表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スクリーム・オブ・フリークス (scream of freaks)  作者: TOKI-HIROHIKO
第2章 佑樹とジョージと瑛太の場合
4/9

フラッシュバック

 電話を終えると、佑樹は突然、空腹感を感じた。ゲームに夢中になっている間に時が飛び去って、時刻は知らない間に午後の3時を過ぎていた。そう思って、ジャケットを着て表に出て歩き、用賀の駅近にある青椒肉絲飯の美味い中華料理店に行くことにした。店主が有名中華料理店から独立したと聞く、この店の青椒肉絲飯は本当に格別だ。今後は、週に一度は必ず通うことになる。それ位に美味なのだ。・・・帰りには近くのマーケットに立ち寄って、サッポロ一番のしょうゆ味・塩味・ミソ味と、チョコやポテトチップス、ネギや卵や玉ねぎやシナチクなどを買い物して帰るつもりだ。

 佑樹がマンションに帰ってきたのは、夕方の5時に近かった。表は少し肌寒かった。佑樹は『スクリーム・オブ・フリークス2』のTVスティックを付けた大型テレビの前に立って、スマホをリンクさせ、コントローラ―を手に持って、VRゴーグルを顔に着け、さっきまでと同じにシブヤのスクランブル交差点の前へとトリップしていった。

 するとその街は、山手通りや公園通りの方面で炎と黒煙が立ち上がり、街にやって来ていた大勢の人々が騒然となって、動転して、街の通りやビルの中へと走っていって逃げ惑っていた。多くの人々が渋谷駅へと集まってきていて、電車がまだ走っている間に電車に乗って、出来るだけ自宅の近くの安全な地域にまで逃げ去ろうとしていた。

 佑樹は利き手の左手に抜き身の日本刀を持って、右手にPP・2000サブ・マシンガンを持って、それでも井の頭通りに向かうべく、逃げてくる人たちとは逆方向に、車の数が激減しているスクランブル交差点を斜めに足早に横断していった。左手側へと目をやると、火事や黒煙は文化村通りや道玄坂にまで広がっていた。今回のトリップは、さっきまで目にしていた女プレイヤーの『アルテミス』に会うことを目的としている。ところが世界は変わり果てていた。

 佑樹は日本刀とPP・2000で身構えて、用心深く、これまでと同じように西武百貨店の間を左折して、粉塵が漂った井の頭通りへとやって来た。すると、通りはひどく荒れ果てていた。路上には血まみれになった、体の一部が欠けて無くなった人々の遺体があちこちに無残に横たわっていた。

 多くの遺体は、男も女も頭が食いちぎられている。どうやら怪物は人間の頭が好物のようだ。わずかに残った個々の思考を維持するために、人間の脳を大量に食べているのかも知れない。それから体に疲れを感じている個体は、好んで人の腿肉やふくらはぎを食べるようだ。また、路側に駐車していた車が横転し、通りを走り抜けていた車が事故を起こして燃え上がり、煤けた黒煙を空へと立ち昇らせている。

 佑樹はそれを見て愕然とした。そして通りに横たわった遺体を避けながら、通りを渡ってロフトの横道の前へと歩き抜けていった。すると、そこには頭を割られた怪物の遺体が横たわり、肉がドロドロに溶けて青白い骨格と血生臭い内臓をむき出しにしていた。

 加えて、ファッション・ビル側の路上にも、もう1体の怪物の遺体が首を刎ねられて横たわっていた。車のボンネットの上にその生首があった。きっとあの白人女が、俺を噛み殺した怪物を巧みに斬り殺したに違いない。そして女は、すでにそこにはいなかった。あれから数時間が経過しているようだから、当然と言えば当然のことだ。女はその先にいたもう1体を追いかけて、どこか他所へと行ってしまったのかも知れない。・・・

 佑樹は女を探して、夕陽に染まった、荒れ果てた井の頭通りを東急ハンズ方面へとしばらく歩き抜けた。路上で車は積み重なり、横倒しになっていた。頭を無くした人の遺体があちこちに横たわっている。命拾いした1人の老人が、腰を抜かして、ビルの階段に腰を降ろしてガタガタと震えていた。

 佑樹は人ひとりいなくなった東急ハンズのT字路に立ち止まり、そこから上り坂になったパルコ方面を眺めた。すると通りの途中にあるビルの2階に乗用車が突っ込んでいて、漏れたガソリンに火が着いたらしく、そのビル全体が炎を噴き上げて燃え上がっていた。

 通りの所々には、頭をもがれた人々の遺体が術もなく横たわっている。その時、飼い主を失ったプードルが1匹だけで通りを横切っていった。そうかと思うと、頭を失った男が運転席から上体を出している配送用のトラックが、惰性で坂道をゆっくりと降りてきて、路上に置き去りにされている乗用車に衝突して音を立て、その場所に停止した。

 夕陽がビルの陰へと沈んでいって、街は仄暗くなっていた。佑樹は緩い坂道になったその道を上っていって公園通りにやって来た。電信柱が倒れていて、あちらこちらで電線が断線していて、道玄坂から井の頭通り、公園通りや山手通りの一帯までが停電に陥っていた。

 公園通りでは、PARCOのロゴを形作った看板文字だけが、夕暮れの薄闇の世界に色鮮やかに浮かび上がって見えていた。すると通りの先で小さな物音がした。佑樹は緊張してその方角を見つめた。路面にある飲食店からは、そこに隠れて無事に生き延びていた7人の男女が、恐怖に怯えながら公園通りへと出てきた。

 佑樹は喉の渇きを感じて、パルコの地上階にあるカフェへと入ってきた。そして、キッチンにあった業務用の冷蔵庫からスパークリング・ウォーターのボトルを右手に取り出して、その水を飲んだ。抜き身の日本刀は用心のために常に左手にしていた。

 すると、ビルのどこかでチャリチャリ、チャリチャリと小さな摩擦音がしていた。他の場所でもチャリチャリ、チャリチャリと音がした。やがてはフロアのどこかに、何かの気配がかすかに漂うようになった。

 佑樹はゲームのシブヤにやって来て、現実世界とは大きく異なる環境の変化と、強烈すぎる刺激の強さに大きなストレスを感じていた。そのためなのか、喉の渇きがなかなか治まらず、ボトルの炭酸水をグビグビと飲み干して、カウンターの前に立って、腰に手を当て一息をついていた。

 一方、MP5を右手に、手斧を左手に持ったプラチナ・ブロンドのボブ・カットにオフホワイトのショールと衣服のアルテミスが、息を殺して、その店の柱の影に隠れていた。ビルの店内は夜が静かに近付いてきて、ずいぶんと暗くなっていた。

 すると突然、開けっ放しにされていたエントランス側の入り口に灰緑色の怪物が現れて、フロアを踏み切って、ジャンプしてきて素早く巨体の方向を変えて、カウンターの前にいる佑樹に向かって突進してきた。続いて、もう1体が店の入り口へと現れてきた。

 佑樹は慌てて利き手の日本刀で怪物の二の腕を斬りつけた。そして咄嗟にPP・2000を右手に持って、怪物の腹を銃撃した。怪物は右の二の腕を骨まで斬られたが俊敏なままだった。しかし、サブ・マシンガンの銃撃には身の動きを止めて、ギョロリと全身の目を見開いた。

 するとアルテミスが柱の陰から一歩踏み出し、もう1体の怪物をMP5で銃撃しながら勇敢に進み出してきた。そうして怪物の身の動きを一時、凍結させると、全身を一回転させて、鋭く振り抜いた手斧で怪物のその首を刎ねた。遅れて、もう1体の怪物が入り口から飛び出してきた。女はもう1体を狙ってサブ・マシンガンで短く銃撃した。

 佑樹は唐突に現れ出してきた女を横目に見て、身の動きを止めた正面の怪物のその胸を日本刀で一突きにした。ところが少しすると、怪物は銃撃のショックから立ち直ってふたたび強引に動き出し、三角の歯を持った大きな口を顔一杯に引き開いて、佑樹の頭を一口でガブリと噛み砕いた。そしてゲームオーバーの短いメロディが鳴った。


 佑樹は堪えがたい空虚感に身を捻らせて、現実世界へと戻ってきた。表はすでに夜になっていて、マンションのリビング・ダイニングは真っ暗になっていた。窓の外には春の満月が煌々と輝いて見えていた。佑樹はゴーグルを外すと、頭を振って、悔しく思って「うーっ!」と呻き声を吐き捨てた。

 佑樹は部屋の明かりを点けなかった。そしてふたたびゴーグルを顔に着けると、オンをふたたびタップして、『プレイ』の項目から『コンテニュー(継続)』を選んで、さっきまでいたパルコの地上階にあるカフェの店内へとトリップした。

 気がつくと、カフェの店内は硬質ガラスのウインドウにヒビが入って、テーブルや椅子が乱れ倒れて、荒れ果てて、陽が暮れかかって暗くなっていた。そんな店内のフロアには3体の怪物が頭をかち割られ、首を刎ねられて呼吸もなく横たわっていた。それから、プラチナ・ブロンドのアルテミスが胸で呼吸をし、その目を爛々と輝かせて、心から満足に思って3体の怪物の亡骸を見回していた。

 アルテミスの獲得ポイントが49956ポイントから5002ポイントになった。次にはアルテミスの視界に、ここからは『ファイナル・ステージ』であることが表示された。

 加えて、「ようこそ、ゴッズ・ウォリアーズ(神の戦士たち)の集まりへ。この日をもって我らは地表に這いずりまわるウジ虫であることを辞めた。すべては自らの決意によってである。・・・今日から我らは、輝かしい神の下僕となる。そして兄弟の絆によって結ばれる。我らが命果てるその日が来るまで。どこにいようと、神の下僕たちは我らの兄弟だ。多くはクソまみれの地獄へと落ちる。ある者は二度と戻ってはこない。それでも心に固く命じておこう。神の下僕は永遠であると。・・・よって我らも永遠であるのだ。・・・白を黒とし、疑わしき者たちは、ただちに我らのこの手で罰するのだ」とする『ニューワールド・バイブル』の一節が謳われた。

『ニューワールド・バイブル』とは、単純に訳して『新世界聖書』なる書物だ。2008年にヴァチカンは『新たなる7つの大罪』を発表した。それらは『遺伝子改造などの生命倫理の罪』、『人体実験などの胎芽を傷付ける不道徳な実験の罪』、『麻薬乱用の罪』、『環境汚染の罪』、『社会的不公正の罪』、『過剰な富を持つことの罪』、『貧困を作ることの罪』といった7項目である。人類は事あるごとにこれらの罪を犯し続けてきた。

『スクリーム・オブ・フリークス』に現れる怪物たちは、1人の人間マモルが原型となって『新たなる7つの大罪』が混合されて、この世に産み出されてしまった罪の塊である。そして世界に増殖してゆく怪物たちを『スクリーム・オブ・フリークス2』のプレイヤーたちは抹殺し続ける。加えて、プレイヤーたちは一定の成果を上げてファイナル・ステージに上がると、『ゴッズ・ウォリアーズ(神の戦士たち)』と称されるようになる。

 そうして戦いの果てに生き残ってきた『ゴッズ・ウォリアーズ』の1人ひとりに『ニューワールド・バイブル』は与えられ、戦いの導きを得られるという神聖な攻略本である。『スクリーム・オブ・フリークス』では、人類が産み出した怪物たちを絶滅することによって、世界は再構築されて、この世に『新世界』が創られると信じられている。


 女は手にした血まみれになった手斧を見つめて満悦して、恍惚感をその顔に浮かべた。女は自らの戦闘力に高揚して、言葉にならない¬快感を感じていた。佑樹がそんな女を、強い憧れの眼差しで見つめた。そして堪らず翻訳機能を使って英語で話しかけた。

「あんた、アルテミスって言うんだよな?」

 女は近くに青年がいることに気がついて、一瞥をした。佑樹は臆しながら続けた。

「な、アルテミスだろ?・・・そうだよな」

 女が佑樹を見て、首を捻って薄笑いを浮かべた。

「どうして私を知っているのよ。私はあなたなんか知らないわ。ただのデコイ(囮)に知り合いなんていないから」

 デコイとは?・・・佑樹は、女の口からこぼれ出た『デコイ』という言葉に、その首を傾けた。女は、ゲームに参加したばかりの自分を、『フリークス2』の世界をまだ理解しきれてない不慣れな自分を、怪物を誘き寄せるための単なる囮と考えていたのか?・・・そうして女はポイントを稼いでいたというのか?女が稼ぐポイントのために、自分はくり返し殺されていたのか?と。・・・そんな風に思って、佑樹は苛立ちを覚えた。

 実際は、佑樹がまだ『フリークス2』の世界に不慣れなために、何度もくり返し怪物たちに襲われていただけだが。・・・女はたまたまその街にいて、単にそんな佑樹の出現を逸早く察知して、狩場を求めてその場所にやって来ていただけだ。そんな初心者の出現を、単にデコイと表現しただけだ。

 佑樹はそんな女のやり口を不快に感じながらも、女へと尋ねた。

「なあ、あんたと一緒にいさせてもらえないか?あんたの戦いを近くから見て、戦う術を俺なりに学びたいんだよ。・・・俺は強くなりたいんだ。世界は刻々と壊れていっているだろ?俺たちは壊れた世界で生きてゆかなきゃならないんだ。だから強くならなきゃならない。・・・なあ、頼むよ。あんたの近くにいさせてくれよ」

 女は青年の調子の良いそんな言葉を不愉快に思って、眉間に強く皺を寄せて、佑樹を睨みつけた。そして呆れ果て、利き手の手斧を握り直して、腹立たしそうに返した。

「何を寝ぼけたことを言っているのよ。あなたと私じゃ戦う世界が違うのよ。出来が違うの。私はこれからファイナル・ステージに向かうのよ。ビギナーの浅知恵ね。何を甘っちょろいことを言っているの。自分の力で、地獄の底から這い上がってきなさいよ」

 佑樹はそれを聞いてたじろいだ。女は青年の望みを、若いくせにインスタントで打算的すぎると感じ取ったようだ。そしてその歯を剥き出して、獣のような顔付きをしてみせて、これ以上、私に近付くなと、青年を威嚇した。

 すると女の顔の部分がデジタル処理され、女の目の周りが横長に、白く長方形にペイントがされた。それは『スクリーム・オブ・フリークス』の世界でいう『ゴッズ・ウォリアーズ』を表す白化粧である。女はこれからこの顔で、神が啓示する理想の世界を求めて、ゲーム内で戦うことになる。

 続いて、暗くなったカフェの店内に電気ノイズが稲妻のように走り抜け、女の姿が素早く、段階的にその場所から消え去っていった。どうやら女はログアウトしたようだ。


 佑樹はアルテミスに同行を断られ、今後の身の振り方を考えて、しばらく暗中模索だった。そして怪物の血飛沫に汚れた冷蔵庫のドアを指先で開けて、そこから新しい炭酸水のボトルを右手に取り出すと、指の汚れをズボンで拭きつつ、ボトルを右手に建物から出ていった。周辺を警戒しながら公園通りをNHK方面へとのんびりと進んだ。そして代々木競技場第一体育館の石段を上がっていって、競技場の石造りのテラスへとやって来た。

 佑樹はテラスから、夕闇に包まれてゆく、所々で黒煙を上げているシブヤの街と、街の明かりが煌々と灯って見えている、奇妙に静かな表参道を見渡した。山手線はまだ無事に動いていて、下り列車と上り列車が続けざまに線路上を走り抜けていった。

 佑樹は明治神宮の表門に近い渋谷区神南の歩道橋に上がって、原宿の駅前や代々木公園通りなどの周辺の通りをあらためて見回した。それから歩道橋を渡って、原宿駅側へと降りていった。すると佑樹の背筋に、瞬間、薄気味悪い寒気が走り抜けて感じた。

 一瞬のことで、佑樹にはそれが何だったのか良くは分からなかった。佑樹の後方には、神宮の森が暗く鬱蒼と広がっていた。

 神宮の表門は、なぜかすでに閉門されていた。そして神宮のその奥に広がった森の深みでは、不思議と静かな不可解なざわめきがほんの少しだけ漂っていた。

 佑樹は車が1台も通っていない道路を渡っていって、正面に見えている、坂道になった表参道を注意深く下っていった。車が1台も走っていないのに、信号機が青から黄になり、黄から赤へと変わっていった。祐樹は、ケヤキ並木と緩い坂道が特段に美しい表参道の街並を見回して、奇妙に不可解に感じていた。・・・なぜかは分からないのだが、街灯やビルの明かりに満たされた明るい表参道の街並が、奇妙に動きのない、窒息しそうな重苦しい沈黙に包まれて感じていたからだ。

 静かではあるが。そこには怪物のものではない生き物の気配があった。そしてしばらくがすると、煌々と明かりが灯ったビルのフロアやマンションの室内には、人々の人影があることが分かるようになった。

 それぞれの室内には何人もがいる様子だ。そこには、まずは一番に怪物の犠牲になりやすい赤子や幼い子供たちの姿もあった。何人かの人間たちが物音を立てずに、カーテンや物陰に隠れながら、車の無い通りの真ん中をひとり歩いてゆく佑樹の姿をひどく不安そうに見つめていた。

 佑樹が青信号になった明治通りを渡っていった。すると、交差点の角にある東急ビルの地上階から、近くにいた大人たちに止められながらもマモルによく似た少年が、1人きりで歩き出してきた。

 少年は路側の駐車車両の間を通り抜けてきて、佑樹の手にある武器に目をやって、通りの途中へと立ち止まった。少年はどうやらマモルに違いない様子だ。そして余所者らしい佑樹に声を殺して、「お兄ちゃん!・・・お兄ちゃん。ここら辺では見かけない顔だね」と話しかけた。

 佑樹は立ち止まって、奇妙に無防備な少年に目をやって、この街は極めて残酷で危険な『フリークス2』の世界の街なのに、どうして幼い少年が1人でこんな所にいるのだろうかと、首を傾げてみせた。そして「・・・君は誰なんだ?どうしてこんな所に1人でいるんだ?」と尋ねた。

 すると少年が、「僕はマモルだよ」と答えて、勇気を持って青年に手招きして、「良いから、お兄ちゃん、こっちにおいでよ。安全な場所があるからさ。僕と一緒に建物に入ろうよ」と話した。少年は運動が得意で頭が良かった、純粋だった頃のマモルのようだ。

 佑樹は少年を見て、その存在を不可解に思った。それでも少年に、「分かったよ。そっちに行く」と言って、少年のところへと歩き出していった。そして少年に案内されるがまま歩道へと向かった。すると東急ビルの地上階のテナントの室内には数名の大人の姿が見え、2人を迎えるようにロックを外して、テナントのそのドアを開けた。

 少年と佑樹がビルの室内に入ると、子供たちを含めた数10人の人々がその店内に現れてきて、その中の1人が、「ここでは武器は必要ない」と言って、佑樹に武器を収めるように促した。それを聞いて、佑樹がショルダー・ベルトに下げていたPP・2000の安全装置をロックした。続けて近くにあった布地を手に取って、日本刀の刃に三重巻きにした。それを見て、大人たちが佑樹を店の奥へと案内し、寄って集まるようにしてフロアに腰掛けた。マモルも佑樹の近くに腰掛けて、佑樹のその顔を興味深そうに見つめていた。

 佑樹がフロアにいる人々を見回して、「どうして、ここの人たちは安全な地域に逃げないんだ?この街は安全なのかい?」と、不審そうに尋ねた。

 人々の中の1人がその問いに答えた。「奴らは、LEDの明かりがある所にはやって来ないんだ」

「どう言うことなの?」と佑樹が問うと、別の1人が「確証は無いが、明かりの波長が奴らを寄せ付けないらしい」と答えた。

 続いて別の1人が頷いて、「夜には明かりの届かない暗闇に注意することだ。奴らは闇の中に蠢いている」と、合いの手を入れた。

 さっきの1人が、「昼の日中でも、LEDの照明の灯っているところでは、太陽光の紫外線が弱められて、奴らの動きが鈍くなるようだ。人工灯が結界のような役割を果たしているらしい。そのせいで怪物たちは、周辺の建物内まではやって来ないんだ」と話した。

 別の1人が、「街の一帯が運良く停電に見舞われていないお陰でさ。商業施設には昼でも明かりが煌々と灯されている。俺たちにとっては、この街が一番に安全なんだ。・・・それにしたって、よくもここまでやって来られたな。原宿駅の向こうからやって来たんだろ?」と続けた。

 佑樹が男の言葉を聞いて、眉をひそめて、「ああ。代々木体育館の方から明治神宮の表門の正面を横切ってきた」と、不可解そうに答えた。

 中年男が、「神宮には鬱蒼と茂っている森があるだろ」と、祐樹へと話した。

 年若い女が言葉を継いだ。「あそこは真っ暗な闇に包まれている」

 男が女に頷いてみせて、祐樹を見て、「夜になると、あそこには怪物たちが山のように集まってくるんだ。夜の間、気配を潜めて蠢いている。・・・あんたは、よくも襲われなかったな」と続けた。

 若い女が相槌を打って、「何も知らずに、開けているから安全だと思って代々木公園あたりをうろついていると、次から次へと殺されてゆくの。怪物たちはアッという間に近付いてくる。私も友達がひとり殺られたわ」と話した。


 佑樹はビルの2階のウインドウの近くに腰を下ろして、人気の無い、明かりが煌々と灯った表参道の美しい街並を見下ろしていた。時刻は午後9時に近かった。

 するとマモルが、ミネストローネのカップスープを両手に、上階から降りてきた。そしてウインドウの近くに佑樹を見付けて、彼の傍らへとやって来た。

 少年が、「お兄ちゃん。お腹は空いていない?スープだけど飲む?」と言って、片手のミネストローネを差し出してみせた。

 佑樹は塞いだ顔付きで、それに目をやって、「いいや、俺はいいよ。俺は一旦、この世界から現実世界に帰るつもりだから」と返した。

「そうなの。・・・それじゃあ、僕が2つとも食べるしかないね」マモルが少しつまらなさそうにそう言った。

 佑樹は、自分の不甲斐なさに思い悩んでいた。こいつはかなり難しいゲームだ。子供騙しのゲームとは違う。とは言え、この世界には慣れてなく、知識が無いので、そう感じても仕方がないことだと思っている。とにかく、少しずつこの世界に馴れてゆくしかない。そんな風に考えた。そして少年にこう話した。

「俺は怪物と戦うために、この世界にやって来た。だけどまだ1体も倒せていないんだ。俺が戦士になるためには、もっと経験を積まなくちゃならない。もっと場数を踏まなきゃならないんだ。・・・心の一部を捨てなきゃならない。この世界で生き抜いてゆくためには、青臭い感傷や、後悔なんかを捨て去らなきゃならない。そんな気がするんだ。怪物を倒すには、自分自身が怪物にならなきゃならないってさ。・・・強い戦士になってみせるよ。いずれはここの人たちに会いに、この街には帰ってくるつもりだ」

 佑樹はため息を吐き出した。それからPP・2000と日本刀を手に持つと、やおら立ち上がって、マモルに暗に示すように頷いてみせた。

「俺のことを覚えておいてくれ。・・・それじゃあ。また会おう」

 すると、明るいビルの店内に電気ノイズが走り抜け、佑樹の姿が素早く段階的にその場所から消え去った。そうして佑樹は、『フリークス2』の世界からログアウトしていった。


 佑樹は翌朝、目覚めると、まずは寝起きにネスカフェの黒ラベルのインスタント・コーヒーを飲んだ。それからしばらくだらりと過ごして、11時になると、ストレッチ・ジーンズを履いて、スマホを手にジョージに電話した。そして愛車のNISSAN・コクーンという黒の大型バンを運転して、駒沢2丁目にあるジョージの自宅へと向かった。コクーンの車体後部には、白いトライバル・ワイヤーのシールが格好良く貼られていた。

 佑樹はジョージの家の駐車場にその車を停めると、家から出てきたジョージと笑い合って、その家の愛犬のサルーキの頭を撫でてやって、2人して最寄りの駒沢大学駅へと歩いた。そうして新玉川線の電車に乗って一路、渋谷へと向かった。

 渋谷駅に着いて地上へと上がると、渋谷の空は青空だった。現実の渋谷の街では、相も変わらず大勢の人々が楽しそうに、自由気ままに通りを行き交っていた。女連れ、男連れの友人たち。デートしている若いカップルたち。バッグを片手に通りを足早に横切ってゆくビジネスマン。ショッピングに出かけてきた主婦たち。別のグループはランチのためにこの街にやって来たようだ。ところが佑樹は突然、不意にわずかに感電したかのように感じて、瞬発的にゲームの中にあった荒れ果てたシブヤの街の風景を街中に見た。

 ゲームのシブヤでは、遠くで爆発音が起きていた。その度に、佑樹は現実世界で小さくその身をビクつかせた。ビルの上まで黒煙がモクモクと立ち上ってゆくのが見えた。異変が起こって、人々が我先にと懸命に走って渋谷駅方面へと逃げてきた。

 現実の渋谷の通りでは、信号が青から赤になって多くの車が数珠つなぎになっていた。一方、ゲームのシブヤでは通りで車が横転して、多重事故が起こっていた。そんな事故の影響か、何台かの車がビルのウインドウに突っこんでいた。そして頭や脚を失った、血まみれになった人々の遺体が、路上に惨たらしく何体も横たわっている。佑樹は時おり呆然となって、明るく晴れ渡った現実世界の渋谷の街中に、次から次へと奇妙に鮮烈なフラッシュバックを目にしていた。

 傍らのジョージがそんな佑樹に目をやって、訳が分からなそうな顔付きになって苦笑いした。

「どうしたんだよ、佑樹。今日は何だか変だよ。時々ボンヤリしちまってさ」

 佑樹が我に返って、少し照れくさそうに笑ってみせた。

「そうか。そんなかも知れないな。実は昨日から『スクリーム・オブ・フリークス2』ってゲームにハマっちまってさ。渋谷をゲームの舞台にしたってことがあってかな。ちょっとしたフラッシュバックが起きているみたいなんだ」

「フラッシュバック?何だよ、それ?」

「こいつはやってみないと分からないかも知れないな。だけど何かが、俺の体に染み付いて感じているんだ」

「そのゲーム、聞いたことがあるよ。チャットでめちゃくちゃ盛り上がっているみたいじゃない。大人のゲームだって聞いてたから、敷居が高いと感じていたけど、そんなに面白いのかよ?」

 佑樹がそれを聞いて、数歩、前へと歩き出していって、ジョージに振り返って、ちょっと誇らしそうな顔付きをした。佑樹は昨日、『フリークス2』に参戦して以来、自分がちょっとだけ大人の仲間入りが出来ているような気がしていた。そして、こう話した。

「これが凄いんだ。めっちゃリアルな、強烈な世界観がそこには構築されている。俺たちは今、現代の世界に納得していないだろ?何かが大きく変わって欲しいって感じているはずだ。それはもう強く激しくさ」

「確かにね。つこんな世の中、つまらないからね」

「だろ?ところが『フリークス2』をやっていると、尋常でない緊張感に包まれてしまうんだ。感情が大きく揺さぶられてさ。自分自身が丸裸にされちまうんだ。それで知らない間に、自分の願いを力一杯に吐き出しているって感じでさ。・・・今ある世界を破壊したいとか、世界に変化を求めたいとか、自分はもっと強くなりたいとかさ。孤立するのは嫌だとか、もっと仲間や味方が欲しいとか、邪魔する者たちは消し去りたいとか、自分の存在には意味があるはずだとか、世界を思いのままにしてみたいとかってさ。俺たちは、いつも心のどこかでそんな願望を強く感じていたりする。・・・いいや。いつもはそんな風には感じていないかも知れないけどさ。だけどさ。『フリークス2』をプレイしてると、何かが俺の中で強く弾けて感じるんだよ。あいつは、俺たちのそんな欲望をむき出しにしてくれる。とにかく世界が深くて、まるで底なし沼にハマっちまっているみたいなんだ」

 ジョージがニヤついて腕組みをした。そして佑樹に頷いて返した。

「へえ、そいつは興味深いな。俺もゲームに登録して、参加してみようかな」

 それを見て佑樹が、閃いて返した。

「ああ。そうしなよ。18才から21までは保証人が必要だけど、君ん家の両親なら問題ないはずだ。2人は時代の変化や新しい物事に敏感だからさ。ウチよりずっと開放的だもんな。それに小遣いもそれなりにあるだろうしさ」

「そうだね。きっと大丈夫だと思う。ゲームの中で協力し合って、2人で難関を突破してゆくのも悪くないかもね」

 佑樹が、そう言ったジョージを指差してみせた。

「良いね。そいつは良いアイデアだ。1人だったら思いつかなかったアイデアだよ。・・・そうだよな。ログインできたらゲームの中で合流して、2人で協力し合って、ゲームを攻略してゆこう。互いに意見を交換しながらさ。ゲームに出てくるフリークスは、めっちゃ素早くて凶暴だからさ。人間の頭や脚を食いちぎって歩くんだ。しかも、どこから現れるかが分かったもんじゃない。マジで難関だらけでさ。孤軍奮闘していたって、時間ばかりが掛かっちまって埒が明かないでいる。ジョージが参加してくれるなら勇気100倍だ」


 佑樹は、『フリークス2』で経験した初めからのあらましをジョージに面白おかしく話して聞かせながら、2人して数件の小さな古着屋をチェックして回って、ファイヤー・ストリートを歩き抜けていった。

 それから表参道を下っていって、明治通りとの交差点の近くの古着屋を歩いて回って、いくつかの買い物をした。佑樹は狙い通りにレトロなTシャツを2枚と、スカイブルーのトレーナーを1枚、ジョージは今の季節にちょうど良い薄手のウエスタンぽいネルシャツを2枚、購入した。

 2人は紙おむつと産着に始まって、生まれてこの方、様々な衣服を身に着けてきた。近代の衣服はそのほとんどが、ナイロンやポリエステルなど、石油を原料とした化学繊維を混紡して作られている。中にはフリースなどと言った化学繊維100パーセントで作られた衣服がある。昨今の流行であるスポーツ・ブランドが提供する衣服も、機能性には長けてはいるが、そんなものばかりで出来ている。それらは何かの事故で火が着いたりしたら、アッという間に燃え上がって、体の広くに重度の火傷を負うことになる。生身の体に直接、身に着ける肌着でさえそんなものがある。今あるズボンやシャツやセーターや上着はそんなものばかりで作られている。若い2人は成長の過程で直感的に、そんな衣服に違和感を感じていた。それで2人は、いつからか古着屋で売られている中古の衣服を好むようになっていた。そこで売られている衣服の多くが、自然素材である綿ウール100%の混紡や綿100%の衣服が多いからである。

 佑樹とジョージは古着屋のビニール袋を片手に、ビブレ側の歩道を気ままに下っていって、246との交差点にまでやって来ると、横断歩道を交番側へと渡っていった。そして表参道を上って歩いて、マクドナルドの角を右折していって、その路地の先にある老舗のトンカツ屋で昼食を食べた。この店のトンカツは、いつ来ても価格が手頃で美味なので、若い2人でも心から食事を楽しむことが出来ていた。

 食事を終えると、2人はヒルズ側の歩道を歩いて表参道を上った。その間、佑樹とジョージは『フリークス2』の話題で盛り上がっていた。ジョージも他の同世代の子供たちと同じように、子供の頃からゲームに熱中してきたが、佑樹の話はどれもこれも目新しいことばかりで、その上、彼の説明が巧かった。それだけ『フリークス2』は、他に比べて作りが斬新だということなのだろう。

 そして2人は、ふたたび明治通りとの交差点の近くにまでやって来ると、佑樹にはまたもフラッシュバックが起こったのか、周辺の明るい街並をゆっくりと見回して、交差点の手前側へと立ち止まった。ジョージもそんな佑樹を見て、不審そうに立ち止まった。

 佑樹の背後には、明治通りとの交差点の角に建ったショッピング・ビル、東急プラザ『オモカド』が個性的な造形を表していた。佑樹は振り返って、地上階にあるトミー・ヒルフィガーの、洗練されてスタイリッシュな路面店を見つめて、納得した顔付きになった。

 佑樹はジョージを促して、頷き合って、その店へと入った。佑樹は、近くにやって来て「いらっしゃいませ」と軽くお辞儀して挨拶しにきた女性店員に、小さく首を振って案内を断った。

 佑樹は傍らのジョージに声を低く、「ゲームの中で、俺は不思議な少年に案内されて、この店に入ったんだ。商品なんかの細部は違うけど、店内はほとんどこのままの状態だった」と話して聞かせた。そしてラックに商品を見ているフリをしながら、店内を歩いて、昼でも煌々と灯される店内照明を見回した。そして怪訝そうに彼に付いて歩くジョージへと話した。

「店には夜でも煌々と明かりが灯っていた。シブヤは悲惨な状態だったけど、ここの一帯は停電を免れたってことで、街全体が明るかったんだ。建物内には大勢の人たちが潜んでいるみたいだった」

 ジョージがその話に、「なるほどね」と言って、頷いた。

 佑樹が続ける。

「そこにいた大人たちが説明するには、フリークスはLEDの照明が苦手らしいんだ。LEDの波長が、フリークスを寄せ付けないらしい。だから、昼でも明かりが煌々と灯される一帯の建物内に、多くの住民が集まっていたらしい。インスタントばかりだけど食品や飲料も定期的に搬送されて、生存に必要なライフラインも整っているようだった」

 それを聞いて、ジョージが一計を案じた。

「フリークスと戦う時には、照明を近くにしておいた方が良いかもね。期せずして危険が迫った場合には、素早く明かりのある場所に逃げ込むんだ。我慢しないで、さっさとケツを捲ってさ。逃げ足を速く。そうやって安全を確保しながら戦うのが良いんじゃない」

 佑樹がそれを聞いてピンと来て、閃きをその顔にした。

「そいつは良いアイデアだ。そうすれば、無駄死にすることも減らせるな。殺された時の空虚感とか喪失感が堪らないんだよ。・・・やっぱり1人より2人だな」


 佑樹とジョージはその後、春の穏やかな午後を味わいながら、原宿駅方面に向かって表参道を上っていった。そして、原宿駅前の信号を渡って、明治神宮の表門へと向かった。春の明るい陽射しに神宮の森の梢が煌めいて見えていた。

 代々木公園通りには、下りも上りもたくさんの車が行き交っていた。そして、木々の梢が微風にそよいだ神宮内へと入ってゆくと、時刻は平日の午後だと言うのに、世界で人気の原宿の近くにあるせいか、参道には外国人の観光客たちが多く、大勢の参拝客たちで賑わっていた。

 皆がにこやかに参道を歩いている。子供連れの観光客たちも多い。佑樹は左手側に鬱蒼と広がった神宮の森を見渡して、ジョージに、「ゲームの中で、表参道の人たちが言っていたけど、日が暮れて辺りが鎮まるようになると、フリークスは夜の暗闇に動きを少なく、身を潜めるらしい。・・・ここの神宮の森の中には、周辺の街々から大量のフリークスが夜な夜な集まってきて、気配を殺して夜が明けるまで蠢いているそうだ」と話した。

 ジョージはそれを聞いて、背筋がゾクッとかすかに震えるのを感じた。そして苦笑いして、「この森はフリークスの巣窟だってことかよ」と返した。

 そして参道の途中でその足を止めると、ジョージと2人して、物音の静かな、深みを感じる森の木陰を見つめた。2人は顔を見合わせ頷きあうと、これと言って変哲のない周辺の人たちの様子に目をやって、それから参道から外れていって、鬱蒼と木々が茂った森の小道へとその足を進めた。

 やがては参道を歩く人々の話し声が聞こえなくなった。そしていくらかを進むと、森林浴をして参道へと戻ってゆく一組の男女とすれ違った。それから先は、後をついてくる人たちも、すれ違う人たちも無くなって、自分たち以外には人ひとりいなくなった。

 木々の梢をそよいでゆく風の音が聞こえた。時おり、枝から枝へと渡ってゆく鳥のさえずりが聞こえた。・・・歩みのたびに、小枝や落ち葉を踏む音だけが足元で聞こえた。地表にまで届く太陽光が少なくなって、佑樹とジョージは心臓の鼓動がドクンドクン、ドクンドクンと高鳴って感じた。森の静寂が、なぜか不吉な現象のように思えていた。・・・

 木陰の暗さが深くなって、2人は不意に息苦しさを感じた。2人は用心深く周辺を見回した。息が詰まって、苦しくて堪らなくなった。2人は同時に立ちくらみを感じたらしく、急に目眩がして、世界がぐるりと回転して目の前が真っ暗になった。

 すると木陰の暗がりが、不意に夜のように暗くなって、フリークスが目の無い顔を傾けてシャーッという唸り音を立てた。続けて、まるで2人に襲いかかるかのように上体を俊敏に伸ばして、その闇に現れ出してきた。佑樹とジョージは驚いて後退りした。・・・それはどうやら幻覚のようだが、続けて闇は所々の木陰に作られて、何体ものフリークスが全身にある数10の目をギョロリと見開き、素早く動いて、愕然と立ち尽くした2人に向かって、次から次へと三角の歯をむき出して大きな口を顔一杯に引き開いて迫ってきた。

 佑樹とジョージは背筋を凍らせ、声も出せずに体の芯から震えていた。今にも心臓が、2人の口から飛び出してきそうだった。・・・

 すると瞬間、突然、森の全体が夜の暗闇に包まれて、数10体のフリークスが大きな口を目一杯に開けて、瞬時に動いて、2人の頭を噛み砕かんとばかりに、次から次へと飛び掛かってきた。それらは幻覚だと分かっていながら、佑樹とジョージはそんな光景を目の当たりに心臓が止まりそうだった。2人はフリークスの恐怖に頭から飲み込まれていた。


 佑樹は、ジョージの家の駐車場から愛車のコクーンをバックして出した。そして車を路上に停めて、車の運転席側のウインドウを開けて、家の玄関の前に立ったジョージと明るく笑い合った。

 佑樹が、「それじゃあ、土曜日の夕方にお邪魔するよ。ご両親によろしく伝えておいてくれ」と話した。

「ああ。両親も楽しみにしてるよ。その時にまた、この話の続きをしよう」

「そうだな。1日も早く『フリークス2』に参戦してくれ。俺は待ってるよ。それまで俺は1人で仮想世界の街にくり出して、フリークスと戦って、何度も殺られながら情報を集めておく」

 ジョージがそれに、明るく微笑んで返した。

「まずは母さんを口説き落とさなきゃならないからさ。ちょっとの間、待っててくれ。きっと何とかなると思うからさ」

「ああ。期待してるよ。参戦が決まったら連絡をくれ。俺たちはきっと素晴らしいチームになるからさ。・・・それじゃあ、土曜日に」

「ああ、土曜の夕方に」

 佑樹はそう言って、ジョージと別れの挨拶をすると、軽く手を振った。そして車のハンドルを握り、アクセルを踏み込んで、マンションがある弦巻3丁目を目指して車を走らせ出していった。車で走って7分ほどの道のりだ。

 佑樹は一旦、車を246に走らせた。それから上馬の交差点を左折して環七に出ていって、少しして左折して、直線道路に車を快調に走らせた。佑樹はハンドルを握って、マンションに到着するのを心待ちにしていた。VRゴーグルを顔に着け、仮想のシブヤの街までトリップするのが待ち遠しくて堪らなくなっていた。とにかく佑樹は、『フリークス2』の怪物退治の戦略を考えに考えて、心ときめいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ