SO-019「お嬢様と幼お嬢様たち」
『俺……ここにいてよかったんだろうか……』
誰にも届かないつぶやき。だって……仕方ないだろう? こんな場所にさ、俺みたいなさすまたが似合うはずがないんだよ! 誰だってそう思うはずだ! なにせ……今いる場所は……。
「あら、美味しい。旬の物を持ってきましたのね」
「さすがアレスト様。物の目利きでは王都でも五指に入るという噂は伊達ではありませんね」
「わたくしは武でもかなりのところまで行くと耳に挟みましたわ」
丸テーブルを囲み、談笑するお嬢様たち。みんな従者を従え、持ち寄ったお菓子やらなんやらを摘まみながらお茶を優雅に飲んでいる。そう、今俺がいるのは年頃のお嬢様たちのお茶会なのだ。どこのお茶会でも参加するとなればそこに行くメリットデメリットを考え、相応の格好と準備をする物……ってロイアが言ってたからたぶん間違いない。
そう考えてから見て見ると……俺が妙に目立ってるな。そりゃあ、お嬢様たちについてきた従者の中にはやるやつが何人かいるから、戦力という点ではそっちの方が目立つかもしれないが、なにせさすまただからな。他の荷物が食べ物を入れて来た可愛らしいケースだったりするのに対して、さすまただ。この前の展示会で気に入ったのか、今日も俺はリボン付き。
(リボン付きって言うと何か強いような、カッコいいような? なんだろうな?)
そんな内心の疑問は横に置いておき、参加しているお嬢さんたちを観察する。みんな当然のように、若い。むしろお嬢様の方が上から数えたほうが早いんじゃないだろうか? 確かお嬢様のすぐ下の子ですら15歳になるかどうかだったはず。直接伝わったら絶対怒られるけど、お嬢様はもうそろそろ結婚していないとまずい年齢である。子供だって……早い人なら出来ているぐらいだ。
俺のどこかにある記憶は、それは早い!とか叫ぶんだけどこの世界じゃ10歳になったら許嫁がいたとかも普通にあるからなあ。まだ幼さの残る少女なのに誰かのお嫁さん……つまりはお手付きになるとかっ! 羨ましい! 俺にも!って俺さすまたや。さすまたに性別とかあるのかな? メスのさすまたとか世界のどこかにいない? いないかな?
「トライ、あまり揺れるとはしたないですわよ」
『おおっと、申し訳ありません。お嬢様』
ささやくような声に身が引き締まる思いだった。小さいながら、鋭さのこもった声だったからね。そりゃ背筋も伸びるってものよ。お嬢様がこんな声になるのも理由はある。今のお嬢様の立場は結構微妙だ。悪い噂もあれば、良い噂もある。ただまあ、残念ながら人間、悪い噂の方が耳に残りやすい物である。
そんな中でも、お嬢様を誘ってくれた彼女たちが楽しんで帰ってくれるのがお嬢様としては何よりの結果なのである。例え、従者の何名かは良い顔をしていなくても、だ。っていうか見えてないところでその顔をしろよな、まったく。
「アレスト様、どうしてそちらの……さすまたですか? それをいつも持ち歩いていらっしゃるの? お役目の時だけでよろしいではありませんか」
子猫のような可愛らしさで、この中で一番年下……確か12歳か13歳になるサティお嬢様がそんなことを言って来た。そういえば彼女は俺をまともに見たことが無かったかな? 俺はお嬢様と一緒に遠くから見たことはあるんだけどね。
サラサラのピンクの長髪、桃の花びらをそのままドレスにしました、というような姿は見る者の保護欲をひたすら誘う姿だと思う。細い指先を口元に、首を傾げる姿も演技とは思えない天然の仕草だ。これで演技だったら騙されても本望、そんなレベル。
「サティ様にはそうかもしれませんわね。確かにトライは刃は無いですが武器ですから。着飾ったとしてもそれは変わりませんわ。でも、これは私にとってはサティ様のペンダントのような物なのです」
「私の?」
まだ子供らしさが表に出てくるサティお嬢様は、無造作に自分の胸元を広げ、そこから1つのペンダントを取り出した。慌てて彼女の従者が止めようとするがもう遅い。話の流れからもっと早く近づいてそっとハンカチなりで胸元を画すべきだったのだ。ってそれが出来たら女主人に仕えて苦労しないわけだが。
幸いと言っていい物か、俺以外は無粋にもそこに目を向けるような従者はいなかったし、他は同じ同性のお嬢様ばかり。唯一見てしまった俺も……まあ、言わなきゃわからないからな、うん。そうしておこう。
「サティ様のそれも、私のトライも……同じ物ですわ。王に頂いた物として」
「あっ……」
「そうですわね! サティ様も絵画コンテストで幼少の部の最優秀として頂いた物ですわ」
他のお嬢様たちにも言われ、どこか誇らしそうにそのペンダントを撫でるサティお嬢様。少女……まだ幼女っぽい子が自分の胸元に飾られた装飾品を撫でるだけなのに妙などきどきを感じる……これが本物のお嬢様ってやつか!
「直々に頂いた物だからと飾ったり、仕舞い込んだりせずに身につけておく。それも一つの気持ちの現われだと思いますわ。ましてや身につける物を頂いたのですから」
お嬢様の言うことは王様本人がいつだったか言っていたことだから間違いない。だから、ウチの王様はそうと試したい相手に普段使いも出来る装飾品なんかをたまに与えるんだ。それでソイツが後生大事に仕舞い込んでると、ひょんなときに持ってないことを話題にするんだよな……。
その後は順調にお茶会は進む。俺にはわからないような女の子の会話だ。多少歳が離れてるというのに、よくもまあ話題が尽きないものである。お嬢様にもこういった時間は大切だ。そう思いつつも噂が邪魔をして頻繁にとはいかない。今回のお茶会だって、普段から勝手なことを言っている奴らにしてみれば、若い少女をだまそうとしているんじゃないか、なんて伝わるだろうことは予想できる。
(人の噂はなんとやらと言うけれど……もやもやするな)
「こうしてお話してると、アレスト様のお噂がどれだけ無責任かがわかりますわ! お父様もお母様も、今日のお相手がアレスト様だともし言っていたらお許しいただけなかったかも」
「もしそれで、黙っていたことを叱られては申し訳ありませんもの……どうぞ、次からはお気を付けくださいな」
お嬢様としては自分のせいで誰かが悲しい目にあってしまう方がどちらかというと、辛い。自分は耐えればいい、そう考える人だからだ。見た目はまさに悪役!な縦ロールで高笑いが似合って、目線もひたすら鋭いのにこういう部分は乙女で、まるでイケメンなのである。
「アレスト様……ご立派ですわ」
だからこそ、少女たちは時折アレストお嬢様を絵本から抜け出て来た王子を見るかのように見つめてしまう。これで性別が男だったら完璧なイケメン具合だもんな……お嬢様。お嬢様のことを気にしていた従者たちもいくらかは考え方を変えたに違いない。そう思いたい。
「こんな時間ですわね……それでは皆様、ごきげんよう」
楽しい時間は早く過ぎる物。今日もお役目の時間が来てしまった。俺を掴み、席を離れる姿はまるで……戦場に赴く戦士のように見えたことだろう。都合よく、夕日が後光のようにお嬢様を照らし出していたしな。
いつかきっと、お嬢様が色々と気にせずにお茶会や夜会にも出れるようになりたいものだ。主に、年齢的な意味で。
「トライ?」
『あっ、ハイ』
見も凍るような冷たい声。本当に……お嬢様は俺の声が聞こえていないんだろうか? そう思う瞬間であった。
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