↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
45/87

SO-044「不思議な出会いとお嬢様・前」


 事件が終われば日常が戻ってくる。それは遥か昔から変わらない現実だ。突然のドラゴン退治、それに伴う騒動も終わり、祭りの余韻も消え去っていく頃、俺とお嬢様もやはり日常に戻っていた。


 静かで、月明かりと時折の風が城壁に吹きつける音が響く空間。毎晩の宝物庫は暑さ寒さも季節的には関係がないらしい。俺の場合、お湯につかれば熱い、といったことは感じるが空気の暑さ寒さはイマイチわからないんだよな。わかってもどうにもできないわけではあるのだが。


『今日は何もありませんね』


「そうそう毎日侵入者がいては身が持ちませんわ」


 つぶやくお嬢様も、暇をやや持て余しているように見える。一応、いない間は仮眠をとることもするのだけどあくまでも仮眠。寝る必要のない俺がその間探知を行えると言ってもまかせっきりはお嬢様は自身が許さないのだ。


 鍛錬などの組み合わせにより、夜更かしとなるこの役目も無理なくこなしているお嬢様ではあるけれど、ベッドでゆっくり寝られるのならその方が良いに決まっているのだ。帰宅後、少し遅い朝の時間まで寝る姿は無防備とも言えるほどだからな。


「とはいえ、外でもそんな気配を感じませんもの……まったく侵入して来て無い気がしますわね」


 大なり小なり、王城なんてのは他国からの間諜が入ってこない日はないと思っていた方が良い。だというのに今日は本当に気配がない。入ってすぐに置いてあるクロエ特製の探知装置も反応無しだ。こんな日もあるだろうと思いながら、朝を迎えた。



「そりゃあ、そうなりますよ」


「どういうことですの?」


 翌朝、ふと思い立ったのかお嬢様は交代の兵士にここしばらく静かな夜ではないかと話を振った。その結果が苦笑交じりの顔だったのだ。俺も気になって聞き耳を立てるかのようにトゲが動くのを感じた。


 兵士はなぜか誇らしげに自分の胸を叩きながらお嬢様を熱いまなざしで見ている。


「ここ100年は目撃情報すら怪しかったドラゴンを討伐した人間が2人もいるのです。よほどでなければ、そんな場所に忍び込みたくないと思うのでは? 出会ったら最後、ドラゴンもやられたような攻撃を受けるかもしれないと思う訳です。私は同じ国に勤めていることを誇りに思っております」


「なるほど……そういうことですの。でも、あれは皆で手に入れた勝利ですわ」


 実際、兵士の皆も攻撃には参加したのだし、とどめを刺したのは騎士団長でお嬢様は俺を使って押さえつけていたにすぎない。貢献度合いで言えば討伐したと言えるのかもしれないが……まあ、こういうのは外向けにどう使えるかということになるのだろう。


 現に立ち去るお嬢様を、兵士があこがれの相手を見るように見つめている。俺はそんな兵士を見ながら、何か考え事でもあるように顔を少ししかめているお嬢様に気が付いた。心なしか足取りも早く、落ち着かない様子だった。


「盲点でしたわね……しかも、厄介な話ですわ」


(どういうことだろうか? 侵入者が減るのは良いことだと思うのだが……あ、そうか!)


 お嬢様の気にしているであろうことに気が付き、声もなくその手の中で震える。ちらりとお嬢様が俺の方を見た後、軽く頷いた。ドラゴン戦以来、なんだかお嬢様とは完ぺきとは言わないけれど意識というか感情が伝わっているような気がする。気のせいではないといいのだけど。


「懸念で済めばいいのですけれど、逆に厄介ですわ。ドラゴンスレイヤー、そのおまじないがいつとけるかわからないのですから」


 硬い声でつぶやいた通り、今の状況がどこまで続くかという問題があるのだった。そして、今日も含めてその分、守りは弱体化する。人間、何も刺激が無かったり変化がないのにその行為を維持するのは非常に困難だ。侵入者という刺激がないのに、警備の強度を維持するのは難しいだろう。


「今は気にしても、仕方ありませんわね」


 平和が続くと牙が抜ける、そうわかっていても何をすべきかと言えば日々の鍛錬ぐらいしかない。そしてそれはお嬢様が全部出来ることではなく、騎士団との兼ね合いもある王国全体の問題にもなるのだ。


 ややもやもやとしたものを抱えつつ、宿舎に戻ったお嬢様は日が昇るまで、休息をとる。俺はその間、起きて来たクロエに手入れされながら考え事をしていた。


(記憶を取り戻してから、どうも何かどこかで感じる……折れた穂先、その行き先を)


 俺は本来、人間だ。それが何かの手違いか、目的を持ってかこの世界に呼び出されまずは3又の槍、トライデントとなった。伝説に残る武器として、多くの魔物と人間を貫き、持ち手のために戦った。かつての俺は雷を放ち、刺した相手の力を奪うような使い方によっては魔性の武器でもあったようだ。結局は、その力が自分の死後も残ることを気にした持ち手の願いもあり、一番の力の源である穂先を折り……。


『穂先はどうしたんだ? 記憶がないな……』


「わっ、どこかかゆかったですか?」


 震えに出ていたようで、洗ってくれていたクロエの驚く姿が視界いっぱいに広がる。汚れてもいいようにと湯あみ着に着替えているクロエはまるで子犬のようにいつも元気である。たまにびくびくと驚いているのもそれっぽい。


 とげを器用に動かして〇を作り、そんな彼女を安心させながら先ほどまでの考えに戻る。もしも、この先穂先が見つかったらそれは厳重に封印か砕いてもらおう。そうでなければ、俺はまた奪うだけの武器に戻ってしまうかもしれない。今の、守るためのさすまたは俺も気に入っているのだ。


 数時間後、起きて来たお嬢様と共に街へと繰り出す。ポーションの売れ行きも確認しないといけないし、何か稼げる話があれば嚙むことを検討する……そう考えるとお嬢様っぽくはないな、うん。


「元のお屋敷を買い戻すには普通に稼いでいたのでは足りませんわね……どうしましょう」


『一攫千金、ドラゴン級の魔物でも探しに行きますか? 一人で倒せば素材はがっぽがっぽですよ』


 言いながらも出来ればお嬢様にはそんな危ないことはしてほしくないと思っている俺がいる。お嬢様は無敵で無敗だが、それはあくまで今日まではそうだったというだけの事。ここから先にお嬢様と俺を超えてくる相手が来るはずもないと思うのは油断の源だ。


「……まずは話を聞いてからに致しましょう。また厄介な装飾品の話も噂に聞いていますしね」


 誰にでもなく呟きながら街を歩くお嬢様と俺。街はいつもの喧騒に包まれており活気がある……ん? 足音……路地裏を走ってる?

 俺はお嬢様の手の中で合図を送る。方向を示す合図通りにだ。顔をそちらに向けたお嬢様も、活気の中に混じるその足音に気が付いたようだ。素早く路地裏に駆け込んだ。


 そしてそこには、真昼間だというのに見逃せない光景が広がっていた。それは、荒くれ者たちが明らかに子供であろう2人を追いかけるという状態だった。そうなればどちらに味方するかと言えば議論するまでもない。少なくとも、話は聞きたいところだ。


「お待ちなさい!」


「誰だてめえ! 女ぁ!?」


 どうして、こういう時に人は誰もが同じような反応を返すのだろうか? 時には荒くれな姿なのに礼儀正しいような奴にも出会ってみたいと思うのは贅沢かな? いや、だからこそ荒くれ者な格好をするのか……。


 そんな風に俺がよくわからないことを考えている間にも、お嬢様は男達と追われる側の間に立ち入り、両者を分断した。逃げている方には不幸なことに、ちょうど行き止まりである。


「白昼堂々と王都で人さらいとは、憲兵に代わってお仕置きさせていただきますわ」


「ぬかせっ!」


 そう叫んで踏み込んでくる相手にお嬢様も俺もわずかに驚きながら対応する。思ったよりも早く、そして訓練されていることが見えたのだ。それでも日頃近衛の兵士達を見ているお嬢様と俺にはそう目新しい速さと動きではない。


 瞬く間に男達は倒れ伏し、お嬢様は逃げていた子供2人に向き直る。戦闘中に逃げようとしなかったのは、逃げる隙が無いように見えたのか、逃げる元気も無くなったのか……両方かな。


「貴方達……? その襟元、北国の様式ですわね。まさか……」


「見逃してほしい、というのは都合が良すぎるだろうか?」


 マスクのように布を被っていた1人がそれを取ると、整った顔の少年が現れる。その特徴ある顔立ち、そしてお嬢様の指摘した襟元の意匠……それらは彼らが北国の一定以上の家柄の人間だということを示している。騒動の、予感だった。


感想や評価、バナーからのランキング投票等いつでもお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。