SO-080「秘密の空間とお嬢様」
大陸の中央に位置する大国、ブリザイア。その王城の一角にはかつての戦争時より偉大なる魔法使いたちによって作られたという宝物庫がある。宝物庫全体が再現不可能な素材で出来ており、仮に城が吹き飛んでも宝物庫だけは残る、そう噂されるものだ。
事実、俺の記憶にある限りでは宝物庫自体は後から広い空間に作られたのだ。言うなれば……。
「つまり、厄介な宝物を封印できる箱……ですか」
「ええ、私も目録にある分と、調べたぐらいしか把握できていませんの。このことは知りませんでしたわ」
明り取りの窓から差し込む日光が照らす光景はどこの美術館だと思うような光景である。きらびやかな装飾品や、武具の数々。中には何に使うかよくわからない物も転がっていたりする。半分近くは本当にただの装飾品や当人曰く、芸術作品である。
新しい宝物が運び込まれる度に、配置を考えなおしたり、あるいはより価値の高い物は残してそうでない物は別の場所に展示、保管するといったこともしているわけだが……金品ってのはいつの時代もあまり変わらないな。
「王が戻られるなり、宝物庫の調査をと命じられたのはそのせいですか」
立ち並ぶ武具たちを、どこか苦々しい表情で見つめるホルダー。お嬢様自身も、そして俺も表には出さないが近い感情も無いわけじゃあ、ない。いくつかは出来れば触れたくない厄介な呪いのような力を持った物もあったりするし、本当は王族が入るのはどうかと思う場所でもあるのだ。かといって別の場所に保管するにはいざという時に不安が残る。だからこその宝物庫であるのだ。
「今見えている中にあるのか、ほとんどが人間用ですもの……まず問題はないと思いますわ。気にするべきはそうでない物」
中身を全部どかせばパーティーでも余裕で開けそうな広さの宝物庫。そんな中にあって、中央にある箱と呼ぶにも大きな部分がある。吹き抜けの大きな空間の中にさらに建物があると思えばいいだろう。最初は展示するためのただの壁代わりと思っていたのだが……そこに扉があることがわかった。何故今さらわかったのか、それ自体は謎のまま。
当然、この中はお嬢様も見たことがない。俺も……確か1度か2度は同じような物を見たような気がするのだがかなり昔のこと過ぎてはっきりしない。一つ言えるのは、この中身はお金に交換できるような部類の物ではないだろうということだ。もちろん普通にすぐそこにあるあれこれも、売りに出せるものではないということ自体は同じだが、性質が違うのだ……恐らく、だがここは宝物庫の中の宝物庫。
「決して素手で触らないように。防御もお腹の底から気合をたっぷりですわよ」
「は、はいっ」
最悪の場合を考えると、中に入るのはお嬢様だけのほうがもしかしたらいいのかもしれない。この箱の中には、それだけの物がある予感がするからだ。厳重なカギを開け、重みのある扉を開くと……なぜかさすまたの俺すら清浄な、と感じる空気が流れて来た。
それは生身のお嬢様たちであればもっと感じたことだろう。その原因は、視線の先にある壁近くの台座、そしてそれに乗っている宝玉と呼ぶべき丸い球体だった。しっかりと台座に固定され、やや暗がりにありながらもほんのりと光り、何かを吸い上げては吐き出しているように見える。壁がその光に照らされる様はとても不思議だ。
中からもかけられる鍵をしっかりとかけ、灯りは自分たちの持ち込みと、不思議と光る球体の物だけになった。
『これ、むかーしむかしに作られた奴ですよ。人間の住めないような場所を浄化する奴です。でもこんな大きさの物……記憶にないです。下に何か……』
半ば呆然と立ち止まるお嬢様たちに向け、カリカリと板書してみせるとようやく2人も動き出す。ゆっくりと台座に近づき、周囲を調べ……台座の下側にそれを見つけた。階段だった。
持ってきた灯りを手に、こうなったらと降り始める決意をしたらしい2人。そんな2人に対し、俺はせめて自分を先にと進言し、さすまたのとげ部分に灯りを1つぶら下げ、長く伸びていく。
(今のところは変な物はなし……と)
合図として決めた振動回数通りに震え、そのまま階段を下りていく。その間考えてみると、宝物庫というかお城自体は確かに外よりもやや高台にある。この場所も外から考えるとまだ地下というには浅いと言えるのかもしれない。
外からの侵入を防ぐべく、地下にも結界のような物があるのは知っていたが、それはもしかしたら……この先への侵入を防ぐための物だったのかもしれない。
そして少し歩いた先に、床が見えた。
「到着ですの? 嫌な気配は……奥の方に何か……手前には何も感じませんわね。階段からはあの球体による空気が流れてきているようですし……」
「てっきり瘴気のようなものでも充満しているかと……っ!」
視界に、人影が混ざった。すぐに2人と俺も戦闘の姿勢を取り……その必要がないことに気が付いた。人影は、人形だ。無数の彫り物による像たちだったのだ。お約束としてはこれらは動き出すわけだが、見る限りではその様子はない。柱の少ない地下空間に立ち並び、どこからかの光に照らされている。
「これは……記録……ですわね。過去に何があったか、伝えるためのものではないかしら」
「確かに……」
人影に見えたのは恐らくはスプリガンのような巨人族を模した物。それ以外は小さく、まさに人形だった。それらが何かの光景を切り取ったかのような物となり、臨場感たっぷりの作品のようになっている。その中には、俺の記憶にあるような人と魔物、生き残りを賭けた大きな戦いであろう物もあった。
そんな中、特定の場所には飾られている物もあるのがわかる。
「宝石……いえ、これは……スプリガンのアレですわね。この大きさ、とんでもないですわ」
どうしてここにあることを知っていたのか、あるいは感じ取ったのか。戦ったことのあるスプリガンの体に埋め込まれている物とは明らかに大きさも輝きも違うソレは全くのカンだが、彼らの王になるような存在からの物だと思った。
安全を考えて近づかず、離れてみるだけにしているがそれでもその異様さは伝わってくる。他にもと探索していくと、やはり色々と出て来た。悪い物だけでなく、力を感じる聖なる武器……そう思わせる物も。全身緑軽銀で出来た長剣なんてのもあった。それらに共通しているのは、大きな力。そしてその背後には階段のある場所で見たような球体。ほのかに光り、何かを……。
「アレスト様、気のせいであればいいのですが……吸われていませんか?」
「そういうことですの。戻りますわよ。ここは、あれらから力を吸い、浄化し……宝物庫の維持にも使っているのですわ」
調べれば調べるほど伝説が真実になるだろう空間を前に、お嬢様は撤退を決める。明らかになりすぎない方が良い場合も、世の中にはあるのだ。
階段を昇る中、お嬢様とホルダーの表情は硬い。というのも、新たな戦争の火種になりかねないと思ったからだ。最悪、スプリガンのあれはどうにかするにしても、他への影響が全く読めない。
「守るって、やはり大変なのですね」
「私も今日、それを痛感しましたわ」
ただただ宝物庫を守り、侵入者を捕えていればいいはずの役目が、いつしか歴史をも守る必要が出てきている状況に戸惑うお嬢様たち。その戸惑いを他所に、ブリザイアを中心とした熱い平和は思ったよりも近くに来ている、そう感じるのだった。




