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街道沿いの街、ベイテム

イーフリート帝国南部に位置する街、ベイテムは、エスト山脈に沿う街道を通る商人や旅人が立ち寄る宿場町だ。

帝都イフリスとユーグ都市国家とをつなぐ街道は往来が多く、ベイテムを行きかう人々も雑多で多様性に富んでいる。

街の大通りを行く者たちには、獣人やエルフ、ドワーフなど様々で、活気に満ちていた。

人族の割合が多いイーフリート帝国だが、帝国出身の勇者のパーティに獣人やエルフもいたため、偏見や差別はほとんどない。

そのため、獣人やエルフ、ドワーフの集落が多数寄り集まっているユーグ都市国家とも交易が盛んにおこなわれ、ベイテムは最盛期ともいえるにぎわいに満ちていた。


そんなベイテムにある冒険者ギルドは、今日もいつも通り冒険者であふれていた。

併設されている酒場から聞こえる喧噪、冒険者同士のいさかい……冒険者ギルドの日常である。

上位ランク冒険者用の窓口職員であるレイラは、その様子をぼんやりと眺めていた。

下位ランク用の窓口は込み合って列ができているが、上位用の窓口はいつも通り閑散としているのだ。


魔王配下の魔族との戦争、活性化した魔物との戦いに、上位窓口がフル稼働していた暗黒時代からは、考えられないことだ。

魔王軍との戦いで傷つき、疲れ果てた上位ランク冒険者たちは、魔王討伐後、軒並み引退していった。

それには、無敵といわれた女勇者が、魔王との戦いで倒れたことも関係しているのは明らかだった。

化け物などと揶揄されながらも、かの勇者は間違いなく人類の希望であり、冒険者たちの憧れだった。


彼女の死は、一時代の終焉であった。


そして、彼女とともにパーティを組んでいた魔法使い、聖女、そして賢者も、当時のイーフリート王国国王への報告を終えた後、全員が冒険者を引退した。

最強のアタッカーである勇者一人を後衛が援護するという、勇者ありきの戦略をとっていたこともあるだろう。

それゆえか、勇者を失った彼らの嘆きはことさらに深く、彼女亡き後に冒険者として活動することはなかったのだという。


あれから三十年……

いまや暗黒時代の悲壮さはすっかり鳴りを潜め、冒険者を目指す若者たちが増えている。


魔王が倒されたとはいえ、ダンジョンはいまだ存在しているし、魔物による被害もそれなりにある。

魔物討伐を生業にしている冒険者にとっては、己の食い扶持のため、モンスターの存在はありがたくすらあった。

それはダンジョン探索も同様だ。

ダンジョンから発掘される財宝や装備品などのお宝を手に入れることができれば、一攫千金も夢ではない。

暗黒時代を知らない若者たちにとっては、冒険者は夢のある職業なのだ。


カラン、カラン……


ぼんやりと思考に浸っていると、ギルドの入口の扉にくくりつけられたベルが鳴る。

何の気もなしにそちらに目を向けたレイラは、荒くれ者の多い冒険者ギルドには珍しい客に、軽く目を見開いた。


扉を押し開いて入ってきたのは、子供のドラゴンを胸に抱いた二人連れの少女だった。

ひとりは青灰色の髪の、柔らかい顔立ちの少女。

幼さの残る顔は整っており、細く華奢な体は、冒険者としてはいささか頼りない。

薄い胸に抱いている子供のドラゴンは、珍しい白銀色。だが珍しいとはいえ、ドラゴンをテイムしているテイマーもいなくはない。

ドラゴンの小さな体から子供と判断したけれど、油断なくギルド内を見回す目つきはやけに鋭く、レオナは違和感に首を傾げた。

もうひとりの少女は、赤茶色の髪を二つにくくっている。

随分勝気そうな面立ちだが、美少女といって差し支えない容姿の持ち主だ。


「へえ~、ここが冒険者ギルドなのね。男ばっかりでむさくるしいわね」

「そんなことないよ、女の人の冒険者もいるよ」

「あらそうなの?」


OH……辛辣。


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