閑話・プリュドはいらない子?
「なんだか、役に立ってない気がするですの……」
わらのベッドに丸まりながら、プリュドはそんなことを考えていた。
脳裏をよぎる暗い考えに、ぶんぶんと頭を振る。
勇者パーティの回復役、癒しの僧侶『聖女』プリュド。
世界最高峰の治癒魔法使いとして、どの国からも引く手あまただ。
お抱えの治癒術師にしたい王族はもちろん、教会からもぜひ招きたいといわれていた。
いたのに……
「もしかして、プリュド、いらない子……?」
プリュドか賢者ノルンくらいしか治せないといわれた腐食病も完治させてしまう、あのハッスルダンスとはいったい何なのだろう。
「勇者であるレティは特別だから、きっとハッスルダンスも特別ですの。ていうかロゼットだった時から怪我なんてひとつもしなかったですの」
そういえばレティの前世、ロゼットに治癒魔法をかけたことはほぼなかった。
超人的な反射神経と回避能力ですべてのほとんどの攻撃をよけていたし、賢者と聖女が重ね掛けした援護魔法で底上げされた防御を貫通する攻撃などなかったのだ。
だから、プリュドがロゼットに治癒魔術をかける機会などなかったわけで……
「あれ? プリュドったら、前世からいらない子……?」
気づいてしまった恐ろしい事実に、プリュドは愕然とした。
「聖女とか、最高峰の治癒術師とか言われてるわりに、全然活躍していない……⁉」
うおおおおお、と頭を抱えたとき、わら山から声がした。
「別にいいじゃない、いらない子でも」
「ア、アイシャ……?」
わら山から頭だけを出して、ミノムシのようになったアイシャは拗ねたように口をとがらせる。
「プリュドがいらない子なら、私はどうなるのよ。なんにもできやしないわ」
「そうですわね。アイシャは魔法も戦闘もぺんぺん草みたいなものですの」
「少しは否定しなさいよ!」
「だって……アイシャ、なんでいるんですの?」
「こらあっ! ていうかね、レティは役に立つとか立たないとかで人を判断しないってこと! こんな私にだって、一緒に来てくれてありがとうって言ってくれるのよ!」
「あ……」
忘れていた。
レティは、プリュドに言ってくれたんだ。
『来てくれてありがとう』って。
「私はレティと一緒にいたいからいるの! プリュドもそうでしょ? それでいいじゃない!」
「う……」
悔しさに涙がにじんだ。
いやだ。アイシャなんかの言うことで納得してしまうなんて。
「プ、プリュドのほうがレティのことを知ってますの!」
悔し紛れに叫んだ言葉に、アイシャは目を丸くしたと思ったら、顔を真っ赤にして怒り出した。
「私のほうが知ってるわよ! なによ前世前世って偉そうに!」
「実際に偉いんですの!」
「るっさいわよ! 大体私たちがしてるのは観光旅行なのよ! 魔王退治に行くわけでもあるまいし、戦闘力なんか必要ないってのよ!」
「た、確かに……!」
またしてもアイシャの言葉に納得してしまった。
「悔しいいい!」
「観光旅行に必要なのは、戦闘力じゃなくてトーク力よ! アンタは人見知りが過ぎるから、そっちを悩んだらどうなのよ」
「はうあっ!」
アイシャの言葉がぐさぐさとプリュドに突き刺さる。
そういうアイシャだって、口は立つけれど人当たりがいいとは言い切れないのだが……まあ、プリュドよりはましだろう。
「まずは笑顔の練習! 次は発声練習でもするがいいわ!」
「むっ!」
言われて、プリュドはにこりと笑ってみる。
レティに対しては自然に笑えるのだが、その他大勢に関しては表情筋が職場放棄するのだ。
「引きつってて気持ち悪い! もう一回!」
「に、にこおー」
「不自然! もう一回!」
「なにやってるのー?」
その時、扉が開いてレティが部屋に入ってきた。
はな提灯を膨らませたシュバルツが、えりまきよろしくレティの首に巻きついている。
引きつった笑顔のまま、ぴしりと固まるプリュド。
「笑顔の練習よ! プリュドって表情がかたいから」
「そうかなー?」
レティがにこっと笑うと、プリュドも自然に笑顔になった。
ああ、これですの……
レティと一緒にいると嬉しい。
なんでもないことでも楽しいんですの。
「かあーっ! レティがいるとできるのよねえ」
「アイシャ、おっさんみたいだよ」
「あらいやだ」
「ふ、ふふ……」
「あはは! みんなでいると、楽しいね!」
「レティ……」
プリュドは真っ赤になった。
胸がいっぱいになって、涙がこぼれそう。
そんなプリュドを見て、アイシャがにやにや笑っているのは、見なかったことにした。




