村の中で野営
「村の中で野営をするか、村の外で野営をするか。それが問題だ」
「珍しく悩んでると思ったら、なに言ってるのよ。村の中に決まってるじゃない」
「でも別に村の外だろうが中だろうが、寝るのは地面だから大差ないよ」
残念ながら宿は望めなさそうだが、新鮮な野菜と魔物の肉を物々交換する以外にやることはなかった。
だったらさっさと出発すればいいのかもしれないけれど。
せっかく村についたのだ。
もう夕暮れにもなるし、わざわざ出発する気にはなれないのは、レティとアイシャの共通した意見だった。
「でもさあ、村の中で野営って、不審じゃない? 不審者じゃない?」
「確かに。朝起きたら自分ちの前に人が寝てるとか嫌よね」
「でしょ? だったら村の外で野営した方がまだマシな気がしてさ」
「家の裏は?」
「余計不審だわ!」
「誰かの家の納屋を借りる?」
「レティがお願いしに行ってよ」
「やだよ。私、人見知りなんだから」
「でも、よく考えてみたら見知らぬ人の家に泊まるってなんか嫌よね。仕方ないわ、村の隅の方に行きましょ」
前世での旅では、宿に困ることはなかった。
何といっても勇者の来訪である。
魔物の被害に苦しむ人々からすれば、待ちに待った救いの手。
常に最上級の宿、もしくは一番大きな家の客間が用意されていたのだ。
旅慣れているはずなのに、宿屋がない村での正しい過ごし方がわからんとは。
前世での旅は優遇されてたんだなあ。
でもこういう旅も楽しい。
アイシャとシュバルツが一緒にいてくれるからかな?
軽口を叩きながら、とりあえず村の出口あたりのすみっこに移動する。
「この辺ならいいんじゃないかしら? 邪魔にはならなそうだし」
「じゃあここで野営しようか。村の中で野営ってのもなんともいえないけど。テントとか欲しいよねえ」
「そういえばそうね。今まで雨が降ってなかったから思いつかなかったわ」
「ん、雨か? ぬれるのが嫌なら、我が結界魔法をはってやろうか?」
「あれ。シュバルツ、おはよう」
胸元から、シュバルツがごそごそと這い出してきた。
おはようって言ったけど、もう夕方だけどね。
くわああ、と大きく口を開けて大あくびしている。
こしこしと目をこするシュバルツに、アイシャが興味津々で質問をする。
「結界魔法で雨も防げるの?」
「うむ。ついでに矢も防げる」
「結界で雨が防げても、目隠しとか欲しいんだよ。だって女の子だもん!」
「闇魔法で黒霧を出せばよいのではないか?」
シュバルツの言葉に、状況を想像する私とアイシャ。
「村の隅に、こんもりと黒い霧が発生……しかも人の声がする。どうですか、アイシャさん」
「事件の匂いがするわね」
「通報されるね」
「攻撃されたら、我がブレスを一発撃てばよい」
「黒い霧からドラゴンブレス」
「討伐されるわね。国が動きそうよ」
怒涛のダメ出しに、シュバルツがむっとする。
「黒い霧がだめなら、聖属性の白い霧にしたらよかろう!」
「……少し、あやしさがうすれるかな?」
「大差ないと思うわ。あっ! 可愛くピンクの霧とかは?」
「急にエロスな雰囲気! やだー、アイシャったらー」
「なっ! レティ!」
「ふははははは、アイシャはエロスなのだな」
「シュバルツまで!」
ひとしきりアイシャをからかって満足したので、目隠しは諦めて素直に野営することにした。
◆
村の隅っこでたき火を焚き、串に刺したお肉を焼く。
肉の脂がたき火に落ちて、じゅうっといい匂いが立ち上る。
肉スキーのシュバルツは、よだれを垂らして肉を凝視している。
そんなシュバルツの様子に、アイシャが生肉を差し出した。
「そんなにお腹が空いてるなら、肉が焼けるまでこれを食べたら? シュバルツは生肉でも食べられるんでしょう?」
シュバルツは生肉をちらりと見た後、ごくりとつばを飲み込んでブンブンと頭を振る。
「肉は焼いた方がウマイのだ。ガマンするのだ」
「でもこの間は生肉を食べていたじゃない」
「あれは、二人が寝ていたから仕方なくなのだ。レティと再会したのだから、もう生肉は食べたくないのだ」
「レティがいない間は、生肉を食べていたの? 自分で焼いたりしなかったの?」
「我は火魔法は苦手なのだ。消し炭か生焼けにしかならないのだ」
「シュバルツもレティのこと言えないくらい不器用なのね」
「なんだとう!」
アイシャと言い合いをしながらも、相変わらず肉を凝視しているシュバルツ。
頑張って食欲をこらえている姿が可愛くて、ふふっと笑う。
ドラゴンは雑食でなんでも食べられるけど、シュバルツは肉が好きだ。
野生のドラゴンは肉を焼いたりしないけど、前世で行動していた時は、焼いた肉を一緒に食べていたからなあ。
「お肉焼けたよ~熱いから気を付けてね」
「はふはふ! 美味しいのだ! でも味付けが物足りないのだ」
「一応ハーブとかはすりこんでるけど。調味料とかほとんどないからねえ」
「お塩があるだけ贅沢ってものだわ」
アイシャの言う通り、この世界では調味料は高価だ。
塩は生きていくうえで必要だという意識は何とかあるらしく、ド田舎のマルク村にもそれなりの蓄えはあった。
しかしそれ以外の調味料ともなると、一気に高級品になるのである。
勇者だったころは国から支給されてたから、シュバルツの舌も肥えちゃったんだね。
あ、明日はさっきのマンドラゴラをすりおろして薬味に使ってみようかな。
でも麻痺・毒耐性のないアイシャには危ないかな?
マンドラゴラってちょっとだけど毒があるし。
「シュバルツのとって来てくれたお肉が美味しいから、お塩だけでも美味しいよ」
「むっ……」
「そうよね。こんなに美味しいお肉、初めて食べたもの」
「むむむ!」
「マルク村ではオークなんて出なかったしね」
「シュバルツはすごいわ」
「むむむむむむむ!」
シュバルツは褒められて嬉しいのか、くねくねしながら肉串を頬ばっていた。
リスみたいにほっぺたを膨らませてて可愛い。




