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SO-018「第一王子とお嬢様」


 その日、宝物庫は普段訪れない客を迎えていた。正規の資格がある訪問者……それは男。


「ここに来るのも何年ぶりだろうか」


「ガイエ様が入られたのは記録上ではもう5年以上前のことですわね」


 物怖じしないお嬢様の発言に、相手のそばにいた屈強な男達……専門の護衛を兼ねた近衛の兵士の視線が集まる。もっと立場を考えろ、そう言いたいのだろうが本人からそれでいいと言われているのだから逆にそれを守らない方が問題になる……とはなかなか思えないんだろうな。


「それではお二方とも中へ。失礼いたします」


「うむ」


 威厳のこもった返事の主は、誰であろう王様だ。そんな彼とガイエと呼ばれた男が宝物庫に入ると同時に、お嬢様は扉を閉める。閉じるまでの、近衛の視線は苦々しい物だった。


(文句は血筋と役目の家以外、普通には入れないようになっているこの宝物庫に言うんだな)


 ついてこられない彼らの気持ちもわからないでもないが、実際に入れないのだから問題だろう。もちろん、正規の手段を取るか、侵入者たちが使っているような相応の手順を使えば入れなくもないだろうけど、そうするだけの意味がないと言われては仕方がない。

 宝物庫の性質を考えれば、入れる人間が少ない方が問題も少ないのはどの国でも一緒だろうからな。


「ふう。ようやくうるさい視線が無くなったよ。礼を言うよアレスト」


「ここには限られた者しか入れない、それだけでございますわ」


「王を継ぐ者の定めだ。慣れるしかないぞ、ガイエ。さあ、選ぶがいい」


 優雅な仕草で頭を下げるお嬢様と、それを微笑んでみるガイエ。映画の1シーンのような光景も、真面目な王様の言葉で次のシーンへと動き出す。今のところ、宝物庫には王様とガイエと、お嬢様のみ。男2人と女1人とやや特殊だが、何か起きるとも思えない組み合わせだった。


「前に来た時と比べて、物が増えたね……これは迷いそうだ」


 髪をかき上げる仕草1つとってもキザなほどに似合っている、ザ・イケメンという風坊のガイエ。金髪の撫で髪に高身長、鍛錬は欠かさずにと鍛えてあるうえに甘いマスクと完璧としか言いようがない。


(けっ、俺だって負けちゃいないぜ!って俺顔が無いんだった、さすまただ!)


 出来るだけ震えない方がいいかなと考え、今日の俺は今のところなんであるのかわからない心の声だけだ。ちらりとお嬢様の視線が来た時には、わずかに震えることで見てますよーと伝えるぐらいだ。


 昼間とは言え、何者かがこの瞬間を狙ってこないとも限らないのだから、警戒は必要ということだね。


「この短剣は? 見てもいいかい」


「ではこちらを」

 

 差し出されたのは妙な文様の刺繍が施された手袋。貴重品を直接触らないようにという配慮とするなら、少々問題があるのではないか?と言えそうな一品だ。まるで邪教の信者が身に着けているかのような紋章に、さすがのガイエ王子も驚いている。


「こちらは柄を手にすると発動する物となっていますので……」


「なるほどね。そのための遮断、か」


 お嬢様から手袋を受け取り、台座に収められた妙に輝く短剣を手にする姿は絵画のよう。その手にした短剣が何気に危険な物ということを考えなければ。その危険も手袋が諸々の干渉を遮る仕組みのため、今は大丈夫だ。


 年下で、立場も違うはずのお嬢様の言うことをちゃんと守るところは好感が持てる。どんな物で、危険性があるということをしっかりと認識している証拠だ。この国の第一王子として、思慮深さと……聞こえてくる限りではそこそこの野心も持つ彼の代になれば国は広がるだろうね。戦争が良いか悪いか、俺には言えないがそこそこで我慢出来ていれば世の中に争いごとは産まれないだろうとは思っている。


「こちらは相手の魔力を吸い取ることが出来るそうですが、それまでにその倍は使い手が消耗するそうで……手にしたそばから吸われ始めるそうなのでそれも当然ですが」


「これそのものは役立たずでも技術が洗練されてしまえば凶器となる、か」


「うむ。よく覚えておくように」


 しっかりとした頷きを王様に返すガイエ。この調子なら彼が暴走し、この中にある危険な道具たちが戦場に放り込まれるということはなさそうだなと思った。結局のところ、この宝物庫には単純にお宝としての価値があるものと、有用な魔道具、そして危険な魔道具が一緒に仕舞ってあるのだ。


 危険な物は分けて保管すべきでは?という話も過去には出たと記憶している。お嬢様に出会う前の俺がここに保管されている最中も、その時々の王と守り手がここを密談の場所に使っていたのだ。主に、戦費をどうするかといった相談しにくいことのために。そんな中の1つに宝物庫を増やし、ここには危険な物だけを置いてはどうかという話だったが……結局は、そうすることで逆に相手が狙いやすくなるのではないか?といった懸念とともに立ち消えた。


(さすがに3か所はお嬢様も守れないしなあ……)


 お嬢様に限らず、これまでのプラクティス家の守り手は優秀だ。無敵無敗の名は伊達ではないのだ。俺が、というわけではないが見てきた限り、奪われたことは一度もない。言うなればこの宝物庫は他国の暗部や名を上げたい泥棒の墓場、全てを吸い込んできた罠ともいえる。そんな罠の主のお嬢様は……巣にひっかかった獲物を捕らえる蜘蛛のようですら感じられるのかもしれないな。


「王子、マントはこちらでお預かりいたしますわ。ちょうどその場所ですので」


「ああ、よろしく頼むよ」


 脱ぐ仕草すらも美しく、ガイエからマントを受け取ったお嬢様が石膏像に着せて何事かを呟くとマントと石膏像は淡い光に包まれる。不思議なことに、こうすることでずり落ちることはなくなるのだ。まったく、昔の奴はこんなところにまで変な技術を使うのだから意味が分からない。この石膏像自体、もう何百年も前からあるから……これだって立派なお宝じゃないか?


「さてと、良いのがあるといいのだが」


「アレも私が良かれと思って選んだのだがな。まったく、親不孝者め」


 他に聞く人間もおらず、お嬢様もいちいち口外するような人間じゃないことは二人ともわかっているのか外よりは砕けた会話がぽんぽんと飛び出してくる。やはり、他の目がないこの場所はそう言った使われ方がされやすい場所ともいえるようだ。


 今回、ガイエは子供の頃に王様より貸し出された宝物であるマントを返し、新しいものを借りに来たのだという。この国では一定の年齢になったら宝物から1つ、貸し出す風習があるらしいんだよ。細かいことは俺も知らない。そして、今日はその交換というわけだ。


 今戻されたのは、前に第三王子が使っていたのとは違う種類のだ。なんでも暑くもなく寒くもないんだとか。外に出た時とか、最近は起きていないが戦争となれば便利だと思うが……まあ、それを使う機会がないということか。


「アレスト、おすすめは何かないかい?」


「機能から選ぶと、道具に使われがちになるかと思われますわ。もちろん、ガイエ王子がそのような小さな器ではないとも信じておりますけれど」


 さらりと、責任を回避するお嬢様。もしかしたらガイエ自身はそんなつもりじゃなかったかもしれないけれど、そう捉えられる問いかけだった。これでお嬢様が選んだとなれば、どこでそれが漏れてくるかわからない。事実を知るのはこの3人だけだが、人の噂はどこからか出てくるからな。その意味では選んでも選ばなくても一緒かもしれないけど、実際にどうかというのは大事なことだ。


「こちらはただの装飾品ですわね。あちらは……」


 その後もお嬢様は知る限りの解説をしていく。決しておすすめはせず、淡々とした説明だ。けれどお嬢様が凛とした状態で行えばそれだけで何かの演劇であるかのような雰囲気を作り上げている。それは聞いたままのガイエや、見守っていた王様も同じだったらしい。


「今さらながら驚きだ。全部覚えているのか?」


「知る限りは、となってしまいますわ。試せない物はこれまでの引継ぎでしかありませんし……」


 確かに切り付けた相手が専用の薬を飲ませないとずっと寝込むなんて長剣は試そうにも試せない。他にも取り扱い注意な物品はそこそこある。ぱっと見の区別がつかないよう、安全な物も同じようなケースに入ったりしてるからなおさらわからないだろうな。


「よし、これにしよう」


 最終的に選ばれたのは情熱を感じさせる赤い宝石のついた指輪。お嬢様の解説によると、使い手の魔力を糧に変形し、短剣となる護身用と思われる魔道具だそうだ。王子の使う物としてはやや小ぶりというか、控えめに感じた。


「ん? どうしたんだい」


「いえ、少々予想外の選択をなされたので……もう少し、派手に戦える物をお選びになるのかと」


「くははは! 息子よ、アレストすらお主の気性を知っているようだぞ」


 笑い出す王様と、苦笑するしかないガイエ。この王子が、何かと演習に顔を出して暴れるのは一部では有名なのだ。だからこそ、もっと目立つ物を選ぶとお嬢様も思っていたに違いない。


「父上はひどいな。まあ、そういった物も考えなくはなかったんだけどね。生き残ることが第一の自分にはこの方がいいのかなと思ったのさ」


「ご立派な考えだと思いますわ」


 用事も終わり、扉へと進む3人。きらびやかなお宝たちの中を進む姿は、映画の1シーンと言われても納得するだろう。例のごく、俺というさすまたを除いて。うう、やっぱり刃の落とされた剣とかのほうがよかったかな?


 もうすぐ出口だというところで、ふとガイエが振り返りお嬢様を見る。


「ああ、そうだ。もし……国の宝である私たちを守れと父に言われたら……アレスト、守ってくれるかい?」


「王命であれば、もちろんですわ」


 そんな一見すると何気ない問いかけとその返事に満足したのか、外に出る頃にはガイエの顔には笑顔が浮かんでいた。そのことがまたちょっとした噂を産むのだが……どうしようもないよな、うん。


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