うさぎ村と村長さん
シュバルツにのってしばらく行ったところに、兎人族の村はあった。
ハクトさんはシュバルツにのることにものすごく抵抗していたせいで、シュバルツの手につかまれて運ばれるはめになってたけど……本人はやり切った顔をしてたからいっか。
村には、土と泥とワラで作られたかまくらのような住居が点在していた。
村の周囲には畑があり、村人らしき兎人が農作業をしている。
畑の間を小さな子供が走り回る姿はみるからに牧歌的で、なんというかものすごく癒される感じだ。
「ここが、兎人族の村なのね」
「小さい村なのだ」
「あー……癒される~」
「みすぼらしいですけれど、可愛らしいですの」
「こら、プリュド! 失礼だよ」
プリュドの遠慮のない物言いに、ハクトさんが苦笑する。
「いいんです。街に比べれば確かにみすぼらしいですし」
そういえば、シュバルツとプリュドのせいか、ハクトさんは私たちにも丁寧な口調で話すようになっていた。
ただの流浪の遊び人だよ~といっても、信じてもらえなかったんだよね。
シュバルツを使役しているようなお方が、ただ者であるわけがない! とかいって。
「私は好きだよ、この村。ほのぼのしてて懐かしい感じがする」
「うむ。小さき者たちのいとなみはほほえましいのだ」
私の服の中におさまっているシュバルツが、ふんすと鼻を鳴らす。
本当のシュバルツは大きいんだけど、兎人族の子供よりも小さなこの姿で言われると、違和感がすごいな。
村の入口でそんな話をしていると、
村の中から不審な草のかたまりが近づいてきた。
草のかたまりは大人が一抱えするくらいだろうか、半円形にこんもりと草でおおわれている。
かさかさと小さな音を立てながら、建物の影や石に隠れるように進んでくるが、はっきりいって全く隠れられていない。
「……なにあれ」
「あやしいわね」
「ファイヤーボールで燃やしてみたらわかるですの」
「我のブレスで凍らせるか?」
シュバルツがパカリと口を開け、プリュドが杖を構える。
それを目にしたハクトさんは飛び上がるようにして、草のかたまりと私たちの間に滑り込んだ。
草のかたまりも、ぴょーんと上に飛び上がると、慌てたようにハクトさんの足元にうずくまる。
……草のかたまりがうずくまれるのかどうかは別として。
「待って、待ってください! これは村長で……そ、村長! 早く脱いで!」
「きょっ⁉」
草のかたまりは、半円形のかごに草を絡み付けてあったらしい。
ハクトさんが草のかたまりを持ち上げると、幼稚園児ほどの大きさの白うさぎがうずくまって震えていた。
野生の白うさぎとくらべるとかなり大きく、人間のように服を着ている。
長く白い耳ごと頭を抱えて必死に小さくなろうとしている姿は、何とも言えず可愛らしい。
ぷるぷると小刻みに震えているのがまたたまらない。
「……可愛い」
「うん。やばい可愛いね」
「ぬいぐるみですの」
「うまそうである」
「きょっ⁉」
「「「こら!」」」
うさぎはぷるぷるを通り越して、超高速でブルブル震え出した。
私はシュバルツを服の中に頭まで押し込むと、うさぎに声をかけた。
「うさぎさん、大丈夫だよ」
「怖いドラゴンは隠れたわ」
「顔をあげるといいですの」
「村長、この人たちは俺を助けてくれたんだ。だから大丈夫だ」
「……きょ」
そろりそろりと白うさぎが顔をあげる。
真っ白いもふもふの顔に、きらきらひかるつぶらな赤い瞳は涙でうるうるしていた。
木綿のシャツに茶色いチョッキを着ていて、見た目はまんまピー○ーラビットである。
「えっと、この子が村長さんなの?」
こんな小さな子が? と言外ににじませた気持ちを正しく受け取ったらしく、ハクトさんは苦笑いで答える。
「これでもれっきとした大人ですよ。村長は兎人族のなかでもとびきりの臆病者なんです。お客人たちが怖くて仕方ないんだと思います。自分からここまで出てきただけでも珍しいことなんですよ」
「ハ、ハクトがいたから大丈夫だと思ったのじゃ。旅人さんたち、ハクトを助けてくれてありがとうなのじゃ」
そういうと、とても大丈夫そうには見えない仕草で、村長はおどおどとハクトさんの陰に隠れる。
「きょっ!」
いつの間にか抜け出していたシュバルツが、村長さんの背中側に回り込んで匂いを嗅いでいた。
「こら、シュバルツ!」
「ちょっと匂いをかぐだけなのだ~ぺろぺろ」
「きょっ!」
「くっふっふ、面白いのだ」
村長さんは慌ててくるりと回り込むと、再びハクトさんの陰に隠れる。
それを面白がって追いかけるシュバルツ。
シュバルツと村長さんの追いかけっこはしばらく続いたのだった。




