第六十三話 謎の交換条件
カシウス一家が自由軍国下位五将軍をたおした。
レンも何とかガンジャン・シュウの剣術を防御できた。
5人の能力ならば充分に残った上位五将軍も倒せそうだと判明してからジャマングに戻ったレンが報告を兼ねて対談所へカレンに会いに行くと心底心配そうな顔をしていた。
「はぁ……レンレン無理しすぎだよ……ガンジャン・シュウの剣術はホーリーアブソリュートウォールを突破するかもしれないって言ったのに交渉するため隙間まで空けて防御するし……あそこまで正論語って啖呵まできっちゃうし……いくらニエフで一番防御魔法がうまいとはいえ……」
「いや、かなり、というか死ぬほど怖かったぞ?魔力もギリギリだったしな。でも種類は違うけど母さんや姉さんのほうが怖いから大丈夫だったのかもしれん」
「でもこれでガンジャン・シュウ含め残りの将軍も正面突破はしてこないだろうね……奇襲か油断を誘うか……周辺部の人達を襲って人質にしたりするかもね」
「それは困るな……さすがに自警団の人達も将軍には勝てないだろう……戻ったほうがいいかね?」
「んー、一応僕のところにブラッドレイクが来たらそういう手段をとれば本当にレンレン達が王城ごとバグガンを消滅させるって注意しておくよ。僕も周辺部は注意して観察してるけど自警団の人達のおかげで中心部住民からの襲撃もないし、当面は大丈夫かな」
「となると奇襲か油断させるか……もしくは忍者的な存在による暗殺とかか?」
「自由軍国に暗殺者がいないこともないけど、将軍達ほど強くないし、皆の気配察知能力を欺けない。襲撃に気づけばレンレンの防御魔法やアンチドートで充分防御、回復できる程度の攻撃手段しか持ってないね」
「ガンジャン・シュウの様子はどんな感じだ?攻撃を受けたことでだいぶ混乱していたようだが?」
「狂ったように鍛錬に打ち込んでるね……相手はブラッドレイクやレオンハルトだけど、鍛錬相手が弱いから剣術に関しては成長していない。ボーウェンとカーライルから魔法も習得しようと必死みたいだけど、魔力量が少ないし成長時期もとっくに過ぎているから高レベル魔法は習得できていない。心配なのはブラッドレイクが参謀として何かしら奇策を考えていることかな……」
「完全聖書渡す振りして晩餐会でも開いて毒殺って当たりかね?」
「そんな感じかな……レンレンのチェックなら毒が入っているかどうか分かるし、アンチドートも全ての毒を解毒できるから問題はないけど……王城の中に入ればあっちに地の利がある……みんなが分断されるかも」
「パーティ分断および自分に有利な陣地に誘導か。ゲームならありがちな展開だな。でも俺以外は問題なさそうじゃないか?」
「いや、だから……心配なのはレンレンなんだよ……ガンジャン・シュウの剣術を今度はまともに防げるだろうけど、それでも反撃の手段がない……」
「それもそうか……俺はみんながいなけりゃ何もできないままだしなぁ……」
「いや、レンレンの地球のイメージと人を助けたいって思いがなかったら周辺部はあのままだったんだよ?食事でもみんな喜んでるし、みんなを守れてる。戦う能力は必ずしも人を幸せにするわけじゃないからね。レンレンはとても正しく神様に従ってると思うよ」
「そうかねぇ……あんまり地球時代と変わってないと思うんだが……」
「いや、ちゃんとレンレンは成長させられているよ。ウィリアムさんたちも絶対そういってくれるはず」
「それは……どうなのかね……未だに自己評価が低いからな、ははっ……」
「とにかくもう少し休んでても大丈夫だよ。ジャマングまで攻めてはこないだろうしね」
「そうするか、またなカレン……」
ちょっと肩を落としつつ対談所を去っていくレン
「レンレン、大丈夫だよ。あの時の君とはもう違うから。今が終わっても、きっと大丈夫だから……」
カレンの語る今とはなんなのだろうか?
ガンジャン・シュウを倒すことなのかそれとも?
その後一ヶ月ほどしてから、カレンを通してブラッドレイクからの伝言があった。
「はぁ!?!?自由軍国をよくする方法だぁ?」
「うん、僕にも目的は良く分からないんだけど……レンレンがガンジャン・シュウに語った国をよくする方法を教えてほしいって……どういうことなんだろう……?」
「何考えてんだあのおっさん吸血鬼は……?」
「分からない……僕も普通の国にある税金からの医療補助や働けない人への生活保護とか簡単な法律や裁判のシステムとかずっと教えてきたんだけど今まで何度話しても全く聞いてもらえなかったのに突然……」
「よくわからんが……完全聖書についてはなんて言ってたんだ?」
「そういう方法を教えてくれて、国がよくなれば国賓としてもてなして渡すって……」
「油断させるつもりなのかね……?」
「わからないけど……可能性は高いね」
「なんだかな……でもカレンのほうがそういうこと詳しいんじゃないのか?地球で俺より長く生きてたから」
「そうだね、僕の知ってる範囲内で詳しくブラッドレイクに話してみるよ。でもそんなことであの国が変わるかなぁ……?」
「分からないが、自由軍国が少しでもまともになるならいいこと……なのか?バグガンだけじゃなく他の町も法律が整備されたり国からの援助が受けられればましになるだろうし、中心部に限らず他の町も略奪が違法化されれば落ち着くかもな。しかし力が全てって主義はどうしたんだ?ガンジャン・シュウは何も文句言ってないのか?」
「ごめん、何かしらブラッドレイクと話していたみたいなんだけど、個人のプライベートに関する部分だから詳しくは観察できなかった。鍛錬を一ヶ月重ねても全く成長がないから剣術も魔法も限界だと気づいたのかそれともブラッドレイクの奇策によるチャンスを虎視眈々と狙っているのか…………」
「よくわからん展開だな…………とにかく社会的セーフティネットとかの法整備や後は周辺部でしたような環境整備か。でも俺はあんまりそのへん詳しくないからなぁ。専門は一応生物学全般だし……それも中途半端だけどさ……」
「それは僕も同じだよ……福祉や政治に関してはあまり興味がなかった。僕も他者への愛や配慮が皆無だったからね。でもレンレン、君の生物に関する知識は中途半端じゃないよ。能力的には国家試験を充分合格して獣医になれたはずだよ」
「それは、どうも……お前は、なれたのか?獣医に……?」
「それはいつもの答えだよ」
「はいはい、禁足事項ね」
「そゆこと。とにかくあっちの思惑は分からないけれど……とりあえず今レンレンが言ったことをブラッドレイクに詳しく伝えるよ……でも一体何を考えてるんだろう……?」
「さてねぇ……少しはましな国になればそれはそれでいいことなんだろうが……それじゃあのおっさん吸血鬼によろしくなカレン」
ブラッドレイクの要求を疑問に思いつつ未だ自分の無力さに打ちひしがれつつ対談所を去るレン。
「レンレン大丈夫、なれるから……それに僕の全力で神様に頼んだんだ、君を守ってくれる家族を……欠片だけでも残してあげられるように……がんばって」
なにやらカレンの思惑の片鱗が少しずつ見え隠れしている。
それから半年後。
「バグガンだけじゃなく自由軍国自体が随分と改善されているね……」
「あの世界最大最悪の無政府無秩序国家にまともな法律や福祉制度、環境整備、教育システムを構築してその整備をたった半年で終わらせたのか?」
「一応ブラッドレイクは吸血鬼の中じゃ長く生きているほうだからね……ガンジャン・シュウよりも力は弱いけどその分政治家としては優秀なんだ……」
「ならもっと早くそうすりゃ良かっただろうに」
「今まではその必要がなかったんだ。今までの第一将軍を通して自由軍国を楽しくコントロールすることがブラッドレイクの趣味だったんだろう。それがレンレンたちの登場で今までのように遊んでいられなくなったから他国を見習い、将軍としてかなり強攻策を採ってでも国を改善してる。目的は不明だけど……」
「あのおっさん吸血鬼はものすごい性悪で残虐非道なんだな……困っている国民を見て楽しむとか性悪の域を超えすぎだろ……高潔な種族じゃなかったのか?」
「ブラッドレイクはかなり特殊な性格をしてるからね。レンレン、地球の物語で不死身のはずの吸血鬼が何故自分から死を選ぶのか理由を覚えているでしょ?」
「大体が長い人生に飽き飽きするか孤独からの自殺って感じだったと思うが、ニエフでもそうなのか?」
「地球の作品ではそういうのが多かったけど、それは作品中の吸血鬼が生殖能力をもたず家族や仲間も少なかった故の孤独のせいだったと思うんだ。でもニエフでは吸血鬼もちゃんと家族や仲間を得て子孫を残したり愛情や友情を育んだりしてる。だから自殺する吸血鬼は極少ない。でもブラッドレイクはそんな普通の人生じゃ満足できずに混沌に満ちた自由軍国を眺めて楽しんでいるんだろう……」
「はぁ……なるほどねぇ……ガンジャン・シュウとは別の意味で全くイエス様には従わなさそうだな……それで、あっちから何か要求はあったのか?」
「とりあえず自由軍国の現状の視察を頼まれたね。それにレンレンたちが納得するなら以前の条件どおり国賓としてもてなして完全聖書を渡すらしいよ……」
「結局なんのために国を改善したのか全く意味が分からんな……いつごろ来いっていわれてるんだ?」
「なるべく早く来てほしいみたい。自由軍国全てを視察するわけじゃないけど、他の主要な大都市を視察してもらう予定みたいで移動時間がかかるから早く来国してほしいって」
「なんだか不気味な展開だな。油断どころか警戒しちまうぞ?」
「そうだね……でもガンジャン・シュウに会わないと完全聖書は取り戻せない。なるべく警戒しながらバグガンへ行って視察に付き合ってから渡してもらえるかどうか試してみるしかないかな」
「それしかないか。どんな策を練っていても最終的には殺してでも奪うしかないしな」
「そうだね……ごめんレンレン……僕の失態のせいで……」
「気にすんなよカレン、元々お前の失敗がなけりゃ俺を転生する必要もなかったんだろ?お互い様だ。そんじゃちょっと気合入れて行って来ますか。またな。なんかあったら直接話しかけてくれ」
覚悟を決めたのか颯爽と対談所を去るレン。
「僕の失態……理由はそれだけじゃないんだ……レンレンの……僕達のためだよ……」
カレンの真の目的。レンとカレンのためとはどういうことなのか?
カレンの独白を知らないレンは、家族にブラッドレイクからの伝言を伝え、再びバグガンの港へとやってきた。
「よう、久しぶりだなカシウス・レン!俺の国をしっかり見てくれよ?」
以前少しだけ戦った時とは全く異なる陽気なガンジャン・シュウと他の四将軍がカシウス一家を満面の笑みで出迎えた。
「カシウス・レン殿、此度はカレンとともに我が国の改善点を指摘していただき感謝いたします」
気味が悪いほど丁寧に、しかし超長命なオリジナル吸血鬼らしく慇懃無礼に感謝の言葉を送るブラッドレイク。
「カシウス・レン様、あなた様を通してカレンに教えていただいた方法で国民も皆幸せになっています。シュウ様、アレクセイ様に続き感謝します」
ボーウェンも頭を下げてまで丁寧に感謝している。
「あ、あの、え、えっと、ありがとうございます!」
やはり年齢自体が若いのだろうか?子供のように慌てつつもボーウェンに続き頭を下げて感謝しているカーライル。
「ふむ、町の匂いが清清しくなった。血の匂いも悪くはないが腐臭悪臭は好かん。感謝するカシウス・レン」
やはり獣人のハーフとして匂いには敏感なのだろう。独特の感性から感じ取る不快さを取り払ったことに感謝するレオンハルト。
「お前ら誰だ…………?偽者でもでっち上げたのか……?それとも演技か……?だとしたら気味悪すぎるぞ……?」
豹変した将軍達に不信感しか芽生えないレン。
「いや、レン、匂いは同じよ。間違いなくあの将軍達だわ」
「見た目は全く同じ。態度は気持ち悪いけど」
「そうですね……威圧感はなくなりましたけど強さの気配は変わりません……」
「父上、魔法でも偽者を作るのは難しいのじゃ。父上なら可能じゃがこやつらの実力でそのような偽装は不可能じゃ。ただの気味の悪い演技じゃよ」
「がっはっはっはっ、そんなに警戒すんなよカシウス・レン!!俺たちは演技なんかしちゃいねぇよ!!強い者がこの国で偉いんだ!!そしてお前は俺よりも強い!!だからお前はこの国じゃ一番偉い!!その一番偉いお前に教えられたとおりに従うべきだとアレクセイが勧めてくれたんだ!!しっかりと今の自由軍国を見てくれ!!それに満足したら本はいくらでも渡すからよ!!」
豪快に笑いながらレンの実力を自分よりも上だと認め従うというガンジャン・シュウ。
確かに彼はこういうさっぱりした性格ではある。
若い頃には自分よりも強い主人に忠実に従っていた。
しかしそれは従わなければ殺される自由軍国の弱肉強食という風習のためだ。
自分が主人よりも強くなれば殺し、そんなことを続けているうちに若干40歳、しかも唯の人間が自由軍国歴代最強の将軍となったのだ。
彼自身もスラムで育ったため弱肉強食の精神は染み付いており、レンの強さを認めていることは嘘ではない。
「演技じゃなく本心なら余計に気持ちわりぃよ……俺たちは自分の車で行くからどこでもさっさと連れて行け。んでさっさと本渡せ」
「つれねぇやつだな?強い者同士仲良くしねぇか?」
握手を求めてくるガンジャン・シュウ。
「お前のような人の命を使い捨ての道具にする人間と交わすものなんかなんもねぇよ……さっさと移動しやがれ」
無意識にカシウス一家全員一歩後ろに下がってしまった。
あまりにもガンジャン・シュウの態度が軟化しすぎていて怖気が走ったのだろう。
「あー?必要だったんだからしょうがねぇだろ。さっきも言ったがこの国じゃ強い者が偉いんだよ。弱い者は強い者のため犠牲になる。当たり前のことだろうが?」
「これ以上自由軍国の御託を聞きたくねぇ……それ以上喋ると本当に消し飛ばすぞ……本当に国を改善して弱い人達を守ってんだろうな……?」
「シュウ様、落ち着いてください。カシウス・レン、シュウ様の意見は兵隊に関してのことだ。国民にはカレンを通じて聞いた政策をしっかりと実行してある。その目で確かめるといい。シュウ様、お車のほうへ」
「ちっ、相変わらずかわいくねぇ餓鬼だぜ。ま、俺に歯向かうやつってのも久しぶりで面白いがな、がっはっはっ、クローディア、エルヴィラ、ザビウス、行くぞ。カシウス・レンを驚かしてやろう。くっくっくっ」
心底楽しそうなガンジャン・シュウに続いて静かに車に乗り込むブラッドレイク、ボーウェン、カーライル、レオンハルト。
「どうなってんだあのおっさんは…………?」
「父上、あれが自由軍国の独裁者なのですじゃ。妾も……そういう時期があったのでわかってしまうのじゃ……」
「「「「キリアはあんな(脳筋馬鹿とは違う)(化け物とは違うわ)(悪魔みたいな人間とは全く異なる)(人とは違います!!)」」」」
キリアを家族総出で抱きしめ慰めなでつつ全員がキスを浴びせる。
「父上……クロ母上……シロ母上……ニュート……」
ほろほろと涙を流すキリア。
四人よりもはるかに年上なのだが本当に可憐な少女のようだ。
ニュート同様パーティ中最強なのだが長く生きている分苦く辛い思い出したくない経験もあるのだろう。
しかし家族全員でしっかりとそれを補っている。
「あー?なにやってんだお前ら?っておい、アレクセイ、ブラッドラインが泣いてやがるぜ?こりゃまた驚きだな?」
「シュウ様、吸血鬼も感情は人間と同じように働きます。私がシュウ様に忠誠を誓い従いますように。ブラッドラインはよき家族に恵まれたのでしょう。それにやつはまだ200歳ほどのはず、吸血鬼としては若いのです」
「ほぉー、そんなもんかね?ま、ブラッドラインを支えられるカシウス・レンの家族が人間離れしてるってことかね。おら、カシウス・レン、出発すんぞ、早くしやがれ!!」
「ちっ、空気のよめないくそ親父め、わかってるよ!!こっちもすぐ追いかける!!ニュート、キリアをしっかり抱いて車に連れて行け。クロ、シロ、行くぞ」
「本当にあれアンチマターで消し飛ばしちゃだめかしら?」
「同じく。あんな外道が存在していい理由が全くない」
「キリア、あんな人とキリアは違いますよ。ちゃんと自分からなるべきでない将軍を辞めてクリスチャンになったんですから」
「ニュート……ありがとう……愛してるのじゃ……」
それぞれ思うところはありつつも車に乗り込み珍しくレンが運転手となって将軍達の車を追いかける。
ちなみに車は特注で運転席が中心にあり左右にクロとシロが座っている。
後ろのシートではニュートがキリアに膝枕しつつ優しく全身撫でている。
そんなドライブが数時間続きバグガンから一番近い町、ジャンバルへとやってきた。
「中心部はバグガンと対して変わらないな……住民も険しい顔をしている人が少ない……」
「カシウス・レン殿、しっかりと略奪は法律で他の国同様禁止しました。それでも法を犯すものはカレンから聞いた刑務所という場所を作り閉じ込めております。裁判も私の判断ですがしっかりと行っております。その判断も他の裁判官に教え国中に派遣しています」
「そうか……周辺部……スラムはどうなっているんだ?」
「すぐ移動して見せてやるよ。アレクセイたちががんばったからな、見事なもんだぞ?」
「みんな、車に戻るぞ……」
「本当にかわいくねぇ餓鬼だな、返事ぐらいしろってんだ」
「シュウ様、お車へ」
「へいへいっと」
十分ほどでジャンバル周辺部へ到着し状況を確認するレン。
「まだ不完全みたいだが……ちゃんと援助や支援はしているようだな……」
死体は全て処理されており、カシウス一家がバグガン周辺部に施した処置を参考にしたのか中心部と同じ下水設備や公衆シャワーなどの衛生環境、教育システム、働けない人達や孤児たちの住居などがしっかりと整えられている。
しかしやはり性的な風習は変わっておらず、ちょっと見回せばそこら中で男女がまぐわっている。
「…………ここはもう充分だ…………次へ連れて行け…………」
他人の性行為など見たくもないのかそれだけ伝え車に戻るカシウス一家。
「なんだぁ?面白くもねぇ反応だな?俺のいた頃に比べりゃ随分とましになったはずなんだが?」
ジャンバルはガンジャン・シュウの故郷であり、自由軍国第二の町でもある。
しかし首都でない分治安はさらにひどくその劣悪で暴虐に満ちた環境の中育ってきたガンジャン・シュウにとって今のジャンバル周辺部は甘っちょろいとすら感じる状況なのだ。
「シュウ様、恐らくカシウス・レンはクリスチャンと自称しているのでエウレアのカレンシュタイン出身なのでしょう。カレンとのやりとりが多いことからもそれは推察できます。そしてカレンシュタインではこのような野外での男女のまぐわいは忌避するものなのです」
「そりゃまた面倒な国だな?やりたい女がいりゃどこでも誰でも犯すもんだろ?なあクローディア、エルヴィラ、ちょいとやってくか?」
「シュウ様、いつでもご要望にはお答えしますが今は他の町の視察を優先するべきかと」
「え、え、え!?!?ここはちょっと……ちゅ、中心部ならどこでも……」
当然ボーウェンとカーライルは結婚していなくとも力の序列関係のためガンジャン・シュウとそういう関係である。
幸いなのは三人とも力が強く種族も異なるためガンジャン・シュウに普通の人間の女性との間にしかキョウやミョウのような子供が出来なかったことだろう。
ガンジャン・シュウの力を受け継いだハーフ魔族やハーフエルフなどがいたらカシウス一家が殺さないよう手加減することが恐ろしく厄介だろう。
「ちっ、久しぶりの故郷だってのに面白くねぇなぁ。アレクセイ、さっさと次行ってくれ」
「シュウ様、しばらくご辛抱ください。クローディア、エルヴィラ、車内の個室でシュウ様を慰撫しなさい」
「移動時間中なら問題ありません。精一杯御奉仕させていただきます」
「く、車の中なら……シュウ様……その……がんばります!!」
「いいねぇ、アレクセイは話がわかる!!ザビウス、お前も混ざるか?」
「いえ、遠慮しておきます。クローディアもエルヴィラも女性とはいえ俺より強い将軍です。二人を抱く権利を持つのはシュウ様だけでしょう」
「全く、アレクセイは長く生きてっから誘っても乗ってこえねぇしザビウスはクローディアやエルヴィラどころか女に興味しめさねぇし。さすがに弱っちい一般兵士に第三第四将軍二人を抱かせるのはありえねぇし……つまんねぇなぁ。ま、たっぷり楽しむとしますか、クローディア、エルヴィラ、よろしくな?」
「はい、問題ありません」
「精一杯がんばります!!」
二人はガンジャン・シュウに抱かれることを喜んでなどいない。
彼は育ってきた環境のため女性を愛し気持ちよくする方法など知らないのだ。
ただ自分が気持ちよくなる方法を二人に強制的に奉仕させ強引に何の前戯も行わず性行為を行う。
二人はひたすらその強引で強烈な痛みと苦しみに耐える。
これも自由軍国の風習である。
女性はモモコのように力がない限りより強い男性の性処理道具でしかないのだ。
そんなことが行われている将軍達の車を一週間ほど追いかけ続け、各地の主要な町の状況を視察し終わったカシウス一家。
しかし町の環境が整ったり援助や支援が行われても性的な風習が淫らであり続けることを考えるとカレンの語っていたニエフの終末における自由軍国の運命は変わらないだろうことに頭を悩ませていた。
「んだよ?俺達のやってきたことにまだ不満があんのか?」
この一週間の退屈とレンへの不満をボーウェンとカーライルを犯し続けることで解消し、少し若々しくなっているガンジャン・シュウがそれでも不満そうに語る。
逆にボーウェンとカーライルはひどく乱暴に扱われたため車から出てきていない。
今回まで一週間も、それも過去最悪に性処理道具として犯し続けられたことがなかったため肉体的、精神的苦痛で立ち上がることも出来ないのだ。
「…………いや、なんもねぇよ……お前とおっさん吸血鬼はよくやってると思う…………もういいだろ…………?さっさと本渡せよ…………」
レン含めカシウス一家全員自由軍国のどこに行ってもクリスチャンとして許容できない光景を一週間も見させられ続けたためぐったりとしている。
「カシウス・レン、本は一週間後に国賓としてお前達をもてなす晩餐会を開催する予定だ。その時にシュウ様の持つ本は全て譲渡する」
「あー、二週間後にしてくれるか……?移動ばかりで少し疲れたんでな」
「シュウ様、よろしいですか?」
「移動ぐらいでへばってんじゃねぇよ、俺の剣を防御できるやつがそんなんだと思うと泣けてくるぜ。晩餐会なんぞいつでもかまわねぇよ」
「そうか……それじゃ二週間後にまた来るからな……みんな、ジャマングに戻ろう……」
「ジャマングもいいけど……実家に帰りたいわ……」
「……ますます罪まみれになった気分……吐きそう」
「パパ……おじいちゃんたちのところに帰りたいです……」
「……どうあがいてもどうしようもない国なのじゃ……妾はどうしてこんな国に……」
がっくりと肩を落としバグガンだけでなく自由軍国中を見せられ国がどんなに改善されてもどうしようもないことに意気消沈して船に乗り込むカシウス一家。
ジャマングに到着し一家全員でカレンに報告しに行くカシウス家。
「よお……カレン……ありゃどうやってもだめだな……」
「カレン様……イクスに帰りたいです……」
「人間はみんな罪人……でも国中全部あんな状態……どうしようもない」
「カレンさん……あの国はどうしてカレンシュタインみたいじゃないんですか……?」
「妾は……妾は……どうしてあんな国に……」
一人過去に押しつぶされそうになっているキリアを全員で抱きしめつつカレンに問いかけるカシウス一家。
「ごめんね、僕にもあの国がどうしてああなったのかは分からないんだ……僕が観測を始めた最初期のニエフにはもうすでに大勢の人が暮らしていて、カレンシュタインも僕が名づけたわけじゃなくて僕を慕ってくれるウィリアムさんたちのような優しい人達が多いから自然とそういう名前になったんだ……自由軍国も同じだね……キリア、キリアがいた頃の自由軍国はあの国で最良の状態だったよ…………」
「キリア、泣くな、カレンも認めてくれている。お前が自由軍国で、クリスチャンじゃなかった頃でも支配者としてしっかりやっていたんだ。大丈夫だよ。キリアは優しいいい娘じゃないか」
膝をつき優しくやわらかくキリアを本当の父親のように包み込むレン。
「父上…………ぐすっ…………ううっ…………うあああああ!!!!妾は…………妾はどうして…………」
カレンの語るとおりキリアが第一将軍だった150年前、自由軍国は3000年築き上げてきた歪すぎる国の在り方を多少変化させていた。
確かにキリアは力におぼれ己の力を誇示するためというよくない理由で将軍となったのだが、それでもガンジャン・シュウよりはるかに優秀で軍隊をしっかりと指揮し、他国からの戦争を最小限の犠牲で抑え無益な兵士を死なせることはしなかった。
それでも国の性質自体は変わらなかったため吸血鬼として高潔な性格を持つキリアはあまりのひどさに耐えられずたった三年で国を見限り将軍を辞めたのだ。
それでもそのたった3年の活躍はガンジャン・シュウやブラッドレイクが異名を知っていたように今でも自由軍国国民に語り継がれている。
「キリア、過去は変えられない。でも未来は自分の行動で変えられるかもしれない。こんなダメなクリスチャンの父親だが、安心してくれ。ほら、少し血を飲むか?俺のだめな信仰の詰まった血だけどな」
そういってレンが人差し指を少し切ると、キリアは乳飲み子がするようにレンの指にしゃぶりついた。
「甘いのじゃ…………優しい味じゃ…………父上の優しさが妾の心を癒してくれております…………本当にイエスキリストの血を飲んでいるようです…………」
レンは決してイエスキリストのような無償で無限の愛は持っていない。
むしろ自分の愛する者しか愛せない歪な愛情しかない。
しかしそれ故にキリア含め家族全員には深い海のような愛情を抱いているのだ。
クリスチャンとしての他者への愛情は家族に遠く及ばないが、レンは地球で家族という概念が希薄だった。
そのためレンがニエフで得たかけがえのない家族に向ける愛情は対象が限定される分ある意味無限に近いものがある。
その光景を見ていたクロ、シロ、ニュートもそれぞれ指を切り、キリアに差し出した。
「ほら、キリア、俺だけじゃないぞ。お前には守ってくれる家族がこんなにいるんだ。俺よりもおいしいはずだぞ」
キリアはクロ、シロ、ニュートの血を順番にゆっくりと、しかし、じっくりと味わっていた。
「クロ母上は変わりませぬ……いや、昔よりもっと清らかで純粋で、でも純粋なだけではなくまろやかな清流の味です。シロ母上は上質で味わい深い熟成された葡萄酒のような。ニュートは本当に三人に似ておる……甘く、清らかで、熟成された……父上、クロ母上、シロ母上、ニュート、指を癒やすのじゃ『リジェネレイト』妾はもう大丈夫です。カレンよ、一時イクスに帰還できるかの?」
「キリア、レンレンたちと出会ってくれてありがとう。イクスに帰るには一度中央都に戻ったほうがいいかな。中央都とイクスなら100%ワープできるから。なるべく早く中央都に移動してそこからイクスへ、後は二週間後に間に合うように中央都に帰ってくれば大丈夫だよ」
「わ、妾が感謝するのじゃ……お主の失態を主が手助けしてくれんかったら妾は孤独なままじゃった」
「中央都か。ま、シロかニュートの運転なら二日ぐらいで着くだろ。そんじゃカレン中央都でまたよろしく」
「うん、すぐイクスに送ってあげられればよかったんだけど……ごめんね」
「ジャマングからイクスに戻れるだけでもチートすぎるんだから充分だよ。それじゃな」
レンとニュートの服の裾を握りつつ対談所を出るキリア。クロとシロはキリアをしっかりと横から抱きしめている。
「はぁ……一体何が目的だったのかな……?結果的に精神的なダメージをレンレン達……特にキリアに与えているけど……ブラッドレイクの狙いはなんなんだろう?」
確かに未だブラッドレイクが何故自由軍国を改善したのかは意味不明である。
しかし交換条件は果たしたのでガンジャン・シュウを殺さずに完全聖書を入手する可能性は生まれた。
しかし本当にそこまで全てがうまくいくのだろうか?




