第五十五話 それでも主に従って
レンが自分の優しさからの欠点ゆえに完全聖書をもつ魔物を倒せないこと、しかしカレンにはそれらの魔物から完全聖書を取り戻し恩返しをしなければならないという矛盾と葛藤を自覚してからレン、クロ、シロ、ニュート、キリアは静かなクリスチャン家族としての生活をイクスですごしている。
クロとシロはしっかりと妻としてレンを愛してくれ、ニュートとキリアも子供としてレンを愛してくれている。
しかしそれでもフェニックスを殺した罪悪感、これからベヒーモスと似た性質を持つリヴァイアサンとキマイラを殺さなければならないことへの恐怖にレンは殺人のような罪悪感を感じていた。
結果レンは普通の魔物狩りも出来なくなってしまった。
レンを家族として常に一緒にいて癒し慰めたい4人も魔物狩りに行かなくなった。
食事は4人がレンを癒し慰め元に戻したい一心で一生懸命作ってくれているとレンも理解しているので何でも美味しく食べられる。
しかし、地球でレン自身が嫌っていたスーパーで並ぶ肉や魚を食べてもその命が自分達のために奪われて糧となっていることを知らない、またはその事実を認めない人たちと同じような状態になってしまった。
冒険者として働けなくなっても充分すぎる貯蓄があるため、5人は不自由なく生活できていたが、仕事がないということもレンに地球での無職時代の無力感を思い出させた。
そのことをカレンに相談しに行くと、また普通の職業を紹介してくれた。
レンは以前と同じ冒険者ギルド、クロとキリアは木材ギルド、シロとニュートは郵便局で働いている。
クロもシロもニュートもキリアもあっという間に普通の職員100人分ぐらいの仕事をこなし、職長がニコニコしながら4人とも毎日3時に退勤させてくれた。
全てを忘れるためなのか冒険者ギルドで仕事がなくなるぐらい狂的に働くレンを優しく慰め落ち着かせてから、当然のように満面の笑みの職長から退勤の許可をもらい家につれて帰り家族の時間と夫婦の時間をなるべく長く過ごして何とかレンを元に戻そうとした。
その努力が報われたのか、レンはゆっくりとだが以前の状態に戻りつつあった。
それでもレンはぼーっと遠くを見つめて上の空になることがたまにあった。
レンとクロとシロの結婚を心配していた時のレベッカやカレンによく似ている。
レベッカ達はレン達が罪を犯す可能性を恐れていたのだが、レンは罪ではないことを罪と誤認して罪悪感を感じ恐れている。
クロ、シロ、ニュート、キリアは自分達の手を尽くしても、普通の仕事を紹介してもらっても、完全には元に戻らないレンのことをウィリアムに相談しに行った。
ウィリアムも事情を聞き、クリスチャンとして難しい問題だったが、レンが小さい頃自分の弱さを告白した時と同じようにレンにクリスチャンとしての生き方を再度教えてくれた。
今は仕事をしているのでレン達家族が仕事を終えてからウィリアムが全員に週3回学びの時間を作り、5人とも休みの日と空いている時間は教会での奉仕に専念した。
レンは久しぶりにしっかりと昔よりもさらにすばらしくまぶしいウィリアムとレベッカの主に従い生きる姿を見て、ウィリアムの語る聖書の言葉を通して改めて主に従って生きることとはどういうことなのか考えていた。
そのおかげでレンの間違った罪悪感は薄れ、ここしばらくカレンの目的ばかりを追いかけていたことに気づき、果たしてカレンに恩返しすることは主に従う生き方なのだろうかと考え始めた。
カレンにそのことを質問するため、家族5人で対談所へと向かった。
「カレン、待たせて悪かった。もう本当に大丈夫だ。クロとシロ、ニュートとキリア、父さん母さんのおかげで葛藤は消えた。カレン、仕事を与えてくれたことも感謝する。しかし一つ質問があるんだが聞いてもいいか?」
「……何故僕がレンレンたちに辛い死ぬかもしれないことをさせてまで完全聖書を集めさせている本当の目的かい……?」
「それもあるが、カレンの目的を達成することはクリスチャンとして主に従っている生き方なのか?俺達が完全聖書を集めることは神様の栄光を表すことの一つになるのか?」
「……レンレン、今ニエフにある聖書で足りない……というか、地球と同じようには適用できない部分があることは気づいているかい……?」
「聖書で足りない?ニエフと地球で同じように適用できないこと?そんなこと神様の霊感によって書かれた聖書にあるのか?」
「父上、おそらく阿呆のカレンの言っておることはヨハネの黙示録じゃ」
「黙示録?神様の究極の約束がニエフには適用されないってのか?そしたらニエフのクリスチャンはみんな救われても新しい天と地に行けないのか?」
「いや、間違いなく神様の再創造された新天地にはニエフのクリスチャンも行けるよ……ただ、ヨハネの黙示録には地球の終末、神様とサタン、罪との最終決戦が記述されている……結果、神様は計画したとおりサタンと全ての悪魔、罪を滅ぼして地球を再創造して新しい天と地にしたんだ……」
「なら何が問題なんだ?」
「父上、おそらくこの阿呆はニエフが最終的に主によってどう扱われるのか書かねばならんのに、それを忘れて自分の作った理想の世界を眺め続け、その間に完全聖書を奪われてしまったのじゃろう。そして完全聖書を失えばこの阿呆は力を失い無力な想像主に成り果て、偉大な使徒ヨハネのようには主からニエフの終末について教えてもらえんのじゃ」
「カレン…………マジ…………?」
「…………ごめんなさい…………キリアの言うとおりです…………」
「いや……言いづらかったのは分かるんだが……もう少し早く教えてくれてもよくないか?」
「…………すいません…………ごめんなさい…………レンレン達含めニエフのクリスチャンの人達に…………顔向けできずに…………自分の無力さが…………情けなくて…………告白できませんでした…………」
「あー……気持ちは分からんでもないが……そうなると今まで死んでいったニエフのクリスチャンはどうなるんだ?ゴードンさんとか?そのニエフの終末が書かれた本がないとどうなるんだ?」
「父上、おそらくそのあたりは問題ないと思うのじゃ。いくらカレンが阿呆でも聖書は世界中に広めておる。ヨハネの黙示録に記述されておる地球の終末と主の再創造する新天地については、ニエフでは悪魔がおらんかったり、世界自体が聖書の書かれた地球という世界とは多少異なる。じゃが、地球とニエフの終末と主の計画は多少異なるかもしれんが、父なる主、イエス・キリストの十字架、聖霊によるクリスチャンの成長だけは地球となんらかわらんのじゃろ」
「えーっと……地球と結果が変わらないならヨハネの黙示録もそのままでよくないか?」
「……ニエフには悪魔がいないけど……僕の不完全な力が作った世界だから……どうしても……罪が入ってしまった……結果神様はニエフの罪……僕の尻拭いとして終末をくださるんだけど……それは黙示録に書いてあるように……かなり厳しいはずだ……それを……ニエフの住人には……教えないといけない……」
「カレン!!それ早く言えよ!!俺のことなんてどうでもいいからさっさと完全聖書全部集めろって命令すりゃよかったじゃないか!!今ニエフが終末を迎えたらなんの覚悟も予備知識もないニエフの人達がいきなり厳しい終末の中に放り込まれるのはあんまりだろ!!それにその本があれば少しはクリスチャン増えるかも知れないだろ!!」
「父上、落ち着くのじゃ。おそらくカレンの阿呆は主からまた自分の無能さを補ってもらったため、ニエフがいつごろ終末を迎えるのかおおよその時期を知らされておるんじゃろうよ。それにいくら主から直接教えてもろうても、阿呆のカレンが書いた本なぞ聖書にはおよばんよ。それでもニエフにクリスチャンが少ないのは人間がみな罪人だからじゃよ」
「キリアの言うことも確かだが……カレン、どのぐらい時間は残されているんだ?」
「……キリアの予想は当たってるよ……神様から教えてもらったニエフのタイムリミットは……一万年ぐらい……今ニエフが生まれてから5000年ぐらいだから……まだ半分残ってる……」
「5000年ね……焦る必要ないと言ってたのはそういうことか……しかし一体どんだけニエフに見蕩れてたんだよ?」
「……すいません…………レンレンが転生する…………500年ぐらい前までです…………」
「はぁ…………気持ちは分からんでもないから俺も辛いが…………えーと、作るのにかかった1000年も含めての一万年なのか?」
「…………はい…………そうです…………」
「つーことは3500年近くそのニエフの終末の本を書かずに自分の理想郷をニコニコ見渡してたわけか……その間に人間が強くなってマームに来て油断してたところを500年前完全聖書奪われたと…………」
「…………はい…………そうです…………」
「なんで3500年近くも神様から怒られなかったんだ…………?」
「おそらく、いや明確に主からの注意は何度かあったのじゃろう。しかし主もニエフに見蕩れ続ける阿呆に呆れ果てて諦めてしまったのかもしれん。それにさっきも言ったように阿呆が書いた本なぞクリスチャンを増やす力も権威もないのじゃ」
「…………はい…………そうです…………」
「はぁ……夏休みの宿題やれっていわれてもやらない子供みたいだな……自分のことだけに心が痛すぎる……」
「「「「(レン)(パパ)(父上)はそんな子供(じゃない)(じゃないです)(ではないのじゃ)」」」」
「そういってもらえるのはありがたいんだが……キリアの言うとおりカレンが書いた本は聖書じゃないから効果のほどは定かじゃないけど、神様がカレンに書けと注意しているというか命じてるのか?わからないが完全聖書全部取り戻したらニエフが終わるまでに……いやもっと前にちゃんと書くよなカレン?」
「…………全力で書きます…………出来る限り早く書きます…………」
「ならさっさと準備してリヴァイアサンだろうとキマイラだろうと倒さないとな。俺達が完全聖書集めてカレンがニエフ終末の本を書くことを助けるのが主に従って栄光を表しているのかは微妙に分からんが……みんな、迷惑かけてすまなかった。もう迷いはない。家に帰って準備をしてまずはマームに行って完全聖書封印してその後ミリカへ向かおう」
「レン……元気になったのね……ぐすっ、よかったわ……愛してる」
「いつものレンに戻った……私の愛するレン……神様……感謝します」
「パパーーー!!優しいパパに戻ってよかったですーーーーーーー!!」
「なんともいえない感情じゃな……阿呆の無能さが父上を立ち直らせるとは……でも父上、愛してるのじゃ」
4方からクロ、シロ、ニュート、キリアに抱きしめられるレン。
「それじゃカレン、明日また来るからマームまでよろしくな」
「…………はい…………全力で…………マームにお連れします…………」
「いや、自分の大きいミスを晒して恥ずかしいのは分かるけど俺達そんなこと地球でいっぱいしてたからいまさら……とはちょっと言えないかもしれないがいつものカレンに戻ってくれよ」
「…………しばらく一人で考えます…………よろしくお願いします…………」
「あー、元気出せ、必ず全部取り戻すから。それが少しはニエフのクリスチャンを増やす可能性があって神様も喜んでくれるなら何でもできそうだ。また明日な」
主に従う生き方はどういう生き方なのか。
それを確認しにカレンに聞きに来たらとんでもない事実を知ってしまった5人。
しかしそのおかげでレンは元に戻り、代わりにカレンがへこみまくった。
これも等価交換なのだろうか?
なんにしてもレンはまた新たに主に従うことを強く決意した。
主に従い主に与えられた家族と一緒に、強い意志で目的を達成する。
これならばカレンの心配している自由軍国のガンジャン・シュウも大丈夫だろう。
レン、クロ、シロ、ニュート、キリアの快進撃が始まる。




