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第10話

「死は憧れるものじゃありませんよ」


あの日から数週間経ったが、キューさんの言葉が、頭の中から離れない。

その言葉を否定したいわけじゃ無い、

だけど、死が遠ざけられたこの世界で、

人は本当に"生きている"と言えるんだろうか。


学校帰り、俺はハジメと、渋谷ターミナル付近の人混みの中を歩いていた。

見慣れた景色だ、

AIによる自動アナウンス。

空を埋めるホログラム広告。

飛び交う笑い声。

全部いつも通り。

なのに最近、そのいつも通りが、妙に気持ち悪い。

すると突然、

頭の奥でノイズが響いた。

「テン」

思わず足を止める。

「どうしたテン?」

心配そうにハジメが顔を覗かせる。

「....いや、なんでも無いよ」

空耳か? いや、頭の奥から聞こえたよな?

「ほんとか?まーたむずかしい事でも考えてんのか?」

「ほんとに、なんでも無いから」

少し勢い任せに返事をした。

ハジメもそれに気づいたのか

「そーかよ、まっなんでも良いけど、よそ見ばっかしてんじゃねーよ」

最近ハジメとは、たまにこうなる。

ぶつかる訳ではなく、ただ少しづつずれていっているような。

全部話せば、こいつはどう思うんだろう、

俺も1人で抱え込まず、楽になれる。

ただ、ハジメに心配はかけれない。

「あぁ、悪かった」

とだけ返し、歩きだす。

「キコエテル?」

やっぱりだ、ただ足は止めれない。

「サンちゃん?」

頭の中で俺は念じる。

「ソウだよテン、久しぶり」

周囲の音が遠ざかり、俺はサンちゃんの声にフォーカスを当てた。

「ヤット、ここでも会話できるネ」

あれからサンちゃんとは、

親和性が上がっているのかな?

「そうだね、でもなるべく1人の時の方がありがたいかも」

「ナンデ?」

「皆には、サンちゃんの事説明してないからね」

出来るわけもないが。

「ナンデ?ちゃんと人族ニ死んでホシイと説明すればイイ」

この辺りは、さすがアストラル体とでも言うべきだろうか

「サンちゃんは、分からないかもだけど、

そんな事すれば、俺は薬中扱いさ、サンちゃんの事だけでもぶっ飛んでるのに」

「ワタクシ勉強不足」

とだけ言い残し、頭の奥は静かになっていくと同時に、街にいる人達の声が、耳に入ってくる。

「お、おい!!」

「誰か、医療AI呼べ!!」

前方で叫び声が聞こえる

「何事だ?」

ハジメも気づいている、

人混みを掻き分け、皆の視線の方へ向ける。

「おい、誰か倒れてんぞ、やばいんじゃねーの?」

ハジメの言葉をよそに、俺は、倒れていた女性の元に近づいた。


まだ若い女性だ。

制服を着てる事から、まだ10代なんだろう。

よく見てみると

苦しそうに喉を抑え、口から赤黒い血を吐いている。


寿命薬。


一瞬で分かった、ハジメもそれに気づいたのか、唇を噛み締め、拳も固く閉じている。

だが、異様だったのは、周囲の反応だ。

怖がっている人間より、興奮した顔で撮影している人間の方が多い。


「え、あれまじもんの寿命薬?」

「初めて見たんだけど!」

「早く配信繋げ!」


まるで祭りだ、その光景に吐き気がした。

ハジメもそうらしく

「何カメラばっかむけてんだよ!?」

と、野次馬達に声を放つが、そんな奴らは聞く耳を持たない。

俺は女性の元により、背中をさするが、

もう遅いようだ。

すると突然、女性の中から美しい黒い花のような幾何学模様が浮かんだ。

見ていると、ヒビが入り、その亀裂から粉々になったかと思えば、形を変えて、鳥の様な姿に変わり、

空へ飛んでいった。

遅れて医療AIが駆け付ける。

「退いてください、後は我々が」

鼓動を確認し、生体識別して、ストッパーを確認している。

「対象の生命活動停止を確認、到着するのが遅かったみたいです」

やはり、死んでいた。

それから程なく、警察官達が駆け付けて、街は何事もなかったかのように、いつもの風景に戻っていく。

俺とハジメは、何も出来ず、ただ1人の女性を看取ったらしい。

「寿命薬って、もう違法じゃねーの?」

帰り道の中、ハジメは切り出す。

「そうだよな、俺もニュースやネットで調べたけど、製造も販売もどっちも今はダメだよ」

「じゃあ、誰があんなもの売ってるんだろーな」

寿命薬を買いに行った日の、風景を思い出した。

「まぁ誰が売ってたとしても、俺はそいつらが許せねぇ」

売ってる奴らが悪いのか、使った人間が悪いのか、俺には分からない。


自宅に戻った俺は、あの日買った寿命薬を見つめながら、今日のことを思い出していた。

初めて、人が死ぬところを目にした。

あの時、目の前に現れた幾何学模様は、魂のはずだ。

ハジメも見えていなかったらしい。

粉々になって、最後は鳥になって、どこへ向かったんだろう。


「暖かいところだといいな」


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