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SO-048「重なる事件とお嬢様・後」


 緑軽銀、という金属がある。その歴史自体は結構古く、俺が槍だった時にはもう存在が知られていたぐらいには有名な物だ。ところが、その金属が何故世の中に登場したか……はまったくわかっていない。


 わかっていることは……戦争の火種になりやすい力を秘めている金属であるということ。加工には一定の魔力と特殊な方法が必要だが裏を返すと、それ以外では痛みにくいという性質を持つ。例えばそう……英雄の武具に採用されるぐらいには、丈夫だ。


「絶対に口外しないこと、いいですわね?」


「う、うん」


 さすがに元浮浪者同然だった子供達を王城に連れていくわけにもいかず、まずはイブンの店で正確な鑑定と、今後の相談をしようということでそろって移動だ。その間、説明はされずともお嬢様の気配に口ごもる子供たち。


(それでも外へ向けては最小限にしてるのはお嬢様らしいな)


 俺が生身だったら、もっと騒いでしまっていただろう自信がある。緑軽銀はそれほどの物なのだ。重なる戦乱の果て、これを使った主だったものは紛失、あるいは行方不明になっている。どこかに隠されているのか、本当に紛失したのかはわからない。その理由は単純だ……。




「私をだまそうと……するわけないですよね」


「宝物庫でこれを使った物を見ている私だからこそ、と言ってしまうとそこで終わってしまいますけれど、貴方ほどならわかりますわよね? この異質さが」


 二重に鍵のかかる部屋で、緊張に固まる子供たちは座ったまま、お嬢様とイブンの間にある机へと袋から幼児ほどの大きさの石が乗せられていた。名前の通り、緑とも金色ともつかない輝きを放つそれ……緑軽銀。


「製法は失われ、残っているのはそれを使った武具だけだと聞いていますよ。その上、強力さに目を付けた各陣営が奪い合うほどとなり、多くは紛失、いくつかがこの国等に厳重に保管されているのみ。先日の騎士団長が王から授けられた宝剣の柄部分が緑軽銀と言われてますよね」


「ご名答、ですわね。そう……武具の状態ならともかく、こんな……素材の状態で転がっているはずがない物。用件は2つですわ。彼らをしばらく匿って欲しい事、そしてこれに近い情報が出て来てないかの収集ですわ」


 自分たちが話題になったことで体を跳ねさせる子供たちにイブンとお嬢様の視線が重なる。またですか?とばかりにイブンの顔は苦い物を嚙んだような顔になっているがすぐにため息一つ、うつむき気味の顔を上げるとそこには決意の顔があった。


「一生に何度もあるとは思えない波、そう思っておきますよ。そうでなければやってられませんよ、さすがに」


 ついこの間、北方からの客をかくまっている状態なのにさらに追加だもんな、その気持ちはよくわかる。けれども、お嬢様が他に頼れそうな力を持っていると判断する相手がいないのも事実なのだ。そのことをイブンはよくわかっている。


「お前たち、しばらく冒険者家業は中止にしておくんだ。店を手伝ってもらうぞ」


「「「は、はい!」」」


 問題が1つ片付き、ほっと一息つくお嬢様が見つめる先は、窓からの明かりに怪しく光る緑軽銀。これを使った物がどんな力を持ち、どんな騒動を呼び込むか……それを想像しているんだと思う。緑軽銀を使った武器は、多くの力を持つ。折れず曲がらず、そして負けない。それに加えて、必要であれば使い手の意思により、その形を変えるのだ。

 相応の使い手が振るえば、戦況を、戦争を一変させる可能性を秘めた力になる。


「また連絡しますわ」


「ええ、ご武運を」


 子供たちにこのことは他言無用、むしろ出来るのならば忘れておくようにと念押しをし、お嬢様は息と同じように袋に緑軽銀の原石のような塊を入れて背負う。背中から少しずつ魔力を吸われてるはずだが加工前は微々たるもののようだ。


(お嬢様は……気が付くだろうな)


 再び王城への道。その間、お嬢様の腕の中で揺れながら俺は心でつぶやいていた。それは……寂しさ? 何と言えば良いのか、よくわからない感情だ。そんな俺の感情の揺れに合わせて袋の中の緑軽銀が反応したような気がする。


 そう、俺の本体は緑軽銀を含んでいる。失われた穂先はほぼ純度100パーセント、それ以外は……まあ3割ぐらいかな? それでも破格の含有率だ。なにせ、騎士団長が授けられた宝剣に使われた緑軽銀の量は精々が赤子の拳ほど、それでも宝剣と呼ばれる力を持つのだから。


「トライ、私にはあなたがいますわ」


『お嬢様……!』


 そんな俺の心配や不安を感じ取ったかのように、王城の門をくぐるところでささやかれた言葉。その意味が染みわたる度に俺は嬉しさに身を震わせる。そのことで余裕が産まれたのか、周囲の気配もよく感じられるようになった。その範囲ギリギリに……ふと、緑軽銀の気配を感じた気がした。


(まさかな……宝物庫とは全然別だし、騎士団長はもう遠征に出ている……)


 すぐに感じられなくなったその反応を気にする暇もなく、お嬢様は案内を受ける。緊急の要件と告げたからか、すぐに謁見をすることが出来たのだった。他の貴族や重鎮のいる謁見の間ではなく、限られた人員しか入れない部屋、そこに通されたお嬢様は王様と向かい合う。


 挨拶もそこそこに、王様の視線もお嬢様の背負う袋に注がれた。もしかしたら、夢でも見たのかもしれないな。王族に個人差はあれど現れる予言めいた夢。明日の野菜の値段の時もあれば、100年先の騒動の時もあるらしい。


「それが、急な話の原因か?」


「出来ることならばもっと秘密裏にここまで運びたいところでしたが……逆に怪しまれると判断いたしました」


 ちらりと、お嬢様が視線を向けるのは、王様が招いたのであろう王子3人。勢揃いしているのは久しぶりだ。やはり、王様も何かを感じ取っていたのかもしれない。


 ゆっくりと、袋から緑軽銀の塊をテーブルに出すと、お嬢様と緑軽銀、どちらにも視線が集中した。正確には、お嬢様が触れた手の先が独特の光を放っていたのでその光を見たのだ。こんな光を放てるのは緑軽銀ただ1つ……のはず。


「なんと……」


「アレスト、すごいな! まるで朝日に輝く黄金のようだ!」


 言葉を失う兄2人と違い、フェリテ王子は身を乗り出さんばかりに目を輝かせ興奮している。逆にこのぐらいの方が、正しい使い方をしてくれそうな気がする。国を継ぐ第一王子、そしてその予備として一番可能性のある第二王子、二人の瞳には……欲望を感じた。


「懇意にしている筋から譲り受けましたの。ひとまず、宝物庫に収納でよろしいでしょうか」


「であるな。さすがにこの量では他に方法もあるまい。アレスト、さすがに1人では負担が大きすぎるであろう。親族から守り手候補を募ってはどうか」


 元々、その予定でいたところに王直々の命となれば対外的にも動きやすい。そのことに感謝して頭を下げるお嬢様。俺はその腕の中で、別れた反応を示す王子たちをしっかりと観察していた。


 緑軽銀の別称は……吸命鉱きゅうめいこう。元のままでも、出来上がった物でもどちらでも、歴史の中で多くの命を奪う結果になったり、そんな戦場にあることの多い……波乱の金属なのだ。


 目の前に鎮座する塊を前に、俺自身も自分の体にそんな金属が含まれていることを……否応なしに感じていた。


(お嬢様は、守り切って見せる……!)


 俺の決意を感じたかのように、握るお嬢様の手に力が入るのを感じたのだった。


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