SO-084「果たすべき役目とお嬢様」
後2話ほど。
戦いは、無言で始まった。何を考えているのか、最初の奇襲めいた一撃の後、初代の彫像は階段のそばで待機するのみ。それが不気味でありながらも、どこか納得している自分がいた。
お嬢様にとってもそれは同じなのか、何故とも問いただすことなく手加減も遠慮もなしに俺を初代像に叩きこんだ。金属同士がぶつかり合う音が室内に大きく響く。いつの間にか相手の手には長い棒が握られている。
「ふっ!」
話し合いは無意味、そう感じているがそれは正解だろう。とても喋れるようには見えない。それどころかこうやって動けること自体が驚きだ。どう考えても相手は昔々に作られた物。100年やそこらじゃ足りないぐらい前だってこともあり得る。
とはいえ、お嬢様を相手にしてほぼその場を動かず対応するというのは無理難題だったのだと思う。徐々に防御の割合が増え、ついに防御の隙間を縫うようにして変形した俺が突き入れられる。鈍い手ごたえ、人間で言えば右肩の当たりに力強く突き入れた俺は確かに相手をえぐっていた。石とも泥とも違う、不思議な感触だった。
『!? 逃げる!?』
じりじりと、怪我をかばうようにして初代像は階段を後退していった。俺もまともに記憶になく、さすまたになった時ですら話や文献ぐらいしか聞いたことの無いブリザイア初代、彼は常に前線にいたという。生涯を戦いの中に置き、危険を承知で普段から名乗っていたという。それはきっと売名というよりは……。
「隙がありませんわね……上でのあれはわざとですの?」
『そもそも、どうやって動いてるんだ? 魔力? それにしては……』
仮に、そう仮にだ。長い間ずっと休眠状態だとかで眠っていたとしてだ。恐らく目覚めた理由は別にある。お嬢様たちとこの地下にやってきた、というのはあくまでその次に過ぎない。なぜなら、この場所に扉があることは偶然知ったのだ……偶然、か。
(もしも俺たちも把握していない秘密の通路、あるいは見ていない間にそこを通る人がいたならば? 宝物庫の中に入ることは、出来る)
膨らみかけた仮説は、今考えることではない気がした。今は、段々と間合いを取ったまま降りていく初代像のことを優先すべきだった。こうして少し暗い場所で見るととても造り物には見えない。それでも生きているはずのない相手だ。中に、いたのだから。
再びの地下。そこは相変わらず何とも言えない雰囲気と、宝物庫へと力を供給するための……様子がおかしい。壁際の宝珠たちは相変わらずだが、展示場のようになっていた小さな彫像たちにわずかな光が灯っている。
「……これは」
─最初は、ただ魔と戦うだけであった─
(喋った!? いや、少し違う……直接!?)
─人は誰しもが欲望を持つ。それは命を賭けた魔との戦いの最中でも同じ。誰しもが崇高な使命に生きれるわけではない─
誰かがしゃべっているのかと思えば、どうも空間中に響いているようだった。直接頭に響くかのような不気味な声が合図となったように展示物の一部が光を放つ。それは人間と魔物との戦い。この大きさでもわかるほどに人間側も複数の陣営が協力して戦っているのが見て取れる。……が、魔物側が減るといつしか人間同士が向き合うようになっていった。
すぐにわかる。人間同士の争いだと。領土や宝物、あるいはただの感情かもしれない。次は自分が襲われるかもしれない、と。気が付けば初代像は地下の中央に進んでいた。そこにあったはずの柱が無く、あたかも自分がそこにいたのだと説明するかのように立ち止まっていたのだ。
「歴史の勉強をしに来たわけではありませんわ」
─ならばこそ聞くがいい。魂を引き継ぐ者よ─
そのつぶやきと共に、様々な時代の話が飛び込んでくる。魔物との戦いは長く続いた、そして人同士の戦いも。戦いは考えうる中でも最悪に近い物になっていく。まだ魔物を追い出し切れたわけでもないのに人同士が争い、そこを魔物に襲撃されるという乱戦が始まった。
人は考える。どうにかして自分たちが勝つことを。そうして生み出される様々な物。魔法であり、武具であり、そして……禁呪や伝説に残る武具たち。それを扱う英雄と呼べそうな人間たちもだ。
それら強すぎる力は、世界が受け止めきれなかった。いくつもの国が滅び、いくつもの魔物が消え去った。そうして残ったのは、ブリザイアを始めとするいくつかの国と人間のみだった。このあたりは微妙に記憶がある。確か俺がさすまたになったのも確か……。
─私は考えた。全てを壊すべきかと。だが、無くなれば忘れ、いつか人は復活させるだろうと考えた。であるならば、こうして残し、その危険性を伝えるべきと考えた。同時に、いざとなれば扱える血も残すべきだと─
「お待ちなさい、いえ……それはつまり、私を筆頭に国中を探せばこれらを扱える人材がいると?」
こくりと、頷いた気がした。それはとても、とても怖いことだ。こんな1つで国を亡ぼせそうなブツをどうにかできる人間がお嬢様以外にもいると。魔女の言っていたように、国中を探せば宝物庫に入れる人間はきっといる、そういうことだ。
─この先は自由だ。力を持って、力とは恐ろしい物だと示すも、目を背けるもお前次第─
瞬間、再びの金属音。お嬢様の構えた俺に、初代像の振るう武器がぶつかった音だ。すぐそばに初代像のまさに造り物の顔がある。そこには感情はない。が、王とはこうあるべきものなのかもしれないと思ったりもする。個を殺し、国を活かすために。
「なるほど。全ては勝ってから、ですのね」
はじけるように間合いを取る両者。いつしか壁際の灯りも光量を増し、周囲が明るくなっていく。戦うには少し狭いかもしれないが、十分と言える広さがあった。足元も硬すぎず柔らかすぎず。体調も見る限り問題ない。全力の、戦いだ。
「トライ、結局私の手の中に残るのは貴方だけかもしれませんわ。そうなったら、無様な物ですわね」
『お嬢様。顔をお上げください。貴女がいて、俺がいる。ならば負けません』
お嬢様の気持ちを察し、そう言い切る。彼女はここにある宝物を外に出すつもりは全くない。それどころか、出来るならば無力化して封印しておきたいと考えている。強すぎる力は、時にひどく魅力的に誰かを誘う。身の破滅が待っているとしても、誘われてしまえばそれも気が付かないのが人間だからだ。
「私の身は国の、王のため、何よりも王の愛する民のために。無敵無敗、プラクティス家の名の元に。例えどれだけの汚名を背負おうとも、役目は果たして見せましょう。伝説は今日ここで、途切れます!」
俺とお嬢様、2人きりの戦いが始まる。




