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第9話

ハリウッドから戻って数日が経った。

レザと出会ってからというもの、街を歩いていても人の顔より先に"その奥"に意識を向けてしまう

笑っている人間や、騒いでいる人間

AIと楽しそうに会話している人間


皆満たされているはずなのにどこか空虚に見えてしまうのは俺が歪んでしまったからなんだろうか。

それとも、今まで見えてなかっただけなのか。

学校帰り、気づけば俺はまたテレポートゲートに向かっていた。

理由はわかっている、

サンちゃんの言葉。

レザの思想。

そして

「お前はまだ戻れる」

あの日の言葉の意味を、俺まだ理解できてない。

ゲート前は今日も人で溢れている、

仕事へ向かう人、他惑星に観光へ行く人、恋人と笑い合う人

その中心にキューさんは立っていた。

柔らかな笑顔。

だが、俺をみる目は少しだけ鋭かった。

「......こんにちは」

「キューさん、こんにちは」

「レザさんに会いましたね?」

心臓が跳ねた、初めてキューさんと会った日のドキドキと似ていた

やっぱり、全部わかってるんだ。

「どうしてそれを?」

「良性も、悪性も、同族の気配に敏感なんですよ」

そう言ってキューさんはゲートを見上げた

人々は何も知らず

今日も光の中へ消えて行く

「少しお時間ありますか?」

その声はいつもより静かで、どこか寂しそうだった

「はい、俺もキューさんとお茶しようと思ってました」

ゲートの裏、はじめて魂を観測した日と同じ場所に俺はいた

静かにキューさんは語りだした

「悪性の思想と良性、貴方はどちらが正しいと思いますか?」

一長一短だ。どちらかしか選べないのだろうか、

「どっちが正しいのか、今の俺には分かりません、ただ今のままで良いのかなと思う事も増えました」

「貴方はそうでしたね。

私たち良性の思想は維持と共存です。

人族は未熟でも生きる価値がある、

ゲートを超える時に

色々な笑顔がありましたよね。

一人一人のドラマがそこにはあると私は知っています」

確かにそれはそうだ

「それなら、その人たちを殺そうとしている悪性は良性からみたらやっぱり悪なんですか?」

「..........半分正解です」

「停滞こそ悪、でしたか?

確かに一理あると私も思います」

「刺激を失い、感情を失い、死さえ遠ざけた

ですが、だからといって壊して良い理由にはなりません」

尤もだ、やはりどちらかだけが正しいなんて

俺には分からない、ただ、両方の話を聞いて

これから答えを見つけたい

「その通りだと思います」

「悪性達は変化を望みます、私達は維持を望みます、二つの想いが相反しあってバランスを取れれば良いんですけどね」

遠くを見つめて語るキューさんはやはりどこか寂しそうだ

「昔から悪性と良性は対立しあってきました、この地球でも悪性が管理していた時代ももちろんあります」

「管理していた、ですか?

って事は今は良性が管理しているんですか?」

「そうですね、私達良性が管理しています。

私達が管理しているからこそ、人族同士の殺し合いなんて稚拙な事、ここ何百年も起こってないんですよ?」

稚拙か、確かに良性達にとっては意味や理由があっても馬鹿なことに見えているんだ。

「昔の人族は、今より遥かに飢えていました、争いあって憎しみあい、病気で死んでいき、はたまた、赤の他人と比べて自己嫌悪、何も持たない人が持つ人へ嫉妬や差別、逆もまた然りです、ですがそんな時代の中で生を強く感じていたのも事実です」

想像もつかない、

同じ人なのに争い合いや憎しみ

でも、憎悪の中で生を強く感じていたんだ

「そうですね、同じ種族で争ったり、意味のない殺人が今も起きてないのは貴方達良性アストラル体のおかげです」

生を強く感じていた人達は今の社会を見てどう思うのだろう、憎悪溢れる時代なら嫉妬?

羨ましいと思うのだろうか。

争い合いは確かに無駄な事なのかもしれない。

そういうのが無くなってうんと生きやすくなったんだろう、でも、それらを抜きにしても、このままで良いのかなと思っている俺は、やっぱり、悪性側に染まってきているんだろう。

「私達はただ守ります、今ある社会を、笑顔を、小さき幸せの数々を」

良性達の考え方も前よりグッと理解できた、

どちらにも正義があるように思える。

悪性達もただ単に人族を殺したいとは思っていないんだろう。

「テン君、私の守りたい存在の中に、貴方も含まれていますよ」

「......守りたい、ですか」

悪性が魂に潜んでいてもそう思ってくれている事は嬉しかった

「"死"は憧れる物ではありませんよ」

冷たく言い放つキューさんに、返す言葉は思い浮かばず、淡い光を放つ幾つもの魂が、

バチバチと音を立て、

静寂の中鳴り響いていた。


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