ウサ耳収納親父
カランブアイバへと続く道は、緑豊かな草原だ。
周囲には小川も流れ、とてものどかな風景である。
シュバルツに乗ってカランブアイバへと向かっていた私たちは、都市の浮かぶ湖が遠目で確認できるあたりで地面へと降り立った。
「もっと近くまで行かなくて良かったのだ? 我に乗っていった方が早いのだ。もっとレティを乗せて空を飛びたいのだ」
皆が降りやすいように両翼を開いて伏せをした格好のシュバルツは、拗ねたように口を尖らせた。
とはいってもドラゴンだから、なんとなく尖らせたような気がする、って感じだけど。
そんなシュバルツの鼻先をなでなでする。
「あんまり近くまで行くと、町の人が驚いちゃうでしょう? シュバルツは大きいからね」
「うむ。シュバルツは大きいのだ」
「翼の羽ばたきで湖が氾濫起こしそうだし」
「そんなの簡単なのだ!」
「駄目だからね。さあ、小さくなってね。シュバルツが小さくなれるようになったから、一緒に街に入れてうれしいよ」
そういうと、やっとシュバルツはしゅるしゅると小さくなった。
もっと背中に乗っていてほしいから拗ねちゃったんだね。
可愛いなあ。
思わずシュバルツをぎゅっとしていると、アイシャとプリュド、そしてついてきてくれたハクトさんの準備ができたようだった。
「レティ、急ぎましょう」
「そうだね、ごめん」
「出来る限り早くカランブアイバについた方がいいですの。情報は鮮度が命ですの」
「みなさん、ありがとうございます。よろしくお願いします」
「よし、行こう!」
シュバルツを懐にしまって、カランブアイバへと歩き出した。
うさぎの村からシュバルツに乗って約二時間。
攫われた村人たちや誘拐犯の痕跡がないかをみるためにゆっくり飛んでもらった。
「シュバルツのおかげで随分短縮できたわね、徒歩で行ったら二日以上かかる道なんでしょう?」
「はい……あまりの速さに何度意識が飛びかけたか」
「えらい速度だったわよね。死ぬかと思ったわ」
「「ええ⁉」」
ぼさぼさ頭のアイシャが、ハクトさんと顔を見合わせてため息をついた。
その台詞に驚きの声をあげたのは、私とプリュドだ。
「すっごいゆっくりだったよねえ?」
「ですの。私がエスト山脈から連れてこられた時に比べたら、鳥と綿毛くらいの差がありますの」
「プリュド、その例えものすごいわかりにくいわ……」
アイシャは乱れた髪を撫でつけつつ、疲れたように肩を落とした。
ちなみにプリュドの髪は全然乱れていない。
私の髪は鳥の巣みたいになってるけどね。もはや撫でつけたくらいじゃどうにもならない。
ちなみにツルツルのハクトさんは、そもそも乱れる髪がない。
「ねえ、プリュド。なんでプリュドの髪はぼさぼさにならなかったのかな?アイシャは爆発してボボーンってなってるのに」
「失礼ね! ボボーンまではいってないわよ!」
「魔力が上がると、髪も強くなるんですの。気合を入れればこれくらいの風じゃびくともしませんの」
「「な、なんだってー⁉」」
「キューティクルマシマシですの」
ちなみに後日判明したんだけど、プリュドの髪をとかす櫛はオリハルコン製だった。
髪につやが出るらしい。
オリハルコン、パネえ。というかなんというオリハルコンの無駄遣い。
どうでもいい会話をしながら歩いていると、湖が見えてきた。
少し緊張した様子でアイシャが口を開く。
「そろそろ気合を入れましょう」
「うん。あっハクトさんは変装した方がいいかな。その耳じゃ、すぐに兎人族ってわかっちゃうから」
「レティの言う通りですの。無駄に警戒させる必要はないですの。プリュドが魔法で……」
「わかりました」
ハクトさんに偽装の魔法をかけようとしたプリュドの言葉が終わらないうちに、ハクトさんは両手を腰の横で構えて集中し始めた。
「はあーーーーーーーーーーーーふうーーぬ。ふんっ!」
気合の入った息を吐き、ふんっと力をいれた途端……!
しゅるしゅるしゅる
「なんということでしょう……」
「ハクトさんのウサ耳が……」
「可愛いお団子ヘアーに⁉」
ホント、なんということでしょう……
白くてふわふわのぽんぽんが、いかついはげ親父の頭にふたつくっついている。
その姿は、ウサ耳をつけたツルピカマッチョよりもはるかにシュールだった。




