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SO-083「過去に誘われ」

後数話で終わりとなります。


(マズイマズイマズイ!)


 必死な叫びも今はどうにも届いている気がしない。真夜中に起き出したアレストお嬢様はクロエを呼ぶこともなく、一人で着替え、一人で部屋を出ようとしていた。慌てて自分を伸ばして腕に持っていくと無意識にかつかみ、そのまま言葉を発せずに部屋を出ていく。


 普段ならロイアと少しの会話をしてから出ていくはず……と言っても夕方にだ。こんな真夜中に出ていくなんてことはない。その上、意識が無いように見えるのに気配も消した状態で今のお嬢様の動きに気が付けるのは王国でも5人もいないだろう。それぐらいの、状況だ。


『お嬢様! お嬢様! くそ、届いてない。何だ、何が誘ってる!?』


 必死に叫び、震えるも届かない。止めるだけならばとげをひたすら伸ばし、屋敷を破壊するかのように暴れていけば誰かしらが起きてくるだろうけどそうなったときに今のお嬢様が何をするかわからないのが怖い。


 それに、原因をある程度はっきりさせないとまた同じことが起きるかもしれない。そんな心配をよそに、歩き続けるお嬢様へとどこからか伸びてくる細い細い金色の糸。眩しさを感じる時もあれば、危うい黒さを感じることもあるその力の糸が伸びる先は……王城。


『あの時、何かが起きていたのか?』


 ゆっくりと、淑女が通りを歩くようにお行儀よく、なんて様子で廊下を歩き、階段を降り……静かにお嬢様は屋敷を出る。その手に俺を握ったまま。ぼんやりとした様子を除けば、仮に兵士と出会ったとしても宝物庫のお役目に顔を出したと思うだろう。


 幸いにもというべきか、不幸にもというべきか門番以外の兵士には出会うことなく、その兵士達も一見するといつものように静かな表情のまま歩くお嬢様に頭を下げるだけ。おかしな様子に気が付いて止める、なんてこともしない。


 俺にだけ聞こえるかのような耳鳴りがずっとしている。冷静に考えるとさすまたな俺が耳鳴りというのはおかしいのだけど、そうとしか言いようがない。体全体が震えるような何か、というのは一番近いだろうか。


 そして、お嬢様が歩いていく先はやはりというべきか、宝物庫だった。


「アレスト様? 今晩は自分の番……ん?」


 お役目のため、宝物庫の前で立ち番をしていたホルダーがこちらに気が付き、疑問の声を上げ……お嬢様はそれに返事をすることなくそのまま宝物庫の扉の前まで来る。俺はここで止まることを願っていた。生きていると言われる宝物庫が、今の状況を良しとしないことを……が、その願いはかなわない。


 いつも通りに開く扉は、宝物庫が今のお嬢様の異常性に気が付けないか、気にしていないことを示している。固まっているホルダーを置いてぼりにするように中に入るお嬢様。ここまで来たら原因ははっきりしている。地下の何かがお嬢様とある種の共鳴を起こしているのだ。


「トライ、止めるべきなのか?」


『ああ。だけど俺が止める!』


 屋敷や道中でそうしなかったのは問題が解決しないだろうことと、さすがに街中で倒れてもらう訳にはいかないからだった。だけどここならホルダーもいるし、城にこもっている魔女たちもいる。という訳で手早くとげを伸ばしてお嬢様の首あたりに魔力の衝撃を通した。


「っ!」


 あっさりと、お嬢様は倒れる。それもそのはずで、今の攻撃はお嬢様自身の魔力が俺を伝って発動する攻撃だからだ。防御も何もあったものじゃあ、ない。そのまま倒れたお嬢様の手の中で、駆け寄ってくるホルダーへ向けてとげを動かして見せる。


「板書がいるんだな? よし……地下の宝物が強者を求めている……?」


 ホルダーに異常を伝えることが出来たのは良いが、これからどうするか。理想は魔女たちに何らかのポーションを作ってもらうことだが下手に伝えるとお嬢様たちの立場が危うくなる。出来れば昼間に何事もなかったように向かいたい。


 と、念のためにと宝物庫の隠し部屋の1つに詰め込んでいるのを思い出し、そこからホルダーに持ってきてもらう。毒なんかを解除するポーションだが、気付けにもなるのがあったはずだ。


 その後、幸いにもそのポーションによりお嬢様に伸びていた妙な糸は一時的に消えるのを感じた。だが、明日以降はまた伸びてくる、そんな直感がある。


「ホルダー、トライ、迷惑をかけましたわ」


「いえ、それだけの物ということでしょう」


『そうですね。思えば最初に降りた時に2人とも何もなかったのが不思議なぐらいです』


 翌朝、朝早くから諸々の調合や、地下室の封印のために動いている魔女たちのところへと顔を出したお嬢様は、すぐさま1本のポーションを飲まされた。腕のいい魔女たちには異常具合が簡単にわかったらしい。呪いの一種、そう言い切られた。


「アンタぐらい鍛え上げつつ覚醒具合もいいのはめったにいないからねえ。世が世ならイケニエになってたかもしれないよ」


「覚醒? それは、宝物庫に入れるというのが何か関係しているんですの?」


 思わずの問いかけに、魔女の1人は深々と頷く。続けて語られるのは聞いてみれば納得の話だった。簡単に言うと、宝物庫に入れるのは何も王族やプラクティス家の血筋だからというだけでなく、中身を扱うことが出来る素質がありそうかどうかを見ているということだった。


「あくまで調べた限り、だけどねえ。何らかの事故でどちらかの、この場合プラクティス家の血が途絶えたら後は王族しか入れないし、守れない。そんな仕組みは欠陥だらけだと思わないかい? そうならないよう、代々色々と受け継がれてはいるんだろうけど、それだけじゃあ、足りない。あんたには衝撃的かもしれないけど、世間を探せば入れる子は1人や2人は転がってるはずだよ」


 そんな衝撃的な話を聞きながら、俺もお嬢様も納得いく話に頷くしかなかった。結果、気分的には上々と言い難いが、やることはやらないといけない。今日は地下室の封印の最初の1回目なのだ。


 あれだけの力の場所を封印するのに一回では終わらない。何度かの作業を経て、完全に封印される。今日はその最初の作業ということで王様たちも立ち会う予定だった。仮にも国の宝物庫だ、ちゃんと見届けるのが義務だと言われては反論しにくい。


「こちらへ。安全のため、少し下がっていていただけますか?」


「そうしよう。邪魔するわけにはいかないからな」


 咄嗟に外に飛び出せるようにと、王様たちは入り口に近い位置で立ち止まり、視線の先でお嬢様とホルダー、その手の中の俺という状況で地下室のある部分の扉の前に立っている。


 いざ、とお嬢様とホルダーが扉の左右に手を賭けた瞬間、嫌な予感に全身を襲われた俺はわずかに開いた部分に己を差し込み、とげを広く展開する。まさかそんなことをするとは思っていなかった2人は手を止めず、扉が開ききり……なぜか入ってすぐの場所に立っていた謎の姿の手から魔力光が飛び出した。


「お下がりください!」


 すぐに異常さに気が付いたお嬢様が俺を手に、謎の相手と相対する。すぐ後ろにはホルダーがカバーに入る姿勢だ。2人と、入り口付近からの皆の視線を浴びながらゆらりと部屋の奥へと動いたのは……。


「あの姿は……初代様!?」


 ブリザイア王の言葉が全てを表していた。明らかに作り物、人形とわかる像が半身を暗がりに沈め、半身は入り口からの光に照らされるという状況で階段を守るように立っていた。


「なるほど……無かったことにされては、忘れられては困る……」


 一度つながったためか、お嬢様はすぐにその行動の理由を当てて見せる。喋らない相手に正解も間違いも無いが、恐らく正解だろう。


「ホルダー、私が戻らなければそのまま封印を」


「それは……わかりました」


 握られた手の力に、俺も軽く震えることで応える。どこまでも、ついていくと。相手の武器は刃物。こちらはさすまた。だが、お嬢様の手の中にあって最強の武器は俺という護身具であるさすまただと、証明して見せる!


 例え、喋られなくても、貫くことが出来なくても守れるものがある!



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