだ。
ラミは1歩踏み込んだだけで、サヘルの目の前に移動し、サヘルの肩をサーベルで刺した。
「これでおあいこだね」
刺したままサーベルの持ち手を反対の手でトンっとたたくとサヘルの腕が石化していった。
「ぎゃああ!」
サヘルは転がりながら走り出し、横づけされていた高速船に乗り込むと舵をきって逃げ出した。
「まだ結構元気だね」
ラミはクスッと笑った。
サヘルの逃げた方向には、沖から回り込んできたブラバスの船が待ち受けている。
サヘルはなんとかその間をぬって逃げようとした。
「ってー!」
という声の後に砲撃の音が鳴り響き、砲弾が命中した高速船は爆発音とともに大破し炎上した。
それを見た海賊団の船に歓声があがり、サヘル艦隊の乗組員たちは呆然と立ち尽くしていた。
「ケガ人を救助! 海獣がくるぞ急げ!」
アーミルの声とともに敵味方関係なく海に落ちた者の救助とケガ人の救助が始まった。
ラミは上空からアーミルに後は任せたと合図をし、アーミルはほほえみながら小さくうなずいた。
そして傷の手当てもしないまま、ラミはすぐに港へ向かった。




