SO-082「見えない火種とお嬢様・後」
「これは残してこちらは……特に呪いもありませんわね」
さすがに王族のみんなを片付け同然のこの場に借りるわけにもいかず、結局宝物庫の中ではお嬢様とホルダー2人だけが動いている。俺は念のために中央で例の地下室への入り口がある場所を監視中だ。
今、2人が行っているのは単純に高価な装飾品と、そうではない危険もあるブツを仕分ける作業だ。これにより、宝物庫には宝物とは分類されるが、表には出しにくい曰く付きであったり、危険な物だけが残ることになる。
では、分けられた安全な方はどうかというと……。
「もう外観は出来てますのね……」
「随分贅沢な建築ですからね」
選ばれた兵士達によって順次運ばれていく装飾品の入った木箱達。それを見送りながら見つめる先には、既に屋根が出来上がってるのが見える目新しい建物。あちこちにクロエたちお手製の探知機を仕込んであるから仮に誰かが常駐していなくても侵入者がいれば警報が鳴る仕組みらしい。
ちゃんと手順を踏めば見学可能な、展示場所となるその建物を作ることを決めたきっかけは、誰であろうザイヤだった。曰く、いざとなったら暴れてでも持ちだしを防ぐべき物と、そうでない物を同じ場所に置いておくのが問題ではないか、とのことだった。
(実際には少しでもお嬢様の負担が減ればいいと思ってとこの前言ってたな)
普段の空気を読んでいないような言動や、こちらを気にしているのも、どちらかというと尊敬の気持ちがひねくれてしまった物の様だった。最近では男友達もその数を減らしているようでもある。
ともあれ、ジャスタ卿経由で上がってきたそのザイヤの案は賛同を集めた。もちろん単純にそれが素晴らしいと思われたわけではないと思う。例えば、お嬢様やプラクティス家に守り手としての役目が集中することを危惧する派閥もあるのだ。考え方としては間違っていないところが歯がゆいところだ。
『思ったより兵士の手が空いている、そういうことじゃないですか?』
「なるほど……確かに……」
「けが人も少なく、物資もあまり減らず……それでも人は集めてしまいましたものね」
念のためにと王都近郊には集められた兵士達がまだ待機している。王命があれば、即座に再度北へと進軍できるように準備は整えられたままだ。となればその集団はただの金食い虫でもあり、何かやることがあるならそのほうがまだマシというところだろうか。その結果、しばらくかかるだろうと思われた新規の宝物庫……財宝室とでもいうべき建物はかなりの速さで出来上がったのだ。
さっそく今日から運び出しと移動が行われ、あちらはあちらで兵士達が主導で護衛にあたることになる。もちろん、国から国へと譲渡された装飾品などは盗まれては困るのだが、呪いの武具や、伝説級の道具らが紛失となるよりはるかにマシである。
「あちらが気になりますか」
「気にならないと言えばうそになってしまいますわね。肩の荷が少し降りたというべきなのでしょうけれども」
真面目な表情のお嬢様であるが、俺はそこに隠された気持ちを感じ取っている。というのも、保管場所が増えたことで、中間に浮いてしまう物が生じるのだ。それは時折処分、換金している軽い呪いのかかった装飾品だ。お嬢様にとっては大事な金策の1つなのだが、それがこの先どうなるかは不透明だ。
「守るだけでは、野菜が育たないのも道理ですわね」
「は?」
なんでもありませんわと答えるお嬢様の顔にはわずかな微笑みが浮かんでいる。悩みはあるけれど、複雑だったお役目が少しばかりすっきりわかりやすくなったのも事実だからかもしれない。
今日の分の運び出しを見送り、2人して向かう先は魔女たちの集まっている区画。お嬢様には慣れ親しんだ香りであるが、不慣れな人には気になるであろう薬草類の香りが恐らく漂っているだろう。俺が匂いを感じられないのが良い事なのか悪い事なのか……感じられたら辛い仕事もあるから、今のままの方が良いかな?ってなんだか悲しくなってきたな。
「来たね。研究は進んでるよ」
「お邪魔いたしますわね」
魔女、と一口に言っても老いも若きもいる。とはいえ、どちらかというと中間がいないのが特徴だ。背中の曲がり、いかにもな老婆か、どこにでも良そうな町娘、あるいは少女……そのどちらかだった。途中の世代が少ないのは理由があるのだがあまり面白い話ではない。
「あれは面白いね。結果そのものは不快極まりないけど」
「昔の魔女の考えがわからないわ」
口々に言うのは、北国にあったという謎の宝珠、それに関係する話だ。国の秘密……と俺は思っていたのだが王曰く、下手に隠す方が問題になりかねない。危険すぎるからこそ、手を出さないようにしっかりと周知する必要があるとのことだった。賛否あると思うが、今回は成功したと言えるだろう。
国中は北の惨劇に怒り、悲しみ……そしてそんな術が存在していたことに恐怖した。一部の悪党はそれを狙おうとするだろうが、そこは守り通してしまえばいい。今現在、存在するのはここにあるものだけなのだ。
ともあれ、女三人集まればという通りに非常に会話が多く、まとまりがない。それでいていつの間にか色々進んでいるのだから頼もしいやら恐ろしいやら……。
「お、トライは今日も輝いてるね。ちょっとだけ削っていい?」
『やめてくれえええ!!』
お嬢様が他の魔女と話している隙にやすりを手に近寄ってくる魔女に思わず叫びながら震えてしまうなんて一幕もあったが、おおむね順調だった。
結論から言えば、やはり一度魔物のようになってしまった存在を戻すのは難しそうということだった。簡単に言えば半分が置き換わってしまい、戻そうとするとそこで別れて死体が2つ出来上がるだけだという。
問題はもっと複雑で、分けられるような状態ではないらしいこともわかってくる。
「生き物と魔の融合……」
「あってほしくない手法ではあるがね。自分が子供の頃、師匠に聞いたことがあるよ。かつての大戦では、そういった国があり、そして滅びたと。当然だよね、自分が次にそうなるかもしれないなんていう国を背に戦えるわけがない。周囲から攻め入られ、滅んだそうだよ」
部屋に重苦しい空気が満ちる。これだけ魔女が集まっても、助ける方法が見つからないというのは悔しい物でもある。多くの病や呪いは、誰かしらが対処できるというのにだ。
生き物と魔の融合か……それは言い換えれば、他者に何かを宿らせるということだ。例えばそう、物に命を……いや、まさかな。
「なかなかすっきりとはいきませんわね」
「なあに暗い顔してるのさ。人が生み出したのなら、人がなんとかできる、そう信じて魔女は過去を引き継ぐんだ。アンタの役目だってそうだろう?」
そんな指摘に、はっとなって顔を上げるお嬢様に魔女たちはいい笑顔を向けて笑い出す。じっと入り口で待機していたホルダーもそれに誘われて笑うぐらい、彼女らは陽気に今日を生きている。
「みんな、アンタに感謝してるのさ。どちらかと言えば日陰者だった私らを必要だからと呼び出してくれた。それだけでも救われた気持ちになるのさ」
これからもどうぞよろしく。そんな握手が交わされ、日が暮れるまで王城の一角に魔女たちの声が響き渡るのだった。




