SO-060「過去の先達とお嬢様・前」
「これは見事な古戦場跡……ですわね」
「建物もある? 昔は町だったのかな?」
うっそうと生い茂る木々、向かう先を求めるように無秩序にねじれながら伸びた幹が荒れた建物らしきものを貫いて天に伸びている。
足元も荒れ放題だけれども、石畳らしさが残っており、ここが昔人間が住んでいたらしいことを教えてくれる。試しに俺で地面をつつくお嬢様。俺が感じた限りではごく普通の石畳である。括り付けられた板書にカリカリとそう報告すると、お嬢様以外の面々が感心したような声を漏らす。
「本当にそれ、意識があって動くんですね」
「何よ、お嬢様を疑ってたの?」
そういうわけじゃないけれど……と困った顔をする男の子にツンツンした様子の少女。彼ら以外にも数名の男女が一緒にいる。彼らは、何度も顔を見たことがある……孤児院出身の冒険者だ。
宝物庫の留守をホルダーに任せ、内々に王から与えられた密命と共にこうして俺たちは僻地に来ている。
「確かこのあたりにはもう1つ国がありましたわね。もう何年どころか何百年でも足りない昔ですけれども」
「星に降られた町、でしたっけ」
そう、目の前に広がるかつての人間の痕跡は滅びた町の物だ。昔々に、滅んだらしい……というか、廃棄したんだ。なぜかというと、覚えてる……前の使い手のいた町だからだ。
(ここは大通り……ってことはあっちが王宮か)
意識を向け、さすまたのとげを数本同じように向けると匂いのような物を感じた。この感じは……やっぱり、まだこの場所にはある。見知らぬ相手に奪われるぐらいなら回収して、国同士の交渉に使うぐらいがいいかもしれない。
「トライ? そう、あちらですの。行きますわよ。トライが何か感じ取ったようですわ」
獣や魔物が出てこないとも限らず、警戒しながら進む俺たちの耳に届くのは時折の風と、動物や鳥の鳴き声、そして……水音。腹の底に響くような音がずっとしていたのだ。その正体がしばらく進んだ俺たちの前に出てくる。
「川……なるほど」
仮に空からこの場所を見たとしたら、森の中を川が貫いているように見えたことだろう。実際には森と同化した町を川が分断している、という状況だった。
この場所は王都からはものすごく離れているという訳ではない。が、街道から外れたここを探索しようなんて思わなかったんだろう。起伏が激しく、住むには苦労する土地だしな。
『この先に王宮があったはずです。今は……水の底ですけれど。思い出しましたよ。そりゃ、あんな塊があるはずです』
お嬢様にだけ見えるようにそう伝え、探索に集中する。今から考えるとかなりの昔、俺は英雄と呼ばれる使い手の手の中にいた。万魔を払う魔槍として。全てを貫き、刺さったが最後力を奪う。何人かの使い手はそれで力に飲まれかけ、俺を手放した。問題なく使えたのは初代と、最後だけ……そしてお嬢様だ。
そんな槍としての使い手の最後の1人のいた国が、確かここだった。確か……星が落ちて来たんだ。俺の記憶から言って、多分隕石の小さいのだったと思う。けれど王都の半分以上は消し飛び、そしてそれがこの先にある湖となったはずだ。
魔法の道具や武具を多く抱えていた国だったから、緑軽銀の在庫、あるいは使った物もそこそこあったように思う。この前増水で流れてきたのは残っていた偶然の結果なんだろう。偶然にしては、出来過ぎだ。まるで過去がよみがえって来たかのようである。
「うへえ、何か出てきそう」
「出て来ても倒せばいいのよ。ね、お嬢様!」
「まあ、そういうことですわね。ホルダーに負担をかけ続けるわけにもいきませんし、サクサク行きますわよ」
今回の探索の目的は、緑軽銀の確保だ。先日の塊という前例を踏まえ、上流に何かあるのかもしれないとは誰しもが考えていたが探すには国土が広大過ぎる。何回か時間をかけて探索するつもりの最初の探索で……当たりっぽいのはどんな運命なのか。
探索当初、それらしいものが見つかるまで一気に上流までさかのぼるというお嬢様の提案に、外での活動に慣れているはずの冒険者である彼らの顔が少しばかり引きつったのを俺は見逃さなかった。
森の中に、建物らしきものとこの川が見つかった時にはみんなほっとした表情になった物だ。川が町中を貫いているというのは俺も予想外だったけれども。
ツタをロープ代わりに昇り、屋根だったであろう場所を足場にとどんどん進んでいく。もう町は多くが緑に沈んでいる。1階に相当する部分は半分は地面の中だ。それだけの時間が経っているのだ。
『こっち……いや、あっちか。なんだか反応が多いな』
「まさかとは思いますけれど、まだいくつもあるということではなくて?」
そうかもしれない。この場所は、かつての戦争の際に人間以外の相手をするために人々が集まった希望の土地なのだ。そんな場所が問答無用で吹き飛んだというのは皮肉と言えるだろう。
なおも進む俺たちの視界に、かつて広場だったのだろうかと思う場所が広がった。地面は緑だが、建物は全くない。周囲は育ち切った巨木が立ち並び、まるで壁のようだ。人も来ず、水にも困らない土地ということで好きなだけ成長したんだろうな。
「うう、なんだか嫌な場所」
「そうか? 一休みできそうだけど」
はっと、気が付いた。少女がつぶやいた言葉は正しい。ここは……決してただ広いだけの場所じゃあ、無い!
「敵襲!」
とっさにそばにいた二人を抱きかかえるようにして大きく飛び上がったお嬢様のいた場所を、上空、きっと木の上にいたであろう何者かが襲った。幸いにもそいつの攻撃は地面を少々えぐっただけで終わった。
なんだかんだとお嬢様の無茶に付き合い、お嬢様を無茶に付き合わせていた間柄。すぐに混乱は収まり、各々の武器を構えてソイツと対峙すことになる。
『魔法人形!? まだ稼働しているのか!』
「全身コケと植物だらけ……ずっと、守っているのですわね。もう、国は滅びたのです。お眠りなさい」
気配を感じさせずに落ちてきたという表現が正しい相手、それはかつての時代に多く作られたという魔力を動力に動く人形だった。大きさは大人2人分ほど。その手にはぼろぼろになった大剣が握られている。
きしむような音を声として、襲い掛かってくる魔法人形と俺たちとの戦いは始まった。




