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前編 在るべき場所へ

 神様からの力を借り受け、最悪の魔王ガンジャン・シュウを聖絶し、カレンの目的を達成し終えたカシウス一家。


 その後、カレンの知らせ通り、ニュートとキリアの間に女の子が生まれた。


 髪色は金色でキリアそっくりの顔立ち。ニュートと同じ鮮やかな緑色の翼や尻尾、短い角が生えている。

 二人と同じ金色の瞳をもつとてもかわいい赤ちゃんだ。


 二人はレンが名付け親になることを強く願った。

 しかしレンはネーミングセンス皆無である。

 クロとシロと相談し、レニアとレン、ニュート、キリアをごちゃまぜにした名前にしてしまった。

 しかしカシウス・ロロ・レニア。

 レンは響きは悪くないと自分が生まれた時と同じ感想を抱き、クロとシロからのお墨付きももらいニュートとキリアに伝えるととても喜んでもらえた。


 ウィリアムとレベッカもまさかひ孫まで見られるとは思わなかったらしく、しかも世界に一人しかいない竜人系獣人と世界最強吸血鬼とのハーフ。

 報告したときは卒倒しそうになっていたが、レニアを見るとマリーやレンの幼い頃思い出すのか、さらには見たことのない幼いニュートとキリアを想像しているのかデレデレした顔が二人とも止まらなかった。


 レンはこれ以上戦う必要がないので冒険者を辞めた。

 カレンからもらった能力はまだ使えるのでジャマングにワープして主に海鮮系魔物を自己調達、各種調味料を購入し、クロとシロと共にジャマング料理レストランを開店した。


 カレンシュタインは内陸にあるため新鮮な魚介類、しかもどうやったのかジャマング料理が食べられると国中で噂になり、ファルバはおろか国中の町から人がなだれ込んできた。

 さすがに三人だけでは店が機能しなくなったが、弟子入りを希望する料理人が各地から集まってきたため人手が増えて何とかお客に満足してもらえるようになった。


 また米や大豆、茶葉などジャマング料理には欠かせない食材もバグガンで使用した魔物肥料を使うことで栽培することが出来、イクスとアルーゼの間にある土地をカレンシュタイン最大の農地とした。

 米や緑茶、紅茶がカレンシュタインのみならずエウレア中に広まり、醤油や味噌、酒などの製法も勉強して現地調達せずともまかなえるようになった。


 これらのレストランや農地、各種調味料の製法は充分に熟達した料理人や農家、職人に全て任せてしまい、少しだけ利益をもらう食料品会社の社長みたいなポジションにレン、クロ、シロは落ち着いた。


 その後はエウレア各地の町を結ぶ道路を魔法で整備したり、クロとシロと共にマリーの学校で教師として働いている。


 ニュートはキリアと共に、ウィリアムとレベッカの教会を引き継ぐため、牧会の勉強をしている。

 ニュートは優しく賢く牧師としては完璧に近い信仰と能力を持っているため、すぐにウィリアムから多くの学びを受け、一年ほど経つとキリアと共に牧師夫妻としてウィリアム、レベッカと共に働いた。

 その状態が5年ほど続き、ウィリアムとレベッカは牧師夫妻を引退し、一教会員としてニュートとキリアの働きを見守っていた。


 レニアはちょっとやんちゃな女の子に育ってしまった。

 ニエフ唯一の竜人と最強吸血鬼の能力を併せ持っているため、子供同士の喧嘩でも相手をかなり危険な状態にしてしまったり、5歳にして親に何も報告せずにホワイトレパードをソロで狩ったりしていた。


 そのたびにレベッカ、レン、キリアから烈火のごとく絶対零度まで頭が冷えるようなおしおきをされ、特にキリアは自分の力におぼれた悔しい過去をしっかりと言い聞かせ、むやみに力を振るってはならない、レニアの力は神様から与えられたものでその力をどうやって主に従い用いてもらうべきなのかを根気強く説明し続けた。


 幸い、ニュートとキリアの賢く優しい性格も受け継いでおり、ウィリアムやレベッカ、レン、クロ、シロ、ニュート、キリアという色々なクリスチャンのいる家庭に生まれたため、しっかりとしたクリスチャン女性に育った。

 また特にグレイスの影響が強かったのか、ニュートやキリア同様自分よりも力の劣るグレイスを本当の姉のように愛し、二人のリビングアウトフィットもレンが何とかヨシュウに頼み込んで作成してもらった。

 ヨセフやダニエルも同じ装備を作成し、パーティに加わって新世代カシウス家の世界最強冒険者パーティとなった。

 ちなみに全員全ての階位が限界を超えまくっているウルトラチート集団である。


 そんなチート集団というか、バグキャラ集団はキリアの船を使って世界中を旅した。

 シロに限らずやはり女性はチョコレートやフルーツなど甘いものが好きなのか収集しお土産にしたり、Aランク魔物を各地で討伐したりしている。

 レン、クロ、シロ、ニュート、特にキリアは自由軍国には絶対に行ってはならないとものすごく怖い笑顔で注意していた。


 そのような幸せな生活の中、レンは最初にトライアードを看取った。

 享年120歳。

 もっとも長生きしたエルフの一人だろう。

 しかしレンはキリアがいずれ自分を看取ることを考えると、いつまでも一時的にトライアードを失うことに悲しんでばかりはいなかった。

 トライアードが心から平安に包まれた笑顔でレンに「しばらくお別れじゃレンくん。元気での。フィルファとアイナスを頼むぞい」と語ったためだ。


 ビーストテイマーとパートナーは互いに契約を破棄することも出来るが、マスターとパートナーの意向が同じであれば、マスターの権利を他のビーストテイマーに譲渡することもできる。

 レン、クロ、シロは三人ともトライアード同様マスターとパートナーの関係でなく家族としてフィルファを兄、アイナスを姉として愛したためフィルファとアイナスはトライアードと同様かそれ以上の信頼関係をレン、クロ、シロと築き、さらにパワーアップしてしまった。


 トライアードと同じようにレンはウィリアム、レベッカ、レイクウォーカー、フィルファ、アイナスを看取った。

 そのたびにレンは「いってらっしゃい。また天国で神様と一緒に暮らそうね。俺もすぐに行くから」と笑顔で涙を流しながら平安に包まれ安らかに眠る五人に語った。


 そして今度はレンが看取られる番がやってきた。現在78歳。人間としてはかなり高齢だ。


「クロ…………シロ…………おいで」


 老衰状態で弱々しくも優しく愛おしい妻二人を側に呼ぶレン。


「レン…………死なないで…………お願い…………」


「レン…………今までありがとう…………愛してる…………」


「…………『リジェネレイト』…………二人はきれいなままだな…………」


 クロとシロはレンと同じ80間近の肉体年齢なのだが、やはりレンがリジェネレイトをかけ続けているため見た目だけはまるで吸血鬼のように若々しいままである。


「馬鹿!!!今の状態で私達をきれいにするためになんか力を使わないで!!」


「レン…………ちゃんと自分の体を大切にして…………お願い…………」


「わかったよ…………ニュート…………キリア…………レニア…………おいで」


 クロとシロに抱きしめられながら愛しい息子娘孫娘を優しく呼ぶレン。


「パパ…………死なないで下さい…………パパがいなかったら僕は…………」


「父上…………父上ーーーー!!!だめなのじゃ!!!妾とニュート、レニアの血を飲むのじゃ!!!父上がおらんくなったら妾は…………」


「おじいちゃん…………死んじゃうの…………?いやだよ…………おじいちゃんいなかったら私暴れん坊のままだったんだよ?クリスチャンにもなれなかったよ?いや…………イヤーーーー!!」


「ニュート……牧師先生がそんなんでどうするんだ……お前は竜人だからもしかしたらドラゴンぐらい長生きするかもしれない……キリア……それが無駄なのはトライ先生の時に試しただろう……レニア……お前はもう俺よりも立派なクリスチャンだ……お前達三人はこれから長くこの地上で主の僕として従いながら生きていくだろう…………クロとシロ、グレイスを…………頼む。神様……カレン……本当に感謝します…………すばらしい家族を……与えてくれて……みんな……しばらくお別れだ……元気でな……また神様と一緒に会おう……」


 家族に包まれながらカシウス・レンは78年の生涯を終えた。



「…………ここは…………まさか…………カレン…………いるのか…………?」


 なぜか死んだはずのレンが意識を取り戻すと真っ白な空間に立っていた。


「お疲れ様レンレン。いや、香取錬。ボーナスタイムは終わりだよ」


 やはり後ろから話しかけてくるカレン。

 しかし前回と違いレンはゆっくりとカレンのほうへ振り向く。


「…………どういうことだ…………?ボーナスタイム…………?まさか…………あれは夢だったとかいうんじゃないよな…………?」


「まさか。君が生きてきた世界は間違いなく実在するよ」


「じゃあどうして俺はこんなところに…………?」


「君は帰るんだ。君の生まれた本来の世界へ」


 そこでようやくレンは気づいた。

 自分の体がかなり縮んでいること。

 年老いてからも鍛錬は欠かさなかったのに今はぶよぶよで体中にかさぶたがある。

 鏡がないので分からないがハゲだろうし、ヒゲの感触もある。

 地球で転生した時と同じ状態だ。


「嘘だろ……またあの無力な状態に戻って日本で暮らせってのか……?お前は俺をいいように使い捨てにして目的が終わったら全部元通りってことなのか……?嘘だろカレン?お前はそんなことしないはずだ……」


「本当はそのはずだったんだ。君を使い捨てるつもりなんて全くなかったけど、君が完全聖書を収集し終わったらその瞬間君はニエフから消えるはずだった」


「…………ボーナスタイムってのは収集が終わってからもニエフで生きられたことなのか…………?」


「うん…………君と君の家族がすごく幸せそうだったから、それを突然消してしまうことが……僕には出来なかった……神様に何とかお願いして……とにかく君のニエフでの残りの人生を確保したんだ……」


「でも俺は精神……魂としてはもう100歳以上だぞ……?地球に帰ったとしても……20年も生きられないはずじゃないのか……?」


「僕にも魂のことは分からない。でも、僕が神様に教えてもらったことは人間の魂は永遠に生きる可能性があるという事実。魂が肉体に留まり続けられないのは魂が限界を迎えるからじゃなくて肉体が衰えるからなんだ」


「そうなのか……俺は……あの時……何歳だったっけか……?まだ30にもなっていなかったはずだが……これからまた日本で何十年か……無力で病気だらけで仕事もないまま生きていくのか俺は……?」


「香取錬、君はニエフで学んだ、やり直した大切な真実を忘れているよ?」


「確かに俺にはニエフで助けてくれる人達が大勢いた……愛する家族にも恵まれすぎるぐらい恵まれた……でもその人達は日本にはいない……家族を失った俺に何が残るんだ……?」


「いつでもどこでも君を見守り導いてニエフでは成長させてくださった方がいるじゃない」


「それは……神様のことは信じているし救われていると確信しているが……それが出来たのも父さん母さん姉さんクロとシロ、ニュート、キリア、レニア、他の大勢の人達が支えてくれたからだ……俺は一人じゃ神様に従える自信がない……」


「そんなことはないよ。君があの魔王を倒した時、君は家族を失い一人になっても神様を信じて従い力を受けた」


「……それだってカレンが神様にお願いしてくれたからだろ……俺の力じゃない……神様とカレンのおかげだ……」


「僕は確かに神様にお願いした。でも、あの時君が神様の力を借り受けることができた理由は、君自身が心から神様に願い祈り、聖書の御言葉を本当に真実だと理解していたから出来たことなんだ。君自身の信仰が足りなかったら……というかなかったらあの奇跡は僕がどんなに神様にお願いしても、神様が力を貸してくれても出来ないことだったんだよ」


「そうか……どうあがいても俺はあの世界に戻るんだな……?それは決定事項なんだな……?恐らくは神様とお前が俺を転生させる前から交わしていた約束事……そうなんだろ?」


「そうだね、僕が完全聖書を失ってから、神様にひたすら謝って悔い改め続けた僕に神様が啓示してくれた計画、それが君を呼ぶことだった。それから500年ニエフ中を隅々まで見渡して君の望む家庭、カシウス家を見つけ出し、君を転生させた……そしてその計画の終わりには君は地球へ、日本へ戻らなければいけない。あそこが本来君が生きるはずの世界だったのに、僕の失態のせいで君をニエフへ呼ばなければいけなくなった。これも等価交換だね。あるべきものをあるべきはずの場所へと還す」


「そうか……神様の計画なら俺にはどうしようもないな……でもあの世界に戻ったら俺はどうすればいいんだろうな……支えてくれる家族もいない……ちっぽけだったけどニエフで持っていた力もない……教えてくれるとは思わないがカレンは地球でどうしてたんだ?」


「香取錬、カシウス・レン、君がニエフで得た家族は地球にはいない。君はちっぽけな力というけれどあれはすごい力だったんだよ?後は神様に頼んで少しプレゼントを作ってもらったよ。君の胸にかかっているものを見てごらん」


 カシウス・レン、香取錬が自分の胸に手を当てるとTシャツの下に何かペンダントがかかっていた。


 インヤンクロスに施された十字架の意匠と同じ黒と白の十字架。

 側面には緑色と金色が交じり合いながら美しい文様が描かれている。

 そして黄金の小さな若葉がたくさん生えている新緑の枝が一本十字架に巻きついている。


「これは……クロとシロ、ニュート、キリア、レニアか……?五人の暖かい感じがする……」


「そうだよ。クロちゃんとシロちゃん、ニュートくん、キリア、レニアちゃんの命と魂、その欠片が吹き込まれた十字架のペンダント。君が今まで最も愛してきた人達の想いがこめられている。形としての十字架を持つことに意味はないけど、それを強く握り締めて意識を集中してごらん?」


 香取錬は言われるまま強く十字架のペンダントを握り締め意識を集中させる。


 するとまるで完全聖書を読んだ時のように、いやもっとはっきりとまるで思い出を追体験するように五人との出会い、生活、戦い、愛し合ったこと、ニエフで経験した全てが鮮明に香取錬の脳内に再生された。


「これは……完全聖書と同じ仕組みか……?」

 

「どうだろうね?僕にも詳しくは分からない。何か思い出したのかい?僕はそのプレゼントの効果を知らないんだ」


「あ、ああ……ニエフでの全経験がVRムービーみたいに脳内で再生された……完全聖書の時よりもはっきりと……それに何か力がわいてくるような……体も少し軽い……頭も少し回るようになった……かゆみもかさぶたも少しだが減ったな」


「へぇー、そりゃまたチートみたいなアイテムだね。まあ神様お手製だから当たり前だけど。それで?香取錬?まだ君は気づいていないことがあるよ?君が地球でクリスチャンとしてもう一度人生を全うすれば……」


「会えるのか……またみんなに……本当か……?」


「必ず会えるよ。僕にもニエフが終末を迎えてどのように今ある新しい天地と融合するのか、単にニエフの被造物やクリスチャンが地球の新しい天地に行くのかは分からないけれど、クリスチャンがたどり着く場所はどの世界でも一緒。イエス様の治めるところだよ」


「そうか……会えるのか……クロ、シロ、ニュート、キリア、レニアに……天国で神様……イエス様と一緒に暮らせるのか……」


「そういうことだね。いつだったかトライアードさんが言ってたじゃない。辛くても苦しくても神様は必ず守ってくださる。そしてそれを信じて主に従っていけばおのずと主の用意してくださる未来が待っていて、それは必ずよいものだって。それは地球でも同じだよ」


「そうだったな……でも、カレン、何から何までありがとうな。何も出来ない俺にここまで丁寧に説明してくれて。感謝している。そろそろ限界なんじゃないのか想像主様よ?またかなり無茶してるんだろ?」


「えへへ、実はそうなんだよねー、地球と天国、ニエフはいわば別の次元に存在するからそれを往復するのも大変だしこの世界の狭間に留まるのも大変なんだ」


「だから俺を転生させるときに、地球からここに移動させたりニエフに移動させたりして力を使い果たしてたってわけか。よくたった6冊の状態でそんなことできたな?」


「その辺も僕は君だからね。神様に限らずいろんな人に頼らないと何も出来ないんだよ」


「そうか、まああんまり力を消費させるのもアレだな、カレン、ニエフで俺の家族のことよろしくな。地球に戻してくれ」


「うん……バイバイ……僕らはもう会えないけどね……」


「あ?何言って……」


 カレンが別れの言葉を告げると転生したときと同じように、急速に香取錬の意識は薄れていった。

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