村長さんの病気
にぎやかな夕食を終え、薄いマントにくるまって眠ろうとした時。
村長の家のほうから、何人かの男のひとたちがこちらに向かって小走りでやってきた。
どうやら、村の出口から出て行こうとする男性をひき止めているようだ。
男性たちは緊迫した表情を浮かべ、焦っている。
近づいてきて顔を見ると、引き止められている男性は、先ほど村長さんの家で会った息子さんだった。
「ゼニス! 親父さんが心配なのはわかるが、もう夜になる。明日まで待つんだ!」
「そうだぞ。夜道は危険だ。お前にまで何かあったらこの村はどうなる」
「離してくれ! 親父を助けるには、一刻も早く治癒術師を連れてこなきゃならねえんだ!」
「薬師のばあさんが、なんとかもたせるって言ってたじゃねえか!」
「それじゃ間に合わねえかもしれないだろ!」
男性たちは、村の出口のところで言い争いを始めた。
お腹いっぱいで爆睡していたシュバルツも、もぞもぞ起きてきた。
さっきまでずっと寝ていたくせに、良く寝るなあ。
「うるさくて寝てられん……」
「あれはさっきの息子さんよね。村長さんの具合が良くないのかしら」
「そうみたい。重い病気だったのかな」
そうこうしているうちに、ゼニスさんは男性たちを振り切って村から出ようとしていた。
「こんな夜にどこまで行くつもりかしら。危ないわ」
「そうだね。護衛してあげた方がいいかも。声をかけてみよう」
アイシャと相談し、ゼニスさんに声をかけようと立ち上がる。
魔物の被害は少ないとはいえ、夜の街道を行くのは危険だ。
「ゼニスさん! どうかしたんですか!」
「ああ、あんたたちはさっきの」
「私たち、冒険者見習いなんです。なにかお役に立てるかもしれません」
まだ冒険者ギルドで登録していないから、本当は見習いどころかただの冒険者志望の遊び人だけどね。
頼りないだろうから、見習いって言ってみたけど……ゼニスさんはあからさまにがっかりしているから、あんまり効果なかったかな……
「見習いか……気持ちはありがたいが……」
「事情だけでも話してくださいませんか?」
「急いでるんだけど」
「ゼニス! 話だけでもしてやれよ!」
「そうだぞ! 実はすごい実力の持ち主かもしれないじゃないか!」
見習いと聞いて断ろうとしたゼニスさんだったが、周りの男性たちの援護射撃によって、なんとかその場にとどまってくれた。
男性たちも、ゼニスさんを引き止めるためなら、という感じなのかな。
「わかったよ。うちの親父が病気になったのは言っただろう? 腐食病だったんだ」
「腐食病⁉ ほとんど不治の病と言われている病気じゃないですか!」
腐食病は人への感染はしないといわれているけれど、発症する原因もわかっていない。
ある日突然発病し、手足などの身体の末端から変色して腐っていく。
前世でも、この病で沢山の人が死んだ。
腐食病を治すには、どんな病気も怪我も治すことのできるエリクサーか、最高レベルの治癒術師や僧侶が必要だ。
前世でパーティを組んでいた僧侶や賢者なら、治すことができただろう。
「薬師のばあさんが言うには、治すにはかなり貴重な薬がいるらしいんだが、その薬はばあさんも持ってねえ」
「それなら作るしかないですね」
「簡単に言うなよ。貴重な薬って言っただろ? 材料も貴重なものが沢山いるんだ」
「それじゃあ、材料集めに時間がかかるわね」
「ああ。でもそんなことしてるうちに、親父が死んじまう」
「それで、薬の材料を集める時間を稼げる治癒術師を探しに?」
「ああ……その治癒術師が、親父の病気を治せるならいうことないしな」
ゼニスさんは、歯切れ悪く返事をした。
薬の材料がどれだけ希少なものがいるのかはわからないけど、治癒魔法は難しく、治癒術師も希少だ。そのうえ治癒術は高い。
このカミユ村から近い村だか街だかに治癒術師がいて、その人物が高度な治癒術を使え、そのうえここまで来てくれる可能性を考えると……
残酷な予想に何も言えず眉根を寄せていると、アイシャがずばりと言ってしまった。
「雲をつかむような話だわ。アンタが治癒術師を連れてくる前に、親父さんは死ぬわ」
「アイシャ!」
「お、お前、なんてこと言うんだ!」
「だってそうじゃない。お父様から聞いたわ。腐食病は恐ろしい病気だって。伝説の僧侶じゃなければ治せないって」
「それは、そのとおりだ……」
ゼニスさんはがっくりとうなだれた。
「伝説の僧侶は、勇者と旅していた人だわ。もうとっくに現役引退してる」
「隠遁して、病にあえぐ民を救う旅に出たって噂だな」
「どこにいるんだろう」
男性たちも、項垂れるゼニスに気の毒そうな視線を向ける。
その時、それまで黙っていたシュバルツが口を開いた。
「伝説の僧侶って、プリュドか?」
「そう、勇者の守護女神と言われた伝説の聖女。プリュド様よ」
「プリュドなら、北の方の山脈にいるぞ」
シュバルツの爆弾発言に、その場にいた一同が目をひんむいて驚愕の表情を浮かべた。
「「「「「なんだ(です)って⁉」」」」」
「確か、山小屋で木こりになるって言ってたぞ」
「なんで木こり!」
「民を救う旅は⁉」
「プリュドは飽きっぽいのだ」
「飽きちゃったの⁉」
「勇者と別れてから、自暴自棄になってたのだ」
そういうと、シュバルツはちらりと私に視線を向けた。
私は苦笑いすると、シュバルツにお願いした。
「シュバルツ。プリュドを連れて来てくれない?」




