SO-047「重なる事件とお嬢様・前」
「現状では致し方無し……ですわね」
「こんな日のために鍛えていたのではないか?と言われてしまってしまうと……うむ」
大きな事件というのは当事者たちの結束を高めるものなのだろうか? 王城の通路を歩くお嬢様と騎士団長は一見すると護衛をしている騎士と令嬢、に見えるが実体は異なる。どちらが上、といった話ではないがどちらも有事の際には身を張って戦うという点では同じ戦士、と言えるだろう。
(まだ確定ではないが平和の終わる音がする、か……)
さすがに黙っているわけにもいかず、お嬢様は上に報告する道を選んだ。いきなり王様にというのも何かと噂を呼ぶ物と思い、最近の魔物の活性化に関係ありそうな話をということで騎士団に話を持って行ったのだ。
結局は、何かあった時に討伐に出るのは主に騎士団なのだから、流れとしてはごく自然な物。騎士団長の執務室を訪れ、しばらく話をした後に2人して王様に会いに行くことになったのもまあ、自然な物だろう……たぶん。
結果としては不問。正確には他の国に行かないように国内で監視を付けつつ、情報を収集せよという命が下される。もちろん2人にも本来の役目があるので、出来る限りかつ柔軟にと……まあ、よくある無茶振りに近い話だな。
それとは別に、騎士団には各地の兵と協力して国内の状況を把握するように命令が下された。実際、現場に近いところでは魔物が増えているような、という実感はあるがそれはあくまで偶然、そう思われていた。そこに飛び込んできた火種同然の話となれば動かざるを得ない。
「アレスト嬢にはこちらを守ってもらえるからな、私は外に出やすいという物だ」
「そうおっしゃっていただけると……他国とはどうなると思いますの?」
「五分、だな。そんなにと思うだろう? 実は国境沿いでは前から小競り合いが起きていてな。前回の展覧会が開催できたのは奇跡的なことなのだ。あれで圧が少しは抜けた……そう思っているが、もしも魔物の活性化が真実でそれが他国も同じだとしたら……」
そこで人気のない場所から目立つ場所に出たので押し黙る2人。俺も周囲を一応警戒しながら、騎士団長の言葉の意味を考えていた。俺は当然のことながらお嬢様と一緒なので、情報量も同じだ。もう少しこの国は他の国ににらみをきかせていると思っていたが状況はそれよりもあまり良くないらしい。
国内を安定させる方が先だろうと思うのは国を運営する立場ではないからだろうな。不満を外に向ける、それはいろんな国で行われてきたと古い記憶も言っている。ともあれ、お嬢様は夜には帰ってこなくてはいけないので遠出は出来ない。役目を担えるのがお嬢様1人となれば自然とそうなってしまうのだ。
「ではよろしく頼む」
「ええ、こちらこそ」
そんな当たり障りのない挨拶の後、1人廊下を歩くお嬢様は少し迷っているようだった。自分が聞いても解決するかどうかは別として、黙っておくことも出来ずに手のひらで震える。
こちらを見るお嬢様の浮かべる笑みは、いつものように見えてどこかやはり……影がある。
「少し、考えてしまったのですわ。自分はこのまま、宝物だけを守ってるだけでいいのかと。やれることがあるのではないか、とね。ただ……私1人ですもの」
ささやきのような言葉は本音だと思う。疲れた、という感じではなくてもどかしいという言葉が似合うだろうか? お嬢様に兄弟でもいれば別だろうが、現実には一人っ子であり、いつか婿を貰うなりしないといけない。そしてその時間はそんなに遠くないはずだ。子供も育てていかなくてはいけないのだから。
(でも、仮にそうするとしても子供が動けるようになるまで何年も1人で? うーん)
家を残すことは許されたが、ではどうするかと言われると厄介な話だった。幸いにも役目が重要で高貴な血がとこだわるような家柄ではないので人物に問題が無ければ別に貴族の家からでないといけないということもない。実際、聞いた話では一族の結構な割合は元一般人だしな。だからこそ、役目に殉ずるということができない親戚が多いんだが……。
『一度、親戚にあたってみましょうよ。やってみたいという子がいるかもしれませんよ?』
「そうですわね。声をかけるだけかけてみましょうか……」
宿舎に戻って着替えるお嬢様に向けて、自分の考えを板に書き連ねる。着替えの途中でこちらを見るものだからお嬢様のあられもない姿が……っと、そんな場合でもないな。
お嬢様は乗り気かそうでないかといえばあまり乗り気ではない。当然のことと言えば当然のことで、あの事件が起きて役目以外の多くを失った時、親戚は表立っては支援をしてくれなかった。これ自体は宝物庫に入れる人間が多いほど問題が生じる可能性も増えるということで本家筋以外は家名だけ持っていたというのが大きいのだが、その時は対策が裏目に出たわけだ。
それでも金銭的な援助はしてくれたからつい先日までお嬢様はお屋敷にいられたとも言える。人材としてお嬢様のようにお役目をしてみたいという子がどれだけいるかは……未知数だな。
「今から仕込むとなると1人では厳しいですわね。せめて2人……3人」
つぶやきながら、お嬢様は俺を手に街に出る。いつもの賑わいの中、意識してみると確かに前よりも武器を持つ人間が増えたように思える。物が集まり、補給しやすいという点では王都は旅の出発点としては間違いなく、優秀だからだろう。
イブンの店に預けた2人組の様子を見に行くためにか、寄り道せずに歩くお嬢様。ガヤガヤとした街中で、短くなっていた俺はそれに気が付き震える。足のとまったお嬢様が見つけたのは、孤児院出身の子供達だ。もう成人したと言える歳ではあるが、顔なじみなのは間違いない。
向こうもこちらを見つけ、笑顔で手を振ってくるから無事なようだ。外で戦う冒険者なんていうことをやっているからには、いつ怪我をしてもおかしくはないが……彼らはお嬢様の訓練を何気にこなしてるからな、意外と丈夫だし、生き残る力を身に着けている。
「皆無事なようで、何よりですわね」
「無理せず帰ってくること、ちゃんと守ってるからね」
集団の中でも一番年上の子は女の子だ。鍛えられた体はそこらのチンピラでは相手にならないほどだが、それでもおしゃれを忘れないところはらしいというかなんというか……ん、この感じは……普通の狩りじゃあなかったのか?
脇にあった荷台の上に乗せられた大きな袋、その中身に力を感じた俺はこっそりとトゲを1本伸ばして袋の上からつつき……魔力が吸い取れたことに驚いた。思わず震えてしまうほどで、それに気が付いたお嬢様も袋へと視線を向けるのがわかる。
「狩りですの? 採取ですの?」
「両方、かな? 川にいる奴を退治しにいったらさ、この前の大雨の後だからか、岩がごろごろしてたんだよね。そんな中によくわからないのがあって……あ、お嬢様ならわかる?」
私は鑑定人ってわけじゃないんですわよ?等とつぶやきつつも、他に見えないように気を付けながら袋の口を開き……お嬢様はそのまま固まった。俺もまた視線を同じところに向けて……やはり固まる。まあ、さすまただから元から固まってるような物だけど。
「イブンの店に行きますわよ」
「え? え?」
またイブンの胃が痛くなりそうだな……そう思いながらも詳細がわからないうちに王城に持っていくのはマズイ、そう思わせる中身だった。俺の記憶とお嬢様の見立てが正しければ、袋の中にあった一抱えほどの金属っぽい塊は……新たな騒動を呼び込むであろう物だったのだ。
感想や評価、バナーからのランキング投票等いつでもお待ちしております。




