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SO-027「頑張る男の子とお嬢様・前」


 その日、お嬢様は困惑と驚愕の中にいた。相手が王様でなければ、にわかには信じがたいほどの話が飛び出したのだ。それは定例とも言える、宝物庫及びその周辺への侵入者の報告の場で起きた。


「お披露目の時にはあれだけ褒めたたえておきながら……面従腹背とはよく言った物だな」


「私としては展示されていなかったものが狙われるというのは喜ぶべきなのか微妙なところですわ」


 今日は珍しく、謁見の間ではなく王の私室での報告をするようにと告げられたお嬢様。俺が知る限りでもこの部屋に来たのは数えるぐらいだという。そのほとんどがお嬢様が幼少期、つまりはお役目の仕事を始める前と言うのだからなんとも面白い話だ。


 今は多くを失っているが、プラクティス家はそれだけ王家に近く、親交が深い。ただ、宝物庫のことを考えて血は交わらないようにとされているようだ。ただ……直系はともかく、親類まで行くと調査しきれないところもありいくらかは混ざっているだろうとはお嬢様の祖父が言っていた記憶がある。


(王位継承権が生じないという点では騒動の原因にならずにすんだってところだろうな)


「それでは別件の方をお伺いいたしますわ」


「ふむ?」


 表向きは王自身の事情から報告の場所を変えただけ……ただそれだけではあるが、お嬢様は先を促した。ここと謁見の間での大きな違い、それは近衛であるとかうるさい貴族だとかの目と耳が無い事である。どうしても謁見の間だと、時間の合った彼らが同席する決まりの以上は近衛以外にも1人か2人は同席することが多いのだ。彼らは口を出すことはあまりなくとも、聞かせたくない話というのもはどこにでもある。


 お嬢様の問いかけに、しばらくはごまかすようにあごひげを撫でつつ沈黙していた王様だったが、ついにその口から告げられた内容は、お嬢様も驚く物であった。


「フェリテが討伐の儀を行う日取りが決まった。そこに同席するように。いや、もっとはっきり告げよう。すぐそばで守ってやってくれ」


「……ご命令とあらば……しかし、よろしいのでしょうか? 私がそばにとなればそれは……」


 さすがのお嬢様も言いよどむのも無理はない。三男であり、要は長男の予備である次男のさらに予備、そんな立場と言っても王族の男子には変わりない。長姉、次姉はもう嫁ぎ先が決まっていると言ってもそれはそれだ。


 つまり、王は王族であるフェリテ王子に今ついている護衛、討伐の儀についていく面々では不安だと宣言したことになるのだ。日々鍛錬にいそしんでいる彼らにとってはそれはなんとも表現しがたい大事件のようなものに違いない。


「……笑っても構わん。少し前にな、お告げがあったのだ。このままでは3番目の星が、落ちると。それがフェリテのことなのかはわからん。が、無視も出来ぬ。表向きはただ単に私が重用したかのようになるが……頼めるか」


「離れの宝物……あちらにもお伝えいたしましたが、私にとっては宝物庫の宝物も、王族の方々もどちらも守るべき宝物でございます。私ごときにここまで打ち明けていただけたのであれば、星は天上に輝くままの未来を掴んでご覧にいれますわ」


 言い切ったお嬢様は凛々しさの塊だった。そんなお嬢様へ、王様は頼む、とだけ告げてお嬢様を下がらせた。絨毯の敷かれ、足元がひどく柔らかいであろう廊下を静かに歩きながらお嬢様は外には出さずに内心でため息のような物をつく。握られたままの俺だからこそわかる変化だ。


『それにしても、部屋の外の近衛は何も言いませんでしたね』


 お嬢様が一見すると何の変化もないように見える状態で歩いているのもそのせいだ。ここは王の私室がある区画の廊下。一定間隔ごとに兵士はいるし、今も視線は感じる。幾人かには見覚えがあるので、お嬢様のことを悪く思っていない兵士が多い状態なのかもしれない。


「王も人の子。ですけれどそれを表に出すわけにはいかない……まるでお役目中のお爺様やお父様のようですわね」


 小さくつぶやかれた言葉は、言葉以上の意味を持っているように感じられた。お嬢様は……普通でいたかったのだろうか? 気が付けば他に選択肢が無い状態だから、子供の時の思い付きをそのまま守っているのだろうか? もし、もしも……心のどこかでお役目にお嬢様が疲れているなら……俺は何が出来るだろうか?


 妙な悩みが沸き立つが、時間は無情にも過ぎていく。王への報告から数日後、フェリテ王子が討伐の儀を受けることが宣言され、そこにお嬢様が同行することも告げられた。


 多くはただ驚きの人事ということでどよめいただけですんだが、一部は良くない視線をお嬢様に向けて来ていた。主だった視線の主は、当然と言えば当然かもしれないジャスタ家の2人だ。どうしてその場所にザイヤがいたのかは謎だが、どうせ誰かの付き添いだったのだろう。


 多くの根拠のない噂と、いくらかの好評と、そしてまたいくらかの悪評をはらみながらその日はあっさりとやってくる。


「フェリテ様、本日はよろしくお願いいたしますわ」


「あ、ああ。アレストのような令嬢が見ているのなら恥をかくわけにはいかない。私も王家の男だということを証明して見せる」


 用意された馬車、人員、どちらも一般庶民的には立派で豪華な物だが、王族の行事としては比較的控えめだ。それもそのはずで、討伐の儀は聞く限りではそんなに危険がある話ではないはずなのだ。


 だからか、本来ならば護衛として近衛が数名同席する馬車に、お嬢様1人と俺という組み合わせだけになっても危険性を訴えてくる兵士はいない。結婚前の男女が密室同然の場所にということは話が上がったが、これだけ人目があって何か出来るわけでもない、とフェリテ王子に言われては引かざるを得ない。


「なあ、アレスト。お前は……魔物を殺せるのか?」


「プラクティス家は無敵無敗、そして私自身は不殺必縛を信条としておりますがそれはあくまで宝物庫での話ですわ。けれど、形は違えどフェリテ様も国の宝物に変わりはありません。であれば排除はしても、魔物も殺すなとなれば殺すつもりはありませんわね」


 それは言い換えれば、お役目としてそうしてほしいと王命があれば致し方ない、そう考えているということでもある。冷静な表情のままのお嬢様の答えに、フェリテ王子は別の意味合いを読み取ったようだ。


「なるほど……つまり、それが選べるほどには強いという自負があるわけだ。すごいな、アレストは」


「才の無い私に出来ることです。フェリテ様も私より高みに昇られることでしょう」


「そうか……アレストが言うならそうなのだろうな」


 お嬢様自身は本心からだと思うけれど、王子の返事はやや硬い。フェリテ王子以外の面々ももしこの言葉を聞けば思うことだろう。それは難しいのではないか、と。俺もそう思う。


(でもなあ、お嬢様は自分はまだまだ未熟って思う人だからなあ)


 何とも言えない沈黙が馬車に満ちたまま、王城から一刻ほどの場所にある敷地に一行は到着するのだった。





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