SO-033「焦りの階段とお嬢様・中」
「頼まれてくれるか?」
「王命とあれば……ですが、本当によろしいのですか?」
いつかのような問いかけ。俺はお嬢様の手の中で静かにしながら会話の相手の真意を探っていた。といっても場所も場所だ。表向きにはここで出会ってはいない、という状況での会話となれば嘘は少ないか、無いと見ている。
(今回はいつも以上に表立ってとはいかないし、念のためだからだろうか? それにしたって……)
こんな手を取るほど人材不足とは思いたくはないが、国の諜報機関なんかは何をしているのだろうか? 恐らくは、これ以上の問題が別にあるのだとは思うが……。
「人手はある……が、動けば警戒され、今後が読みにくいと判断したのだ」
「皆さんの姿を見ないと思いましたらそういうことですの……離れの管理は」
問題なく、手は向けてある。そう王様は言い切ることでお嬢様も安堵の息を吐く。つまりは、本来こういうことをするためにいる人員は各人の護衛や関連の仕事でかなり切迫した状態だということだ。そこで組み合わせを変えるとなるといらない注目を集める、と。
(建国祭に合わせて運び込まれる予定のルートで襲撃があったとなれば警戒せざるを得ないか……)
幸い、荷物や人員そのものは無事らしいが、次の襲撃がそうでないとは誰もわからない。かといって護衛を増やせばそれだけ中身の重要性を叫んで回るような物だ。お嬢様1人が行くのもどうかとは思うけどな。
『あ、そうだ。宝物庫の警護はどうするんですか? 半日ってわけにはいかない距離ですよ』
「ええ、そうですわね。いかがいたしましょう」
王様の許可をもらい、カリカリと自分の意見を伝えるとお嬢様も同じように心配していたのか1人と1さすまたの視線が王様に向く。外の警護はなんとかなるだろうけど、中となれば……お嬢様以外には王族しか……。
「外の配備を見直したうえでフェリテにやらせる」
「フェリテ様に!? っと、失礼いたしました」
それは隠し玉とでもいうべき手段だった。確かに、確かにではあるが自分の家、つまりは王家がどのような宝物を扱っていて保管しているのかをよく知るためにという名目で泊まり込みをすることが可能だ。けれども、それはもっと儀式的な物というか、通過儀礼のようにあっさりとしたもののはずだ。
万一を考えれば確かに第一王子とかにやらせるわけにはいかないんだろうけど、いざという時を考えたら危険は残る。表向きは宝物庫は安全、不審者は侵入直後に捕縛されているという状況ではあるがそれはあくまでお嬢様たち守り手がいるからだ。
「中にはいざという時までは入らせん。主に外で待機だ」
「わかりました。すぐに終わらせてきますわ。でもその前に一つ、お許しいただけますでしょうか?」
一礼の後、お嬢様が向かう先は……件の王子の部屋。
「アレストを招くのは3度……いや、4度ぶりか?」
「お招きいただき、ありがとうございます」
これまたややこしいことに、表向きはフェリテ王子のお招きという形での話し合いの場である。偉い人ってのは色々大変だよな。既に話は聞いているのか、こちらにも緊張感が伝わってくる。
話もそこそこに、お嬢様はフェリテ王子へと1枚の紙を見せる。精密な物ではないが、外には出すべきではない見取り図のようなものだ。どこかと言えば宝物庫の一部。大きな入り口がわかりやすくマーキングされていて、そこから少し入ったところに丸付けがしてある。
「これは?」
「いざという時にはここに潜り込むか、中に不審物を押し込んで鍵に魔力を込めてください。そうすると、宝物庫ごと壊す勢いでなければ開きませんわ。本当は危ない状態の宝物を一時閉まっておく場所ですの」
それをどうして知っていて、強度がどうしてわかるのか。そんなことを細かく聞いてくるほどフェリテ王子は察しの悪い子供ではなかった。覚えるように言われ、真剣な表情で見取り図を見つめている。
「……王子、申し訳ありません」
「何を謝るのだ? アレストは何も謝罪すべきことはしていない。むしろ、門外漢のことをやらせようとする我が家の問題だろう。ああ……1つ、教えてもらえるのならば聞いておきたい。正直、緊張している。この終わりの見えない焦りの階段を昇り切るにはどうしたらいいのだ?」
本当ならば、プラクティス家の人材が他にもいて、守り手が2人以上いればこんなことにはならなかった。お嬢様はそう謝ったつもりだったがフェリテ王子はまったく気にしていないようだった。その代りにとの問いかけに、お嬢様は……笑った。
「昇った先にいる目標を、自分のところまで引きずり降ろす……これが一番ですわね。ですが、ご無理はしないでください。物は直せます。あるいは作り直せばよろしいのです。ですからお体だけは……」
「わかった。使わないで済むことを祈っててくれ」
それは、宝物庫の守り手としては失格な言葉なのかもしれなかった。宝物よりも、人を優先しろということなのだから。お嬢様の中にも葛藤があるに違いない。その気持ちを、フェリテ王子は感じ取ったようだ。
その後は、招かれてお茶を一席一緒に過ごした、表向きな理由はそれだけでお嬢様は城を後にする。出向くのならば早い方がいい、そう思っての準備の時間だ。
「回復に麻痺……どんな毒があるかもしれませんわね。クロエ、そちらの深緑のも取ってちょうだい」
「お、お嬢様。本当に行かれるのですか? お外は魔物が怖いですよ!」
「クロエ、お嬢様がお決めになったことです。お嬢様、表向きは中で泊まり込みの警護を行うということでよろしいのですね?」
部屋に戻ったお嬢様はあまり量は持っていけないがそれでも出来ることはすべく色々とかき集めていく。ポーション類は元より、普段使わないような物までだ。クロエはその準備具合に一層心配を深めているようだけど仕方ないよな。あ、そうだ。
『お嬢様。二人に宝物庫の中のお嬢様への差し入れの名目で色々持って行ってもらったらどうですか?』
「トライ、冴えてますわね。ロイア、決まった時間にこの棚のポーションを届けて頂戴。クロエは……お弁当かしら?」
「はい! あ、こんなのどうですか!」
小動物のように駆けまわるクロエが持ってきたのは小さな人形だった。なんだか研究者というか、学者というか、そんな風坊の人形。さすがにフェリテ王子は人形遊びをするような男の子ではないが……んん?
『お嬢様、それ魔石が入ってます』
「魔石が? クロエ、説明してちょうだい」
「はい! 先日、この宿舎の周囲にも変な人がいたって兵士の人に聞いたので……こんなこともあろうかと! 魔力探知装置『貴様、見ているな君』です!」
名前はともかく、どう考えても劇薬です、ありがとうございます。細かい仕様は置いておいて、魔法の使えない兵士でも使えそうじゃないか?
「詳しい使い方を教えて頂戴。もう、こんな出発直前に貴女って子は」
口では文句を言いながら、お嬢様の顔はほころんでいる。それから……結局、お嬢様が王様とフェリテ王子へ向けた手紙を書いてからの出発となった。
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