第五十七話 リヴァイアサン
レン、クロ、シロ、ニュート、キリアがハルサンに到着してから三ヶ月。
カシウス一家はクリスチャンとして、冒険者として、リヴァイアサン討伐の訓練も全て充実していた。
マイクロウェーブはやはり元々光魔法が得意なシロと全属性が得意なニュート、長い経験のあるキリアが最高出力で使えるようになった。3人のマイクロウェーブは強すぎて、威力を調整しないと、普通の魔物だと丸焦げになるレベルだった。
レンとクロも普通の魔物を蒸し焼きにするぐらいの威力は出せるようになったので問題はないだろう。
クロは電気魔法が得意なので、聖属性を付与した電気魔法、ホーリーライトニングを習得した。
レンはひたすらホーリーアブソリュートウォールのコントロール鍛錬を重ねていた。
なるべく長以外を殺さないため、おそらくは密集して飛来するリヴァイアサンの群れを一度障壁で囲み、それを個体ごとに障壁で包みつつ分断しばらばらに移動させるためだ。
やはりレンは、完全聖書を持つ知能の高い魔物を殺すことに対して、無理やり納得しても抵抗があるのか真剣な顔で鍛錬を重ねていた。
そのためレンはかなりの魔力を毎日消耗し、クロとシロから肉体的にも精神的にも魔力的にも助けられていた。
3ヶ月経過し、リヴァイアサン飛来の時期が来たので、カレンに現在リヴァイアサンがどのあたりを飛行しているのか聞きに対談所へ向かった。
「よ、カレン、久しぶりだな。元気に戻ったか?」
「はい……レン様……元気です……」
全く元気のないカレンである。レン様なんてわけわからん呼称を使っている。
「無能な想像主め、ひゃっ、ひひうえ、しょこはらめにゃのにゃ……」
カレンを問い詰めようとしたキリアの腕をレンがソフトタッチでちょっと撫でただけなのだが、すごい反応しているキリア。言葉が言葉になっていない。
「キリア、少し静かにしててくれ。ニュート、抱えてやれ」
「は、はいパパ。キリア、カレンさんにあんまりきついこと言っちゃだめですよ」
「ニュート……もっと強く抱きしめてたもれ?」
「は、はい!!」
「レン、私達も抱きしめて?」
「むぅ、キスしたいけど出来ない。抱きつくので我慢する」
「はいはい、クロ姫様、シロ姫様、これでよいですか?」
心底幸せそうに抱きしめあうニュートとキリア。いや、幸せそうなのはキリアのみだ。
ニュートはなんか必死である。
レンはクロとシロをいつもどおり両手で抱っこする。
「あー……なんか久しぶりに超絶甘甘オーラ浴びせられたら現実に復帰した気分……毒が薬になった感じ……」
「そりゃなによりだ。ハルサンの人達もなんかカレンがおかしいって言ってたしな。一応やることはやってたみたいだが」
「一応はね……ニエフの管理者だし……ミリカにはクリスチャンも少なくないから僕の無能さのせいでみんなに迷惑かけるわけにも……」
「俺達が練った作戦の概要は知っているか?」
「あー、ごめん、あんまり知らない……鍛錬の様子は見ていたはずなんだけど……」
「本当に大丈夫かよ?作戦は俺がリヴァイアサンの長だけを捕獲して、他のリヴァイアサンを離脱させる。その後、シロ、ニュート、キリアが長を攻撃する。クロはライトニングで攻撃。元々体内に水分が多い水棲系魔物のリヴァイアサンならマイクロウェーブも電撃も有効だろ?」
「マイクロウェーブはいいね、ホーリーライトニングも有効だと思うよ」
「よし、カレン、今リヴァイアサン達がどのあたりにいるか分かるか?」
「ちょっと待ってね……あと2日ぐらいでミリカ大陸に上陸するかな。そこから3日ぐらい飛行してスクチャン川の奥地にたどり着くと思う」
「ふむ。スクチャン川の入り口から少し入ったあたりで待機するか」
「カレン、情報ありがとな。なるべく早くキマイラも倒すから。それじゃな」
超絶甘甘オーラを展開したまま対談所を出て行くカシウス一家。
「ふぅ、レンレンも随分……いや、とても成長してるね。とても僕と同一人物とは思えないや。今の作戦ならリヴァイアサンの長だけをあっさり倒せるだろう。でもまだ言えない最終目的は……レンレンにはとても辛い……今が幸せなだけに」
未だに何か秘密のあるカレン。ニエフの終末についての本を書くことだけが完全聖書を集めている目的ではないらしい。
いつもと変わらずカレンの真の目的など露知らずカシウスパーティはスクチャン川入り口付近に二日で到着した。
「さて、そろそろリヴァイアサンも飛行している頃かね?」
「そうね、カレン様の予想通りなら今頃上陸して飛んでいる頃かしら」
「レン、上空から索敵する」
「僕もシロママと一緒に上空で見張ります」
「シロ母上、ニュート、よろしく頼むのじゃ」
「二人ともよろしくな。料理用意しておくから」
「「楽しみ(です)」」
シロとニュートは楽しそうに空へ羽ばたいていった。
残ったレン、クロ、キリアは料理をしたり作戦を確認したり家族同士話したりしていた。夜になってシロとニュートが戻ってくると、幸せな夕食が始まり、リヴァイアサンの飛行能力を考えるに一日中は飛んでいられないだろうとのことで普通に就寝した。
翌日、昼ごろにシロとニュートがリヴァイアサンを捕捉し、作戦実行となった。
「よし、シロとニュートは普通に飛行してくれ。『アブソリュートフィールド』クロ、キリア、階段登るぞ」
「了解!!」「承った」「はいパパ」「了解じゃ父上」
シロとニュートはそれぞれ飛行し、レン、クロ、キリアはレンの作った聖属性絶対領域でできた階段をかけあがり、その先でさらに広い聖属性絶対領域を展開しリヴァイアサンを待ち受ける。
「あれか。本当にでかいな……」
「長だけじゃなくて他のも大きいわね……」
「問題ない。長だけを焼き殺せる」
「……楽しそうですね……」
「ニュート、気にしてもしかたないのじゃ。すべてはあの阿呆が悪いのじゃ」
これから大量の獲物を狩れるからか、楽しそうに雨を降らせながら飛行している5頭のリヴァイアサン。
「ニュート、しかたがないのは事実だ。ニエフの人達にはカレンの書く本が必要なのかどうかはわからんが俺達の仕事は無駄じゃないはずだ。リヴァイアサンも天国にいけるはず。そろそろだな、いくぞ、『ホーリーアブソリュートウォール』よし、全部包み込んだな。破壊は……されないようだ」
突然捕獲され混乱し、ニエフ最大の巨体で障壁に体当たりし続けるリヴァイアサン達。
しかしリヴァイアサンの巨躯による攻撃でも、限界を超えた防御魔法、しかも聖属性で強化された絶対障壁を破ることが出来ない。
アブソリュートウォールは全てを遮断するため体当たりによる轟音すら響いてはこない。
「悪いなリヴァイアサンよ……『セパレート』『リコストラクション』『トランスファー』……よし、長以外は無事海まで戻せたな。悪いがまたスクチャン川まで飛んできてくれ。ちょっと遠くに飛ばしすぎたかな……」
レンが聖属性絶対障壁を分断、再構築、長距離移動させる魔法を唱えると、長以外のリヴァイアサンはここからかなり離れた海へと飛ばされていった。
飛ばされたリヴァイアサン達は、スクチャン川に戻って来るにはまた数日かかるだろう。
「レン……一体どんなイメージしたらあんなにさくっと3つも魔法使えるの?」
「ホーリーアブソリュートウォールをあそこまでコントロールするとは……」
「パパの魔法コントロール技術は信じられないです……」
「聞いたことのない魔法ばかりじゃ……」
4人にとって簡単そうに見えているがこれもある意味レンの弱さによる強さである。
なるべくリヴァイアサンの声を聞かないため聖属性絶対障壁を展開し、長以外を殺さない、いや殺したくないという優しさからの弱さからこの技術を習得したのだ。
もしニエフの冒険者がカシウスパーティ並みの実力と対話能力を持っていも、ただのお金稼ぎとしてリヴァイアサンを喜んで全員殺しているだろう。
会話できるだけでなく人間並みの知能を持つ魔物でも冒険者にとって倒せる相手ならばそれは全てただの獲物なのだ。
そういう意味ではレンはあまり冒険者らしくない優しすぎる人間だ。
「…………『アブソリュートロード』…………」
無言で捕獲され暴れ続けている長まで繋げられた道を走るレン。続くクロとキリア。シロとニュートもなぜかレンの側で一緒に走っている。
「…………『パーフォレーション』…………悪いなリヴァイアサン、お前さんの持っているものを返してもらう。何か言い残すことはあるか?」
聖属性絶対障壁に人間大の穴を開ける魔法を唱え、リヴァイアサンに問いかけるレン。
『人間か……?何故空に浮いている……?この見えない壁はなんだ……?我をどうするつもりだ……?』
「言い残すことが何もないならお前を殺すだけだ」
レンの声からは何の感情も感じられない。
感情を封じ込めなければリヴァイアサンを殺すことが出来ないのだろう。
それでも死ぬ前に言い残すことを聞いてしまうのは完全には感情を消し去れていないという証だ。
『我を殺すだと…………?人間ごときが……?我がお前達を返り討ちにしてくれるわ!!!』
リヴァイアサンはギガントスクイッドとは比較にならない超高圧で超速の水の弾丸を5人に向け乱射し障壁に突撃して攻撃しようとした。
しかし水の弾丸は絶対障壁を貫けず、障壁に空けられた穴は人間よりやや大きい程度。
穴から飛び出したものも少なく穴の範囲が狭いので回避は余裕。
リヴァイアサンの巨体では当然穴を潜り抜けることはできない。
「何も言うことはないようだな…………みんな、殺せ」
まるで罪の刈り取りの奇形を見たときのように冷徹な指示を出すレン。
クロもシロもニュートもキリアもそんなレンの様子を見て悲しみつつ指示に従う。
「「「ホーリーマイクロウェーブ」」」「ホーリーライトニング」
シロ、ニュート、キリアはマイクロウェーブをさらに強化した聖属性マイクロウェーブを放つ。
クロもライトニングを聖属性で強化し放つ。
『ぐおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!なんだこれは!!!!体中が熱い!!!!人間め!!!!何をしている!?!?』
体中の水分が沸騰し体内から灼熱を生み出されるという初めての苦しみに障壁内を暴れまくるリヴァイアサン。
さらには電撃を超高出力で流されているため、皮膚と体内両方が超高熱にさらされている。
しかしさすがはSランク魔物、世界最高レベルの魔法を受けても強靭な生命力で耐えている。
「ちっ、しぶといやつめ……『アブソリュートスラッシュ』くそっ、俺の攻撃魔法じゃダメか……」
『ぎゃあああああああ!!!!ありえん!!!!なぜ人間がこれほどの力を!!!!』
いや、充分すぎるだろう。
レンが開発したアブソリュートソードは斬撃を飛ばす魔法。
それはリヴァイアサンの体を半分ほど切り裂いている。
いくらリヴァイアサンがドラゴンやベヒーモスよりも比較的防御力が低く体が細くとも、それを半分も切り裂くのは人間には至難の業。
おそらくは早く殺してやりたいというレンの優しさからのイメージが一時的に威力を増している。
「…………パパ、僕とキリアがやります…………」
「…………父上、任せよ…………」
「「アブソリュートスラッシュ」」
『…………我が…………まさか…………人間ごときに…………殺されるとは…………』
ニュートとキリアの放った斬撃が交差してリヴァイアサンの首に襲いかかった。
それをくらったリヴァイアサンが最後の言葉を残し、数瞬遅れて首が体から滑り落ちた。 リヴァイアサンはこれで完全に死亡した。
「二人ともありがとうな。クロもシロもよくがんばってくれた。ありがとう。愛してるぞみんな」
レンは満面の笑みで4人に感謝し愛していると告げる。しかし4人はどこか悲しそうだ。 レンの笑顔がいつもと違うからだ。
どこかぎこちない。
普通の生活では葛藤を感じなくなったのだろうが、実際に殺すとどうしてもフラッシュバックしてしまうのかもしれない。
「みんなどうした?そんな変な顔して?とりあえずリヴァイアサン地上に降ろすからな」
レンは自分がおかしいことに気づかず、他の4人の悲しそうな様子には気づいている。
「レン!!泣きたい時は泣いていいわ!!」
「レン、辛いのを我慢しないで」
「パパ…………」
「父上よ、家長でも辛い時は家族に頼ってよいのじゃ」
「泣きたい?辛い?…………俺なんか変なのか?」
どこかぽかんとしているレン。
そんなレンを四人が抱きしめながら代わりに泣いている。
レン自身にあまり自覚がない。
ベヒーモスのことを乗り越えたのはいいのだが、その代わり自分の悲しみや辛さを封じ込めすぎて感じずらくなってしまっている。
「レンが分からないなら私達が分からせるわ」
「レン、私達の気持ちを受け取って」
「パパ…………これが僕達の気持ちです…………」
「父上、これが父上が感じるべき、そして妾達が感じているものじゃ」
四人全員がパスを通じて何を感じているのか必死に伝えようとする。
以前レンがマリーの結婚を知った時クロとシロにその悲しみが伝わったように、レンにも四人の感情が伝わっている。
レンを思いやる感情、今のレンを見て辛い悲しい感情、レンにそれを取り戻してほしい想い。
全てがレンに流れ込んでくる。
「そうか…………俺は悲しいんだな…………辛いんだな…………そんな当たり前のこと忘れて…………みんなを悲しませてすまない…………」
レンはまだ無表情だが4人に抱きしめられながら静かに涙を流している。
「大丈夫よレン。またすぐに私達の愛しているレンに戻れるわ」
「レンは変わらない。それがいいところ。もし変わっても私達が元に戻す」
「パパ…………これからは戦いだけじゃなくパパの心も守ります…………」
「父上は優しいのじゃ。じゃが優しさにも弱点はある。それを妾達が補うのじゃ」
レンはどうしても周囲に守られ続ける。
これは地球時代から変わっていない。
しかしニエフでレンが出会い愛情を育んできた人達がいることも地球時代と変わらない。
人間は一人では生きてはいけない。
周囲から守られ、また周囲を守り生きていく。
それが人間という者だろう。
そしてクリスチャンであるレンにはイエス様という究極に守ってくださる方がいる。
地球でもニエフでもそのイエス様に似たクリスチャンがレンを守ってくれている。
レンは未熟で弱いが、それでも優しく正しくクリスチャンとして生きているのかもしれない。
「ありがとうみんな。もう大丈夫だ。みんながいれば俺は生きていける。まるでイエス様に囲まれているみたいだ。神様、俺にこんなすばらしいクリスチャンの家族を与えてくれて感謝します。さて、ちょっともう魔力が限界だ。下に降りて車まで戻ろう。リヴァイアサンを食ってやらないとな」
レンはあっさりとリヴァイアサンを障壁に包んだまま車まで移動させ、地上までの階段を作り出した。
4人ともまだ涙は流しているが笑顔になっている。
シロとニュートも飛行せずレンに四人寄り添って地上まで降り、車まで戻っていった。
その後、リヴァイアサンを解体、調理した後。
「すごいわね……お肉とお魚をあわせたような不思議な味……」
「さすが最強の水棲系魔物……すごい味わい……」
「おいしいです!!パパおかわりです!!」
「昔鯨を食べたことがあるのじゃがその1万倍ぐらいうまいのう…………」
「ふむ、鯨カツ食ったことなかったけど揚げ物にして正解だな」
完全聖書を取り出すことを放置してリヴァイアサンを食する4人。
「そんじゃ次はスタンダードにステーキにするか。味付けは……どうするかな?」
「「「「日本食がいい(わ)(です)(のじゃ)」」」」
「はい、了解、ほいほい、こんなもんかね?さすがにリヴァイアサンなんて料理したことないからな、もしソースが合わなくて不味かったらごめんな。焼くからちょっと待ってくれ」
レンが用意したものはおおむねサンライズキャニオンでのステーキと同じ。
今回はたまねぎ系Aランク魔物のすりおろしをソースに加え、大根と大葉が品切れのためその辺で狩ったカブ系Aランク魔物おろしとミリカ特有の香りのいいハーブをのせた。
付け合せはウォーキングキャロットのAランクとブロッコリー系Aランク魔物の温野菜。
前回と同じポテトサラダである。
もちろん魔法で旨み成分ましましかつ柔らかくしてある。
「あー……サンライズキャニオンでもおいしかったけどやっぱりSランクは違うわねー……」
「これは……すごい。フェニックスよりおいしいかもしれない。野菜も増えてて嬉しい。どれもすごくおいしい……」
「おいしいです!!パパ、ステーキもご飯もおかわりです!!」
「これはまたすごいのう……確かにAランクもものすごくうまかったんじゃが……ただでさえうまいSランク魔物が父上の魔法と料理でさらにうまくなっておる……ニエフの住人全員食べられん代物じゃ……」
「ふむ、地球でも鶏、豚、牛の順に高級だったりおいしかったりしたが鯨はさらにうまかったらしいから、クジラに似たリヴァイアサンは更に美味いんだな。ほれ、ニュート、揚げ物とステーキ追加だ。じゃんじゃん食ってくれ。残りのリヴァイアサン戻ってきちまうと面倒だからな」
「全部倒しちゃダメかしら……じゅるり」
「もっと食べたい……全部殺す……」
「群れ一つぐらいいなくなっても大丈夫です!!」
「いや……母上たち……ニュート、さっきまでの父上の状態を忘れたのかえ……?」
「キリア、心配してくれてありがとうな。クロ、シロ、ニュート、まだ食いきれないぐらい長の肉あるんだから心配するな。腹が破裂するぐらい食わせてやるから」
「「「お願いします」」」
「父上が~元気になって~何よりなのじゃ~」
その後リヴァイアサンの薄切り肉鍋やリヴァイアサン刺身、各種リヴァイアサン和風煮込み、リヴァイアサン冷しゃぶサラダ、リヴァイアサン肉野菜炒め、豚汁ならぬリヴァイアサン汁、リヴァイアサンハンバーグ、リヴァイアサンカレー、リヴァイアサントマト煮込み、レンが得意なスパイシーリヴァイアサン焼きなど考えられるありとあらゆる料理を作り二日で長の巨大な体を食い尽くしてしまった。
主にクロとシロ、ニュートが。
途中で出てきた完全聖書は車の中に放置されていた。
目的と手段が入れ替わっていないだろうか?
満腹感と幸福感に満たされたクロ、シロ、ニュートが動けないのでレンとキリアがリヴァイアサンの骨を埋めて墓を作り、ぼけっとしている三人を車におしこんでサリールまで戻り、また長い船旅を終えてマームに到着した。
今回取り戻した完全聖書もやはり10冊。
ヨシュア記、第一サムエル記、第二歴代誌、エステル記、雅歌、エレミヤ書、ナホム書、第二テモテへの手紙、第一ペテロの手紙、ユダの手紙である。
「カレン、取り戻してきたぞ、封印してさっさとキマイラ倒しに行かないとな」
「レンレン、もちろん封印はしてもらうけど、今すぐキマイラ倒しに行かなくてもいいよ?リヴァイアサン討伐見ていたけどレンレンまだ辛いでしょ?しかも家族に教えてもらわないと思い出せないぐらいその辛さを封じ込めてるじゃない。もう41冊も取り戻してもらったから僕も神様に少しずつ教えてもらって終末の本書けるようになったし…………」
「そしたらいつキマイラ討伐に行くんだ?俺ももう32歳だし、キマイラはともかく自由軍国では人間が完全聖書持ってるんだろ?なるべく年取る前に行った方がいいと思うんだが?」
「いや、前にも言ったけど早すぎるくらいだから問題はない。そうだね、キマイラは多分リヴァイアサンと同じ方法で倒せるだろう。最後にしようと思っている自由軍国のことを少し説明しようか……」
「阿呆じゃがニエフを見渡せる以上自由軍国の内情ぐらいは知っておるじゃろうな。妾のいた150年前より少しはましになったのかえ?」
「いや、キリアのいた頃と変わっていないよ……相変わらず欲望のためならなんでもする住人達が住む力が全てを決定する戦争の多い軍事国家だ……」
「あまり行きたくはない国だな……しかし行かなきゃならんだろう。どんなやつらが完全聖書持ってるんだ?」
「キリア……ガンジャン・シュウは知ってる?」
「まさかあやつが持っておるのか……?自由軍国の大将軍じゃろ……?しかも世界最強と悪名高い傍若無人な人間の剣士じゃと聞いておるが……」
「うん……キリアのいた頃は10人の将軍が1冊ずつ完全聖書を持っていたんだけど……今は残った9冊全部ガンジャン・シュウが持っている……」
「カレン、そのガンジャン・シュウってのは俺達より強いのか?」
「分からない……限界を超えているのは剣術だけなんだけど……一番大きいジアン大陸に生息する数種類のSランク魔物を何体か殺している……剣術だけならニュートくんやキリアより強いはずだ……」
「信じられん……どんなSランク魔物を倒したんじゃ……?まさかドラゴンまで倒してておらんじゃろうな……?」
「ドラゴンはさすがに戦ったことはないみたいだけど……フェニックス並みの再生力とキマイラを上回る基本の四属性を持つ鳳凰や麒麟、ジアン西部に生息する水属性で猛毒を持つヒュドラや、他にグリフォンを殺しているね……」
「マジか……グリフォンはどんな魔物かわからんが鳳凰も麒麟もヒュドラも全部再生能力高いって地球では言われてなかったか……?それともカレンのイメージで違う能力の魔物になったのか……?」
「鳳凰や麒麟、ヒュドラも本来なら再生力が高すぎてレンレンたちレベルの冒険者じゃないと倒せないはずなんだ……グリフォンは50メートルぐらいの風属性と電気属性が使える珍しい魔物だ……飛行できるから剣術を主体に地上で戦うガンジャン・シュウに殺せるはずがないんだけど……斬撃を魔法なし飛ばして斬り殺した……鳳凰たちも再生し続けて基本四属性の魔力で全力の反撃をしてたけど強引に力だけで殺された……魔法があまり使えない分剣術が以上に強い……」
「にわかには信じられん話じゃの……グリフォンはともかく鳳凰も麒麟もヒュドラもベヒーモスやリヴァイアサンに匹敵する魔物じゃろ……?それを一人でじゃと……?」
「さすがに一人では倒さなかったみたいだけど……兵士を数千人ぐらい引き連れて殺していたね……毎回8割ぐらいの兵士が死んだけど……ガンジャン・シュウはほぼ無傷だった……兵士達は戦力というよりは肉壁役だったんだろう……」
「自由軍国の大将軍らしい非人道的なやり方だな……リヴァイアサンに使ったホーリーアブソリュートウォールで閉じ込めるのは無理か……俺達が攻撃するために穴を開ければそこから反撃してくるだろうな……どうすりゃいいんだ?殺人云々の前に俺達が殺されそうだ」
「可能性としては現在ガンジャン・シュウが60歳ぐらいだから、死ぬのを待つのも一つの手かな……あそこまで異常に強い人間はそうそう生まれないはずだから……ガンジャン・シュウの子供も2人しかいないしそこまで強くない……」
「じゃが自由軍国にもおそらく1人や2人は治癒魔法が限界を超えておる者もおるじゃろう?ガンジャン・シュウのような強力すぎる支配者をそう簡単に死なせはせんじゃろうな」
「そうだね、確かに1人優秀な宮廷治癒魔法使いがいる……レンレンには全然及ばないけど……ギガヒールとリジェネレイトぐらいなら使えるからクロちゃんシロちゃんキリアみたいにガンジャン・シュウの見た目だけは若いままだね」
「かなり厳しそうだな……でもカレン、だとしたらなるべく早くキマイラから完全聖書取り戻して想像主の加護を強めて、それから誰か俺達よりも強い剣士か魔法使いに指導してもらうしかないんじゃないか?」
「確かにキマイラから完全聖書を取り戻せばレンレンたちは強くなるだろう……でもレンレンたちよりも強いかもしれない人間はそれこそガンジャン・シュウぐらいだ……それにレンレンたちはもう強すぎる……これ以上の成長は難しい」
「なるほどね、でも母さんからそういう強敵に出会ったときはいつもの戦闘スタイルで戦うのが一番って言われてるしな。カレン、ガンジャン・シュウが異常に強いことは分かった。まずはキマイラを倒す。いつごろ向かえばいい?その後自由軍国に向かってガンジャン・シュウぶっ飛ばしてそれで目的達成だ」
「そうだね……半年ぐらいはまたイクスと中央都を往復してゆっくり暮らせばいいさ。その後オスリルのキマイラを倒して……ガンジャン・シュウと戦うことになるだろう……5人とも、僕が無力で無能でだらしないせいで厳しい戦いをさせてしまい申し訳ない」
またまた土下座するカレン。想像主の威厳などどこにもない。
「カレン、そもそも転生させてもらわなかったら俺はこんなに恵まれた家族に出会っていない。謝る必要はない。むしろ感謝してるよ。これぐらいのリスクがなきゃリターンに見合わないってもんだ。全力でガンジャン・シュウからみんなを守る。それだけだ」
「カレン様、私達がどこまでそのガンジャン・シュウと戦うのに力になれるか分かりませんが、レンと一緒でカレン様には感謝してます。その感謝に報いるためなら何でもします」
「カレン、感謝してる。レンに出会わせてくれて。そのためならなんだろうと吹き飛ばす。ガンジャン・シュウがどれだけ強くても関係ない。私達ならやれる」
「どんなに強い人がいても、カレンさんがパパをニエフに送ってくれたおかげで、僕は生きていて家族がいます。そのためなら何も怖くないです」
「カレンの阿呆の失態がなければ父上にも母上たちにもニュートにも出会えんかったのじゃ。たまには無能な想像主様を助けておくかのう」
「みんな……ありがとう……神様、5人をお守りください……」
「カレン、祈ってくれるのはありがたいが早く封印しよう。イクスにも早く帰ってゆっくりしたいしな」
「うん……今なら半日もかからず封印できるはずだよ。すぐ終わらせよう」
その後封印は半日どころか3時間で終わり、5人はイクスへと帰った。
レン、クロ、シロ、ニュート、キリアは最後の試練について知り、しかしそれでも覚悟は変わらない。
いよいよ物語も最終局面を迎えるだろう。
キマイラと最後の試練ガンジャン・シュウ。
果たして5人は無事乗り越えられるだろうか?




