腐食病
「シュバルツ。プリュドを連れて来てくれない?」
「わかったのだ。レティはどうするのだ?」
「私は、プリュドが来るまで村長さんについてるよ」
「じゃあ、行ってくるのだ」
そういうと、シュバルツはそのまま一直線に上空へと浮かんでいった。
羽ばたいていないから、風魔法をつかっているのかな。
「お、おい! プリュド様を連れてくるって、本当か⁉」
「伝説の聖女様だぞ⁉ こんな辺鄙な村に来てくれるのか⁉」
ふわふわ上っていくシュバルツを眺めていると、我に返ったらしいゼニスさんたちが矢継ぎ早に質問をしてきた。
「山脈って、エスト山脈だろ? どのへんかにもよるが、北部エスト山脈なら間に合わないんじゃないか?」
「空を飛べるとはいえ、子供のドラゴンだしな……」
希望がみえたと思ったら、また絶望……という感じで、ゼニスさんたちは再び肩を落とした。
ゼニスさんたちの様子に、アイシャが食って掛かる。
アイシャはシュバルツを可愛がっているからね。馬鹿にされたと思ったのかな。
「失礼ね! シュバルツは大きいのよ!」
「お嬢ちゃん、何言ってるんだ」
「そうだぞ、小さいドラゴンじゃないか」
その時、爆発が起きたような光が輝いたかと思うと、巨大な影が村の上に現れた。
「「「なああああああああああああああ⁉」」」
「いってらっしゃーい!」
巨大な影……シュバルツは、弾丸のような勢いで北へと飛んでいった。
プリュドがどのくらい遠くにいるのかわからないけれど、シュバルツよりも早くたどり着ける者はいないだろう。
ゼニスさんたちは、口をあんぐりと開けて目を白黒させている。
「さて……私は村長さんのところに行こうかな」
「え?」
「プリュドが来る前に村長さん死んじゃったら困るでしょ」
「そりゃあそうだが……」
シュバルツを見送ると、私はさきほどの家へと足を向けた。
あまりの出来事にいまだ呆けているゼニスさんは、ふらふらと私についてくる。
もはや驚きなれているアイシャも、すまし顔で私に並んだ。
「レティも治癒魔法使えるの?」
「んーん、プリュドみたいなことはできないよ。でも私は遊び人だから」
「……だから?」
アイシャには意味不明だろう。胡乱な目を向けられているのを感じる。
しかし、遊び人だからこそ、出来ることもあるのだ!
◆
ゼニスさんに案内された家の寝室では、村長のデニスさんが横たわっていた。
ベッドの隣には、先ほど会った薬師のおばあさんが椅子に腰かけて看病している。
「ばあさん、親父の様子はどうだ?」
「……あまりよくないね。この分じゃあ、明日の朝までもつかどうか」
「そんな! さっきと話が違うじゃねえか!」
ゼニスさんの悲痛な叫びに、薬師のおばあさんはゆるゆると首を振った。
「すまないね……思っていたより症状の進行が早いんだよ。痛みもひどいだろうが、和らげる薬も効いてるのかいないのか……」
苦し気にしかめられたデニスさんの眉の下の瞳は固く閉じられ、顔色は悪い。
寝巻の袖口から覗く手の甲や腕は、腐食が進み赤黒く変色していた。
そんなデニスさんを見ながら、ゼニスさんは表情を悲し気に曇らせる。
「親父……」
「すごく苦しそう……レティ、なんとかできるの?」
「わからないけど、やれるだけやってみるよ」
「お願いだ。親父を少しでも楽にしてやってくれ」
「わかった。せめてプリュドが来るまでもたせられるように頑張るよ」
不安そうな面々に頷き返す。
私も不安だけど、プリュドなら治せる。
プリュドが来るまでなら、きっと何とかなる……いや、なんとかしてみせる。
懐かしい僧侶の顔を思い浮かべながら、私は気合を入れるのだった。




