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SO-085「この身、この魂を」


 火花散る戦い。初代像の振るう武器は斧のついた槍……ハルバードとか呼ばれる槍斧だったような気がする。今の時代でもその扱いにくさから使い手は多くない。騎士団長ぐらいなら行けるかというぐらいだろう。


 空気を切り裂き、すぐそばを通り過ぎる一撃は必殺の気迫がこもっている。わずかに逃げ遅れた髪の毛が空を舞い、溶けていく……溶けて!?


『お嬢様! この武器、斬られたらいけない!』


「よーく聞こえますわ。今日は調子がいいのか、この場所が特別なのか……きっと両方ですわね」


 状況は正直、不利と言っていい。明らかに強敵なのに、こちらは下手に攻撃を受けたら恐らくその場所から力が失われる。俺が魔力を吸うのに対し、初代像の槍斧は相手を崩壊させる。


 なんとなく、本当になんとなくだが近しい物を感じた。思い返せば、槍だったころの俺はほぼ同じようなことをしていたではないかと。相手を貫き、倒し、必要に応じて吸収する。それはもう、滅しているのと変わらない。


『だが今の俺はさすまただ。守るべき、守るための!』


 相手が崩壊を狙うというのなら、こちらはその力をも吸収し返そう、そう決めた。戦いそのものはお嬢様に任せ、俺は槍斧の力を相殺かそれ以上を狙うことに専念した。左から、右から、時に防いだ俺ごと吹き飛ばしそうな一撃をアレストお嬢様はしっかりと防いでいく。


 その姿はまさに……英雄と呼ぶにふさわしい。並の、いや相当な使い手であっても危なげなく勝つ、そう思わせる。


 ─娘よ、何故戦う。己が国を興すわけでもあるまい?


「私には王のように人の上に立ち、その責任全てを背負うのは難しそうですわ。どうしても目の前に困難あらば手を差し伸べてしまいますから」


 闇色の……悪い感じはしない魔力光。対するこちらも俺にお嬢様の魔力が通り、至近距離でしか発動しない雷の光が生じ、それをはじく。ぶつかり合う中に金属音以外に魔力同士の弾ける音も混じっていく。


 不思議と、周囲への影響はないようだった。最初からここで戦いがあることを見越した何かがあるのかもしれないし、例の装置に余波が吸われてるのかもしれない。もしかするともしかするのだが、こうして継承できそうな人間がこの場所で戦うことも、宝物庫の維持のために想定されているのかもしれない。


(もしそうだとしたら最初に設計した奴はどんな化け物だっ!)


 内心呻きながらも槍斧の力を捕え、その力に干渉することに成功する。少なくとも俺とぶつかってる限り、俺自身もお嬢様も崩壊することはないだろう。俺が、無事な限り。


『緑軽銀の量と質で言うとあっちの方が上かもしれません。お嬢様……俺がふがいないばかりに』


「承知の上ですわ。これだけのことをする存在がただの武器を使う訳がないとは想定内ですもの。ですけれど……武器の性能差が全てではないこと、私と貴方が散々証明してきましたわ!」


 裂ぱくの気合と叫びと共にお嬢様の手により初代像へと俺が繰り出され、その一撃は見事に相手を後退させる。今のは良い手ごたえがあった。その証拠に、相手の槍部分が折れている。斧となった武器を手に間合いを取り直すべく初代像は構えなおした。こちらもじりじりと移動する最中、握られた手から信頼が伝わってくる。


 同時に、お嬢様の疲労も。


(そうだよな、ここは人間には長居する場所じゃあ、無い)


 危険な物たちを安置し続けるための装置が周囲から力を徐々に奪っている。それはお嬢様も例外ではない。初代像はどこから力の供給を受けてるのかいまだにわからないが、ここで眠っていたのだろうから相手は自滅することはないだろう。ずるい話だ。


 強さだけなら、よく考えるととんでもないことだがお嬢様の方が……上。


「ここっ! それはどうかと思いますわよ……もうっ」


 思わず飛び出た言葉の向かう先は、見事にお嬢様が叩き折ったのに再び再生してくる相手の左腕。疲労した様子もない。今はまだ勝てる、がこの先はどうだろうか。


 徐々に相手もお嬢様の動きに慣れてくるだろう。そしてこちらはどうしても疲労する。


(どうする、どうする? 相手は物、こちらが人。物の体は疲れない……)


 つぶやきながら俺は……1つのことを決めた。思いついてしまえばとても簡単だ。やったことはないが、恐らくは大丈夫。かつてを再現して見せるだけのことなのだから。問題はお嬢様に怒られそうってとこかな。折れた穂先は……うん、届く。


『お嬢様、俺たちの勝利条件は何ですか?』


「相手を倒す……いいえ、捕えること。トライ?」


 そう、初代像は勝ってからとはいったが、砕いて滅ぼせたら勝ちだとは言っていない。捕縛し、無力化してしまえばそれで勝ちは勝ちなのだ。勝敗は、当人にとってそうであればどんな形であれ勝ちであるし、あるいは負けである。


 再び攻め込んでくる初代像とぶつかり合いながら、俺もお嬢様も戦い方を模索していく。けれどお嬢様の考えと俺のそれとは違うだろうなと思う。お嬢様はお優しい方だ。全員が無事に、そう考える。でもよく考えてみてほしい。初代像との戦いは、言うなればこの宝物庫全ての伝説と戦い続けることなのだ。打ち砕くだけが、勝利ではない。


 だから……。


『お嬢様、俺が奴を抑え続けます。吸い続け、無力化し続け、縛り付けましょう。その間にお嬢様は上に戻り、封印を行ってください』


「トライ、何を……」


『俺たちの勝利条件は邪魔されずに封印し直すこと。俺は意思がありますが所詮道具なのです。道具は使い手のためにある。それだけの……ことです!』


 叫びながら、初代像の胸元へと一気に伸びていく。咄嗟に槍斧を間に挟んだようだがちょうどいい。形を変え、刃壊しのようにとげを絡ませ、相手の槍斧をがっちりと捕まえた。その隙に別に伸ばしたトゲで落ちていた穂先を拾い……自分の物にした。緑軽銀はそれが出来る特殊な金属だ。俺という宿る意思があれば。


『これで量は逆転だなあ! さらーに! 貰うぜ!』


 ついに斧部分の緑軽銀へも浸食を開始する。相手の武器には俺みたいなのは宿っていない。抵抗するのは持ち手である初代像。状況的に初代像は自身以外への干渉をあまり得意としていないように見える。


「そんなことをしたら!」


『お嬢様、さよならです。そのままじっとしててくださいよっ』


 俺の叫びに慌てて手元を見るお嬢様だけど少し、遅い。増えた分の緑軽銀で、がっちりと石突側も変化させ、あたかもお嬢様を捕まえるようにしてからこちらも一気に伸びて階段を上がっていく。初代像を抑えつつ、お嬢様を地上へと送り出す……大変だがやりがいはある。


 ─こうまで形を変えて……心が持たぬぞ。元は人であろう


『男には頑張らないといけない時があるってもんよっ! それに、お嬢様なら俺がどんな姿でもきっと大丈夫。そう、例え喋られなくても』


 ─それほどに大事か。道を間違えるかもしれない人間が


『ああ、当然だ! それがあの日、あの子と約束したことだ!』


 奪い取った分を自らの物とし、初代像の手足を穂先として生み出したトゲで貫き壁に固定する。こちらをどうにかしようとする力も無理やり吸収し返し、全身を固定した。これで、時間は稼げる。後はお嬢様が上で封印作業をするのみ。ここにきて、また地下に戻ってくることもないだろう。そのあたりはやるべきことをやる、そう決断できる人だと俺は信じてるからだ。


『こちとらもう何百年も物の中なんだ。それが少しぐらい続いたところで問題ない。初代さんよう、つきあってもらうぜ? 時間の果てまで』


 ─愚かな


『へへっ、そんなことを言ったってこの拘束はほどけないぜ? 俺の全力だっ!』


 ぐぐっと動こうとした手のひらをさらに貫いて固定。全身ハリネズミみたいになってもまだ動く。さすがというべきか、恐るべしというべきか。いずれにしてももうすぐお嬢様も出口。扉から外に出して……よし!


 素早く戻り、中に関抜きのように形を変えて扉を閉めた。これで外からは開けられない。俺が抑えている間に、封印を行うしかないのだ。頼みますよ、お嬢様。


 ─まったく、愚かだ。あの娘がこの勝利を認めるとでも? 誰かに任せた勝利を良しとするとでも?


『何が言いたい……えっ』


 瞬間、俺はお嬢様の気配を感じた。咄嗟に視線を後ろに向けるが誰もいない。だというのにあちこちからお嬢様の気配を感じる。


 ─宝物庫は生きている。この国の何よりの宝物は、この宝物庫そのものよ。肯定したであろう、これらを扱える者がいると


『え、ちょ。ということはこの感じ……まさかっ!』


 ─そのまさかのようだな。楽しかったぞ、異界の魂よ。これからも、どうか頼む


 何をそんな愁傷な、最後だからってか?と思った時、全身を、部屋全体を電撃が襲った。馴染みのある、アレストお嬢様の放った電撃だった。宝物庫を自身の得物とみなし……宝物庫、特にこの地下部分にだけ電撃を放ったのだろう。


 さすがの俺も直撃を受けてはただでは済まない。お嬢様を気絶させたときのように、俺自身の魔力も混じった電撃は容易に俺に打撃を与えたのだ。あまりの衝撃に薄れゆく意識。その時、誰かに怒られたような気がした。


 それは、何を勝手なことを、としかりつけるお嬢様のようだった。



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