第六十四話 父と娘の時間
シロとニュートが何が何でも自由軍国の記憶を消し去りたいのかわずか半日で中央都まで移動し、ウィリアムたちへのお土産を買ってイクスに戻ったカシウス一家。
「あー……生き返るな……」
「本当ね……地獄から天国に来た気分だわ……」
「イエス様の雰囲気に満ち溢れてる……幸せ……」
「そうですね……でもウチダ先生たちはすごいです……あの国でがんばれるなんて……」
「そうじゃのう……ウチダ夫妻はすごいのじゃ……あの忌まわしい国で主を述べ伝えられるなど……実際にクリスチャンも増えておるしの……しかしそれよりも早くお祖父様とお祖母様に会いたいのじゃ」
レン、クロ、シロ、ニュート、キリアは久しぶりに実家へと帰った。
ウィリアムもレベッカももう60歳間近。
それでも二人ともものすごく元気に五人の帰還を喜んでくれた。
五人ともしっかりたっぷり両親祖父母に甘え、ジャマングの料理を楽しんだり着物を着たりして久しぶりに家族の時間を堪能していた。
マリーにも食材や着物を届けに行くと、びっくりすることにトライアード、フィルファ、アイナスがマリーの学校で働いたり教会の奉仕を手伝っていた。
トライアードは現在112歳なのだが、フェニックスの再生力の効果が続いているらしくまだまだ元気いっぱいだ。
レンに助けてもらった恩返しとしてレンたち五人が自由軍国に旅立った少し後にファルバの学校を退職しほぼ無給でフィルファ、アイナスと共に学校と教会で働いてくれている。
キョウヤもクリスチャンとして長い経験を持つトライアードから学ぶことが多く、牧師として成長している。
グレイスは現在14歳、ヨセフは9歳、ダニエルは1歳である。
三人ともかわいい年頃のため五人でかわいがりまくりジャマングで購入した色々なおもちゃを与えると大喜びしていた。
グレイスにもキリアが丁度いいサイズの着物を選び、少し着付けを調整するととてもかわいらしいマリーに良く似た和装美少女となった。
ちなみにグレイスはマリーとキョウヤの要素を受け継ぎ、またトライアード、フィルファ、アイナスというニエフトップクラスの教師から教えを受けているため全ての階位が14歳にしてすでに5位以上というすごい実力を持っている。
普通の人間なのだがニュートのような万能タイプになりそうだ。
クリスチャンとしてもマリーとキョウヤのよい部分を受け継ぎ、強く優しいしっかりとした信仰を持っている。
15歳になればすぐにでも信仰告白をしてキョウヤから洗礼を受けられるし、そのままマリーの学校で教師としても働けるし、冒険者としても充分すぎるぐらい働けるだろう。
そんな幸せな10日間ほどが過ぎ、そろそろガンジャン・シュウとの晩餐会に行かなくてはならなくなった。
「あー……イクスに帰って来て幸せ過ぎたから余計にあんな国行きたくねー……」
「そうね地獄に落ちる気分だわ……」
「ああ……イエス様の雰囲気が皆無どころか罪だらけの国へ行くなんて……カレンの馬鹿」
「僕も行きたくないですけど……でもこれで終わりですし……」
「グレイスやヨセフ、ダニエルと離れたくないのじゃ……カレンの阿呆め」
「5人とも本当にごめんなさい……」
平身低頭土下座を通り越して土下寝をしているカレン。
「あー、まあしゃあないだろ。あの脳筋と冷酷無慈悲のおっさん二人が一体全体何を企んでいるのか知らんが、素直に完全聖書を渡すわけがないだろうしな。また何かしら問題が発生するだろう。でもニュートの言うとおりこれで最後だ。これが終われば俺達普通に生活できるんだろ?」
「うん……あと少しで終末の本も書き終わる……完全聖書が全部揃えば後は僕の仕事だからレンレン達は普通に暮らせるよ……」
「そういうわけだみんな、後少し俺とカレンを助けてくれ。すまんなダメダメ家長とダメダメ想像主で」
「「「「(阿呆の)カレン(様)(さん)はともかく(レン)(パパ)(父上)はダメダメじゃない(わよ)(です)(のじゃ)」」」」
「あー、いやだからカレンも俺なんだってば……もし俺がカレンと同じ人生送ってたら同じ結末になっただろうしな」
「「「「そんなことは絶対にない(わよ)(です)(のじゃ)」」」」
「あー、カレンすまんな……」
「いや、4人の意見はもっともだよ。レンレンなら僕よりうまくやれたはずだ」
「それもお前の先行投資があればの話だろ。お互い様だ」
「先行投資…………そういえばそうだった…………もう充分すぎるぐらい返してもらっちゃったけどね…………」
「何もう全部終わったような顔してんだよ?まだ最悪なのが残ってんだろ?」
「そうだったね…………」
「あっちの様子はどうだ?」
「超豪勢なパーティにするみたいだね。兵士達に相当な無理をさせてまでAランク魔物を倒して食材にしたりオリハルコン金貨数十枚使って豪華な内装を作ったりしてるよ」
「本当に何考えてんだかなあいつら……?絶対何か罠があると思うんだが……結局国をよくした理由もわからんままだしな……?ま、虎穴に入らずんば虎子を得ずって感じでやるしかないか。カレン、中央都に飛ばしてくれ」
「虎というかもはやドラゴンの群れに突撃するより厄介だけどね……あ、ニュートくんごめんね、ただドラゴンが最強の魔物って意味なだけだから」
「カレンさん、気にしないで下さい。僕はもうパパやママ達、キリアと同じ人間です。それに父さん母さんが最強の魔物なのは嬉しいです。だからこそパパたちを守れます」
「ニュートに対する気遣いもできん阿呆め、早ようせんか」
「キリア、カレンに優しくな。何度も言うがカレンも俺だ。色々違っても根っこは同じだ。カレン、頼む」
「うん、いくよ『ジャマング・ワープ』レンレン……これが最後の戦いだ……気をつけて……必ずウィリアムさんたちのところに帰るんだよ…………」
「だから死亡フラグ満載の台詞言うなって。まあ結婚はもうしてるから『俺、この戦いが終わったら』っていう最悪なのは言わなくてすむけどな」
「父上と阿呆の会話はたまにわかりませんの?」
「この辺も地球のどうでもいい知識というか趣味だよ。キリア、みんな起こすの手伝ってくれ」
「ふむ、そういえばクロ母上とシロ母上から興味深い物語を聞いたことがあるのじゃ。今度教えてたも?父上?」
「みんな起こして無事にラストバトルクリアできたらいくらでも話してやるよ」
「むぅ、父上の意地悪……何が何でもあやつらを叩きのめして話を聞くのじゃ。ほれ、ニュート起きんか」
「クロ、シロ、起きてくれ……起きないな……ほいっと、それじゃカレン、最後の戦い行ってくるな」
なかなか起きない三人を軽々担いでキリアと共に対談所を去るレン。
「神様……何があってもレンレンを守って下さい……たとえガンジャン・シュウとブラッドレイクを殺してしまっても許してください……」
カレンの必死な祈り。
何があるかわからない。
誰かを殺すことになるかもしれない。
それはとても怖いことだ。
クリスチャンであろうとなかろうと殺人は怖い。
ガンジャン・シュウやブラッドレイクのような狂人でもない限りは。
車に到着するとようやく目を覚ましたニュートが運転して船を停泊している港までたどり着いた。
「約束は明日の夜……しょうがない、出発するか」
「憂鬱だわー……晩餐会で何食べても砂の味がしそうだわ」
「そもそも用意されたものを食べたくない」
「料理自体はおいしいんでしょうけど……パパの料理みたいに愛情こもってないですからね……」
「妾は何も口にせんぞ!!!」
「四人とも、あっちに着くまで俺のでよければたらふく料理食わせて晩餐会で食えないぐらいにしてやるから」
「「「「なら(ば)行く(わ)(ます)(のじゃ)!!!」」」」
そんなこんなで再びバグガンへと向かう五人。
バグガンの港に到着すると豪奢に着飾った将軍五人が待ち構えていた。
しかしボーウェンとカーライルが何やらやつれている。
また長時間過酷な性処理道具扱いでもされたのだろうか?
第三、第四将軍になってもそういう扱いを受けるとは不憫である。
「やっと来たか。二週間待つってのは思ったより長かったぞ?まあそのおかげで晩餐会の準備はしっかりできたがな。だろうアレクセイ?」
「はい、シュウ様、しかと準備は完了しています」
ニヤニヤした嬉しそうな顔のガンジャン・シュウと無表情のブラッドレイク。
「つーか晩餐会なんぞいらんから今ここで本渡してくれんかね?」
「おいおい、国を挙げての一大イベントなんだぜ?お前のおかげで国がよくなったんだ。それを祝うのに主賓がいなくてどうするよ?それに戦うわけじゃねぇんだし、その物騒な装備取っ払ってそれなりの格好してこいよ?」
確かにガンジャン・シュウ含め将軍五人とも装備も帯剣もしていない。
「俺達がそこまでお前らを信用してると思ってんのか……?俺達はこのままで行く」
「カシウス・レン、ならば王城まではそのままで良い。しかし晩餐会の会場では正装をしてくれ。シュウ様、それでよろしいですか?」
「ま、会場で物騒な格好してなきゃなんだってかまわねぇよ。好きにしな」
「正装ね……俺とニュートはスーツぐらいでいいか……そうだな、クロ、シロ、キリア、どうせなら派手にやっちまえ。ジャマングの着物がいいな。最初のやつを持っていこう」
「うっ、あれレンが気に入ってるから好きだけど……他の人に見せるの……?」
「レンとニュート以外の男性には見せたくない」
「母上たち、業腹じゃが父上の妻として、娘として妾達の美しさを見せつけることも時には必要じゃよ」
「しょうがないわね……」
「ふむ、妻としての務めなら仕方ない」
三人はぶつぶつ呟きつつ船内へ着物を取りに戻る。レンとニュートも衣装を取りに戻った。
「ほれ、着替えは用意してきたぞ。もう車乗るからな。王城まで道案内よろしく」
ガンジャン・シュウの返事も聞かず車のドアを閉めるカシウス一家。
「ほんっとにかわいくねぇ餓鬼だな。しかたねぇ、俺達も行くか」
五人の将軍も車に乗り込み王城を目指す二台の車。
到着先の王城は町の様子以上に世界中のありとあらゆる最高建築技術、素材、装飾がでたらめに使用された全く統一性のないしかし豪華で巨大な要塞だった。
「これ見るとファルバの建物全部がすばらしく思えるな…………」
「なんか気味悪いわね……」
「センスの欠片もない」
「派手すぎて毒々しいです…………」
「妾のおったころより装飾がさらに気色悪くなっておる…………」
「んだよ?人のセンス馬鹿にする気か?」
「これあんたがやったの…………?」
「王城の形はあまり変えてねぇが色は俺の趣味だ。何か文句あんのか?」
「あー、なんでもないですー、さすが世界で一番大きい国の王様が考えたすばらしい色合いですー」
「おー!!そうだろそうだろ!!俺も超気に入ってんだよ!!なんだお前も結構話分かるじゃねぇか!!」
「あー、はい、すばらしいですー、とりあえず着替える場所に案内してもらえますか?」
「だろだろ?アレクセイ、案内してやれ」
「…………かしこましました…………カシウス・レン、その家族、案内する」
恐らくこの気色悪い色合いを気に入っているのはガンジャン・シュウ一人なのだろう。ブラッドレイク、ボーウェン、カーライル、レオンハルトはノーコメントだ。
「ここならば問題ないだろう。カーテンで仕切りの作れる大きな部屋だ。くつろげるよう家具も完備してある。晩餐会は19時からだ。それまでは好きに過ごすといい」
「もう少し地味な部屋ないんですかね第二将軍さん……?」
カシウス一家に用意された部屋は壁と床が紫、家具は金属部分が全てオリハルコン製のきんきらきんで毒々しい場所だった。
「お前達は国賓だ。最高の部屋に通さねばならん」
「これなら牢屋のほうがまだ落ち着けそうだが…………しょうがないか、時間まで待機してるよ」
「後三時間だ。辛抱してくれ。では私は退出する」
やはりこれもガンジャン・シュウの個人的趣味なのだろう。
ブラッドレイクも賞賛はしない。
「この部屋で三時間…………ある意味拷問だな…………」
「相変わらず意味分からない精神攻撃してくるわね…………」
「あの男はセンスがなさ過ぎる。レンを見習ってほしい」
「落ち着きませんね…………イクスの木製の壁と床が恋しいです…………」
「ジャマングに近いのじゃから少しはあの国の繊細な文化を取り入れてほしいものじゃが…………あの男には父上のような繊細な感性は微塵もないのじゃな…………」
自由軍国中を視察させられた時ほどではないがそれでもかなりの精神攻撃を受けているカシウス一家。
「あー、しょうがない、こういうときは飯食って寝よう。俺は念のため見張りしとくから。ほれ、弁当作ってきたぞ。味噌汁も色々作ってみた。しっかり食って寝て万が一のため体力温存してくれ」
レンは抱えていた五段重ねの重箱を3つ取り出し、数本のでかい容器から味噌汁を取り出しその辺の家具を金属魔法で容器に変形させて注ぎ魔法で暖めた。
「「「愛して(るわ)(る)(ます)(レン)(パパ)・・・・」」」
「あー、母上たち、ニュート、父上と妾の分も残しておくれ?」
すでに部屋の内装など知ったことかと弁当を食べまくるクロ、シロ、ニュート。
キリアの注意も全く耳に届かない。
「大丈夫だキリア、俺達用も準備してある」
レンは普通の二段重ねの重箱を取り出した。味噌汁も各種ちゃんと確保している。
「なんといいましょうか……父上は妾よりも年下ですが本当に器が大きく達観しておりますのう……」
「俺の精神年齢はあまり父さん母さんと変わらないからな。心がじじいなだけだよ。さて、かわいい娘とご飯食べようかな?問題ないかキリア?」
「もちろんなのですじゃ~父上、あーんなのじゃ」
「はいはい、あーん、むぐむぐ……ふむ、やっぱり自分が作ったの食べてもあんまり嬉しくはないな。キリア、お返しだ、あーん」
「ち、父上から……あ、あーん……しあわせなのじゃ~父上?膝の上に座ってもいいかの?」
「うん、やっぱり誰かが食べて喜んでくれるのを見るのがいいな。なんだ抱っこも追加か?よしよし、キリアは本当に甘えん坊だな、そこもかわいいんだが。ほれ、味噌汁飲むか?」
「し、失礼しますのじゃ……ああ~父上暖かいのじゃ~味噌汁……ごくごく……はぁ……地獄の中の天国なのじゃ~」
「さて、キリアは問題ないな」
「この状況で問題などあるわけがありませぬ~」
「クロとシロとニュートは……完食してすでに爆睡してるな。キリア、ちょっとすまんな、三人をベッドに寝かせてくる」
「父上?妾も手伝うので終わったらまた膝の上に座ってもいいかえ?妾も眠くはありませんのでお付き合いしますのじゃ」
「んー、まあそんなんでこの気味悪い部屋が気にならないならいいぞ、それじゃシロ運んでくれ。俺はクロとニュート運ぶから。よいしょっと」
「シロ母上、失礼するのじゃ」
「ふう、これで一安心かな。キリア、おいで」
「はいなのじゃ!!!」
シロ以上のスピードでレンのでかい体にすっぽりと収まるキリア。
「そうだなぁ、ただ待ってるのも暇だし、付き合ってくれてる礼に恐らくはカレンがイメージした、つまりは俺が大好きだった最強の吸血鬼の物語でも弁当食べながら話すかね?」
「はぁ?その吸血鬼は妾に似ておるのですか?」
「どうだろうな?性格とか能力は多少違うけどかなり似てるな。金髪金眼で美しい容姿。その吸血鬼も数百歳だけどキリアみたいにかわいいところがあってな。クロとシロにも話したことのある物語と同じで弱い主人公を助けてくれるんだ。今のキリアが俺にそうしてくれているようにな」
「父上、是非詳しく語ってたも!?」
「そうだなぁ……二人の出会いは……」
しばし地球で大好きだった作品のあらすじをかたるレン。
「そのような物語が地球に……でもその吸血鬼が少しうらやましいのじゃ……妾も父上とそのような関係になってみたかったのじゃ……」
「そうか?俺とキリアの関係はあの二人よりももっといい関係だと思うぞ?二人と違って家族だし、俺とキリアの絆はただの人間が想像した物語の中の二人の関係よりもずっと強いクリスチャン家族の絆だよ」
「そうですな……しかしいつかは父上を看取る時が来るかと思うと……その吸血鬼は永遠に主人公と共に生きられるのでしょう?」
「どうだろうな?俺も最後を読む前に転生したから知らないんだ。でもキリアだって天国でまた家族全員に会えて永遠に一緒にいられる。さらには神様とも一緒だろ?キリアは長く地上で生きるから俺達が死んだ後さびしい時もあるだろうけど、できればグレイスたちを見守ってやってくれないか?」
「そうですな…………父上の家族を見守る者として主から与えられた長い人生を生きることにしましょう…………」
「ありがとうな。俺のできないことをしてくれて」
「父上……でもまだ死なせないのじゃ!!」
「カシウス・レン、入っても良いか?」
感動に浸っている二人をぶち壊すブラッドレイクが扉越しに話しかける。
「あー、なんだもうそんな時間か?扉越しで話せるならそのまま話せ。お前の面見たらせっかくいい雰囲気なのが壊れちまう」
「お楽しみ中とは失礼した。あと一時間足らずで晩餐会だ。準備をしてくれ。時間になったらまた迎えにくる」
「勝手に下種な想像してんじゃねぇよ腐れ野郎が。さっさと行け。準備はしておく」
「それはまた失礼したな。では一時間後に」
「あれが同じ吸血鬼とは思えん……」
「同感だな。あんなのがキリアと同じ人種なんて考えたくもない。キリア、悪いんだが少し下着姿になってもらえるか?」
「ち、父上!?!?そ、そのようなことは……」
「あー、言葉が足りなくてすまない。装備がないから念のため新しい補助防御複合魔法をかけようと思ってたんだが……やはりニュート以外はだめか?」
「そ、それはそれで、ざ、残念なような安心したような……これでよろしいですか……?」
恥ずかしいのか嬉しいのかさくっと服を脱ぎ、美の女神のようなキリアの下着姿があらわになる。
「すまんな、すぐ済むから『ホーリーアブソリュートウォール・バージョンマキシマイズドエクソスケルトン』ふう、もう服着て大丈夫だ」
「父上…………?これは一体…………?何も装備しておらんのにすごい力が…………障壁も体の表面を包み込むように…………?」
「いいから早く服着なさい」
「はっ……はい。しかしこれは一体……?」
「昆虫とかは外骨格を持ってるだろ?硬い皮膚とか」
「そういう虫もおりますが……」
「そのイメージでキリアの体を聖属性障壁で包みつつ障壁にマキシマイズの効果を付加したんだ」
「究極魔法を二つも応用しさらに融合するとは…………やはり父上は計り知れぬ実力の持ち主じゃ…………」
「この辺も地球のイメージだよ。そういう武器が物語にあったんだ。さて、クロとシロとニュートにも同じ魔法をかけるから。一度ニュートはカーテンの向こうに移動させて、クロとシロにかけたら、キリアが二人の着付けをしてやってくれ。その間にニュートにも魔法かけて俺達も着替えるから」
「父上、父上も服を脱ぎ妾に血を下され。同じ魔法を使って父上を守ります。恐らく父上は自分にはその魔法をかけられますまい?少し悲しいですが……父上は自分を軽視しすぎる傾向があります……」
「ははっ、やっぱり女性には隠し事できないねぇ、いや、キリアだからかな。んじゃよろしく頼む。キリアなら絶対できる」
「失礼します……ペロ……チュウ……ゴクリ『ホーリーアブソリュートウォール・バージョンマキシマイズドエクソスケルトン』えっ!?たったこれだけの魔力でこれだけの効果を父上は…………?それとも妾が失敗しましたのですかえ?」
「んにゃ、ちゃんと効いてるよ。使用した魔力が少なく感じるならそれはキリアの魔力運用効率が俺とは桁違いだからだよ。ありがとうな。三人を起こしてくるからカーテンで部屋分けといてくれ」
「は、はい、父上…………」
カーテンを閉じキリアは静かに語る。
「ありえないのじゃ……もし本当に妾の体にかかっておる父上の魔法が父上にも成功したならば妾の全魔力が枯渇するはずじゃ……つまり魔力自体も父上の血液から吸収したが魔力運用効率や魔法コントロール、知識によるイメージすらも吸収しておることになる……一体父上はどこまでの力を…………」
キリアの語っていることはおおむね正解である。
以前カレンも説明していたようにレンがアブソリュートウォールを連発したりありえない方法で応用すること事態がおかしいのだ。
それはやはり優しさから発生する限定された愛する者だけを守りたいが故の無限に近い愛情が作り出す歪な強さである。
魔力に関してはレン自身が鍛錬した成果でもあるが、完全聖書をほぼ全て取り戻している想像主の加護が限りなく高まり、レンとキリアだけでなく全員を強化しているからだ。
キリアの魔力運用効率や魔法コントロール、知識すら流れ込みイメージ力が高められているのは血液からではなくレンの対象が限定されるが故の無限の愛がパスの機能を拡大拡張してキリアだけでなく全員を強化しているためだ。
自分と関係のない他者をあまり愛せない分自分の愛する者には死んでほしくないという身勝手な愛情と弱さ、愛する者を失う恐怖がやはりレンを異常なほど強めている。
そしてリジェネレイトを昔自分にかけられなかったように究極魔法を二つ応用融合してまで自分を守りたいと思う気持ちがレンには欠けている。
そのためキリアの指摘どおり自分にはその魔法が使えず、いつもの絶対障壁のみで身を守ろうとしていた。
もはや自己評価や自己愛が低いとかのレベルではない。
愛する者、家族を失うぐらいならば自分が命を賭して盾になり守りきると無意識に思っているのだろう。
ファルバ初日にマリーを助けた時、カレンに説教されたことが改善されていないどころかクロ、シロ、ニュート、キリアという深く深く自分自身よりも愛する対象を得てしまったことで悪化している。
そんな驚愕しているキリアに気づかずレンはあっさりと全員に不可視の究極補助防御魔法製装備をつけさせ、着替えを済ませてガンジャン・シュウの待つ会場へと向かう五人。
果たしてガンジャン・シュウ、ブラッドレイク・アレクセイは完全聖書を渡すのか?
それともやはり戦いとなるのか?最終決戦が始まろうとしている。




