初めての冒険者ギルド
歯に衣着せぬ赤髪の少女の物言いに、レイラは苦笑した。
カウンターの周りでは、うら若い美少女にむさくるしいといわれた冒険者が若干へこんでいる。
こぎれいな服装や戦闘にむかない容姿からして、恐らく少女たちは依頼のお使いできた商家の下働きとかだろう。
赤髪の少女はほうきを抱えているし、主人に言いつけられて掃除の途中できたのかも。
見ればまだ成人したてといった年ごろだ。
冒険者ギルドになれていないのも無理はない。
冒険者という種類の人間は、総じてむさくるしく小汚いものが多い。
魔物と戦ったり、森での探索や雑用など、肉体労働が主な仕事なのだから当然だ。
粗暴な者も多いが、ベイテムにいる冒険者たちは、好景気のせいか比較的金銭的にも精神的にも余裕がある。
少女たちの辛辣な台詞も、他のギルドだったらもめごとの種になったかもしれない。
ベイテムの冒険者たちが寛容であることに、レイラはひそかに胸をなでおろした。
「むさくるしい……」
「おい、へこむなよ。あんな可愛い嬢ちゃんたちにしたら、お前は確かにむさくるしいよ」
「俺だけかよ!」
「それに臭いし」
「レイラちゃん、ひどい!」
「アル、ちゃんと洗濯してる? 皮鎧って匂いが染みつくんだから」
「レイラちゃんの言う通りだ。アルの皮鎧は臭くてかなわん」
「それを言うなら、フレッドの皮の小手だって変わらないだろ!」
「どっちもどっちよ」
「「レイラちゃ~ん!」」
馴染みの冒険者のアルとフレッドの二人と軽口をたたいていると、少女たちがカウンターに近づいてきた。
少女は自分の身分証明カードをカウンターに置くと、レイラたちに微笑みかけた。
「連れが失礼を言ってごめんなさい。冒険者登録をしたいのですが」
「ぼ、冒険者登録⁉」
驚きの声をあげたのは、むさくるしいといわれてへこんでいたアルだ。
恐らく彼も、少女たちを依頼人と思っていたのだろう。
青灰色の髪の少女はきょとんとし、赤髪の少女はムッとした顔をしている。
彼が先に驚いてくれたおかげで、レイラはうまく驚きを取り繕うことができた。
商家の下働きではなく、家出人かしら? と失礼なことを考えつつ。
「お嬢ちゃん、冒険者になりたいの?」
「はい。冒険者登録しないと、素材を買い取ってもらえないでしょう?」
「ああ、なるほど」
家出の道中で、薬草とかを集めてきたのね、とレイラは納得した。
路銀にしようと思っているのだろうけど、この子たちに集められる素材なんてたかが知れている。
冒険者になりたいと家を飛び出してきたけれど、お金にならない現実を知って家に帰るに違いない。
さきほどは驚いていたアルとフレッドも同じことを考えているのか、苦笑いしている。
「お嬢ちゃん、家出してきたのか? 冒険者はそんなに簡単な職業じゃないぞ」
「そうだ。冒険者になるのは簡単だが、まともに食っていけるようになるには大変なんだ。早く家に帰った方がいい」
「俺らも最近、やっとまともに食べられるようになってきたところだしな……」
「最初は大変だったな。宿に泊まれるなんて……うう」
「ちょっとアル、フレッド。余計なこと言わないでよ」
いたいけな少女たちを止めるために話していたはずが、二人はしんみりし始めた。
でも二人の言う通り、冒険者稼業はそんなに簡単なものではない。
いつだって死と隣り合わせなのだ。
そこまで考えて、レイラはふと少女の腕の中に納まっているドラゴンに目を向けた。
小さな子供とはいえ、ドラゴンが少女の従魔なら、あるいは……
「ねえ、お嬢ちゃん。そのドラゴンは貴女の従魔かしら?」
自分のことが話題になっていることに気付いたのかいないのか、ドラゴンがぴくりと耳を動かす。
自分を注視しているようにみえるが、子供ドラゴンが人語を解することはないから気のせいだろう。高位の古代龍でもあるまいし。
ちなみに、古代龍とは大昔のドラゴンという意味ではなく、古くからの系譜を持つドラゴンの一種族である。
遠く天山に住むとされ、人里に姿を現すことはめったにない。
強大な力を持ち、気の遠くなるような長い寿命をもつらしい。
確認されているのは、亡き勇者の騎竜だったドラゴンくらいのものだ。
当り前だがそんなドラゴンが、ほいほいその辺にいるわけがない。
そう思っていたレイラの予想は、即座に裏切られた。
「シュバルツは友達だよ。ね、シュバルツ」
「そう! 我はレティの友達なのだ!」
そう言って得意げに胸を張るドラゴンに、レイラだけではなくアルとフレッドも目をむいた。
「ま、まさかそのドラゴンは、古代龍……エンシェントドラゴンなの?」
おののくようなレイラの言葉に、少女……レティはきょとんと首を傾げた。
腕の中のドラゴンも、同じくきょとんと首を傾げる。
「えんしぇんと……?」
「レティ、えんしぇんとどらごんとはなんだ」
「よくわかんない。シュバルツの種族的なものじゃないの?」
「我は我だ。えんしぇんとナントカがなんなのかはわからぬが、人間のつけた名前など、ドラゴンにとってはくだらないものだ」
不満げな表情を浮かべたドラゴンの言葉に、なんとなく納得してしまった。
ドラゴンよりも後からこの世界に生まれた人間が、勝手につけた分類を当のドラゴン自身にも把握させるなんて、おこがましい話である。
アルとフレッドも、うんうんと頷いている。
「そりゃあそうだ」
「ワイバーンだって、自分をワイバーンと思って空飛んでるわけじゃねえしな」
「シュバルツの言う通りだわ。おたまじゃくしが、自分をおたまじゃくしと認識しているわけがないわ」
「アイシャ、その例えはなんか腹立つのだ」
「そうだよアイシャ。おたまじゃくしはカエルに進化するんだから、種族がかわるし」
「レティ、そういう問題ではないのだ」
なんともトンチンカンなやり取りに、レイラは肩の力が抜けるのを感じた。
レティと言われた少女も、柔らかくなった雰囲気に緊張が解けたのか、砕けた口調で話し出している。
場の和ませ役としては、アルとフレッドは適任だ。
「はあ、まあいいわ。古代龍じゃなくてもしゃべるドラゴンくらいいるわよね。世の中広いんだし」
「レイラちゃん、あんまりいないと思うぜ」
「なあ。見たことないよな」
「ドラゴン見たことないし」
「俺たちがドラゴンに出会ってたら瞬殺だっての!」
「「あははははー…………はあ」」
アルとフレッドは勝手に盛り上がって勝手に落ち込んでいた。
メリークリスマス!




