SO-038「お嬢様とお祭り騒ぎ・後」
「冷静に考えると、どうしてこんなことをしているのかしらね、私……」
『お嬢様が人が良いからじゃないですかねえ? 俺はそういうの大事だと思いますよ』
小さくつぶやくお嬢様は今、先日とほとんど同じ魔女の服装だ。違うと言えば、顔を隠すマスクをつけているところだろうか? 街には同じような姿の人がいるから逆に目立たない……いや、お嬢様の場合は顔を隠すことで色々な場所が強調されるかもな。
通りのあちこちにある台座の上で、お嬢様は男と向き合っている。背中には建物の壁。別に追い詰められているわけではなく、両手と頭の上には丸い果実が乗っかっている。
「さあさあ! これからあの美女に向けて見事に投げてみせましょう!」
ノリ良く声を出しているのはいわゆる大道芸人な青年。その手にしたナイフをって奴だな。本当なら的に向かって投げるはずだったんだが今はお嬢様がその代わりに立っている。
理由は……すぐそばで見ている子供達だ。視線をそちらに向けると、みんな緊張した表情だ。というのも彼らがこの辺で遊んでいて的を壊してしまったのだ。半分は孤児院で見たような気もするが残りははじめて見る。たまたま通りすがって話を聞いたお嬢様は……というわけだ。まったく、お嬢様らしい話である。
「本当にいいのかい?」
「ええ、あの子達の代わりですわ。多少逸れてもお気になさらず」
言い切るお嬢様にも芸人はまだ躊躇する部分が残ってるようだ。世の中に絶対はない、という気持ちがあるからだろうか? それでも食べていくにはここで芸を見せるしかないわけで……ナイフを構えなおした姿は一人の戦士のような顔だった。
(俺とお嬢様が一緒の限り、なんとでもなる……かな?)
ナイフがちゃんと刺さる物であることを示すために手元で件の果物を切って見せると道行く人々も、目に見えてわかりやすい芸に興奮が高まっていくのを感じる。
「ハッ!!」
掛け声とともに投げられたナイフの軌道は……問題ない。そして見切った通り、無事に刺さる。続けて放たれるナイフも、左右それぞれに綺麗に飛んでいき刺さる。両手にも乗せているのでそちらにもというわけだが、予想以上に良い腕だ。今のところ全くブレが無い。続けてさらに10本ほど投げた後、いよいよラストだ。見るからに太く、わかりやすい物だ。
「ふっ!?」
投げ切る直前、どこかで祝いのためか魔法であろう火球が撃ちあがった。観衆もびくつくほどの爆音、それは腕をすべらし、軌道がずれる。このままでは当たる、そう芸人は感じたことだろう。
─キン!
「え?」
その声は誰の物だったのか。無言が場を支配する中、抜き打ち気味に俺を振り抜いたお嬢様の手によって、ナイフは上に跳ね上げられる。そのまま腰に戻してるから何があったのか分かった人は少ないだろう。お嬢様が頭の上の果実を手にし、前に差し出すようにするとそこには真上からナイフが落下。最初から計算ずくですよ?と笑顔を顔に浮かべ、まだ戸惑う芸人の横に行って頭を下げるお嬢様。
観衆はそれに声をあげ、わけがわからないというままの芸人もそのまま頭を下げて終わりだ。専用の壺に投げ込まれる硬貨は俺が見ても相当な物だ。問題は、次をやることがないということだろうか。
「すすすいません!」
「いいんですのよ。あれは仕方ありませんわ。それより、ごめんなさいね、次はお付き合いできませんの」
今回はたまたま手伝えたが次は同じことができない。人々は刺激に慣れてしまうから、少なくともこの祭りの間はただ的に投げただけでは受けが良くないだろう。かといって同じように人を相手に投げるのは問題も多い。そのことがわかってるのかわかっていないのか、彼からの返事はない。
彼の顔を見て俺は勝手に納得してしまった。そりゃあ、お嬢様に伏し目がちな顔で手ずからおひねりを渡されでもしたらこうなるよな。強さと美しさを同時に味わったんだから。
ぽやんとしたままの彼をおいて、そばにいた子供達と歩き出す。
『あっ、ほら、だからつつくと危ないって。ん? こいつ、吸われても平気だな』
「アナタ、トライに興味がありますの?」
「うん。僕、大きくなったら兵士になってお嬢様を守るんだ!」
普通なら、妙にだるい時みたいに力が抜けるはずだが、少年は元気な姿。つまりは今の状態でも魔力量が結構あるということだ。彼は最近孤児院に来た子だったかな?
「そう……帰ったらシスターと相談しなさい」
口調は優しいけれど、お嬢様としては戦いや危険な目に合わないならそれに越したことは無いと思っている。それでも危険の少ない職業というのが限られる世の中、一番就職しやすいのが……兵士か、同じように外で戦うことになる冒険者だ。冒険者を職業と呼んでいいかは議論の余地はありそうである。
子供たちを送り届け、街を歩くお嬢様はどこか楽しそうだ。お祭りという騒々しさが楽しさをくれるのかもしれない。あちこちに笑顔が咲いているからな……あ。
『お嬢様、マスクマスク』
「何かありまして? あら……ちょうどいいですわね。このまま正体不明の魔女ということで……」
俺が揺れたことで路地裏にひっこんだお嬢様の顔に向けて器用にトゲを1本伸ばしてマスクをつつくと、仮面の下ではいたずらを成功させたようなお嬢様の笑顔。普段はあまり笑顔になれないお嬢様にとっては、この方がいいのかもしれないな。
「騒ぎに便乗して暴れる様な輩をちょっと懲らしめに行きますわよ」
『了解です! このさすまたが目に入らぬか!ってやつですね!』
かなり乗り気なお嬢様へと、俺もノリノリになってトゲを伸縮させる。どちらかというと魔女らしく杖とかホウキっぽい見た目になったほうがいいかな?と思いできるだけそれっぽくしてみるとお嬢様が笑った気がした。
人が集まれば騒ぎも集まり、良い人もいれば悪い人もいる。ものすごく単純な話で、街を歩くお嬢様の先には様々な騒動が転がっていた。時に柔らかく、時に厳しく。それらを解決していくお嬢様の姿は段々と目立つ物になっていくのだけど本人は気が付いていない。
いつしか、お話の魔女だーとどこからか子供たちはついてくるし、行く先々でもそんな扱いを受けてしまうのだった。ようやくというべきか、街の警備を担当している兵士の数名が声をかけてくる。
「アレスト様、私達の仕事がなくなるので……その」
「あら? それはそうですわね……でも、よく私だと……」
言葉は途中で止まり、兵士が見る先に振り返ると……そこには子供たちの姿。そのうちの結構な数は狙いがはっきりしている。お嬢様が貰うお礼のおこぼれにあずかろうというわけだ。
「はぁ……帰って壺を混ぜますわよ」
「「「はーい!!」」」
子供というのは現金な物。おこぼれがなさそうとわかると落ち込んだ顔をしたけれど、続けての言葉にすぐに笑顔になるのだった。
建国祭まで指折りで足りる日のことだった。
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