SO-061「過去の先達とお嬢様・後」
かつての守り手は、今もなお健在だった。どうやってこちらを見ているのかはわからないが、全身からきしむ音を立てつつ襲い掛かってくる。まず狙いは一番大きな武器である両手斧を構える青年。威力を重視したのか、動きにくそうだと判断したのかはわからない。
「うわわっ!?」
「気配が読めないっ」
嘆きの声と、割り込んだお嬢様の手により俺が振るわれて魔法人形の手にするぼろぼろの大剣を弾き飛ばす。かけらが無数に散らばる割に本体は破損してる様子が無いから、この大剣も昔の技術が使われた業物なのかもしれない。
『下手に打ち合うと他の武器じゃ負けるかもしれませんよ』
「トライ以外での斬り合いはやめておいた方が良いかもしれませんわね」
「そもそもお嬢様以外にこれと打ち合うのは大変だよっ」
少女の叫びに、お嬢様の動きがちょこっとだけだけど鈍くなる。俺にはその気持ちがなんとなくだけどわかるぞ。本人にそんなつもりはないんだろうけど、お嬢様は規格外で普通じゃないから、なんて言われてるような物だったからだ。気にしてるというよりは、やっぱりそうなのか?ぐらいなんだろうけれども。
「くそっ、俺ももっと強ければっ!」
「誰にも何かしら役目というのはあるものですわ。追加が来ないか、しっかり見張っててくださいな」
言いながらもお嬢様は魔法人形から視線を外さない。確かに気配を感じない。正確には生き物としての気配を、だが。全身を動かす何かの気配のようなものは感じるのだけど、それと動きがあわないのだ。となれば目で見て、動きそうな向きなんかを察していくしかない。
見た目と違い、俺とお嬢様がこちらで対処すべき相手と認識を改めたのだろうか? 今にも壊れそうな音を立てながらも、魔法人形の虚ろな瞳がこちらを見る。敢えてそうしてるのかはわからないが、人形だとわかる造りは古い記憶を刺激する。顔の部分も明らかに作り物、とわかる四角い感じだしな。
「襲い掛かってくるまでは音が特にありませんでしたわ。きっと攻撃の際と、待機してる時では何かが違うはずですわね」
『確かに、こんな音がしてたらすぐにわかりますもんね』
突然の襲撃と、その見た目、大きさに誰しもが驚いたが冷静に向き合ってみると動きが読みにくい以外には目立った問題はない……少なくとも、今は。いつ壊れてもおかしくなさそうな動きで襲い掛かってくる魔法人形を避け、弾き、自分へと集中させる。お嬢様のやっている動きはこんな感じだ。攻撃の重さも、素材の重量ぐらいしか感じない物だった。
こうなってくると相手を観察する余裕も多少は出てくるというものだ。恐らくは状況的に、この魔法人形の役目は……俺とお嬢様と同じ。つまりは守る物のためにいる、ということだ。だがこの場所は宝物庫や倉庫というより、ただの広場だ。輸送中とは考えにくい。となると……動くものを守っていた……。
そのことに思い当たった時、何かの声が聞こえたような気がした。言葉にならない、ささやきのようなもの。俺が聞こえたということは普通の声ではない……と思う。
『お嬢様! 何か聞こえませんか!』
板書に書く余裕はないため、雰囲気が伝われと強く願いながら呼びかける。感情は伝わるっぽいので何か疑問があるということが上手く伝わってくれると良いのだが。
お嬢様へと呼びかけつつ、いくつもの緑軽銀らしい反応が感じられた理由もなんとなくわかってくる。この魔法人形に限らず、彼らに命令を上書きする存在が……今はいないのだ。だから、与えられた命令を守り続けている。もうその相手はここから動けないというのに。
「そういうことですのっ!? クロエから探知装置を借りてきたほうがよかったですわね……サリナ! 瓦礫の中に感じる物が埋まっているはずですわ!」
「え、は、はいっ! んんーーーー!!! 確かに何かあります!」
咄嗟に呼びかけるのは孤児院出身のなじみの1人。珍しく魔法の才能に長けた少女の冒険者だ。これまでも何度も危機を乗り越えて来たであろう才能が見事にそれを感じて見せた。
迫る魔法人形を力いっぱい弾き、彼らと合流したお嬢様は振り返らずに俺を構え、魔法人形の牽制を続ける。いつ襲い掛かってくるか……そう思いながらも予想通り、魔法人形は今は襲い掛かってこない。そう、彼が守る範囲の少し外だからだ。
「……どういうことです?」
「あの瓦礫の中に、魔法人形の主が眠っているのですわ」
自分を守れ……あまり離れるな。そんな命令だったのだろう。その意味では守り手としての先達、それがこの魔法人形だったのだ。無事に帰るだけなら、この距離を保って探索するか帰ればいい。でもそれは、同じことの繰り返しだ。
「ちゃんと、眠らせてあげようと思いますの」
「「それでこそお嬢様です!」」
ある意味長い付き合いの彼らの声に後押しされ、再びお嬢様は俺を手に駆け出した。今度は俺も相手を捕縛、そして無力化するべく本気である。どこか同情を誘う音を立てて動く魔法人形に容赦なく攻撃を加え、関節を痛めつけ、動きを阻害し……ついに転ばす。強さだけならこの状態の魔法人形の方が先日のサイクロプスの若い奴より強いっぽいのが怖いところである。全力稼働時の魔法人形の便利さ、強さがわかろうというものだ。
『眠るといい。役目は十分果たした』
伝わるとは思えないけれど、中枢が詰まった部分へと俺が覆いかぶさるようにぶつかる。それは俺と魔法人形が直接接しているかのような状態だ。このまま……お嬢様が魔法を放って終わり、そう思ったらつぶやかずにはいられなかった。大きな音を立て、お嬢様の魔法が俺を伝わり魔法人形に注がれる。その瞬間、魔法人形から先に力が抜けたように感じたが……気のせいだろうか。
「さ、お墓を作って、いくつかは回収しましょう」
「お化け……出てこないよね?」
小さな少女のつぶやきには、お嬢様は肩をすくめるだけだった。サリナが感じた気配は緑軽銀などの物だけじゃあないだろうからもしかしたら……もしかするかも?
さすまたが行うには少々不釣り合いながれき撤去の作業の最中、何が出て来てもいいように警戒はしていたが結局……昔眠ってしまった人々の証以外には特に出てこなかった。
「めぼしいお宝は無し、歴史を知るための遺跡はあった……ってことでいいんですよね、お嬢様」
「ええ。探せば少しは出てくると思いますけれど、寝る子を起こすことも無いと思いますわ」
ここから先は国に任せた方が良い、という判断だ。この土地は北国とほど近い場所で、管理を考えるとどうしてもブリザイアは後手に回りそうな距離である。あったものは回収した、ということにしておいたほうが余計な問題は出にくいだろうと思わせた。
少なくとも黒字にはなることに安堵した冒険者が帰り支度を始める中、一人お嬢様は大木の根っこに座りながら街だった場所を貫いて流れる川の流れに視線を向けている。
「トライ、私たちもこのままただただ守るために時間を過ごすのでしょうか。守り手であることは誇らしい事ですけれど、やはり成り手がもっと必要ですわね」
『……俺は、幸せを願ってもいいとは思いますよ』
小さく漏れた本音に、色々な感情をこめて静かに板書する俺であった。




