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SO-046「北の国からのお客様」

今回主人公2人は出てきません。


 喉元まで出かかった嘆きの言葉をぎりぎりのところで飲み込んだ。その日の出来事は、私の人生の中でも五指に間違いなく入るほどの厄介な日だったと言えるでしょう。どう好意的に解釈しても自分が苦労することは目に見えている。


 なにせ、表向きはここにいない方が良い北方の国からのお客人を2人、匿おうというのだから。


「とりあえず名前を……私はイブン。この店の主人です。君はアダムかな? そちらは?」


「ノーラです。イブン様、ありがとうございます」


 どこか良いところの子供という雰囲気の抜けていない2人。特にアダムのほうはそれが顕著ですね。むやみに口を開かないところは好感が持てるところです。こういう時は相手が知らない方が良いことを言ってしまうかもしれないので最低限の会話にとどめておく方が無難、そう……無難。


(ただまあ、今回はそうも言ってられませんね)


 アレスト様がどういった話を上に持って行って、どんな結果になるかはわかりませんが今日明日にということもないでしょう。つまりは、数日どころか一か月単位で自分が2人の面倒を見なくてはいけないと考えておくべきです。


「やはり迷惑だっただろうか? 今からでも……」


「それをされると私があのお嬢様に叱られるので大人しくしていてくださいね。と言っても調べものに来ていたわけだからずっと外に出ないという訳にもいきませんか」


 こちらの返事1つ1つに表情が変わるあたりはまだ若い。自分も言うほど年寄りではないけれども、2人よりはマシだとは思いますよ、うん。そうでなければあのお嬢様にやられっぱなしですからね。とりあえずは、カツラと着替えですかね。


「どんな情報を集めたいかは後でまとめてもらうとして、少しばかり手伝ってもらいますよ」


「しばらく世話になるわけだから、労働は当然のことだな。……口調も新入りのように改めた方が良いだろうか?」


 もっともと言えばもっともな提案にしばらく思案したのち、首を横に振りました。というのも北方で彼らがどの程度の扱いになっているかはわからない以上、下手に下に扱えば問題になるかもしれない可能性をなくしておきたかったのです。まあ、接客はさせませんからいっぽど良いでしょうね。


 作業着に着替えさせ、商品でもあるカツラをかぶせれば、普通以上の家の人間が働きに来ているとごまかすぐらいは出来そうな2人が出来上がりました。このまま逃げられたらわからないぐらいですね、ええ。


「この木箱をどんどん運んでください。重さは大丈夫ですか?」


「問題ない。墓守は体力との戦いだからな。三日三晩祈りながら野宿もよくあることだ」


「アダム様、それは自慢にはなりませんよ、きっと」


 2人を連れてきたのはアレスト様の作るポーションなど、在庫を多く持つ必要のある商品が並ぶ倉庫。工夫はしてあるといっても薬品の入った瓶は割れやすいですからね。この……ガラスでしたか。これより割れにくくて中身の劣化しない物があればいいのですがなかなかそううまくはいきません。そのため、木箱の数のわりには中身はそんなに多くないのが現実。


 持ち上げて思ったよりも軽いことに驚いた様子のアダム、そしてノーラは協力してどんどんと手際よく木箱を運び始めました。それを見て満足した自分は、近くにいた従業員に助っ人だと告げて作業を分担するように伝えておき、別のことをすべくその場を立ち去ることにします。


「ドラゴンの復活……おっと、どこで誰に聞かれるやら」


 幸いなことに、自分が何かつぶやきながら歩く光景は自覚はありますが、よくあること。すれ違う従業員も挨拶だけで気にした様子もありません。最初は小さな家の軒先で売っていたような店も気が付けばいくつも倉庫を抱える大きな物にかわりました。それもアレスト様のおかげですからね、多少の無理は聞きましょう。


 本人は嫌がるでしょうけれども、ドラゴンの関係する話となれば騎士団長以外にお嬢様が駆り出されるのは間違いなく、何も知らないでいられることもたぶんないでしょうね。


(だからこそ、情報は鍵になる)


 次の商売のタネにということでまずは建国祭に代表されるドラゴンに関する逸話や、関連する物品の話などを集めることにしましょうか。次も同じような個体とも限りませんし、2人とも不在の可能性だってあるのですからね。


「乱世に竜の咆哮が木霊する……聞いたことはありますが、果たしてどちらが先なのやら」


 既に盛況な店舗の様子を確認しながら、売れ行きから今後の仕入れ状況などを調整しつつ、考えをまとめていく……言葉にすると簡単ですが実行するのは結構大変です。大体の今後の行動方針が決まったのは、昼も過ぎたところでした。


「ほう、必要分は終わったと?」


「ああ。このぐらいで大丈夫だと言われたから次の作業を聞きに来た」


「あんなに商品があるなんて、すごいですね!」


 単純作業に見た目は涼し気だけれども少し飽きがきた様子のアダムに比べて、ノーラは中身が気になって仕方がないようですね。やはり違う環境というのは人の素顔が見れるものというのは本当の様です。アダムよりもノーラの方がここで働くには向いてるのかもしれませんね。その必要があるのかどうかはまあ、別の話です。


「まだまだこれからも大きくしていく予定ですよ。ただまあ、ポーションに関してはなかなか増産が効きませんがね」


「それは魔女の人数の問題か? それとも原料の問題か?」


 何気なくつぶやいた言葉への返事は、鋭さの戻ったアダムからの物。その変化に内心驚きつつも、聞く価値のある話が出てきそうだという直感に従うことにしました。曖昧に微笑み、2人についてくるように促します。


「まずは食事にしましょう。苦手な物とかは?」


「特にはないです。あ、でも……お魚は頭が無い方がいいです」


 味が苦手とかではなく、頭が無い方が良い、初めて聞いた好みです。思わず足を止めてノーラを見ると、私の疑問に気が付いたらしい彼女は苦笑を浮かべるのが見えました。いけませんね、こんな子供に気を使わせてしまったかもしれません。


「復活してこないように頭を落とす、それが一族の教えですから」


「……なるほど」


 聞いてみればもっともな話。もし食事に魚が出て来ても2人の分だけは頭をどかすように言うことにして、食堂へと案内しながら彼女の言葉の真意を考えます。どうやら2人とも、主流派というだけあって色々と知っているようです。同時に、若さゆえの現実への疑問も抱いている。これまでに復活はしていないし、頭を落としておけばドラゴンは大丈夫と思ってはいるけれども、実際に現実としてドラゴンが現れた以上はそれだけでは足りないかもしれない、という疑問。


(まったく頭が痛い……私はただの商売人なんですがね……)


 胃の痛い日が続きそうですが、うまくいけば成り上がれる、そんな予感がはっきりとしました。後はアレスト様とどれだけ連携が取れるかですね……賭けに、出ましょうか。


 突然の出来事から2週間。私の店に新しく種類の違うポーション類が並び始めたのは王都でもちょっとした話題になるのでした。

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