SO-058「大きくとも人であるがゆえに」
城門の前は人々で埋め尽くされていた。これほどに集まったのは、この前のドラゴン討伐依頼だろう……っていうとなんだかありがたみが薄いかな?
人々の視線の先には、家の柱ほどの大きさで光沢のある……巨大な剣。装飾は少なく、機能を重視していることがすぐにわかる実用的な物だ。あるいはその大きさを含め、威嚇の気持ちも入っているのかもしれない。ただ、これがここにあるということはその効果は十分に発揮されなかったということである。
「アレをどうにかして中に入れると言われなくてよかったですわ……本当に」
騎士が十人がかりで運んでいる大きな剣は当然、長さも相応にある。こうして運んでくることは出来ても、どこかに仕舞うということは難しいものだった。よくもまあ、これが外に出て来た……誰しもがそう思うだろう。俺も、その時のことを思い出すことで改めて驚く。
それはお嬢様が鉱山そばの砦に到着してしばらくしてからのことだった。突然地面から出てきたと思われた巨人族、スプリガン。彼らはブリザイア側の騎士団とぶつかり、山へと逃げていった……とされている。偶然が重なった末にということでたまたま来ていた東国の兵士たちと共同でその対処に当たっていたところにお嬢様は招かれた。ドラゴンスレイヤーの1人としての力を見込まれて、と表向きはされている。
だが、目論見がそうでないことはなんとなくだが俺も、お嬢様もわかっていた。だとしても対処しないということにはならず、不利益にならないように動くのみであった。
「巨人の武器を溶かして再利用してはどうかという話が出ているようだ」
「まあ、あのままではどうしようもありませんものね。それに、私たちが扱うものとはどうも素材からして違いそうですわね」
建物に入りきらず、外に置かれたままの巨人が持っていた武器、鉈のようなものだ。あるいは木々を切り倒すための道具だったのかもしれない。わずかに魔力を感じるし、これを材料にしていけばちょっとした魔法の道具、なんてのも出来上がるかもしれない。
「他国の人間が口を挟むのもどうかとは思うが、一国で対処できる限界があるのではないですかな?」
「道理ではある。が、相手の規模も正確にわからない状態では下手に呼び込めまい。騒ぐだけ騒いで洞穴にこもっていた少数だけでした、では収まらないであろう」
しがらみという奴はどこでも厄介な物だ。特に他の国と一緒に何かを、なんていうのはその極みである。今の状況すら、鉱石の買い付けとそのルート開拓に来ていたという建前が無ければブリザイア側だけで対処に当たっていたことだろう。あるいは、巨人を倒すということが兵士にとっての拍付けとなるからこそというのもある。
『俺の記憶が確かなら、奴らは地上に出て来た種族……つまりは……』
ひとまずは話し合いは解散となり、協力して偵察を出すことを決めるにとどまった。お嬢様に与えられた部屋に戻った後、俺はクロエとお嬢様の前で覚えている限りの巨人の情報を書きだしていく。考える頭があること、独自の言葉でしゃべること、そして……本来は地下に住んでいたであろうこと。
かつて地上を支配しかけたときも、彼らは最初……どこからか出てきたのだ。そう考えると状況は色々と変わってくる。彼らはあの山肌に逃げ込んだのではない……その中にいる同胞と合流した、その可能性が高いのだ。
「なんてこと……座して待つわけにはいきませんわね。少なくとも、脅威であることを内外に示す必要がありますわ」
「私の一族だと……代表の戦士が戦いあってどちらが有力であるかを示したりしましたけど……」
あくまでも可能性、の話であるがお嬢様は俺の話を信じて動くことに決めたようだ。確かにそんなことあるはずがない、と思っているよりは対処しやすいとは思うが……出来れば平和な方がいいよな。
だけど、世の中ってやつはそううまくいかず、翌日さっそく山肌に咆哮が木霊した。鳥が飛び交い、森から獣が逃げ出していくのが砦からでもわかる。慌てて見張り台から見えた先には……自分を主張するかのように森を切り裂き、暴れる巨人の姿があった。
「随分とお怒りの様ですわね。逆に言えば、あの巨人をどうにかしたら時間は稼げそうですわ」
「やれるのかね。空を飛ばない分、ドラゴンよりはマシのようだが」
いつの間にかそばには騎士団長が佇み、同じように遠くを見ている。お嬢様の覗き込んでいるクロエ特製の道具で拡大された先を一緒に見ている姿は男女というよりまさに戦友と言える。彼ならこの道具のことなどを言いふらすようなことをしないだろうという確証もあった。
すぐさま兵士達から選抜された部隊で再び森を進み……隠すつもりのない気配が近づいてきたところで迎撃戦となった。騎士団長はドラゴンよりマシだといったが、この迫力は果たしてどちらが上か、わかったものじゃない。
『けど、でかかろうが小さかろうが弱点は同じ! 行きますよ、お嬢様!』
「ええ、やりますわ」
覚悟を決めた俺たちの前に森から飛び出てきたのはまさに巨体。これまでに出会った相手とは姿が異なり、あちこち……そう、急所になりやすい場所に人間の戦士同様、防具を身に着けていた。こちらの兵士達が矢を放つ先に迷ったのも仕方がないぐらいだ。遠くからではわからなかったが、色合いも肌に似せているという凝りようだ。それだけ、奴らには頭がある。
「足を止めさせろ、放てぇえ!」
騎士団長の号令か、東国の使者の号令か、響く音たちにそれははっきりとわからないまま。それでも無数の矢が、魔法が放たれ巨人に襲い掛かり、その多くが手にした剣らしきものにはじかれる。振り抜かれた勢いで吹く風にも力を感じる。
(こいつ、ちゃんとした武器だ!)
昔を思い出すようなヒリヒリとした気配。俺に肉体があったなら、髪の毛が逆立つような感覚に襲われていたことだろう。だが、今の俺はさすまたであり、お嬢様に振るわれる存在である。
『逆に防具に一発決めちゃってください!』
「隙間ではなく……そういうことですのね!」
戦闘という状況はお嬢様へと俺の意思を伝えやすい何かが生じているのかもしれない。思った通りのことが伝わり、兵士達と一緒に巨人へと肉薄し……今度は飛び上がらず敢えて足元の防具に俺を正面からぶつけた。
金属同士のぶつかる甲高い音。まったく痛手になっていない攻撃にか、巨人の口元がゆがみ……痙攣する。
「もう1つ……おまけですわ!」
周囲には焦げたような匂いが漂う。そう、お嬢様の切り札の1つである電撃の魔法が俺を通してさく裂したのだ。いきなり気絶ということはなかったようだが、ゆらりと巨人が傾き……隙が出来る。
そこへ巨人の体を駆けあがったお嬢様が俺を構え……今度は俺は大きく横に広がり、巨人の首すら捕まえられそうな形状へと変わる。
落雷のような音が再び響き、大よそ対人であればやりすぎなほどの力を込めた一撃が巨人族の戦士であろう相手の意識を刈り取った。
今度は事実上、お嬢様1人による巨人討伐、それが成し遂げられた瞬間だった。
次回からはまた国内に戻ります。




