SO-063「再会は騒動の芽吹き・後」
その場は一見、真面目で厳かな雰囲気だった。王と、南国の使者であり、その南国の次期王の妻であるヒルダ様との会談。運んできた物品の目録と共に挨拶が交わされ、滞りなく話は進んでいく。それだけを見れば、何ら問題の無い他国の使者とのやり取りだ。
ただ1つ、違いを言うのならば……王の顔が少々、苦虫をかみつぶしたような物になっていることだろうか? 王自身も、まさかというところなのだろう。
「何故だ」
「あら、来てはいけませんでしたか」
大臣たちが退室した謁見の間で、残されたのはお嬢様と俺、そしてヒルダ様。その他には世話をする数名の侍女と護衛の近衛ぐらいな物だった。彼らや彼女らは基本的に何も見ていないし、聞いていない、そういう役目だから2人とも気にした様子はなく、父親と娘に戻ったかのような雰囲気になっていた。
「そうは言わん。だがお前は娘ではなく隣国の姫なのだ。気軽に出歩いて良い身分ではあるまい」
「まあ、そうですわね。ですけど、それだけの状況なのです」
本来であれば、もう少し普通の身分の使者が先にやってきて、会談する相手も相応の相手、というのが普通だ。であるのに今回はそのあたりをすっとばしていきなり一番上、という状況だ。王も戸惑いを感じる。
「そこは嘘でも下の顔が見たかったとでも言えばよかろうに」
「勿論、それもありますけれど……」
静かに2人の会話を聞いているお嬢様と俺。元々ヒルダ様は王族の中でも切れ者、というべき性格と頭の良さが特徴の人だ。この国が女帝も大丈夫な仕組みであれば、次代の王はヒルダ様だっただろう。国同士の関係を考え、南国へと嫁ぐことも彼女自身が王に進言したと聞いている。
そんな彼女だからこそ、先に来たのにはそれだけの理由がある、というわけだ。
「そういう星の巡り、とは思いたくありませんが……予想以上に魔物の襲撃は活発になっているのです。今のところは湿地帯からあふれ出る、ということはありませんが、海はかなり厳しい状況です」
「そうか……確かに川や海ではな……」
大陸の中央に位置し、国内を川は流れても海に面していないブリザイア。だからこそ想像するしかないが川の魔物すら厄介なのだ。それ以上に人が動きにくい海となればその厄介具合は川の比ではない。
このあたりは国家機密になりそうな気もするが、ヒルダ様が話せるということはそのぐらいは話しても構わないと判断されているに違いない。情報と引き換えに、表向き以上の支援を希望する……これが今回彼女が先行して来た理由になるんだろう。
「せめて湿地帯は何とか出来ればいいのですが」
「わかった。検討しよう。帰る時には何かしら支援が出来るようにしようではないか」
親馬鹿、とは言うなかれ。仮に南国が荒れてしまえばその余波はブリザイアにも間違いなくやってくる。多少治安が悪くなったり、商人たちの儲けが減るぐらいなら耐えられるかもしれないが国の危機ということになってしまえば大きな問題となる。
それはわかるのだが……ここにお嬢様が残されている。その理由を考えると少々頭の痛い話である。俺には頭がないけれども……さすまただからな!
フリーニア様に会いに行く、と退出していったヒルダ様。そして残されたお嬢様は……あ、ため息。お嬢様にしては珍しいほどの感情表現だ。
「無いわけではありませんけれども……危険かと思いますわ」
「本当に砂漠と化すかどうかはわからんか……」
何が、と言えば宝物庫に仕舞われているお宝の数々の内の1つのことである。基本的に強い力を持つ道具か、宝物として価値があるかどちらかである宝物庫の中身であるが、力ある物品は大体クセが強いことが多い。強くなれる代わりに血を求めて暴走する刃、なんてのは良くある話だ。その中の1つに、確かに湿地帯をどうにか出来そうなものがあるのだ。ただそれは……かつて1つの国を砂で飲み込んだと曰くのある道具なのである。
(使い方の問題の気もするが、上手く止められるとも限らないもんな)
さすがにお嬢様も難色を示すわけである。王もそれ自体はわかっているのか、最終的には問題を分かった上でそれでも使うというのなら貸し出す、というつもりなんだと思う。
「一度お話してまいりますわ」
「ああ、そうしてくれ」
久しぶりにヒルダ様と話したためか、王もなんだか普段見ないような雰囲気をまとっていた。まるで女家族のことはわからないと悩む父親のようだ……その通りなのだからしょうがないか。そのまま廊下を歩きながら、宝物庫……ではなくフリーニア様のいる離れへと向かうようだった。
「よくよく考えると、ヒルダ様に怪我のことをしっかりと伝えてはいないんですわよね……」
『よっぽど大丈夫だと思いますけれど、驚くでしょうねえ……』
妹や弟のことを溺愛とは言わないまでも大事にしていたヒルダ様のことだ。少し怒るぐらいは覚悟しておいた方が良いのかもしれない。そんな風に思いながら離れへと向かうと、やはりというべきか気配が大きく膨らんでいるのを感じる。
「同じ傷を付けるとは言わないでくださいますか」
「あら、先に言われてしまったわ」
いたずらがばれた子供のように、フリーニア様に後ろから抱き付きながら笑うヒルダ様。こういった思い切りのいい豪快な部分が彼女の魅力ではあるれけど、付き合う側としては疲れる気がする。実際、フリーニア様も楽しそうではあるけれど、これが続くと疲れると思う。
「どうにかなるの?」
「今のところは……申し訳ありませんわ」
「そんな、お姉様は悪くありません」
射抜くようなヒルダ様の問いかけに、事実を告げるしかないお嬢様。現状ではこの傷を綺麗にする手段が無いのが現実なのだ。世界中を探せば……あるのかもしれないが。なおも問いかけようとするヒルダ様を制するように、声を珍しく上げるフリーニア様。
その様子にお嬢様とヒルダ様が揃って見つめ合い……そして笑いあった。
「女の傷は悲しいけれど、強くなれたようね」
「はい。皆さんのおかげです」
きっぱりと言い切るにフリーニア様へと、お嬢様も軽く頭を下げる。こちらとしてはなんだかんだ言っても原因の1つではあるので素直には喜びにくいのだが……それをあえて言うことでもない。
「そうだ、ヒルダ姉様。面白いものがあるの、見て」
「何かしら……あら?」
お気に入りのぬいぐるみを紹介するかのようにフリーニア様が取り出したのは見覚えのある機械。他でもない、クロエが最近作ったお化粧に使えそうな道具の1つだ。
例のごとく魔石を燃料に、触れたところを乾燥させるというもので、髪を乾かすのに使え……ああああああ!
『お嬢様、これ、でっかくしたらいけませんかね!?』
「トライ? 急に震えて……疑問、解決……ああ!」
世の中、どこに解決法が転がってるかわからない。そう実感した瞬間だった。




