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第五十四話 致命的な優しさ

 カシウス家パーティは10冊の完全聖書をベヒーモスの長から譲ってもらうことができた。


 レビ記、士師記、第一サムエル記、イザヤ書、ダニエル書、ゼカリヤ書、ローマ人への手紙、コロサイ人への手紙、ピレモンへの手紙、第三ヨハネの手紙。


 しかしレンはフェルリアの町に戻っても、カレンに会うことなく完全聖書を読むこともなくすぐに船でマームへと向かった。


 他の4人もレンが何を悩んでいるのかわかってはいるのだが、長くクリスチャンとして生きているキリアやレン、クロ、シロ、ニュートでもその悩みを解決することは出来ず、ただ悩み苦しむレンを見て悲しみながら一緒にマームへ向かうことしかできなかった。


「よお……カレン……また10冊……取り戻したぞ……すぐ封印するか?」


 レンは船旅中ベヒーモス達が家族の死を悲しむ様子や子供が癒され喜ぶ様子、そしてレンに恩義を感じて自分の力を強める完全聖書を快く譲り、願いを聞き、さらにはレンに感謝するベヒーモスの長の様子が昼も夜も頭から離れなかった。


 あれほどの知能や愛情を持っていてもベヒーモス達は人間ではないため主を知ることが出来ず、イエス様に救われることもない事実。


 何故自分達と同じようになれないのか、何故自分はビーストテイマーとして彼らを人間体に出来ないのか悩み続けろくに眠ることも出来ず4人が必死に作る食事もほぼ喉を通らず肉体的にも精神的にも疲弊しきっていた。


「レンレン、死ぬほど悩んでいるみたいだけど、その悩みは必要ないよ?」


 レンの疲れきった様子を無視して軽い感じで悩みを否定するカレン。


「どういう意味だ……?あのベヒーモス達が救われないことがどうでもいいってことか……?」


 以前何度かあったように地球時代のような暗く低い声で静かにカレンを問い詰めるレン。


「魔物もそうだけど、動物や植物、全ての被造物は天国に行けるよ。ベヒーモスも例外じゃない。僕が天国に行った時地球の被造物があったからね。性質は色々と変わるものも多いけど。それはニエフでも変わらないはずだ」


「どういうことだ……?お前は最初にクロを人間体にしなければ救われる可能性はないと言ったじゃないか……?動物の、魔物も魂は人間と違うからイエス様からの救いを受けられる可能性はないと言ったじゃないか……?」


「レンレン、あまり好きな聖書箇所じゃないと思うけど、今回取り戻したローマ書を読んでみて」


「何言ってるんだ……?俺だってローマ書ぐらい読んだことは……」


「ふん、また業腹じゃがさすがは主の再創造した天地を見ただけのことはあるな。父上、ローマ書には人間の罪によって被造物が呪われてしまいクリスチャンと同じようにイエスキリストが再臨することを待っておると記してあるのじゃ」


「そういえばそうだな……そんなことが書いてあった……でも人間と同じようには救われない魔物や動物はどうなるんだ?」


「最初に言ったように魔物も動物も善悪の概念を持たないからね。だから人間以外の被造物には罪がないよ。ただ人間の罪に巻き込まれて滅びてしまうようになったんだ。神様はちゃんと人間以外の被造物も滅びから救ってくださるよ。ただ魔物や動物は神様を知ることや理解することが人間のようにはできないから神様との関係は異なるんだ」


「そうだったのか……よかった……」


 レンはその事実を知ると気を失って崩れ落ちた。すぐに4人全員がレンを抱えあげて気絶しているレンを抱き締めた。


「カレン様、私達では助けられなかったレンを助けてくださりありがとうございます」


「カレン、ありがとう。今まで想像主として敬わなくてごめんなさい」


「カレンさん、パパを助けてくれてありがとうございます」


「ふん、少しは想像主としての仕事をこなしたようじゃな。しかし何故その真実をあらかじめ父上に伝えんかったのじゃ?そうしておったら父上がここまで悩み苦しむこともなかったじゃろうに」


「みんな、ごめんよ、まさかベヒーモス達があんな状況になっているとは僕にもわからなかったんだ。レンレンがベヒーモスの子どもを助けて戦わずに長が完全聖書を譲るとは僕には予想外過ぎた。結果レンレンがベヒーモス達の家族の愛情や長の高潔さを知って苦しんだのは僕のミスだ。想像主として無力過ぎた。心からの謝罪をする。許さなくていい、感謝や敬う必要も全くない」


 カレンはまた土下座した。


「ふん、相変わらず自分の無力さだけはしっかり自覚しとるようじゃな。カレン、妾達は父上を介抱する。封印はしばし待つがよい。今の状態の父上でもイクスに飛べるかの?」


「問題ないよ。今すぐワープするから。みんなしっかりレンレンを抱き締めてあげて『カレンシュタイン・ワープ』はぁ……まさかあんな形で目的を達成するとは……レンレンには辛い思いをさせてしまった……これからは知っていることを教えられる限り伝えないとね……」

 

「なんじゃ?まだ隠しておる事があるのかの?」


 一人だけ気絶していないキリアがレンを抱きしめながらカレンが未だ何か隠していることを問い詰める。


「……僕にも言えないことはある……早くレンレンを休ませてあげて」


「お主みたいな阿呆に言われずとも父上はすぐに休ませるのじゃ。母上たち、ニュート、起きるのじゃ」


 キリアがレン以外の三人を起こしてすぐにイクスの家へと向かった。カレンの秘密とはなんなのだろうか?


 レンは2日ほど目覚めなかった。睡眠不足と栄養失調、心労が限界で再生能力も精神的疲労には効果的でない。


 その間ずっとクロとシロが傍に寄り添い共に眠り、ニュートとキリアが身の回りの世話をしてくれた。


 レンは目覚めてもベッドから動くことが出来ず、意識レベルも低いようで家族が呼び掛けてもはっきりと返事ができなかった。カレンから事実を聞くまでの間、レンの優しさが再び弱点となって精神的に傷つけ続けたためだ。


 それでも全力でレンを介抱する家族4人。そのおかげで一週間ほど経つとレンは正常な状態に回復した。


「カレン、迷惑かけて悪かったな。もう大丈夫だ。次はリヴァイアサンか?キマイラか?どっちだ?」


 見た目レンは正常に見えるがここ一月ほどレンは完全聖書だけでなく聖書の隅々まで一日中読み続け、ウィリアムにも動物達が天国でどうなるのか聞き続けた。カレンを疑っているわけではないのだろうが、確信を得たかったのだろう。


 しかし聖書は神が人間と正しい関係を再び築くため実の息子であるイエスを人間として十字架にかけ、父なる神との断絶という死、そして復活を経て人間に救いを与えてクリスチャン、神の子供とすることが目的の神の霊感によって書かれた書物である。


 聖書の全書が指し示すことはクリスチャンが地上でイエスキリストの似姿となって主に従い主に栄光を表すことなのだ。


 そのような地上でのクリスチャンの生き方、どのように地上で主に従い主の栄光を表して生きるべきかが聖書に書かれている本質のため基本的に聖書には人間含め全ての被造物が死後に天国、神様が再創造する新しい天地又は地獄と呼ばれる場所でどうなるのか詳しく記述されていない。


 ウィリアムにとっても答えるのが難しい質問だったが、聖書に基づいておおむねカレンと同じ答えをレンに聞かせてくれた。


 結果レンは無理やり自分を納得させることにした。レンも今まで多くの動物や魔物の命を奪って糧とし生きてきている。フェニックス戦の時クロとニュートに語ったようにリヴァイアサンだろうとキマイラだろうといつもの魔物狩りと同じだと割り切った。


 今までもこれからも殺す魔物や動物達も天国には行けると自分で苦手な部分の聖書も読んで多少理解し、ウィリアムからもカレンと同じ答えをもらった。


 しかし優しすぎるレンは魔物や動物の救いに関して確信を得てもベヒーモスのように知能が高く家族を守る人間のような魔物を殺すことへの戸惑いが消えなかった。


 だから、レンは自分自身の心を騙し偽ることでその戸惑いを無理やり納得し封じ込めているのだ。


「レンレン、少し休んでもいいよ。リヴァイアサンはミリカでかなり熱心に崇められている。キマイラは複数の属性を使うドラゴンの次ぐらいに強力な魔物だ。ベヒーモスと同じであまり熱心には崇められていないからオスリルの住人は特に気にしないだろう。キリア、キマイラの具体的な能力を知っている?」


「そうじゃな、今の父上ではリヴァイアサンはともかくキマイラは危険かも知れぬ。キマイラは上半身は獅子、下半身は馬みたいじゃったの。獅子の頭に加え蛇と山羊に似た頭を持つ三つ首のニエフでも一番奇妙な魔物じゃ。尻尾に無数の毒針が生えておって、それが刺されば猛毒が体中に廻って動けなくなるしの。ある意味ドラゴンよりも手がつけられん」


「相変わらずよく知ってるね……よくそんなのとソロで戦って生き延びられるね……?本当に不死身なんじゃないの……?」


「少し荒れておったと言ったじゃろ。すぐに倒せんと気づいて毒針をなんとか回避しながら逃げたんじゃ。大きさはベヒーモスほどではないしの」


「そうだね。キマイラは長がだいたい100メートルぐらいでフェニックスやドラゴンと同じぐらい。リヴァイアサンはニエフで一番大きい魔物だね。300メートルぐらいかな。その分蛇みたいに細長いしベヒーモスほどの攻撃力や防御力はない」


「ならキマイラは後回しだ。今すぐ完全聖書をマームで封印してからすぐにミリカに向かう。俺達全員空中戦闘は可能だから飛行中を狙えば防御力の低いリヴァイアサンなら倒せるだろう。最悪、アンチマターですべて殺す。休む必要はない。」


 強迫観念に突き動かされているレン。カレンに恩返ししたいという気持ちもあるのだろうが、リヴァイアサンやキマイラの家族を見たくないのか強引過ぎる殺し方を提案している。


「レン、確かにカレン様には恩返しをしたいわ。早く完全聖書も全部取り戻したい。でも今のレンはマリー姉さんが結婚して絶望していた時と同じような状態よ?今は妻としてシロと一緒にレンの傷ついた心をレンがなんと言おうと癒して慰めるわ」


「私もクロと同じ意見。今のレンの心の状態はひどすぎる。そのまま戦えばまたマリーの時のように死んでしまうかもしれない。おそらくレベッカでも今のレンを癒し慰めることはできない。私達が全力で妻として癒し慰める」


 クロとシロはレンをしっかりと抱きしめ優しくレンの心を慰める。確かに今のレンはマリーの時とよく似ている。今回はクリスチャンとしての優しさがレンを暴走させている分より悪いかもしれない。無理やり色々な葛藤を封じ込めたいつ大爆発するかわからない原爆のような状態だ。


「パパ、昔の、ベヒーモス達を見る前の優しいパパに戻ってください。今のパパはいつも悲しそうです。僕にできることは何でもしますから」


「父上、今の状態では阿呆のカレンの目的なぞどうでもよい。父上が元の優しい父上に戻ることが一番重要じゃ。妾もニュートと共に父上の子供として父上を慰めるのじゃ」


 ニュートもキリアも必死にレンを慰める。父親のこんな姿はどんな子供でも見たくはないだろう。


「そうか……今の俺はマリー姉さんの時と同じなのか……?でもどうすればいいんだ……?あの時はクロとシロが妻になって愛してくれたから俺は元に……ニュート、キリア、俺はどうすれば元に戻れるんだ……?どうすればこの葛藤を消し去れるんだ……?」


「レンレン、家族の4人がレンレンを愛して慰めて癒してくれれば元に戻れるよ。僕の目的は半分以上達成されている。しばらくはイクスで家族と過ごすといい。僕のせいでレンレンに与えてしまった苦しい葛藤は簡単には消えないだろう。みんな、申し訳ないけど僕の代わりにレンレンの葛藤を愛情で消し去ってあげて」


 「「「「(阿呆の)カレン(様)(さん)に頼まれる必要なんてないです(はない)(などないのじゃ)家族として当然のこと(です)(じゃ)」」」」


「みんな……すまないな……いつ元に戻るのか分からないが……家族として一緒に愛し合って暮らそう……カレン、悪いがしばらく休むよ……少し疲れたな……」


「えーと、ごめん、その前に誰か完全聖書持ってる人いる?一応五人の体に取り込んでおきたいんだけど」


「持っておるぞ。早ようせんか空気の読めぬ想像主め。父上を早くゆっくりさせたいのじゃ」


「水をさしてごめんね『コンセプション』『アブソーブ』これで大丈夫だろう。レンレン、さっきも言ったとおりいつでも中央都にいけるからね。レンレンは全然悪くないよ。むしろがんばりすぎてるぐらいさ。がんばって働いた人には神様も休みをくれるよ」


「ありがとう……カレン……いつになるか……わからないが……必ずまたお前の目的を……達成する……じゃあな」


 自分の状態を家族から指摘されてようやく自覚し呆然としながら対談所を去るレン。

 

 レンの心の葛藤、優しすぎるが故の欠点はきっとクロ、シロ、ニュート、キリアが補ってくれるだろう。


 完全聖書も半分は集まった。


 5人の旅は中間地点に差し掛かり、またしばしの休息をはさむこととなる。

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