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ダンシングじじい


「本当に、この方が聖女様なのか?」

 

ゼニスさんの訝し気な問いかけに、プリュドがむっと顔をしかめる。

可愛らしい顔立ちなので、そんな表情をしていても全然怖くないんだけどね。

前世の時と変わらないなあ、と思いつつ、私はプリュドの頭をポンポンと撫でた。


「ちょっと、いやかなり若く見えるけど、この子は確かに僧侶である聖女プリュドです。私が保証します」

「うーん……親父の命の恩人であるレティちゃんの言うことなら確かなんだろうけど」


ゼストさんは今一つ納得しかねる感じだ。

しかしそれも無理もない。

勇者ロゼットが魔王を討伐したのはいまから三十年も前の話。

その時のパーティメンバーだった聖女と紹介されたプリュドが、どうみても十代半ばの年齢なのだ。

背の高さも私の肩ほどまでしかない。

小柄で華奢な彼女は、前世の時もよく子ども扱いされては怒っていた。

しかしその中身は、百歳を超えているのだ。

人の身には持て余すほどの魔力をもつプリュドは、十歳を超えたころから見た目がほとんど変わらなくなったらしい。


「膨大な魔力を持っていると、年を取るのがゆっくりになるんですの。本当はアナタよりもはるかに年上なんですの。敬うがよいですの」

「はあ……」


顎をそらしてゼストさんを見上げ、腰に手を当てて高飛車に言い放つプリュド。

……どう見ても生意気な子供である。

言われたゼストさんも困惑しきりだ。


「それで、私にお願いがあってこんなところまで連れてきたのでしょう? 早く用件を言うですの」

「ああ、それなんだが……」


ゼストさんは、困ったように視線を彷徨わせた。

なかなか言葉を続けないことに、プリュドは次第にいらいらしだした。

伝説の聖女とかもてはやされているが、プリュドは元来短気なたちなのだ。


「早く言うですの!」

「あ、ああ。実は俺の親父が腐食病にかかったんだ」

「それを早くいうですの! 患者のところに案内するですの!」

「それが……」


腐食病という言葉に、プリュドは顔色を変えた。

言いづらそうに口ごもるゼストさんに、プリュドは悲痛な表情を浮かべる。


「まさか、もう…………安心するですの。プリュドは僧侶。アナタのお父様を立派に送り出してあげますの」

「いやいやいや! 違う違う! 実は親父は」

「いーーやっほーーう!」


ゼストさんの声を遮るように、奇声をあげながら駆けてきて、風のように走り去るおっさん。

実に軽快なスキップだ。


「不謹慎なおっさんですの」

「体が軽―い!」


華麗なスピンをきめるおっさん。

おっさんとは思えない身のこなしである。

先ほどから現れては消え、を繰り返しているおっさんは、村中をくるくると踊りながら回っている。

回転するおっさんが嫌でも目に入り、プリュドは再びいらいらし始めた。

額に青筋を立て、ぎりぎりとおっさんを睨み付ける。


「さっきからなんなんですの、あのおっさんは!」

「……すまねえ。あれが親父なんだ。昨日の夜までは確かに寝込んでたんだが、レティちゃんのおかげで元気になって……なりすぎて」

「なんですって⁉」

「いやあ、我ながらびっくりの効果だよ」


驚愕の表情を浮かべるプリュド。

それもそのはず。

腐食病はプリュドと賢者くらいしか使えない高位の治癒魔法か、高価で貴重な薬でしか治せないのが常識なのだ。

自分でも、まさかここまで効果があるとは思わなかった。

ハッスルダンスって、こんなに効果あったっけ……?

ハッスルダンスをもろに浴びたからか、元気になりすぎて村長さんてば超ハイテンションで踊り狂ってるんだもん。

これ、ホントにハッスルダンス?


「ロゼッ……レティは、治癒魔術を覚えたの?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど。ハッスルダンスを踊ったら、治っちゃったんだよね」

「レティのハッスルダンスはすごいのよ。村でも寝たきりだったおじいちゃんがいきなり走り出したりしていたもの」

「ハッスルダンスってなんですの?」


ゼニスさんとアイシャの言葉に、プリュドは首を傾げて困惑を深めていた。

そんなプリュドに苦笑しつつ、私は説明した。


「前は使えなかったけど、遊び人になって使えるようになったんだ」

「おかげで助かったよ。聖女様にはわざわざ来てもらったのに、なんだかすまねえな」

「せっかく病人が元気になったのに、謝ることはありませんの。シュバルツには言いたいことがたーくさんありますけど」


そう言ってプリュドはシュバルツをじろりと睨む。

当のシュバルツは、我関せずとそっぽを向いてるけど。

シュバルツの全力飛行はやばいもんね……プリュドがどれだけ遠くにいたのか知らないけど、めちゃめちゃなスピード出したんだろうなあ。


「プリュド、来てくれてありがとう」

「レティ……!」


お礼を言うと、プリュドは両手を顎の前で組み、瞳をキラキラと輝かせた。


「シュバルツも急いでくれただけで、悪気はないんだよ」

「レティに会えたのだから大丈夫ですの! シュバルツはへっぽこだから仕方ないですの」

「へっぽこ僧侶に言われたくないのだ」

「聖女様にむかってなんて口をきくんですの! ドラゴンゾンビにしたろかい!」

「へっ! やれるもんならやってみるのだ! すました口調が崩れてるぞ、ニート聖女!」

「むっきいいいい!」


また始まったよ……この二人、いつもこんな感じなんだよね。

仲がいいんだか悪いんだかわからないよ。

しかし、そんな混沌とした空気を無視して、ゼニスさんが口を開く。

この人勇者だな。私が言うのもなんだけど。


「ドラゴンもごめんな。頑張ってくれてありがとう」

「んあ? 別にいいのだ。久しぶりに思いっきり飛んで気持ちよかったのだ」

「そういってくれると助かるよ」

「くわああ、それよりもう我は寝るのだ。ニートの相手は疲れるのだ」

「むっきいいいいいいい! シュバルツうううううう!」

「プリュドちょっと黙ってて。シュバルツもありがとう」

「レティのためならどうってことないのだ」


そういうと、シュバルツは私の胸元にもぞもぞと潜り込んでいった。

すぐに寝息が聞こえてくる。


「たくさん飛んで疲れたんだね」

「私たちも疲れたわ。結局一睡もしていないもの」

「それならうちに泊まっていってくれ! 親父も恩人たちにダメとはいわねえだろ! しっかりもてなさないとな!」


すっかり元気になったゼニスさんのお言葉に甘えることにした私たちは、プリュドと一緒に村長さん宅へと足を向けた。


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