SO-054「蘇る伝説とお嬢様・後」
言霊、という考えがある。忘れたことも多い元の世界の記憶にそんな話があった気がする。ああ、それにしても俺は若かったのか、年寄りだったのか。この世界に来てから人間では生きていられない年月を過ごしてきたが……と話がそれてしまった。
良いことでも悪い事でも、口にする、あるいは口にし続けることでそれが近づいてくることは意外と世の中、あちこちにあるのだ。これこれこういう人間になりたいと言い続ける人は自然と努力もしていくことになるし、不安がるとそれを呼び込んでしまう……多くは偶然だが、中にはそうとしか思えないほどにピタリとはまる時がある。
「ホルダーは宝物庫に気に入られたようですわね」
「そう……なのでしょうか? そうであれば嬉しいですが、なかなか実感が湧きませんね」
まもなく黄昏時。今日の警護はホルダー1人の予定だ。そのためにやってきた宝物庫、扉の前に立つと自然と、かちゃりと鍵の開いた音がした。王族ではこうはならず、お嬢様が唯一そうなる相手だった。ホルダーは、その特別に入り込むことが出来るようになったのだ。
日々、一人前に早くなって守り手としてしっかり活動したいと口にしていた姿を宝物庫も見ていたのだろうか? もしかしたら……俺のように宝物庫全体には意識があるのかもしれない……なんていうのは考え過ぎか。
「そろそろ周辺諸国にも、守り手が増えたこと、それがホルダーであり若いということが知られる頃ですわ。意味は、わかりますわね?」
「はい。私を若輩と舐めた不届き者がやってくる……」
悔しそうな声だが、このことが逆にチャンスだということもわかっているだろう気持ちがうかがえた。もちろん、対決したならばお嬢様の方が圧倒的ではあるが、それでもホルダーが弱いという意味にはならない。
既に5人、お嬢様のサポートを受けながらであるが捕縛に成功しているのだ。実力は十分にあると見ていいだろう。先日出来上がった俺と同じような姿のさすまたも使いこなしているようである。こっそりクロエも手を加えた魔法の道具なのだが頼らないようにと思い、詳細は伏せてある。
宝物庫に入っていくホルダーと別れ、夜が起きて来た空を見上げながら城を出るお嬢様。俺はその腕の中で、急にそわそわした気分になっていた。一体なんだというのだろうか?
『何かあるかもしれません。気を付けてください』
「警戒? ……特には不審な気配は感じませんわね。でも……ええ、確かに。虫の知らせ……というものでしょうか。まさか、あの子達に何か……」
そんなことを言うと……なんだっけ、忘れてしまったけれど実際に何かが起きるような気がした。結局その晩は、何事もなくゆっくりとした夜を過ごす。一応、いつでも城に駆けつけられるようにしながら……ではあるが。
数日後、あの日の予感は的中してしまう。城に呼び出されたお嬢様、そしてホルダーはそのまま謁見の間まで通されることとなった。ここは他の大臣や有力貴族なども一斉に介する場所だ。あの事件の後、お嬢様が色々とはく奪されたのもこの場所だし、取り戻したのもこの場所だ。
「アレスト様……」
「ただ事ではありませんわね。いいですこと? 例え無理難題を言われてもまずは否定せず受けること」
王様が、王という立場の都合上、それは無理じゃないかと思うようなことでも口にして誰かに役目を与えようとしないといけないことはお嬢様だけでなく、他の連中も大体わかっているはずだ。例外は……今もそわそわした様子な奴らかな。その中には、以前お嬢様に色目を使ったり、お役目に女がいるのはと反対してい奴もいる。
「父上、皆そろったようです」
「うむ……」
(皆? 騎士団長がいないが……いいのだろうか? そういう力の必要な要件ではないのか?)
そんな疑問は、すぐに晴れることになった。重苦しい空気を、力強い声で切り裂く王。その言葉の意味はしばらくの間、聞いた誰もが理解できなかった。
「ご冗談を……」
その言葉を口にしたのは誰だったか。俺も聞こえた名前を思い出すのに必死でわからなかった。なにせ……。
「冗談で言える物ではない。もう一度言おう。遠征に出ていた騎士団長より伝令が届いた。東国との国境付近で巨人族が、スプリガンが目覚めたそうだ。地面に大穴が開き、先兵と思われる相手と遭遇、撃退出来たとのことだ。さらなる本隊は北に向かい、未開拓地に分け入ったという。そこに住み着くつもりであろうな」
ドラゴンがおとぎ話で有名であれば、こちらもまた負けずと有名な異形だ。かつての地上の覇者、と記される巨人族。一説によれば、緑軽銀は彼らが開発したとも言われる、頭のいい種族だ。その体から来る力と、頭の良さで大陸の多くを支配し、他の生き物を支配していたという。
生き物は圧迫を受けると最終的にはつぶれるか反撃をするかだというが、他の魔物や人間は巨人族に対し、反撃を選んだ。多くの血が流れ、多くの命が散り……いつしか戦いは三つ巴を超えたような物になっていく。
俺がこの世界に生まれ落ちたのは恐らくこのあたりだ。でかい建物ほどの巨人を相手に、槍の状態での俺を握って以前の使い手は挑んでいた記憶がある。
「すぐに被害状況の確認と復興の手配、そして対抗手段を考えるように」
「それは、この隙にという他国の侵略の思惑も跳ね除けるために、ですな」
ざわめく場に良く通るジャスタ卿の言葉に、何人かがはっとした表情になる。ジャスタ卿は正直色々と気になるし、怪しいとも思うがこういうところは優秀だ。元々小競り合いがあったところにこんな出来事があれば、そういうことも無いとは言えないのだ。
王の前での会議は進み、各々の役目を果たすために解散となった。お嬢様とホルダーは残され……王と向かい合う。ホルダーはかなり緊張してるな、無理もない。
「恐らくは2人にもしばらく苦労をかける」
「もったいないお言葉ですわ。身命を賭して……万一に備え、それぞれのわかる範囲での目録を更新させていただきますわ」
優雅に一礼するお嬢様の後ろで慌てた様子のホルダー。対照的ともいえるが、微笑ましいとも言える。これから先、巨人族だけとは限らないと各国ともに戦力を増強させるだろう。そんな中、宝物庫にある武具に目を付ける国が間違いなく、いる。例え呪いの武具だろうと緊急事態が打破できるのなら安い物と考える奴はいつの時代もいるだろうからだ。
「ホルダー、忙しくなりますわよ」
「望むところです」
ドラゴン、巨人族と来たら次はどの伝説がよみがえってもおかしくはない。そんな心構えで、お嬢様は覚悟を決めていた。俺は……そんな状況に何が出来るだろうか?
さすまたという自分に、幾度となく問いかけてしまうのだった。
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