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SO-026「夢見るさすまたとお嬢様」


 夢を見ることが出来るのは動物だけである。なんて言ったことを言ったのは誰だったか。恐らくは考える頭があるかどうかと行ったことだとは思うが、その人も全く想定はしていなかっただろうな。俺のような、物に意識があるなんて状況は。


 どうやって熱を感じているかや、痛みだとか柔らかさも感じられるのは我ながら謎しかないが大した問題ではないはずだ。大事なのは、刺激を味わう心である!


(あああ……日差しを感じるぅうう)


 今日もまた、お嬢様とクロエ2人の美少女に挟まれるようにして隅々まで洗われた俺は日差しの当たる壁に立てかけられている。伸びたトゲもその温かさに柔らかくなってしまいそうだ。感じる温もりが、まるで俺を洗っていた時の2人の肌の温かさのようにも感じられてしまい、もしも顔があればだらしないほどに緩んでいることがわかるだろう。


 まあ、顔があったら洗ってはくれないだろうが。もしかしなくてもそもそもの問題でお嬢様が俺を選んではくれなかっただろうな。顔のあるさすまたとか、他の武器でも欲しくないと思う。喋るぐらいならまあ、ありかもしれないが。


 日差しのあまりの気持ちよさに、人間のように伸びをしたい気分だった。そういえば、日差しに当たりたいときは広がって、そうでないときは体を閉じる動物とかいたな。いつのどんな記憶なのか定かではないが、覚えている物は覚えているのだ。


『どこまで伸びるやら……んんん!!!』


 俺を手にするとある程度の魔力が無いと困ったことになるらしいが、こうして大きさとかを変える分にはそんなに必要としない。お嬢様が握っていることで中にため込んだ分や、周囲のあれこれをゆっくり吸えばいいのだ。


 長さを伸ばして……トゲも伸ばしきって……おお? すげえ伸びてる。最初は普通のさすまたサイズだったのに、今だと城内の天井に引っかかりそうなぐらいだ。これ以上長くすると倒れそうだからこのぐらいにして……トゲというかUの字部分もまっすぐになったり湾曲したりと意外と自由度があることに前に気が付いたんだよな。


 まったく、俺の宿っているさすまたを作った奴の万能性が垣間見えるというものだ。もしかしたら、俺という意識に従って形を買えるだけなのかもしれないが。


『それにしても……温かい。眠くなるってことは俺も夢が見られるのかな? ははっ』


 そんなことを適当に考えていると不思議と意識が薄らいでいく。段々と今と夢の区別がつかなくなっていくのを感じた。


─ふと意識が浮上すると俺は別の場所にいた


 それが夢なのか、単純にいつかの記憶を思い出しているのか、それはわからない。俺は誰かの手の中にあり、戦場を走っているようだった。戦場とわかった理由、それは視界いっぱいというレベルで武装した何者かたちが争い合っているからだった。人間に見える相手もいれば、物語でしか見たことがないような不気味な奴ら、亜人と呼べそうなやつらまで様々だった。


 俺は誰かに握られながら、戦場を駆けていた。俺の持ち主はお嬢様のように強いのか、こちらに迫る相手の多くは驚愕か、恐怖をその顔に張り付けていた。容赦なくそこへ振り抜かれる俺。その時に俺が相手をどうしているのかはなぜかぼやけている。肝心な部分が白く空白なのだ。殺しているのか、いないのか、それすらわからない。


 殺している? なぜ? 俺が……誰かを殺せるはずがない。もちろん道具は使いようだ。石突部分で貫けば痛みとなり、本来の側もやろうと思えばやれなくはないかもしれないが……。


 ただわかるのは、使い手は俺を信用しているということだった。こんな戦場に俺を持っているのだから当然と言えば当然だろう。それから何度も俺は振るわれ、何人もの相手へと敗北を刻み続けた。


 大きな二本足の異形へと叩きつけるように俺が振るわれ、見事にそれを打ち倒した時に俺へと長い髪が重なる。その持ち主は使い手本人だった。


 使い手は偉い人なのだろうか? 彼女(なぜかそう思った)が声を張り上げ、腕を振るう度に周囲で彼女に同調する何者かたちの叫びが聞こえ、大気すら震えたような気がした。飛び交うのは声だけでもなく、矢だけでもなく、明らかな魔法も含まれていた。


(何か、来る!)


 そんな最中、俺は何かの大きな気配を感じ取り、使い手に叫んでいた。届くはずのないその声、けれども使い手がこちらを向いて微笑んだ。その顔に誰かを思い出しそうになりながらもすぐに別の方向に向き直る使い手。その視線の先には……大きな異形がいた。瓦礫を足場にした四つ脚の獣。その爪は鋭く、その鱗は強靭そうで……。


 周囲を吹き飛ばすかのような咆哮が響き渡る。多くがその咆哮に衝撃を受ける中、大よそ人の身では敵いそうにない相手へと使い手は俺を構えて駆けだした。


 迫る爪を避け、振るわれる尻尾に乗りあがるようにして勢いを殺しつつ器用に異形の体の上を走る。そしてその首筋へと俺を力いっぱい突き立て……瞬間、全身を砕かれるような衝撃が俺を襲った。同時に意識が混濁していくのがわかる。今の戦いは、異形のとの戦いはどうなったんだ! 使い手は、彼女は!


「……!」


 気が付けば、声が聞こえた。白い靄のような、太陽を正面から見ているような眩しさを感じる白さの中。動かない体、まとまらない意識。


「……イ!」


 声が聞こえる。俺を呼ぶ声……ああ、そうだ……俺は彼女に応えなくてはいけない。


『はいはい、なんですか? お嬢様』


 そういって震えると、視界が急にクリアになってきた。視界に入るのは見覚えはあるがこの高さには見覚えが無い。随分と……上の方だった。よくわからない光景に、意識が混乱し始める。


「トライ! いつまで日向ぼっこしてますの? 持ちにくいから縮んでくださる?」


『あっ、すいません!』


 ようやく俺は自分の状況を把握した。日差しを浴びようと、伸びていたのだ。まるで屋敷の壁に伸びるツタのような姿になっていたに違いない。目撃されていたら……たぶん何人かには見られたが、また変な噂になってしまうな。


「何度呼び掛けても反応がないんですもの。心配しましたわよ?」


「ど、どこかにひびがあって水でも入り込んだのでしょうか」


 なんと、一緒にクロエまで来てくれたようだ。俺を心配してくれた2人の美少女……んんん! 最高だ! 俺はこの環境に満足しているぞ! 守る相手もいるしな、今度は完璧にだ!


(完璧に……? 俺は何をどう……)


 考えてからよぎった何かに、再び思考の中に沈みそうになる俺。だが視界に入ったお嬢様の横顔に意識が吸い寄せられた。この凛々しさ、頼もしさの中にもある女性らしい優しさ……これは…この感覚は……。


 思い出せない何かを抱えながら、今日も俺はお嬢様に握られながら王城へと向かうのだった。


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