聖女プリュド
「ハッスルダンス!!!!!!」
村長さんの横たわるベッドの隣で、私は両手を高く掲げ、ビシイッ! と決めポーズをとる。
「……おい、いきなり踊り出したと思ったら、なんなんだ?」
「黙ってみてなさい……私にもわからないから」
「わかんねえのかよ!」
発動までタイムラグがあるのだろうか。
それともちゃんと発動していないのか。
決めポーズのまま、数秒を待つ私。
掲げた腕の筋肉と周囲の視線に、HPが削られそうになったころ、村長さんの身体……どころか、その場にいた全員の身体が輝き始めた。
ぱあああああああ、と身体の内側から優しい光があふれてくる。
驚きおののくゼストさんとアイシャ。
「な、なにこれ……」
「なんだかぽかぽかするぞ!」
「疲れが癒やされる感じがするわ」
「本当だ! お、親父はどうなってるんだ⁉」
ゼストさんの声で村長さんにみんなの視線が集まったとき、それまで固く閉じられていた瞼がカッと開いた。
「お、親父……!」
「うおおおおおおおおお! ハッスルーーーー!」
村長さんはベッドから飛び起きると、両腕を曲げて激しく上下に振り降ろし始めた。
激しい動きにはだけた袖口から見える腕は、健康的な色を取り戻しているように見える。
顔色なんてもうツヤッツヤで、大会前のボディビルダーみたいだ。
「デ、デニスが目を覚ましたぞえ!」
「おおおおおおおお、親父! 急にそんなに動いて大丈夫なのか⁉」
「うおおおおおおおおお! みなぎるうううううううう!」
「すごいみなぎってる! すごいみなぎってるわ! って、どこ行くの⁉」
「親父いいいいいいいいい⁉」
デニスさんは叫び声をあげながらベッドから飛び降りると、部屋の扉から走り去ってしまった。
部屋に残された私たちは、ぽかんとするしかなかった。
「行っちゃった……」
「なにあれ……レティ、アンタなにしたの?」
「なんか私にももうよくわかんない」
「あれ。これ、もう聖女様必要なくね?」
「「「「あ……」」」」
◆
ゴゴゴーー! という羽音どころか爆音を響かせて舞い降りてきたのは、白銀色の巨大なドラゴンだった。
出発の時はあんなに静かに飛び立ったのに。
もう朝だからか、遠慮がない。
でも一応、村の外に着地したのは、建物に被害がないように気を遣ったのだろう。
シュバルツがあの勢いで着地していたら、村の家は吹き飛んでいたに違いない。
「ぎゃーーーー!!」
叫び声をあげながらシュバルツから転がり落ちてきたのは、白っぽいローブに身を包む小柄な人物だった。
羽を折りたたんだシュバルツはちんまりとしたサイズに戻り、うずくまっているその頭にずしっと乗っかった。
「シュバルツ……いきなり何の説明もなく連れてきたと思ったら、この仕打ち……許しませ……おえっぷ」
「プリュドがもたもたしているからなのだ」
「うっぷ、どくですの……うぶっ! は、吐く!」
ローブの人物は顔を起こすと、口元を抑えて慌てて街道沿いの林に駆け込んだ。
頭の上から振り落とされたシュバルツは、なんでもないというように平然と宙に浮かんでいる。
シュバルツはへっと鼻で笑い、彼女にしらっとした視線を送る。
「プリュドは相変わらず軟弱なのだ」
「アナタがあんな速度で飛ぶからでしょう! 死ぬかと思いましたの!」
「プリュド」
口元をぬぐいながら振り向いた人物は、真っ白なウェーブがかった髪を持つ、十代前半の少女だった。ルビーのような赤い瞳は、涙で潤んでいる。
少女は燃えるようなまなざしで、キッとシュバルツ睨み付ける。
そんな少女に声をかけるが、彼女はシュバルツに文句を言うので忙しいようだった。
「ねえ、プリュド」
「だいたい前から不満だったんですの! ロゼットはともかく、私たちは普通の人間ですの! アナタの速度で飛ばれたら死にますの!」
「死んでないのだ」
「むっきいいいいい!」
「中身は百歳こえてるっていうのに、外見は全然変わらないねえ。それで普通の人間とか、よくいう」
「ロゼットったら、こんな可憐な乙女になんってこと言いますの! 失礼です……の……」
顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいたプリュドは、声の主をみて、固まった。
信じられないものを見た、といった様子のプリュド。
大きな目をこれ以上ないくらい見開き、目の前の声の主の姿を凝視する。
でも私は以前とは全く違う姿だ。
分かってくれるかな? という不安半分、期待半分で私はプリュドを苦笑いで見つめた。
やがて、プリュドの震える唇が、か細く、しかし一音一音確かめるように言葉を紡いだ。
「……ロゼット?」
私ははひとつ頷くと、困ったような笑顔を作る。
「わかってくれて嬉しいよ。ひさしぶり、プリュド」
照れくささに頭をかくレティの前で、プリュドはプルプルと小刻みに震え出した。
レティを凝視する赤い瞳からは、とめどなく涙があふれている。
プリュドはレティに抱きつくと、小さな体で精いっぱいしがみついた。
「ロゼット、ロゼットおおおお!」
「プリュド」
「アナタが倒れてから初めて神に感謝しましたの!」
「それ言っちゃダメでしょ、一応聖女なんだから」
「この姿が、今のロゼットですの? いえ、姿など些細なことですの。プリュドにはすぐにわかりましたわ。アナタに刻まれたくさびはそのままですもの」
「くさび……?」
前世の姿で一緒にいたときも、プリュドは『くさび』という言葉を時々発していた。
『勇者のくさびが……』と言っていたと思うけど……
あの時は、『勇者』として選ばれたから、その証みたいなものが聖女であるプリュドにはわかるのかな、と思っていた。
「……私の魂に、なにかが刻まれているの? だから、転生する?」
自分は何かにからめとられているのだろうか?
マーキングされているような気持ち悪さに、ブルリと背筋を震わせる。
「すべては神の思し召しですの。また会えると信じていましたけれど、もっと先かと思っていましたの」
「え……?」
「まさかこんなに早く転生できるなんて、さすがロゼットですの。いえ、今は……レティでしたか」
プリュドの言葉に違和感を覚える。
ドラゴンの出現に飛び出してきた村人たちの姿をみて、私はプリュドへの疑問を胸にしまった。




