SO-045「不思議な出会いとお嬢様・後」
「貴方、交渉事には向いていませんわね」
「? どういうことだ?」
戸惑いの声と姿も、俺が人間の姿だったらヤレヤレとばかりに大げさにポーズをとってしまうようなものだった。つまりはそう、まだお嬢様は彼らのことを何も聞いていないし、確かめてもいないのに、だ。
(見逃してほしい、なんて自分は何か厄介事や隠し事をしていますって言ったようなもんだ)
まだクロエとどっこいどっこいぐらいの背格好だけど、後ろに妹なのか大事な人なのかはわからないが女の子をかばいながら立っているところは好感が持てるが逆に言えばそのぐらい。お嬢様の代わりに周囲の状況に気を配るがあいつらの増援は特にいないようだ。
「私は別に貴方達2人を追いかけてきたわけでも、何か問題があることを知っているわけではありませんわ。適当に誤魔化すならそれで終わり。ですけれど国の治安を守る者の1人としては見逃してほしい、なんて後ろめたさのある相手をそのままというわけにはいきませんわね」
「アダム様……」
「わかった。話がしたい。どこか落ち着いて話せる場所はあるだろうか?」
わざわざ指摘してあげるお嬢様はその意味ではとてもやさしい。相方の名前を呼んでしまうという失敗をしたもう1人の……声と感じからして少女にも余計なつっこみはしない。ここにいるとまた襲撃者が来るかもしれないから移動したいという現実もあるわけだが。
「だからといってウチの店もそういう場所ではないんですがねえ」
「まさか宿舎に連れ込むわけにもいきませんし、警邏に突き出すのも気分ではありませんもの。生産量を1割増やしますから、頼めるかしら?」
お嬢様が人目を避けてやってきたのはポーションを卸しているイブンの店……の倉庫。陳列しての販売のための店舗と、まとめての引き取りを希望する客向けへの店舗と今は2か所ある。お嬢様お手製のポーションの売れ行きは相変わらずで、それに影響を受けた他の生産者たちも今までの独りよがりなやり取りを見直し、イブンの店に卸しに来たり、他の店でも販売物が変わってきているらしい。
その結果、彼はこのあたりでは知る人ぞ知る有名人だ。新しい相手と出会うこともよくあり、新しい2人の客がやってきても目立たない、というわけだった。
「よろこんで。さて、ここでかくまうからにはある程度聞いておきたいところですね。確かに北方とは戦争しているわけではないですが……」
「状況が悪すぎますわね。貴方達、そのまま外に出て自分が北の出だと悟られないように。でないと……最悪一般人から色々な目にあわされますわよ」
脅しを込めた忠告に、2人の体が跳ねる。見ている感じだと言葉の強さに反応しただけで意味まではわかっていないみたいだ。横からどちらも見ているからこそわかる。その様子にお嬢様も気が付いたようで、懐の小袋……乙女のたしなみとして色々持ち歩いているバッグの中から1枚の鱗を取り出す。
「これがなんだかお分かり?」
「随分と大きな鱗だな……」
「アダム様、それ……ドラゴンのだと思います」
わかっているのかいないのか、きょとんとした様子の少年、アダムと違い小動物のようにおどおどとしていた少女があっさりと指摘して見せる。この距離で見抜いたことと、アダムが驚いて振り返る光景にお嬢様とイブンも少し反応してしまう。
(この子がわかっているのか、単純に目利きなのか……前者の方が話は早いんだがな)
そう、今のこの国では北方はあまりいい印象を持たれていない。嘘か真か、北方がドラゴンを起こしてしまったからこちらに気が付いたのではないか、という噂がまことしやかに街に広がり始めているのだ。そこに北方からやってきたとなれば色眼鏡で見られることは間違いない。
「ドラゴンの!? そういえばドラゴンスレイヤーとして噂されているのは騎士と……見た目は麗しき乙女だと……まさか!」
「一応、そのまさかですわね。話していただけます?」
にこりと微笑むお嬢様の姿に、2人は硬直するのだった。そうして聞き出した内容は、この国だけでとどまらない騒乱を感じさせるものだった。
ドラゴンそのものは、やはりというべきか北で今まで眠っていた個体だったらしい。ある日、火山が噴火したかと思えば代わりに飛び出してきたのは件のドラゴンなのだという。しばらくはその山を占拠し、あちこちで暴れていたらしいドラゴンはある日、南へと飛んでいく。状況的には間違いなく、建国祭の時のことだろう。
同時に、各地に魔物が姿を現し始める。今までは森の奥や人里離れた場所に行かなければ見なかったような姿が、徐々にではあるが日常を侵食し始めたのだとか。2人はその様子を見に隠れてやってきたと口にした。
「でもおかしいですね。だとしても2人が隠れてこっちに来る意味がわからない。国の代表ならばもっと堂々とやってくればいい。何か理由があるのではないのですか?」
「あら、イブン。そのように言う物ではありませんわ。色々と事情があるのでしょう。まあ、話せるのであればお話頂きたいところですわね」
一見すると、イブンのほうが鞭でお嬢様が飴に聞こえるかもしれないが、現場においてはむしろお嬢様の方が鞭だ。なにせ、目が笑っていないのだ。フリーニア様があと少しで悲惨な目にあっていたと考えればそれもそうかもしれない。
「わかった……実は、私たちは墓守だったんだ。他でもないドラゴンの」
「……そういうこと、ですの」
やはりアダムはわかっていて鱗への反応を変えていたようだ。その後の話もまとめると、代々かつての戦いの果てにドラゴンが散った山を見守り、鎮魂の役目を背負う人生を送っていたというアダム。墓守自体は結構な人数がいるらしく、2人はその中でも主流派の人員らしい。
ドラゴンが飛んでいったことで慌てた彼らは、被害の状況を確認に来たり、他の国にも同じような幅化が無いかを確認するためにやってきたそうである。……他にもドラゴンが出てくるかもしれないのかよ、厄介だな。というかあのドラゴンは生き残っていたのか? それとも……。
「あのドラゴンは伝承に伝わるよりは小さい物……長年生き残ってきたのであればそれはおかしい話ですわ。ドラゴンは、普通の生き物ではないということとですの? 例えばそう、復活するような」
「詳しい話は私たちもわからない。けれども、頭だけではそうはならないだろう。そうでなければ竜鱗を使った装備や、骨を使った武具から復活してくるはずだ」
どうやら最悪の状況、この前のドラゴンが復活してくるということはなさそうだ。そのことに俺も安堵しつつ、改めて2人を見ると確かに見た目は子供だがあちこちが鍛えられているのを感じる。恐らくは山で生活をするために自然と鍛えられたのだろう。
(屋内かどうかの違いはあっても、お嬢様と近い物を感じるな)
あるいは、お嬢様が話を聞こうと思ったのはそういったところを感じ取ったからなのかもしれない。そして2人の目的もはっきりした。1つはさっき言っていた魔物の増加に対する確認だが、もう1つがドラゴンの亡骸の取り扱いを確かめるためだったのだ。
「聞いてしまった以上は黙っているわけにはまいりませんから、近いうちに王の耳に入れさせていただきますわね。それまではここで……イブン、頼みますわね」
「はいはい、了解ですよ。変なことをしないなら倉庫番として臨時雇いにしますよ。とりあえず、飯でも食いませんか」
そうして、不思議なお客との出会いが王都に新しい風を誘う。宝物庫の守り手、国の宝物を守る者。これまで続けて、これからも続くと思っていたお嬢様の人生に少しずつ、変化が混じっていくのを俺は感じていた。
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