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聖女プリュド


「ハッスルダンス!!!!!!」


村長さんの横たわるベッドの隣で、私は両手を高く掲げ、ビシイッ! と決めポーズをとる。


「……おい、いきなり踊り出したと思ったら、なんなんだ?」

「黙ってみてなさい……私にもわからないから」

「わかんねえのかよ!」


発動までタイムラグがあるのだろうか。

それともちゃんと発動していないのか。

決めポーズのまま、数秒を待つ私。

掲げた腕の筋肉と周囲の視線に、HPが削られそうになったころ、村長さんの身体……どころか、その場にいた全員の身体が輝き始めた。

ぱあああああああ、と身体の内側から優しい光があふれてくる。

驚きおののくゼストさんとアイシャ。


「な、なにこれ……」

「なんだかぽかぽかするぞ!」

「疲れが癒やされる感じがするわ」

「本当だ! お、親父はどうなってるんだ⁉」


ゼストさんの声で村長さんにみんなの視線が集まったとき、それまで固く閉じられていた瞼がカッと開いた。


「お、親父……!」

「うおおおおおおおおお! ハッスルーーーー!」


村長さんはベッドから飛び起きると、両腕を曲げて激しく上下に振り降ろし始めた。

激しい動きにはだけた袖口から見える腕は、健康的な色を取り戻しているように見える。

顔色なんてもうツヤッツヤで、大会前のボディビルダーみたいだ。


「デ、デニスが目を覚ましたぞえ!」

「おおおおおおおお、親父! 急にそんなに動いて大丈夫なのか⁉」

「うおおおおおおおおお! みなぎるうううううううう!」

「すごいみなぎってる! すごいみなぎってるわ! って、どこ行くの⁉」

「親父いいいいいいいいい⁉」


デニスさんは叫び声をあげながらベッドから飛び降りると、部屋の扉から走り去ってしまった。

部屋に残された私たちは、ぽかんとするしかなかった。


「行っちゃった……」

「なにあれ……レティ、アンタなにしたの?」

「なんか私にももうよくわかんない」

「あれ。これ、もう聖女様必要なくね?」

「「「「あ……」」」」



ゴゴゴーー! という羽音どころか爆音を響かせて舞い降りてきたのは、白銀色の巨大なドラゴンだった。

出発の時はあんなに静かに飛び立ったのに。

もう朝だからか、遠慮がない。

でも一応、村の外に着地したのは、建物に被害がないように気を遣ったのだろう。

シュバルツがあの勢いで着地していたら、村の家は吹き飛んでいたに違いない。


「ぎゃーーーー!!」


叫び声をあげながらシュバルツから転がり落ちてきたのは、白っぽいローブに身を包む小柄な人物だった。

羽を折りたたんだシュバルツはちんまりとしたサイズに戻り、うずくまっているその頭にずしっと乗っかった。


「シュバルツ……いきなり何の説明もなく連れてきたと思ったら、この仕打ち……許しませ……おえっぷ」

「プリュドがもたもたしているからなのだ」

「うっぷ、どくですの……うぶっ! は、吐く!」


ローブの人物は顔を起こすと、口元を抑えて慌てて街道沿いの林に駆け込んだ。

頭の上から振り落とされたシュバルツは、なんでもないというように平然と宙に浮かんでいる。

シュバルツはへっと鼻で笑い、彼女にしらっとした視線を送る。


「プリュドは相変わらず軟弱なのだ」

「アナタがあんな速度で飛ぶからでしょう! 死ぬかと思いましたの!」

「プリュド」


口元をぬぐいながら振り向いた人物は、真っ白なウェーブがかった髪を持つ、十代前半の少女だった。ルビーのような赤い瞳は、涙で潤んでいる。

少女は燃えるようなまなざしで、キッとシュバルツ睨み付ける。

そんな少女に声をかけるが、彼女はシュバルツに文句を言うので忙しいようだった。


「ねえ、プリュド」

「だいたい前から不満だったんですの! ロゼットはともかく、私たちは普通の人間ですの! アナタの速度で飛ばれたら死にますの!」

「死んでないのだ」

「むっきいいいいい!」

「中身は百歳こえてるっていうのに、外見は全然変わらないねえ。それで普通の人間とか、よくいう」

「ロゼットったら、こんな可憐な乙女になんってこと言いますの! 失礼です……の……」


顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいたプリュドは、声の主をみて、固まった。

信じられないものを見た、といった様子のプリュド。

大きな目をこれ以上ないくらい見開き、目の前の声の主の姿を凝視する。

でも私は以前とは全く違う姿だ。

分かってくれるかな? という不安半分、期待半分で私はプリュドを苦笑いで見つめた。



やがて、プリュドの震える唇が、か細く、しかし一音一音確かめるように言葉を紡いだ。


「……ロゼット?」


私ははひとつ頷くと、困ったような笑顔を作る。


「わかってくれて嬉しいよ。ひさしぶり、プリュド」


照れくささに頭をかくレティの前で、プリュドはプルプルと小刻みに震え出した。

レティを凝視する赤い瞳からは、とめどなく涙があふれている。

プリュドはレティに抱きつくと、小さな体で精いっぱいしがみついた。


「ロゼット、ロゼットおおおお!」

「プリュド」

「アナタが倒れてから初めて神に感謝しましたの!」

「それ言っちゃダメでしょ、一応聖女なんだから」

「この姿が、今のロゼットですの? いえ、姿など些細なことですの。プリュドにはすぐにわかりましたわ。アナタに刻まれたくさびはそのままですもの」

「くさび……?」


前世の姿で一緒にいたときも、プリュドは『くさび』という言葉を時々発していた。

『勇者のくさびが……』と言っていたと思うけど……

あの時は、『勇者』として選ばれたから、その証みたいなものが聖女であるプリュドにはわかるのかな、と思っていた。


「……私の魂に、なにかが刻まれているの? だから、転生する?」


自分は何かにからめとられているのだろうか?

マーキングされているような気持ち悪さに、ブルリと背筋を震わせる。


「すべては神の思し召しですの。また会えると信じていましたけれど、もっと先かと思っていましたの」

「え……?」

「まさかこんなに早く転生できるなんて、さすがロゼットですの。いえ、今は……レティでしたか」


プリュドの言葉に違和感を覚える。

ドラゴンの出現に飛び出してきた村人たちの姿をみて、私はプリュドへの疑問を胸にしまった。



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