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SO-020「お嬢様と新しい金策」


「ええ、ではそのように」


「ふふふ……これでまた売り上げが増えますよ」


 ここだけ聞いたらただの悪役同士の会話。そんな言葉を交わしているのはお嬢様と、イブンだ。2人の視線の先には1つの机。その上に並ぶのは3色の色をそれぞれ携えたポーションだ。元々、お嬢様はプラクティス家に伝わる専用のポーションを一般向けに再調整した物をイブンの店に卸している。それが魔女のなんたらだとか呼ばれて一部には有名なのである。


 そこに先日偶然から産まれた、ポーションモドキ、まあ夜に役立つアッチ方面の薬と思われてる奴が加わり、お嬢様の懐事情は結構回復している。ただ、圧倒的に足りない! 足りないのだ! 庶民として暮らすには十分すぎるだろうけど、俸給はなくとも貴族、役目を負った1人としては使うことがいくつもある。お嬢様の場合、暴れることが多いから靴なんかも痛みが早いのだ。


(それに、お肌の手入れもしないとな……女は金がかかるってよく言ったもんだ。ってこれは別の世界の話か?)


 記憶があいまいで、果たしてこれが元々の俺の記憶なのか、さすまたとしてこの体(?)が持っていた物なのか判断がつかない。どっちでも今の俺に役立つのなら構わないんだがな……なんにしても喋られないのが辛い。この前のポーションモドキは本当に上手くいった。


 今日ここに来たのはそんなポーションのバリエーション増加の実験と、一緒に連れて来たクロエのためだ。


「クロエ、調子はどうですの」


「はい、お嬢様! えっと……こんな感じになりました!」


 最初の頃のおどおどとした感じはどこかに引っ込み、クロエは歳相応の元気な言動を取り戻していた。城内だと誰に何を言われるかわからないから大人しくしているけれど、外となればお嬢様自身が大人しくしてるのを許さないから自由そうだ。


 クロエは流民の娘なのだということも先日知った。遠く東の島国から渡って来た人達の子孫で、国境沿いに小さな集落というか、国とは呼べないだろうけど誰も住んでいなかった土地に住み着いていた一族らしいのだ。土地としての価値はないに等しいとはいえ、それでも勝手に住むことを許すほどこの国は甘くなかった。そのあたりは色々あったらしいのだが結果として、土地に住む代わりに国に組み込まれたのはごく最近らしい。と、そんな経緯があってクロエは城内にメイドとして勤めることになったわけだ。


 彼女がおずおずと机に乗せたのは、木版に何やら記号めいた配置で納められた親指の先ほどの石達。狙いを考えると燃えそうだけど……お嬢様が試しに力をこめると熱が出るのは木版から拳1つほど上の方だった。


「なるほど……属性のこもった石を使って陣を組み、力の方向性を決めるわけですね」


「造りはつたないけれど、宝物庫にあるものに似た気配を感じますわね。これは行けるのではなくて?」


 クロエがやっていたのは、魔法の触媒ともなる魔石……そこらの石に自然の魔力が染みついたりした物……を使って新製品が出来ないか?ということだった。クロエの一族が住んでいた土地は富んでいるとは言い難く、生活は苦しかったらしい。それでも魔石だけはそこそこあったようで、上手く使いこなして冬も暖を取っていたのだとか。


「王都ともなれば薪の消耗は馬鹿になりませんからね。しかも一度火をつけたら自由に切り替えは出来ない……なるほどなるほど」


 クロエの作った試作品一号、俺の記憶が名付けるならば、マジックコンロ君一号、と言ったところか。人ならば誰でもある程度は持っている魔力を指定した場所に注ぐと、魔石同士が共鳴し合って上向きに熱を発する……そんな奴だ。上にフライパンでも置けば火力はともかく、調理は出来そうであった。


 今は荒事の時間ではないので壁に立てかけられたままの俺だが、そんな俺から見てもクロエは当たりの人材だと思う。気が利くし、元気もあるし、何よりお嬢様に忠誠を誓っている。信仰に近いんじゃないかと思うぐらいだ。状況からしてそうなるのも無理はないけどな……。


「あの……どうでしょうか」


「そんなに怯えなくても、駄目だったからとまたあんな男の元に戻したりはしませんわよ」


 まるで家族にそうするかのように、震えるクロエの黒髪を優しく撫でてあげるお嬢様。俺を伝説の武器であるかのように振り回し、無敵無敗のお嬢様であるがその指は怪我1つ無く、見る人が見れば理不尽だと逆切れしそうなほどに美しい。


 マジックコンロ君一号の鑑定をしていたイブンでさえ、ちらりとその様子を見てしまうほど絵になっている。って、仕事しろ、仕事! 思わず揺れてやるとバランスが崩れて床に落ちてしまう俺。その音が妙に響いてしまうのだった。


「はっ!? っとと……ええ、十分でしょう。見た目も整えれば……魔石の仕入れがこうで……木材も断熱素材に変えて……クロエさん。これは一族の秘術とかそう言った物ということは?」


「特にないと思います。でも、出来れば他は使わないでっていう風にはならないと良いなと……」


 お嬢様の代わりに床に落ちた俺を拾い上げたクロエは、胸元に俺を抱き寄せながらそれだけをしっかりと口にした。残念ながらお嬢様のようなメロンの無いクロエでは何かに当たることは無いのだが少女にぎゅっと握られるってのはこれはこれで……でへへ。


「イブン。開けると配置が壊れてばらけるような仕掛けは出来ませんの?」


「そう来ますか……魔石がどれぐらい持つかが問題ですね。まあ、それは売り方の問題ですからなんとかしましょう。それに、彼女の一族の土地とも交易は無いわけじゃありませんからね。一筆書いておきましょう」


 クロエのやさしさ、それはこのマジックコンロ君が普及した先、一族が自由に使えなくなることを危惧しているのだ。それがわかるからこそ、お嬢様は彼女の意思を尊重したいのだろう。さすがというべきだが……これ、見方を変えるとお嬢様とイブンがクロエの一族を通して技術を独占してるようにも見えるんだよなあ。


「あのっ! 私、頑張ります! 頑張って、もっとお嬢様が楽できるようにっ!」


「あら、そんなことを考えていたの? これは私が好きでやってることなんだもの。クロエもそのつもりでいなさい」


 笑みを浮かべての言葉に、きょとんとしてしまうクロエ。イブンはそこそこの付き合いだからもうわかっているんだろう。当然、長い付き合いの俺もだ。要は、お嬢様は今の状況を苦境と思っていないのだ。もちろん、大変なことはある。けれどそれは何もない人生と比べれば色が付き、音もある素敵な世界。前にそんなことを言っていた。


「お嬢様……!」


『ん? ちょっ、クロエっ! 漏れてる、漏れてる!』


 手の中に感じた魔力、それはクロエが感極まって制御に失敗した時の合図だ。彼女の一族は昔から狩りにも魔法を使うような狩猟民族だったらしく、子供の内はこうして制御ができない時があるらしいけれど……。


 勢いよく揺れることでクロエも自分の状況に気が付き、慌て始めるけれど問題はない。ここにはお嬢様もいて、俺もいる。何かといえば、魔法を使う侵入者の相手はお手の物だ。そっとお嬢様の手が俺に伸び、俺とお嬢様が魔力的につながると……そばのクロエから恐らく魔力であろう力が流れ込んでくる。


 相手の魔法を無力化し、吸収してしまうお嬢様の切り札の1つだ。これをうっかり宝物に使うとその能力が消えてしまうので扱いは非常に難しい。ここなら問題は全くないけどな。


「何度見てもお嬢様のソレは侵入者泣かせですね」


「あら、か弱い乙女だもの。それぐらいはハンデを頂きませんとね」


 魔力暴走の収まったクロエからの尊敬のまなざしを浴びながら、お嬢様は高笑い。その姿が妙に様になっていて……俺も伝わらない笑い声をあげてしまうのだった。


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