SO-043「事の顛末とお嬢様」
『やっと終わりますね』
「今日まで長引いたのはいくらかは貴方のせいですわよ、トライ」
椅子に座り足を組み、優雅にお茶を飲むお嬢様にやや冷たい視線で声をかけられるというある種ご褒美的なシチュエーションの中、俺は板に滑らすトゲを止めた。どういったものか、そう悩んだせいなのだがちょうどよく、他にも原因になりそうなものがやってきた。
扉の向こうに、気配。
「お時間でございます」
「ええ、承知したわ」
つぶやきと共にお嬢様は俺を掴み、案内に来た迎えと共に廊下に出る。天井も高く、毎度のことながら掃除は大変そうだなあと思う場所、王城の中だ。そのまま進む先は、謁見の間。
重厚な扉が開き、中には既に王の他、主だった面々が集まっているようだった。皆の視線が一斉に集まり、そしてまた散っていく。今日は視線を集める役目はお嬢様だけの物ではないのだ。若干先に来ていたんだろう。王の前に既に片膝をついているのは騎士団長だった。
「よく来た、アレストよ。これで我が国のドラゴンスレイヤーの両者が揃ったことになるな」
「「はっ」」
騎士団長と同じように片膝をつくお嬢様。隣り合う2人にかけられる王の声に、周囲にざわめきが広がっていく。そう、今日は建国祭の時に起きてしまった事件、ドラゴンが襲い掛かってくるという事態を解決したとしての表彰の場なのだ。
結局、あの後は祭り自体は再開された。ドラゴンというこれ以上ない乱入者とその討伐の衝撃はすさまじく、一度は退避した民衆が押し寄せるほどの物となった。急遽兵士を集め、囲いを作らないといけないほどだった。あんなでかくて恐ろしいものの死体なんて怖くはないのだろうかと俺は思ったのだが、それよりも伝説レベルの相手がこの国で倒されたというほうが上回ったらしい。
ドラゴンは今もなお解体中で、全身が素材として役に立つことだろう。王は頭の骨をどこかに飾ろうと考えてると噂で聞いたがどうだろうな……よみがえってきそうだが。
「よって騎士団長には宝剣を一振り授与する物とする」
「ありがたき幸せ。これからも国の剣となり、万難を打ち払って見せます」
俺が周囲の観察をしている間に、王の話は進んでいく。騎士団長はある意味順当に武器としての宝剣が与えられるらしい。領地という訳にもいかないし、防具は個人個人の問題もあるしな。さて、我らがお嬢様は……。
「アレストには物品よりも子孫へとドラゴン討伐の話を引き継ぐ権利を授けたいと思うが異論はあるか」
「ありがたく。異論はございませんわ」
ざわめきが一段と大きくなる。それはそうだろう……つまりは、お嬢様が家を残して良いと言われたのだ。一度駄目と言われたそのことが覆ることは本当にまれだ。家の断絶というのはそれだけ重い罰なのだ。ドラゴンの討伐が、残ってしまったとはいえ顔を傷つけたことと同等の扱いを受けることに俺自身は少し考えるところがあるのだが、難しいところだな。
その後は一通り形式ばった話が続き、ようやく終わったころには昼食の時間は過ぎていた。
「次は屋敷を取り戻せるように稼がなくてはいけませんわね」
宿舎へと向かう道の途中、一人お嬢様は呟く。そこに色々な感情を感じたのはきっと気のせいではない。お嬢様的には不注意が産んだ現状、それを解決したのは日々の努力によるものではなく、突然降って湧いたようなドラゴン、というのがどこか納得がいっていないのかもしれない。
「ポーションも増産には限界がありますし……あら」
静かな廊下を走る音。音の主は……ザイヤだ。今日は誰も一緒じゃあないのだろうか。どこから走ってきたのか、少しぼさぼさっとした髪の毛はいつもの彼女らしくないと言えばらしくない。いつものザイヤは、自分が世界の中心のはず!と自信にあふれた女の子なのだが……。
「アレスト様! お家の断絶が解かれたって本当ですか!」
「随分耳が早いのね」
答えるお嬢様の声は実は少し、硬い。それはそうだろう。実際のところがどうなのかはわからないけれど、ザイヤがあの時、宝物庫でヤンチャしなければ事件は起きなかったかもしれないのだ。それをわかっているのかいないのか……どちらにせよ対応には困る。
「だって、私があの時……子供みたいにはしゃが無ければ……」
「子供でしたわ。私も貴女も……気にするというのなら、国のために動ける女でなりなさいな。私から言えるのはそれぐらいですわ」
聞きようにとっては冷たく感じる返事を残し、お嬢様はいつも以上に姿勢を正してその場を去ってしまう。俺はお嬢様の腕の中で揺れながら、視線はザイヤに向けていた。そこにいたのは半泣きの少女1人。俺にはわからなかった。これまでお嬢様へと向けていた態度と、今日の態度は違いすぎる。
(まるで、今回初めて自分が原因かもしれないと知ったような……まさかな)
確かに表向きは詳細な話は出ていないはずだった。フリーニア様も、不慮の事故で療養中だから表に出てこないとなっている。顔の傷や、その出来事とプラクティス家への関係はわずかな噂にとどまっているはずである。
でも、だとするとだ……。
『誰が得をする? 結局はお嬢様は家を取り戻したも同然。孤独にさせたかった? ザイヤに父親が真相を教えていない? 何が、どうなっているのか……』
「トライ?」
うっかり俺が震えたことで、不審者でもいるのかと思ったのか周囲を探るお嬢様に内心で謝る。ここはまだ人の目があるから板に書くわけにもいかないのだ。俺がまた黙ったことでたまたまだと思ってくれたのかお嬢様は再び歩き出す。
(折れた俺の穂先の所在も不明だからな……考えること、やりたいことが多すぎるな。槍だけに……っとと)
今の俺はさすまたである。記憶にある限り、元々の俺は本当にあらゆる敵を貫いていた。そういう時代だったというのもあるのだろうけど、戦いの中に日常があったと言っていい。そんなだったからこそ、今の守るための生き方がひどく眩しく感じるのだ。
家を残すためにはお嬢様は血を残さなくてはいけない。そのことにあるはずもない胸が痛むのを自覚しながら、例えその隣に立つことは出来なくても彼女の未来は守りたい、そう決心する。
感想や評価、バナーからのランキング投票等いつでもお待ちしております。




