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後編 カレンの真実

 日本。

 季節は春。

 桜の咲くとある小さな公園の東屋。

 そのベンチの上で、香取錬は長い眠りから目覚めた。


「ここは……桜が咲いてるってことは春……俺の体……あの時と何も変わってないな……時間が経過していないのか……?でもペンダントはちゃんとある……うん、しっかり思い出せる……うっ、これはあまり外で使うべきじゃないな……」


 クロとシロとのあれやこれやも思い出してしまったようだ。


「さて……これからどうするかね……あの時俺は……何をしようとしていたんだっけか……とりあえず家に帰るかね……」


 とぼとぼとすぐ近くのボロアパートに帰っていく錬。


「久しぶりの一人暮らしか……それにしても貧相な家だよなぁ……クロとシロと使ってたベッドすら入らなさそうだ」


 六畳一間、築数十年の古いアパートの狭い一室でぼやく錬。


「とりあえずこの悲惨な状況何とかせんとな……」


 アパートの現状はひどいものだ。

 剥がれ落ちたかさぶたと脱ぎ散らかした洗濯していない洋服で床が覆われている。

 その他もろもろのゴミなのかどうなのか判別のつかないもので埋め尽くされ畳が全く見えない。


 なんとか二日間かけて自分の部屋をまともな状態にした錬。

 カシウス家で育てられてそのあたりもしっかり矯正されているようだ。


 その途中獣医師国家試験の参考書を見つけていた。


「そっか……俺は国家試験三浪中のあほだったな……どうしてがんばらなかったんだっけか……ん?……そういえば、あまり躁鬱の症状がないような……それの影響もあって国家試験失敗したこともあったし……というか地球ではついこの前の話だな……一応医者に見てもらうか」


 その後錬はかかりつけの精神科とデイケアに三ヶ月ほど通ったが、医者もデイケアのスタッフも錬に以前の躁鬱の症状が全く見られないと驚いていた。


「これはどういうことなんだろうな……?乾癬はペンダントで少しよくなってるし、体も鍛えれば以前より気持ちいいしなんか筋肉もつきやすくなった……みんなの力が神様に具現化されたアイテムだからかね……相変わらず守られてばっかりだなぁ……後は……勉強するか。資格ないとどうにもならんしな」


 それからの錬は毎日皮膚科に通うルーチンワークに加え、勉強に専念することが出来た。

 集中力が途切れそうになるとペンダントを握り締め意識を集中させると再びやる気が沸いてくるから不思議である。

 さすがは神様謹製のアイテムだ。


 乾癬のほうにも効果があるらしい。

 薬を塗ってもらっている間。

 その後しばらくペンダントを握り締め意識を集中させていると2ヶ月ほどでかさぶたはなくなった。

 相変わらず全身の皮膚に発赤は目立つが、ふけのようなかさぶたは落ちなくなったし、一番気にしていた顔周辺と四肢周辺は薬の効果とあいまってすごくきれいになった。


 獣医師国家試験も洋服の中にペンダントを隠し持ち臨んだ。

 というかこのペンダントは一切はずすことが出来なかった。

 風呂に入るため外そうとしたことがあったのだが顎から上に上げられないのだ。

 ペンダント自体の材質は木製みたいなのだが、湿気の多い風呂に仕方なくつけたまま入っても何の変化も劣化も起きなかった。

 このあたりも神さまの不思議パワーだろうか。

 錬は、首から外せない理由はなんとなくクロ、シロ、ニュート、キリア、レニアが自分に抱きついて常に守ってくれているから、という感じで理解しており幸せだった。


 とにかく半年以上ペンダントのチート能力に助けられて勉強に専念していたため本来合格率9割の試験にはあっさりと合格できた。

 今まで残りの一割に三年間も当たり続ける不真面目さと馬鹿さ加減が錬のどうしようもないところだったのだ。


 合格してからは日本の牧師先生、レイクウォーカーそっくりの御仁、が近所にクリスチャンのおじいさん獣医がいると教えられてその動物病院にいってみた。

 結果、これまたトライアードのような優しそうなおじいさんがでてきた。

 錬の事情、ニエフのことは当然話せないが、今までの経緯を説明し、この間獣医の資格を取りましたと伝えるとこれまたトライアードと同じ理由、クリスチャンの獣医ということで大変気に入ってくださり、錬をビシバシしごいてくれた。


 基本的に急患や重症の入院患畜がいなければ日曜日の午前中の礼拝、水曜日の夜の祈り会に参加することができた。


 仕事も失敗は多かったが、それはニエフに存在しなかった電子機器などの取り扱いであった。

 手術や麻酔のコントロール技術はニエフで培った経験があるため差し引きトントンといった感じだ。

 錬は特に機械が苦手ではないので5年もすると何とか一人前の獣医、ニエフでいう10位程度のレベルになった。


 その後も特に変化のないクリスチャンとして、獣医としての日々が10年ほど過ぎていった。

 いや、実はその間に女性に、しかもクリスチャンの女性にアプローチされたことが二度ほどあった。


 クロとシロが愛した優しさ、ニュートが息子として愛していたこと、キリアが娘としてべた惚れだったこと、レニアが自分を矯正してくれた祖父として愛してくれたこと。

 何より、躁鬱が何故か完治したため穏やかになったこと、またペンダントの効果で皮膚の見た目もある程度改善され、体が引き締まったことなど総合的に判断すると割かし魅力的なクリスチャン男性に見えているらしい。


 しかし錬は「愛している女性はもういるのですみません」と断り続けていた。

 転生する前だったら飛びつきそうなものだが、ウィリアムとレベッカの教育、なにより地球には存在しないであろうレベルの美人かつすばらしいクリスチャンのクロ、シロを妻としており、さらにクリスチャンとして超経験豊富な娘のキリア、かわいい孫娘のレニアを見てしまっている錬にとってどんなクリスチャン女性でも興味がわかなかったのだ。


 さらに錬が勤務し始めてから15年後、おじいさん先生が引退し錬に病院をそのまま譲ってくれたのだ。

 それを機会に錬はぼろくて古いが庭のある小さい一戸建てを購入し、桜を植えた庭を眺めるという昔の夢を少しだけ実現した。


 そんな風にクリスチャンとして獣医としてニエフでの日々に比べれば極々平凡な生活を送っていた錬だったが、寂しいと感じることはなかった。

 教会の人達は転生前と同じように錬を愛してくれていたし、錬は獣医としても割と説明がうまく、簡単な処置や手術は的確で自分の技術では不可能と判断すると出身大学の付属動物病院をすぐに紹介したためペットの飼い主達にも好評だったからだ。

 しかし一番の理由はペンダントを握り締めて集中すればいつでもニエフの家族との日々を追体験できるからだ。

 その追体験を繰り返し繰り返しいつか自分が主の下へ行き、家族と再会できることを錬は待ち望み続けていた。


 そしてニエフと同じ78歳になった時、錬は教会の人達に見守られながら心底幸せそうに主の下へと旅立った。


 永い眠りのような時が過ぎ、錬は神様の再創造された新しい天地、天国へとやってきた。


「ここが天国……もうみんな来ているのかな?」


 ちなみに錬の見た目は地球とニエフのハイブリッドみたいな感じになっている。

 身長や体格、顔つき、髪型などはニエフのままだが、髪色や目の色、肌の色などは日本人そのままである。

 完全にされたため皮膚病も完全になくなっている。


「レン?レンよね?レンーーー!!会いたかったよー!!」


「……またこうすることが出来る……」


「……パパ……お久しぶりです……」


「父上ーーーー!!!!会いたかったのじゃーーーー!!!」


「おじいちゃん……良かった……ちゃんとまた会えた……」


 いきなり現れたクロ、シロ、ニュート、キリア、レニアにもみくちゃにされるレン。


「うぉっ!!み、みんな元気そうだな?」


 完全にされているんだから元気なのは当たり前だろう。


 その後ウィリアムやレベッカ、マリー、トライアードやフィルファ、アイナスたちとも合流することが出来た。


「あれ?カレンどこだ?」


 ニエフの人達にも地球の人達にもみんな会えたのだがカレンがいない。


「イエス様、カレンはどこにいるのですか?」


 イエス様の説明によるとカレンとレンは同一人物のためカレンが神様からレンをニエフに転生させる啓示を受けたとき、その計画を実行すれば最終的に二人の経験が合わさった上でレンに主導権がある状態になるよう決まっていたらしい。

 それでもカレンは計画を実行することを選んだ。

 過去の改変にはなるのだが、結果的にカレンもレンもより主に従い主の栄光をあらわす者となる計画なのでカレンに啓示を示したらしい。


「カレンが俺の中に…………?」


 レンが思い巡らすと本当に悲惨なカレンの過去が浮かび上がってきた。

 一応獣医にはなれたようだが、10回目の受験でようやく合格。

 その後レンと同じで不器用なため動物病院の獣医でなく公務員になるのだが動物が好きで獣医になりたかったはずなのに事務処理ばかりしている自分に嫌気がさしていたようだ。

 結果公務員としての給料の大半をオタク趣味に費やし最後には孤独死している。

 こんな人生を送ればファンタジー世界ぐらい作ってしまうかもしれないとレンは少し涙を流していた。


「イエス様、ありがとうございます。カレンも俺も幸せだと思います。カレンが俺の中にいるならカレンの分まで家族と共に幸せになります」


 レンは力強くクロ、シロ、ニュート、キリア、レニアを抱きしめながらイエス様に幸せになると宣言すると、イエス様は、カレンはもう幸せになっている、レンが幸せになることがカレンの幸せと同義なのだと教えてくれた。


 これからもレンは永遠に幸せに、主と、家族とともに過ごしていく。


 カシウス・レンの物語は、これで本当に幕を閉じる。

ここまで『自作自演の理想郷』を読んでくださり、

本当にありがとうございました。


この物語はこれにて完結となります。


もし楽しんでいただけましたら、

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


なお、次回作『灰色の未来に灯る福音』を

現在執筆中です。

またどこかでお会いできれば嬉しいです。

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